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第22号 2003.1.1
   
 
 

体にやさしい最近の成人ヘルニア治療
     消化器・一般外科I 小山 勇

   
 

はじめに

 

 長く立っている時、仕事をしている時、お風呂から出た時などに、足の付け根の上(鼡径部)にふくらみを感じたことはありませんか? そして、横になって寝ると何となくこのふくらみがなくなるようなら、いわゆる脱腸、鼡径ヘルニアです。この脱腸をおさえるためにヘルニアバンドを使用している方がおられるかもしれませんが、この病気は残念ながら手術をしないと直りません。この脱腸の手術方法が最近、大きく変わりました。そこで、この病気とその治療法について簡単に紹介したいと思います。

   
 

1.鼡径部の体の構造は?

 

 人間のお腹の壁は3枚の筋肉からなっています。しかし、足の付け根の上(鼡径部)ではこの筋肉が1枚しかないのです。四足で歩く動物では問題ないのですが、立って活動する人間では腹の一番底にあたる鼡径部に筋肉が1枚しかないことは不利な状況になっています。しかし、これら筋肉の下には横筋筋膜や腹膜前筋膜という薄くとも強い膜が存在しているために助かっています。男性の場合、もともと腹の中にあった精巣(睾丸)は胎児の時に、この弱い腹壁内の鼡径管と呼ばれるトンネルを通って、股の間にぶら下がるようになるのです。精子を運ぶ精管はこのトンネルの中を走っています。このトンネルがあるためにこの部分の壁が弱くなっています。女性でもこのトンネルは残っており、精管の代わりに子宮を吊っている子宮円索が伸びてきています。

   
 

2.鼡径ヘルニアはなぜ発生するか?

 

 右に述べましたトンネルの腹側の入り口(内鼡径輪)に腹膜の突起が生まれつき残っている人がいます。この場合にはこの突起のなかに腸が入り込んで脱腸となります。新生児や乳児、小児など子供に生じる脱腸はこのタイプです。一方、多少これが残ったまま成人になっても問題ない人はたくさんいますが、年齢を重ねるに従って腹膜の前にある筋膜が弱くなると、もともとあったトンネルの中を腸が飛び出てくることがあります。あるいはトンネルの入り口の横から直接に腸が突出してくる場合もあります。また、中には前でなく下に突出して足の方にでてくることもあります。これら飛びだす部位により外鼡径ヘルニア、内鼡径ヘルニア、大腿ヘルニアなどと呼ばれています。

   
 

3.たかが脱腸とバカにすると怖い!

 

 脱腸は立位になると膨隆してきて単に不快であるばかりでなく、そのままにするとだんだん膨隆が大きくなり、しまいにはピンポンやテニスボールでなく、バレーボールほどまでになることがあります。さらに、もっと怖いことは、飛び出した腸が臥位になっても腹の中に戻らず、出口で首を締められたようになることです。当然、激しい痛みがきて、まもなく腸は腐り、破けて腹膜炎になり、命取りになりかねません。たかが脱腸と軽んじてはいけません。

   
 

4.今までの鼡径ヘルニアの治療法

 

 小児では生まれつき腹膜の突起が残っているために脱腸が生じるので、この突起の袋を切除すれば直ります。しかし、成人では筋膜や筋肉が弱くなっているために生じるので、この部分の補強をしないと直りません。つい最近までは、弱い部分の上下の筋肉や靭帯を縫い合わせて補強する方法が広く行われてきました。もともと筋肉がないところを無理やりに閉鎖するので緊張がかかり、力を入れると切れてもとどおりになって再発してしまうことが少なくありませんでした。このような手術を受けた5から20%の患者さんに再発があったと報告されています。また、無理に寄せるので、傷がしばらく突っ張った感じが残り、入院は数日以上になることが多く、手術後、数ヶ月間重いものも持てない状況でした。

   
 

5.日帰りが可能となった新たなヘルニア手術

 

ヘルニア修復に用いる各種の人工パッチ

 最近では、弱い部分に細い糸で編んだ人工のパッチをあてる方法が行われるようになりました。これは手術で血管を縫合するのに用いる糸と同じ材質でできており、体内に残っても問題ありません。このパッチとして主に、プラグメッシュ、プロリンヘルニアシステム、クーゲルパッチの3種類が使用されています。これらの方法では筋肉の緊張がないため突っ張り感が少なく、術後の痛みも従来に比べ、著しく軽減されました。通常は、臍下だけの麻酔の腰椎麻酔で行いますが、傷の周囲のみの局所麻酔でも手術が可能です。特に最近導入されたクーゲルパッチは、他の方法と違い腹壁の内側からパッチをあてるので、違和感がより少なく、痛みも少ない方法と報告されています。右もしくは左の下腹に約3から5cmの傷で、手術時間は20分から40分ほどです。抜糸の必要がないように縫い合わせています。手術前日もしくは当日に入院し、手術後は当日に帰宅できないことはありませんが、いまのところ様子観察で1泊だけ泊って頂く方が多いようです。もちろん、この方法で再発が全くゼロになるわけではなく、0.5から1%の患者さんは再発することがあります。また、手術創が感染したり、一時的に水が溜まったりすることもきわめて稀ですが起こりえます。どのような場合でも24時間対応して、適切な対処をしますのでご安心下さい。
 手術後1週間ほどは多少創部の違和感や軽度の痛みがありますが、すぐに仕事に復帰して構いません。

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電話 049-276-1285
 
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