■2022年5月12日 第67回アレルギーフォーラムが開催されました
5月12日木曜夕刻、第67回アレルギーフォーラムが開催されました。前回第66回は完全WEB開催のみだったのですが、今回は医学部6年生の講義などに使われている本学のメイン講堂でもあります第3講堂での現地開催と、オンラインでも参加可能として、いわゆるハイブリッド開催とさせていただきました。
今回の特別講演は、東京慈恵医科大学葛飾医療センター小児科の堀向健太先生に、「ペット・アレルギー 〜光と影」というご演題名でご講演を賜りました。
堀向先生は、昨日筆者が会長を担当させていただきました第70回日本アレルギー学会学術大会(2021年10月8〜10日横浜市&WEBのハイブリッド開催)におきまして、公式Twitter等で大変にお世話になった先生でした。ここでは今回のご講演の一部を紹介させていただきます。
本講演のオープニング・スライド(堀向先生の御許可を頂戴しています)
アレルギー診療に携わるものとして、患者さんから「ペットを飼っていいですか?」と聞かれることは、患者さんの年齢に拘わらずに「来たか〜」と身構える問題です。一般に血中特異的IgE抗体検査やプリックテストと、詳細な問診情報を組み合わせて診断します。問診情報では、旅行などでペットから離れると改善するとか、逆に飼育している家庭に訪問すると症状が悪化する、などが重要です。注意点として、感作されていてIgE抗体があっても症状がでない、つまり“ペットと共存可能な”症例があります。これにはIgEの作用を阻害してくれるIgG4抗体が産生されている可能性などが想定されています。
さて、ペット飼育では身体的・心理的幸福度の向上などの“光の部分”がある一方で、毛のあるペットアレルゲンにより感作リスク、そして喘息発作リスクは大きく上がることが指摘されています。
我が国におけるペットの飼育世帯率は2020年の調査結果でイヌ約12 %、ネコ10%弱と高く、この両者(両動物?)が最も重要と考えられます。室内塵1g中にイヌの主要アレルゲンCan f 1が2㎍以上、ネコの主要アレルゲンFel d 1が1㎍以上で感作されやすい閾値となりえると考えられます。この閾値を超える家庭はなんと。。。犬を飼育していると98%、ネコを飼育していると99%にも達すると報告されているというのです。米国での研究では、イヌやネコアレルゲンにより、全米で毎年50万〜100万件の喘息発作が起きているとも計算されているそうです。出生前から飼育してあった場合にはアレルギーの予防に働くとのデータもありますが、基本的には感作されると飼育は勧めにくいとおもいます。
例えば東京都での調査では小児の26%でネコアレルゲンに感作されているというデータがあります。ただし小児喘息の有病率はそこまで高くはないわけですので、ネコ粗抗原に対するIgE抗体がすべてではないわけです。実際には、ネコやイヌのアレルゲンにも複数のコンポーネントが存在していて、そのうちのいくつかに複数感作されていくと喘息を発症しやすいということがあるようです。ネコやイヌアレルギーにおいても、コンポーネント診断の進歩がまたれます。
さてネコなどを家庭内で飼育していると、アレルゲンが衣服などに付着して各所へと拡散していきます。ネコを飼っている子が多い学校教室では、室内気中のネコアレルゲンが多いことが報告されています。そしてネコを飼っていない子の衣服についたアレルゲン量は、登校日の後に増加することや、夏休みの最後の週と比較して学校開始後でネコを飼っていない子の喘息症状が増加し薬物使用が増えたことなども報告されています。
対策では、まず患者ごとの考え方やライフスタイルを充分に聴取・考慮したうえで環境調整やあるいは薬物療法によってペットとの共存が可能か否かを検討する必要があります。そのうえで対応を組み立てていくのであって、初めからペットを手放せ!ではないということのようです。
WEBにてご講演をされる堀向先生
基本的な対策としてペットを洗浄することが考えられますし、イヌやネコを洗浄することによって室内気中の主要アレルゲン、Cai F 1やFel d1濃度は確かに減少します。ただしその効果は1週も維持されず、週2回以上必要となることから容易ではないようです。空気清浄機は気道過敏性を改善したという報告も存在するものの、実質的な効果があるか否かについては否定的な報告も多いようです。薬物療法として、喘息の場合には吸入ステロイドなどの使用量が増えることが指摘されています。しかし飼育していない喘息患者との増悪回数の差は大きくないとの報告もあって、個別の必要薬物が至適状態となるよう注意を要するようです。譲渡などによってペットを手放すことが喘息コントロールを改善させえますが、薬物療法などで効果が不十分な場合などに考慮するということでした。なおイヌでもマルチーズだとアレルギーがおきないなどという誤情報も流布されているようですが、8種類の犬種のアレルゲン量を比較した研究などがあって、基本的に低アレルゲンの犬種・猫種というものはないということでした。将来的にはネコアレルゲン免疫療法が舌下法をも含めて有効とする報告があり、またさらにネコに主要アレルゲンであるFel d1を含む複合ワクチンを接種し、ネコに抗Fel d1抗体が誘導させアレルゲン量を低下させたとする報告を紹介され、未来への希望を提示していただきました。
素晴らしい御講演を賜りました堀向健太先生へこの場をお借りして感謝を申し上げたいとおもいます。なお次回第68回は9月8日、国立三重病院小児科の長尾みづほ先生をお招きして開催の予定です。 (文責:永田 真)
■2022年3月12日 第7回日本アレルギー学会関東地方会が開催されました
日本アレルギー学会の関東支部は2019年に開設され、筆者(永田)が初代の関東支部長を拝命し、当センターが関東の学会(関東地方会)の運営を担当してきております。今回、第7回の同学会が、3月12日土曜に秋葉原コンベンションホールにおいて、集会型とWEBとのハイブリッド形式にて開催されました。筆者は関東支部長として、アレルギーの診療・研究・教育に関わるすべての基盤科の先生に学会長としてご活躍いただきたく、これまでの学会会長は初回こそ内科でしたが(筆者が担当)、以降は小児科→皮膚科→耳鼻科→眼科→基礎免疫学、と全科にお願いをしてまいりました。ひととおりまわりましたので、以降は学会員数比率に立脚して会長を選出させていただくこととし、今回の会長は筑波大学呼吸器内科教授の檜澤伸之先生にお願いいたしました。同先生は筆者とは学生時代、各々アイスホッケー部員として医科大学大会で戦ってきた戦友でもありました
学生時代から交流がある檜澤会長(右)と筆者(左)
開会の挨拶をされる筑波大学教授・檜澤伸之会長
本学会は、広く関東地区で活動される医療関係者の、アレルギーに関する知識の向上、また専門的アレルギー診療の均てん化の一助となればありがたいと考え、運営させていただいております。
当日は一般演題のほかに会長特別企画、教育講演、教育セミナー、ランチョンセミナーなど多様なプログラムが展開され、コロナ禍にあっても大変な活況を呈していました。多数のWEB参加があり、結果、盛会となりました。当センターからは呼吸器内科の中込一之准教授が教育セミナー「重症喘息のType 2炎症」で、また呼吸器内科/予防医学センター兼担の杣知行教授は「Type2 炎症マーカーによる重症喘息の病態理解と治療」のテーマで講演をされ、また一般演題の座長を皮膚科の宮野恭平講師が担当されました。
教育セミナーの講演を担当する中込一之准教授(左)。
一般演題では当センター小児科の盛田英司講師が「局所麻酔薬チャレンジテストにて安全な薬剤を同定しえたリドカインアレルギーの 1 例」を発表されました。埼玉医大アレルギーセンターは我が国で最初に局所麻酔薬リドカインのアレルギーテストの論文をまとめた施設であってパイオニアですが、特に小児科領域の発表は貴重であったとおもいます。
また埼玉医科大学病院のルーキーイヤーの研修医小林由布子先生が「遅発相の反応が顕著であった局所麻酔薬アレルギーの 1 例」について症例報告の発表をされました。局所麻酔薬のアレルギーはいわゆる即時型反応を呈するケースが多いなか、きわめて珍しい症例とおもわれ、入院時の受け持ちでいらした小林先生にご発表をお願いしました。晴れの学会デビューです!とても落ち着いていました。
一般演題を発表する本学研修医・小林由布子先生。
筆者は本学会のトリである会長企画、檜澤教授の「喘息の起源を探索する」のご講演の司会を担当させていただきました。「喘息」には多様性があり、「貧血」や「発熱」と同じように、複合的な症状に対する記述的なラベルとして使用され、治療を開始するためには個々の患者の病態や原因を考えることが当たり前になってくるということ、それが個々の患者さんの特定の原因や病態を踏まえた最適な治療戦略につながるという、大変に素晴らしい内容でありました。司会を担当した筆者は冒頭で、檜澤会長とは40年来の戦友であることを述べました。学生時代はアイスホッケーで戦い、そして今は“武器”はちがいますが(かれは分子遺伝学、筆者は好酸球などの細胞生物学)ともに喘息の病態を解明しようとして戦う戦友です。戦友として、檜澤会長が日本のアレルギーの遺伝子のトップ研究者として大活躍される姿を、司会席からとても誇りに思いました。
会長企画のご講演をされる檜澤会長(司会席から「盗撮?」〜)
さてこの関東地方会では、若手の医師・研究者の研究マインドを涵養し、奨励したいという思いから、初代関東支部長の自分の発案にて、一般演題の中から優秀賞を選出して表彰することとしています。今回はなんと!当センターから発表されたおふたりがともに受賞されるという、大変に名誉なこととなりました。
優秀賞を受賞される小児科・盛田先生
同じく優秀賞を受賞される呼吸器内科の演題を発表された研修医・小林先生
本学会はコロナ禍特にオミクロン株大流行下でどうなることかと危惧もされましたが、結果的には、現地参加が約60名、そして実に約200名のWEB参加があり、大盛会となりました。無事に盛大に、大変な成功裏に終わりましたことを、学会長をお努めくださった檜澤教授と筑波大学の関係者各位、そして活発にご参加くださった関東地区会員のみなさまにも祝意と感謝を申し上げする次第であります。
現地参加したスタッフと、おふたりの受賞の記念撮影〜(^^♪
我が国のアレルギー診療は米国などと比べ遅れた面が否めませんが、この地方会が関東全体のアレルギー診療の向上に役立ち、ひいては総合アレルギー専門医(トータル・アラージスト)育成の一環となっていってくれればと願います。
なお第8回の日本アレルギー学会関東地方会は、2022月12月10日(土曜)に、小児食物アレルギーの第一人者である、昭和大学小児科の今井孝成教授を学会長として同じ会場にて開催予定です。アレルギー領域に関与される方はもちろん、ご関心のある医療関係者みなさまにご参加いただけますなら幸いです。(文責 永田 真)
■2022年2月5日 アレルギー週間市民公開講座を開催しました。
まもなくスギ花粉が関東平原を覆う時期がやってまいりました。例年この時期に、公益財団法人日本アレルギー協会の主催、埼玉県で唯一のアレルギー疾患医療拠点医療機関である当院の後援にて、当県のアレルギー週間市民公開講座が開催されます。昨年度は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い中止としておりましたが、今回はWEB開催ということで、2年ぶりに開催をさせていただきました。
まず筆者が日本アレルギー協会の役員としてあいさつをさせていただきました。アレルギー領域は軽度のものから重症まで混在しますが、もはや国民の三分の一以上がなんらかのアレルギー疾患をもっているとされること、ゆえに21世紀の国民病ともいわれること、そしていわゆる“アトピー(アレルギー)・ビジネス”といわれるような非科学的でときに高額な民間療法も蔓延しており、患者さんやその家族にはぜひ正しい知識を身に着けて頂きたいと話をさせていただきました。
開会のあいさつをする筆者
そののちに、当センター関連の医師3名によって市民向けの講演を行いました。
まず埼玉医科大学耳鼻咽喉科の吉村美歩先生がスギ花粉症について話をされました。鼻がムズムズし始めた段階で早期から点鼻ステロイド薬などの季節中投与を開始する“初期療法”の効果が非常に高いこと、一方で各種のいわゆる民間療法については科学的には有効性を期待することが難しいこと、本年度の症状がお辛かった場合、来期以降に向けて体質改善的な根本療法である「アレルゲン免疫療法」があって、特にいまは比較的簡便な舌下免疫療法が有益であることなどのお話をされました。
講演される吉村先生
スギ花粉症あるいはダニアレルギーによる気管支喘息・鼻炎に対する根本療法の「アレルゲン免疫療法」については、当センターは多年にわたってわが国で最も意欲的に取り組んできた代表的施設です。筆者がまとめ役を務めさせていただいた日本アレルギー学会公式手引書が、同学会HPからも閲覧できますので、ご関心のあるかたにはぜひご活用いただければと願います。
筆者がまとめ役を務めた日本アレルギー学会の「アレルゲン免疫療法の手引き」
ついで気管支喘息について、埼玉県立循環器・呼吸器病センターの高久洋太郎先生からご講演を頂戴いたしました。高久先生は東京慈恵会医科大学の大学院生であった時代に、当センター呼吸器内科の研究室に国内留学をされて、好酸球の研究で学位を取得された、いわば当センターのOBです。高久先生は喘息の管理におけるアレルゲンやとくに受動喫煙の回避などについて力説され、そして基本治療である吸入ステロイドを中心とした吸入薬物療法などについてわかりやすく解説をされました。
講演をされる高久先生
10分の休憩時間ののちに、本学小児科の板澤寿子准教授による「食物アレルギー」の講演が行われました。昨年の秋に改定された食物アレルギーガイドラインなどに基づいて、新生児・乳児において消化器症状で発症する消化管アレルギーの関連のはなし、食物経口負荷試験の重要性、そしてそれに基づいて無用な除去をしない“最小量の摂取の重要性”について力説されました。食物アレルゲンの変化が著しく、特に最近は1〜6歳では魚卵、7歳以上では甲殻類の新規発症が増えていること、さらに我々内科医も日々頭を悩ましている“花粉‐食物アレルギー症候群”についても言及していただいたので、成人での食物アレルギー患者さんにもプラスは大きかったとおもいます。
講演される板澤先生
最後にこの市民公開講座では恒例の、公開質問を頂戴してのQ&Aセッションが設けられました。今回は対面形式でないこともあって、事前にWEBにて頂戴した質問のなかから重要度が高いものを中心に、約30分間の時間にて、4名の医師で割り振って、また相互に追加補完をしながら答弁をさせていただきました。
公開質問セッション時の様子
市民みなさまから頂戴したご質問の数々には各種の管理法や治療法についてのものが多かったのは例年のとおりでしたが、時節柄、新型コロナ感染症と、花粉症あるいは喘息の鑑別についてなどのご質問も頂戴し、活発なセッションとなったとおもいます。
本市民講座はコロナ禍のなかでもあり、円滑な開催が危ぶまれた面がありましたが無事に終了でき、また一方では北京冬季五輪の開催中でもあってご参加人数の心配もありましたが、多くのご参加ご質問を頂戴して、意義の高い市民講座となったものと考えております。なお2023年の本市民講座は2月4日土曜日に、今回と同様にWEBでの開催の予定であります。患者さんやそのご家族はもちろんのこと、広くアレルギーにご関心をおもちのみなさまのご参加・ご聴講をお待ちいたしております。(文責 永田真)
■2022年1月7日 「アレルギー週間市民講座2022」開催のご案内です
皆様新年おめでとうございます。本年も埼玉医科大学病院アレルギーセンターをどうぞ宜しくお願いいたします。昨年度はコロナ禍にて“アレルギー週間市民講座”の開催を見送りましたが、本年は2月5日(土)13時〜14時50分に、WEBにて「アレルギー週間市民公開講座2022」を開催いたします。
公益財団法人の公益財団法人日本アレルギー協会との共催イベントで厚労省の後援も得ております。当センタースタッフならびにOBの医師3名によるスギ花粉症、気管支喘息、食物アレルギー、の3本だての市民向け講義があります。そのあとで、Q&Aコーナーがありますので日頃の疑問など事前にお寄せいただければとおもいます。今回はWEBですのでご自宅から、ご自由にご聴講いただけると思います。皆様のご参加をお待ちいたしております。(文責 永田 真)
■2021年12月24日 アレルギー疾患療養指導士(CAI)の活動を開始しました。
当院のアレルギーセンターでは地域のアレルギー性疾患の患者さんのニーズに応えるため、診療科の壁を乗り越え、専門性の高いアレルギー診療を提供しています。2018年より埼玉県で唯一のアレルギー疾患医療拠点病院に指定され、県内全域にわたるアレルギー診療の連携・レベルアップの中核病院の役割を担っています。
そのスタッフとして、小児アレルギーエデュケーター(Pediatric Allergy Educator:PAE)の資格をもつ看護師2名、管理栄養士1名、計3名がアレルギー性疾患の患者さんの支援を行っています。PAEは、一般社団法人日本小児臨床アレルギー学会によって認定された看護師、薬剤師、管理栄養士で、小児におけるアレルギー疾患の患者指導を専門にしています。
2020年5月より、包括的治療の一環としてPAEによる小児アレルギー看護外来を開設し、2020年度の支援件数は延べ200件でした。小児アレルギー看護外来では、アレルギー専門医から依頼を受けて、お子さんと保護者の方に患者指導をしています。一番多い疾患はアトピー性皮膚炎で、病態、スキンケア指導として身体の洗い方、軟膏の塗布方法や使用量、環境整備などについて説明し、とくに、軟膏の使用量については、実践しやすいように具体的にお伝えすることを心掛けています。その他、食物アレルギーの症状が起きたときの対応、アナフィラキシー時のアドレナリン自己注射薬(エピペン®)の使い方、気管支喘息の吸入薬の正しい吸入方法などもお話ししています。また、食物アレルギーの患者さんは、PAEの資格を有する管理栄養士との連携も行っています。管理栄養士による栄養・食事指導では、お子さんの生活や年齢に応じて、アレルゲンを除去した食事やその代替食、不足する栄養素を補う方法などを説明し、さらに、誤食を防ぐための工夫について一緒に考えていくようにしています。
そして、今年度からアレルギー疾患療養指導士(Clinical Allergy Instructor:CAI)の制度が始まりました。CAIは、一般社団法人日本アレルギー疾患療養指導士認定機構によって認定され、PAEとは異なり、小児だけではなく成人アレルギー疾患の特徴を理解し、成人・高齢者も患者支援を行うことができます。今年、当センターのPAEのひとりがCAIを取得しましたが、今後、PAEとともにCAIの資格者も増やし、PAEやCAIによる患者指導を充実させていきたいと思っています。
PAE(看護師)によるアドレナリン自己注射薬(エピペン®)の患者指導.
PAE(看護師)によるスキンケア指導.
PAE(管理栄養士)による食物アレルギー患者さんの栄養・食事指導.
(文責 PAE・CAI 大塚砂織 PAE 関澤藍)
■2021年11月27日 第6回日本アレルギー学会関東地方会が開催されました。
筆者(永田)は2018年に創設されました日本アレルギー学会初代の関東支部長を拝命いたして現在に至っております。関東支部の主事業であるアレルギー学会関東地方会の第6回学会が、2021年11月27日(土)、秋葉原コンベンションホールをメイン会場としてWEBとのハイブリッドにて開催されました。アレルギー関東地方会は筆者の考えで関連全科に会長さんを担当して頂いてきました。第1回筆者(内科)→小児科→皮膚科→耳鼻科→眼科ときて今回は基礎医学から!山梨大学免疫学の中尾篤人教授に会長をお願いしました! それぞれのお立場での独自カラーを出して頂くようお願いしていますが中尾会長は会員のサイエンスマインドを涵養したいということを仰っておられました。
当日朝、中尾会長と筆者。マスクは一瞬はずしたのみで会話はその間ナシです念のため〜。
なんとなくかわいいプログラムジャケット
開会のご挨拶をされる中尾会長
40を超える一般演題があり盛況でしたが、特に会長企画シンポジウムでは3名の基礎の先生方からアレルギー診療の前進に向けての新しい取り組みのお話をきかせていただいて、圧巻でありました。そのおひとり、モジュラス株式会社寺田先生は、スーパーコンピュータを用い、約五億個の標的構造をバーチャルスクリーニングしてなどの創薬への挑戦をお話しくださいました。その結果、IgE依存性アレルギー反応の立役者であるマスト細胞の増殖を抑える化合物の発見に成功されたというのです!アレルギーの新規治療となる可能性があり特に高額で定期的注射も要する抗IgE抗体治療などにとって代わっていくかもしれず、大いに期待が持てるアプローチのように思われました。鳥居薬品の女性研究者土井先生はわれわれ埼玉医大アレルギーセンターとも仕事仲間ですが、スギ花粉のアレルゲンはヒノキと80%の相同性があることなどをお話しされ、スギ舌下免疫療法で、ヒノキ花粉症も多くの患者では症状軽減が得られることなどをお話しされていました。3番目の演者は中尾会長ご自身だったのですが、残念ながら筆者は教育セミナーの打ち合わせのために拝聴することができませんでした。同先生はアレルギー反応にかかわるマスト細胞などが“体内時計”をもっておられることを突き止められており、関連のマスト細胞攻略戦略についての内容が含まれていたものと推察いたします。
教育セミナーの司会をつとめる筆者
教育セミナーが4本設けられ、筆者は “重症アレルギー性疾患におけるType2炎症”の司会を担当させていただきました。関東を代表する皮膚科・耳鼻科・内科の演者から、重症アトピー性皮膚炎、難病指定のある好酸球性副鼻腔炎、そして呼気NOやIgE値が高値を示すいわゆる重症“Type2”喘息において、それぞれ代表的なType2サイトカインであるIL-4と、同一の受容体を共有して類似の作用を発揮するIL-13が各々病態に濃厚に関与すること、また抗IL-4受容体α抗体が良好な治療活性を示すことなどをご講演いただきました。
本学会はCOVID-19感染拡大状況への対応として、WEB参加と組み合せたハイブリッド開催で行われ一般演題についてもWEBでの発表が多くみられました。当センターからは今回、筆者、呼吸器内科の杣准教授と中込准教授(座長)および石井助教(発表)、皮膚科の宮野講師(座長)、小児科の清水助教(発表)が参加いたしました。
司会をされる中込准教授(左)。右は帝京大学山口教授。
埼玉医大の医局からWEBで発表する石井助教
会長企画、教育セミナーと一般演題以外にも、プログラムはアレルギー診療の各領域にまたがる3つの教育講演(小児喘息、花粉症、過敏性肺炎)も用意され、非常に充実した内容でありました。そしてこういった状況であるにもかかわらず、WEB参加をふくめて約200名が参加され、時宜大変な盛会といってよい活況でした。
本学会では筆者の考案でこの領域の未来を担う若手・中堅の学問的意欲の鼓舞を目的に、一般演題の各セッションの中から「日本アレルギー学会関東地方会優秀賞」を設立して、閉会式の際に副賞を添えて表彰しています。そのひとりは慶應大学のまだ研修医?医学生さん?らしきワカモノが受賞されていて喜ばれていました。
本学会が成功裏に終えられましたことを、中尾会長には心からの祝福を申し上げますとともに、ご参加の先生がた、また後援企業さまに感謝を申し上げます。なお第7回の本学会は2022年3月12日土曜日に、筑波大学呼吸器内科檜澤伸之教授を会長といたしまして、今回と同様の秋葉原コンベンションとWEBでのハイブリッド様式にて開催の予定であります。関東地区にてご研鑽中の、学会員みなさまはもちろんのこと、広くアレルギーの臨床にご関心をおもちの先生がた、看護師さんなどのメディカル・スタッフ、そして医学生などのご参加・ご聴講をお待ちいたしております。(文責 永田真)
■2021年10月28日 第65回アレルギーフォーラムが開催されました
10月28日木曜夕刻に第65回アレルギーフォーラムが開催されました。今回はハイブリッド開催となり、現地には呼吸器内科、耳鼻咽喉科、皮膚科、小児科などアレルギーセンター関連各科をはじめ、各科外来看護師や学生が、オンラインでは医師、看護師、薬剤師、管理栄養士など多職種にご参加いただきました。
特別講演は、国立成育医療研究センターアレルギーセンターの福家辰樹先生(総合アレルギー科医長)より「小児アレルギー疾患の発症予防に関する最近の話題」というテーマでご講演を賜りました。内容は、@アレルギー疾患の疫学として、本邦と海外でアレルギー疾患が増加傾向であること、A小児アトピー性皮膚炎の病型として、4つのフェノタイプ(Early transient、Early persistent、Late、Never or infrequent)があり、Earlyのタイプは食物アレルギーや喘息の有病率が高くなること、また、重症のアトピー性皮膚炎は食物や吸入抗原の感作のリスクが高いことから、アトピー性皮膚炎の発症予防、早期診断・早期介入が大切であること、B離乳食とマイクロバイオームとの関連として、プロバイオティクス、プレバイオティクス、これらを合わせたシンバイオティクスの効果についてなど、多岐に渡る充実した内容を示されました。
とくに、食物アレルギーの発症予防として、以前に行われていた母の食事制限、ミルク除去、加水分解乳、ビタミン補充などのエビデンスはないこと、一方で、離乳食の開始時期については、生後4ヶ月からピーナッツを摂取すると5歳時点でピーナッツアレルギーの発症を予防したこと(LEAP study)、また、国立成育医療研究センターからのご報告として、生後6か月からの微量加熱粉末の継続摂取が1歳時点での鶏卵アレルギーの発症が減少したこと(PETIT study)をご紹介いただきました。離乳食の早期摂取開始は、すでに食物アレルギーを発症した患者では症状誘発に注意が必要ですが、食物アレルギー発症予防として経口免疫寛容の誘導が期待されていることをお話しくださりました。
また、環境要因に関する話題として、都市部よりも緑豊かな地方ではアレルギー疾患が少ないという報告や、不活化死滅菌を継続的に舌下投与すると喘息を予防する可能性があるなどの報告も提示され、環境とアレルギー疾患発症に関するお話も大変興味深い内容でした。
最後に、話題のスプーンフルワンRについても触れられ、一部の食物抗原については50%の人が症状誘発となる用量(ED50)相当が含まれるため、使用については注意が必要であることを日本アレルギー学会や日本小児臨床アレルギー学会などが連名で注意喚起を出していることをご提示いただきました。
以上、様々な視点からアレルギー発症の予防効果に関するエビデンスを示していただきました。このたび、素晴らしいご講演を賜りました福家辰樹先生に、この場をお借りして感謝を申し上げます。 (文責:小児科・植田 穣)
■2021年10月8日〜10日 日本アレルギー学会学術大会を開催いたしました
第70回日本アレルギー学会学術大会が当アレルギーセンター長で呼吸器内科教授の永田真先生を会長として、10月8日から10日までパシフィコ横浜ノース及びwebのハイブリッド形式にて開催されました。
本学関係者だけでなくお祝いの言葉が多数寄せられました。本学会の事務局はアレルギーセンターの呼吸器内科が主に担当し、事務局長は杣知行准教授であり、宮内幸子助教、星野佑貴助教、片山和紀助教などの協力とコンベンションで、2年前より準備してきました。我々は学会開催前からツイッターを始めており、東京慈恵会医科大学葛飾医療センター小児科の堀向健太先生のアドバイスのもと、永田先生がツイッターの中の人として、学会の見どころなどを多数つぶやき、魂のつぶやきとして注目を浴びてもいました。新型コロナ感染症については、9月に入ってから患者数が劇的に減少しており、奇跡的に全国で緊急事態宣言が解除され、会場参加人数が増えることが期待されました。
前夜の開会セレモニーには本学丸木清之理事長ならびに篠塚望病院長もご臨席下さいました。同セレモニーでは、二十六世観世宗家 観世清和様、観世三郎太様による演能が行われました。通常学会のセレモニーなどではありえないことですが、永田会長のご一家とのご縁があって実現いたしました。敦盛と高砂を拝見しましたが、空気がピンと張り、高いレベルの気合やパワーを放っているものであり、コロナ禍の邪気を払っていただいたと思いました。我々にもパワーを注入していただいたと思います。
10/8(金)は大会初日で、第一会場の開会式からスタートしました。永田先生から、埼玉医科大学のポリシーである患者中心的医療の、アレルギー診療における実現を目指しての今回の学会のテーマ「Patient–centered medicineとallergy scienceの結晶化」について説明がありました。この会場は非常に広く、米国など海外のコンベンションセンターに雰囲気がとても似ていて、これから学会が始まるという高揚感を感じることができました。
続いて会長企画シンポジウム「Patient-centered medicine のためのアレルゲン免疫療法〜Natural courseを変えるために」が行われました。一般にアレルギー疾患に処方される薬は対症療法薬で、薬を内服している間は良いが、やめてしまうと元に戻ってしまうことが多いのが残念なところです。一方でアレルゲン免疫療法は、特にアレルギー疾患の自然経過を変える可能性が指摘されています。我々も特にアレルゲン免疫療法を重視しており、治療の普及及び機序の解明に努めてきています。本シンポジウムでは、小児科、耳鼻科、内科の日本のエキスパートからの講演が組まれました。学会テーマに準ずる内容で、永田先生座長の元、私は喘息におけるアレルゲン免疫療法について発表をいたしました。
続いて会長講演「Patient-oriented Allergy Science, Patient-centered Allergy Practice」が行われました。
自身の幼少期の複数のアレルギー疾患の経験、アレルゲン免疫療法の研究、アレルギー疾患の重要なeffector細胞である好酸球の研究、アレルギー学会における専門医制度の立ち上げなどの話を介して、アレルギー研究は患者さんに向くべきで、アレルギー診療は患者中心であるべきだという講演でした。アレルゲン免疫療法は、永田先生が作成を指導され、当日公表された「喘息予防・管理ガイドライン2021」で、喘息における追加治療として記載されたことが報告されました。参加人数も多く「とても素晴らしかった」とのコメントが多かったです。なお永田会長は若い日のアイスホッケー部活の写真を出され、“わたしはどれでしょう”とクイズを出していましたがなかなか難しく、それについては「ひげに騙された」とのコメントもありました。
シンポジウム「生活環境汚染とアレルギー」では当センター小児科板澤寿子先生の黄砂とアレルギーについての講演がありました。またミニシンポジウム「気管支喘息・基礎的な視点で臨床を考える」では呼吸器内科・内田義孝先生と、東京大学から呼吸器内科の研究室にご留学していただいている清水先生の好中球性炎症に関する発表がありましたが、とてもレベルの高いシンポジウムでした。他のミニシンポジウムでは小児科・植田穣先生の好酸球活性化に関する発表もありました。午後は呼吸器内科・片山先生と星野先生の喘息患者の気道炎症に関する発表がありました。
今回はコロナ禍で参加者数が見込めないとの懸念があり、特に企業展示に参加者を動員するための案を考えました。企業展示をまわることでゲットできるスタンプラリー(商品は学会ロゴがはいったUSB)や、企業プレゼンテーション会場を作ったことなどです。実際には緊急事態宣言も明け、参加人数も予想よりはるかに多く、企業展示も盛況でありました。
10/9(土)は大会2日目です。シンポジウム「包括的アレルギー診療へのアプローチ」では、永田先生の埼玉医大アレルギーセンターに関する講演、シンポジウム「免疫系と神経系のクロストーク」では本学免疫学・松下祥教授の座長の元、免疫学川野先生のドーパミンに関する講演がありました。ミニシンポジウムでは呼吸器内科宮内先生と家村先生の好酸球活性化に関する発表がありました。現在は他大学にも多数のアレルギーセンターが作られてきていますが、埼玉医大アレルギーセンターは、日本で最初に開設された我が国のパイオニア的アレルギーセンターで、各科が力を合わせあって診療や教育あるいは研究に取り組んでいるのが特徴です。今回もそういった診療科・基本学科の垣根を越えての活動が実り、当センター勢はトータル19の演題を発表する大活躍ぶりでした。
10/10(日)は大会3日目です。会長企画シンポジウム「好酸球の最前線〜重症好酸球性疾患の制御に向けて〜」では、永田先生座長の元、総合診療内科小林先生の好酸球性炎症の調節機構についての講演、シンポジウム「重症アレルギー疾患の病態解明と治療の進歩」では、呼吸器内科杣先生の重症喘息における好中球性炎症についての講演、シンポジウム「感染と気道アレルギー Up-to-date」では、私の、感染関連分子による炎症細胞反応の修飾についての講演がありました。好酸球研究も埼玉医大の特徴で、本学会の一般演題でも多数発表していますが、我々はアレルギー好酸球研究会も主催しており、我が国における代表的施設となっています。
閉会式では、永田先生の「オーラの泉」的な話(コロナ禍は大丈夫なのよとお告げがあったそうです)と、アレルギー学会会員を含む皆さまへの感謝の言葉でクロージングとなりました。参加人数はweb・現地を含めて6000名規模と大いに盛り上がりました。のちに約1か月間のWEB開催があるため、参加者はさらに増加すると思います。終わった後はアレルギーセンター一同で記念写真を撮影しました。通常はこの後に打ち上げを行うことが多いのですが、今年はコロナ禍の状況であり、そのまま品行方正に現地解散としました。
なお、今回は31名の著明な海外演者をお招きしたのですが、コロナ禍にて来日はかなわずWEBでのご参加となりました。永田先生の恩師、ウイスコンシン大学のWilliam W. Busse先生の最終講演「Novel Approaches for Treatment of Severe Allergic Diseases」はとても盛況でした。私は個人的には恩師James E Gern先生と韓国の仲間Chang-Keun Kim先生の話を楽しみにしており、実際に講演を楽しみ、会場で質問させていただきました。その他、我々が聴講したいと考えたプログラムが多数採用されており、オンデマンドで見るのが楽しみです。会長講演、シンポジウム、一般演題などだけでなく、開会セレモニーでの演能も、オンデマンドで11月18日まで聴講できますので、皆様も楽しまれていただければと思います。尚研修医と学生はWEBオンデマンド参加は無料です。
(文責:呼吸器内科・中込一之)
■2021年7月1日 当センターが担当する第70回日本アレルギー学会学術大会のご案内です
本年の日本アレルギー学会学術大会は筆者(永田)が大会会長を務めさせていただき、当センターが担当して開催させていただきます。本学術大会は記念すべきことに第70回目の節目の大会となり、会長を担当させていただくことには天と皆さまとに深く感謝を致しております。会員数12000名を超え、学会英文雑誌のインパクト・ファクターも5点に迫る極めてアカデミックなメガ学会であり、その節目の学術大会ですので、当センターとして全力で運営にあたりたいと存じます。本年10月8日(金曜)-10日(日曜)にパシフィコ横浜ノースにおいて開催しますが、コロナ禍のためWEB参加も可能なハイブリッド形式の予定です。
アレルギー疾患は増加の一途を辿り、重症喘息や各種原因によるアナフィラキシーのように、患者さんのQOLや生命に重篤な危険をもたらすものも含まれます。臨床現場での重要性はますます高まっています。体質的要素が基盤に存在するため若年期から発症しやすく、治癒し難く、そして生涯にわたって患者さんを苦しめることが多いのです。例えば小児喘息がいったん寛解しても成人期で再発して、生涯のものとなることは日常的にみられます。当初ダニアレルゲンのみに感作された喘息患者さんが、やがて真菌類、食物類、花粉類など、感作が拡大して難治化することも常です。もうひとつの重要な特徴は、単一病因アレルゲンが複数の疾患を発症することです。例えば室内塵中のダニは喘息、鼻炎や結膜炎、アトピー性皮膚炎で重要な増悪因子となり、さらにパンケーキ粉などに混入すると食物アレルギーも誘発します。アレルギー疾患診療の重要なポイントとして、患者さんの生涯にわたる長期予後を考慮した管理の必要性があり、また全身的・包括的に管理・治療を行う視点が重要なのです。一臓器をみるのでなく、“患者中心的に!”包括的な管理治療が望まれるわけです。米国などでも半世紀以上前から「アレルギー科」が重要な役割を果たしてきており、埼玉医科大学は2005年に当センターを開設して、日本でいち早くこの領域に取り組んできました。日本アレルギー学会でも、かつて筆者が専門医制度WGをおあずかりしして、多彩なアレルギー疾患に悩む患者を高度専門的にかつ包括的に診療でき、患者を幸福にできる“トータル・アラージスト”の育成を目標に掲げて活動してきました。これらの時代・時勢、患者さんたちの要望、そして臨床医たちの到達すべき目標等を考察しつつ、本学術大会のテーマを“Patient-Centered Medicine とAllergy Scienceの結晶化”とさせていただきました(HP: http://jsa70.umin.jp/guide.html)。筆者の米国の友人たちをはじめ、世界のトップランナーのご講演を聴講できるビッグチャンスです(同時通訳あり)。
主な企画内容:
【会長講演】
永田 真
【特別講演】
1.浜本隆二先生(国立がん研究センター研究所):AIの臨床医学への応用
2.Ido Amit先生(Weizmann Institute of Science, Israel):Single cell transcriptomic analysis
【会長企画特別講演】
海老澤元宏先生(国立病院機構相模原病院):食物アレルギー診療の未来
【招請講演】
【国際シンポジウム】
【会長企画特別シンポジウム】3セッション
【日本免疫学会との交流シンポジウム】1セッション
【シンポジウム】20セッション
【教育講演】20題
【教育セミナー・イブニングシンポジウム】28セッション
【一般演題】500数十の応募を頂戴しております。
充実した開花ぶりをしめすAllergy Scienceが実際のアレルギー患者さんのための“Patient-Centered Medicine”におおいに還元されてゆくべき有益な学術集会となり、新しい時代の幕開けの一端となることを祈っております。なお研修医、学生等は参加費無料の予定です。みなさまのご参加をお待ちいたしております。(文責:永田 真)
■2021年6月17日 第64回アレルギーフォーラムが開催されました
6月17日木曜夕刻に第64回アレルギーフォーラムが開催されました。従来は学内の講堂で開催されますが、コロナ禍でありオンラインでの開催となりました。
特別講演は、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科・皮膚科病態学分野教授の室田浩之先生より「アトピー性皮膚炎の痒みと病態論に基づいた治療:最近の話題」というテーマでご講演を賜りました。
アトピー性皮膚炎の病態はType2炎症、皮膚バリアの異常、痒みの3つの要素が互いに複雑に関与し合うとされています。アトピー性皮膚炎は痒み過敏の状態にあり、これにより掻破行動がみられ、免疫系の賦活化をさらに惹起します。つまりアトピー性皮膚炎では痒みを抑えることは、炎症の鎮静化において非常に重要な要素であるといえます。アトピー性皮膚炎の痒みの誘起因子として温熱刺激(アーテミンと呼ばれる神経栄養因子の皮膚への蓄積による)、発汗、衣類による軽微な刺激、脱衣による温度変化(高い温度から低い温度への変化)などが挙げられ、通常では痒みを感じないような小さな刺激でも痒みを誘発するalloknesis(アロネーシス)の状態にあります。
アトピー性皮膚炎と汗について触れられていかれましたが、アトピー性皮膚炎患者は汗をかこうとしても、皮膚の炎症下では汗腺の障害(汗の組織中への漏出、汗孔の閉塞)や汗成分の変化(汗中グルコース濃度の増加、抗菌ペプチドの変化)により、最終的な発汗量が減少することによるうつ熱や皮膚の乾燥、皮膚常在菌の変化がみられ、さらにアトピー性皮膚炎が増悪します。また、汗中に混入したマラセチア抗原への暴露による感作、マスト細胞の脱顆粒が生じることも皮膚炎の増悪を助長します。ヒトに対するヒスタミンイオントフォレーシスを用いた研究では、ヒスタミンはアセチルコリン誘導性発汗を抑制することが示されていますが、抗ヒスタミン薬投与下ではヒスタミンの関与する乏汗が改善できることが示されています。
以上よりアトピー性皮膚炎治療において、乏汗によるうつ熱や皮膚の乾燥の改善、ヒスタミンによる汗の組織中漏出の改善など、汗に対するアプローチも重要であることを解説していただきました。アトピー性皮膚炎の診療では皮膚炎の評価・治療に重点を置きがちですが、発汗を含めた患者自身の痒みを今一度評価する重要性を学ばせていただきました。素晴らしい御講演を賜りました室田浩之先生へこの場をお借りして感謝を申し上げます。 (文責 皮膚科 宮野恭平)
■2021年3月27日 第5回日本アレルギー学会関東地方会が開催されました
日本アレルギー学会は2019年に各地方支部を新設し、筆者(永田)は初代の関東支部長を拝命いたしております。そして埼玉医科大学アレルギーセンターは関東支部事務局を担当いたしております。第5回のその関東の学会が、3月27日土曜に秋葉原コンベンションホールにおいて、集会型とWEB参加とのいわゆるハイブリッド形式にて開催されました。関東支部長といたしましては内科や小児科だけでなく、アレルギー診療に関連されるすべての諸診療科に学会長でご活躍いただくことを切に願っており、今回の学会会長は順天堂大学浦安病院眼科学教授の海老原伸行教授にお願いをいたしました。同先生はこのコロナ禍のなか、「逆境に負けないアレルギー診療」との学会テーマを掲げられてこの学術集会を開催されました。
プログラムの表紙に病魔に打ち勝とうと、なんと!「アマビエ」くんの姿も〜
挨拶をされる順天堂大学教授・海老原伸行会長
当日は一般演題のほかに会長特別企画、教育講演、教育セミナー、ランチョンセミナーなど多様なプログラムが展開され、活況を呈して盛会となりました。当センターからは呼吸器内科の杣知行准教授が教育セミナー「重症喘息の新たな展開」で講演をされ、また一般演題の座長を同科の中込一之准教授が担当されました。
座長を担当する中込一之准教授(左)。
なお右は本学の立つ地、埼玉県毛呂山町御出身の東京大学・原田広顕先生です。
一般演題では埼玉医科大学病院の2年目研修医で、今春わたくしどもの呼吸器内科に入局予定であります宇野達彦先生が「電子タバコから紙巻タバコに切り替えて発症した急性好酸球性肺炎の1例」について症例報告の発表をされました。晴れの学会デビューです!
一般演題を発表する本学研修医・宇野達彦先生。落ち着いていました。
筆者は自分の専門研究分野であります好酸球について、近年の新規知見によって従来の考え方が覆るのか否かに関しての「好酸球性炎症の“?”“?”“?”」と題した教育講演の演者を担当させていただきました。
講演の冒頭、この秋に会長をつとめる日本アレルギー学会学術大会の宣伝もする永田
本学会は引き続くコロナ禍でどうなることか?と危惧された面もあったのですが、結果的には、現地参加が約50名、そして実に200名以上のWEB参加があり、まれにみる大盛会となりました。無事に盛大に、大変な成功裏に終わりましたことを、学会長をお努めくださった海老原伸行教授、ならびに順天堂大学関係者各位、そして活発にご参加くださった関東地区の眼科系学会員のみなさまにも感謝と敬意を申し上げする次第であります。
現地参加した呼吸器内科スタッフ
本学会が、関東地区で活動される臨床医皆さまの知識の向上、ひいては専門的アレルギー診療の均てん化またとくにアレルギー研究発展の一助となればありがたいと考えるものであります。
なお次回、第6回の日本アレルギー学会関東地方会は、2021月11月27日(土曜)に、山梨大学免疫学・中尾篤人教授を学会長として同じ会場にて開催予定です。広くこの領域にご関心のある医師のみなさまはもちろん、医学部の学生さんあるいは看護師さんなどのメディカルスタッフのみなさま等にもご参加いただけますなら幸いです。(文責 永田 真)
■2021年3月19日「アレルギー診療必携ハンドブック」を出版いたしました。
アレルギー疾患患者は多くの場合、複数の臓器にまたがって、多彩なアレルギー病態に悩まされています。例えば喘息症状で受診されたとしても、実際にはアレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎を合併することが多く、さらには食物アレルギーなどにも苦しんでいるケースもみられます。
また当初は家塵ダニが主なアレルゲンであるとおもわれたケースが、数年の後には各種の花粉類や真菌類、さらに飼育している有毛ペットなどにも感作が拡大していってしまうことはしばしば経験されることです。
小児喘息で寛解したとおもわれていた患者さんが、成人になって再発することや、結局生涯にわたってさまざまなアレルギー症状に悩まれるケースも少なくありません。
アレルギー疾患の診療は、それゆえに初期診療だけで成否を判断できませんし、単一臓器・ひとつの病気を診るだけでは不十分なことが、むしろ通常なのです。患者中心的に包括的な視点で病態を把握することが大切であり、また人生全般にわたっての生活の質の保持を目標として、最善の医学的アプローチを提供するように心掛けていく必要があると認識されるのです。
そこで今回、中外医学社のほうから御要望があり、アレルギー診療シーンでしばしば遭遇する病態や問題を中心に、知識とノウハウをまとめさせていただいた「アレルギー診療必携ハンドブック」を出版させていただきました(写真下)。本書が広く診療の場において、日々のアレルギー疾患診療のお役に立ち、そして特に、多彩なアレルギー疾患に苦しむ患者さんたちの救済の一助となることを願う次第であります。(文責:永田真)