これからは大学教育と共に大学院教育が、本学の教育目標である「すぐれた臨床医の育成」に欠かせないものであると考えて、これまで幾多の大学院改革を行ってきました。その中で、最も注目すべきことは「社会人大学院制度」を設けたことでしょう。
「社会人大学院制度」とは、その名のとおり、日常は本来の仕事をしながら、勤務時間外に大学院の講義を受講したり、研究することが可能な制度です。これまでのように、臨床を選ぶか、大学院生として研究をするか、といった二者択一を迫られることもなく、たとえば、医師として働きながら専門医資格を取得し、併せて、学位を取って博士になることもできます。
仕事をしながら大学院生として研究を続けるためには、効率よく研究ができるような支援体制が必要になります。そのために、たとえばe-learningのように、いつどこからでも access でき、好きな時間に講義を選んで受講できる方式や、通学に便の良い本学の川越ビルで講義を受講できたり、指導を受けることも可能な仕組みをつくります。
大学院では基礎研究だけでなく、臨床研究を推進します。そのために基礎医学教室やゲノム医学研究センターなどが大学院生の研究を支援する体制を構築したり、研究を推進するために大学が学内グランドも交付します。一方、最近、国が主導して行っているプロジェクトとして、本学には干葉大学・筑波大学と連携した「がんプロフェッショナル養成プラン」や、慶礁義塾大学、群馬大学等との大学連携に基づく「大学病院連携事業」がありますが、このようなプロジェクトに乗ることによって、効率よく専門医と学位の双方が共に取れるような仕組みも完成しています。
平成22年4月から設置された「先端医療開発センター」でも、基礎研究と臨床応用への"橋渡し研究'Iができる環境をつくるなど、研究を支援する体制を整えています。
① 後期研修医研修資金貸与制度
後期臨床研修医を対象とし、埼玉県がおこなう制度で、総合周産期母子医療センターの産科医、または小児科医として後期研修を受講し、これを終了した後、埼玉県内の医療機関において産科医又は小児科医として勤務することが確実な者が対象です。月額20万円を最大3年間支給されます。さらに研修終了後、県内の医療機関において産科医又は小児科医として貸与期間の1.5倍の期間を勤務した場合は、返還が免除されることになっています(図1)。
② 埼玉県地域枠医学生奨学金貸与事業
平成23年度入学生から地域枠として定員が10名増員となったことに関係して埼玉県が設けた奨学金制度です。毎年新入生10名に対し、卒業後に埼玉県内の、本学が指定する地域医療機関で勤務することが確実な学生に月額20万円を6年間にわたって支給するものです。卒業後、県内の指定医
療機関で受給期間の1.5倍(9年間)勤務すれば返還は免除されます(図2)。
③ 埼玉医科大学医学部地域医療奨学金貸与制度
埼玉医科大学が主体となって行うもので、各学年10名に対し、月額5万円を支給します。対象は、本学医学部学生で卒業後も本学に属する3病院、
または本学が指定する地域医療機関で臨床研修を積み、修了後も継続して本学指定の医療機関で勤務する意思のある者です。また、卒業後、本学の3病院、もしくは本学が指定する医療機関において臨床研修を積み、修了後も本学指定の医療機関で勤務した場合、本学大学院の期間も含めて、返還免除期間に算定されます(図3)。
すぐれた臨床医となるためには、卒前教育において十分な基礎学力を身につけ、卒後の研修により高い臨床技術を習得し、それを生涯学習へとつないでいく不断の学習が必要です。 また同時に、研究的な視点を持った臨床能力や共に学ぶ教育的視点を持つことと、生涯を通して学び続ける自己啓発的な姿勢も重要です。このような能力、態度、技術を身につけるには大学院で学ぶことが最も効率が良く、効果的です。
そこで本学では、社会人大学院生として、専門医になるための臨床研修を行い、専門医の資格を取得するとともに、併せて大学院生として専門的な研究に臨み、博士の学位も取ることを推奨しています。
このようなキャリア・パスを大学として積極的に推進するために、本学の卒業生には大学院の入学金を免除します。
また、大学院生としての研究期間や本学所属の3病院で研修する期間を奨学金返還の免除年限に組み込みます。
さらに本学で研修したり、大学院生になることによって、学位や専門医資格が取れ、しかも奨学金の返還が免除されるといった仕組みを構築しています。
今や大学院は、学位を取るためのものではなく、すぐれた臨床医になるために必要不可欠なものとなっています。 しかも、社会人大学院生になることによって、専門医資格も同時に取ることができる仕組みを作りました。 このように本学では卒前教育、大学院教育、臨床研修をシームレスに連動させました。すぐれた臨床医となり、さらなるキャリアアップを実現したいと考えるなら、ぜひ奨学金制度を上手に使ってほしいと思います。