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埼玉医科大学雑誌 第28巻第1号 (2001年1月) 32頁 (C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School

特別講演

主催 埼玉医科大学将来計画研究部門・後援 埼玉医科大学卒後教育委員会
平成12年11月17日 於 埼玉医科大学丸木記念館会議室1

内分泌撹乱物質の代謝におけるステロイド異生物性受容体,SXR の役割

Bruce Blumberg

(Department of Developmental & Cellular & Biology, University of California, Irvine)


 1950−60 年代と最近の成人男性の精子数を比較した結果が,大きくメディアに取り上げられたことは記憶に新しいと思われます.現代人の不妊の原因の一つである精子数や他の動物種での個体数の減少などは,これらの生体生理機能を乱す原因物質として,内分泌撹乱物質が注目されている.それ故,近年世界レベルで内分泌撹乱物質の同定,作用機構の研究が飛躍的に進んでおり,今後治療法を目指す場合,その分子レベルでの作用機構の解明および創薬に対する研究は必要不可欠であり急務と考えられる.
  Dr. Blumberg はアメリカのカルフォルニア大アーバイン校で内分泌撹乱物質の同定,及びその作用機構の解明を精力的に行っている.また,演者らの研究室で最近解明された点について,内分泌撹乱物質と核内受容体の相互作用を中心にその作用メカニズム及び種々薬剤に対する効果について興味深い講演をしていただいた.
  具体的な講演内容は主に以下の2点についておこなわれた.

1.SXR と内分泌撹乱物質
  内分泌撹乱物質で活性化される SXR (Steroid and Xenobiotic Receptor)は,ほとんどの生物種で発見され,生物間で非常に保存された DNA 結合領域と多様性を含むリガンド結合領域から構成され,そのターゲットとして Cytochromes P450 3A (CYP 3A)の転写制御をになう制御因子として考えられている.
  今回演者らは,human,mouse,frog および zebrafish の SXR の配列と構造を比較し,既知の薬剤に対する,その反応性を検討をおこなった.これら種々の薬剤の反応性により分類することにより,Aグループ では,human,mouse で陽性に反応するが,他の種では逆に陰性の反応示す.B グループでは,flog,zebarfish で陽性だが,human,mouseで陰性.Cグループ では,human のみで陽性なもの.つまり動物種を 4 種類の SXR(同様な機能を有すると考えられる)に固定して,種々の既知の薬剤群をパラメーターとしてその反応性を検討するユニークな実験系を使用することにより,蛋白の相同性・多様性から,SXR の本来もつ生体機能および機能領域の同定を試みようとする興味深い研究成果であった.

2.内分泌撹乱物質により引き起こされる Deformed Frog の解析
  演者らの本国,アメリカ各地の湿地帯や湖で報告された,奇妙な“3 本足のカエル”の正体を解明することからこの研究は進んでおり,現在はいくつかの候補因子が同定されていることを報告した.カエル自身は,ご存知のように脊椎動物であり,材料特性としては未知遺伝子の動物極への遺伝子発現により二次軸誘導能等を確認することにより,その機能解析が容易にできることが知られている.演者らは,先ず奇形が多数見られる,肢芽の奇形パターン解析を丹念に行うことにより,奇形型に対するいくつかのカテゴリー分けをおこなった.また,これらの特殊な奇形型を示す脊椎動物での報告は,mouse,chicken,fish 等で報告されており,レチノイン酸により引き起こされる奇形型とほぼ一致していることを見いだした.実際にレチノイン酸を過剰に投与することで,“3 本足のカエル”又は特徴的な表現型を実験的に得ることが可能であることを報告した.さらに,これら奇形の動物より生化学的な方法で因子群を抽出し,レチノイン酸がリガンドとして働く RXR 等の核内受容体との反応性を比較検討することにより,これらの因子によりRXR 等の核内受容体の反応性が非常に上がっていることを報告した.可能性としては,この奇妙な“3 本足のカエル”はレチノイン酸様の疑似作用をもつ内分泌撹乱物質により核内受容体の逸脱した生体作用により引き起こされる可能性を示唆した.
  今回の特別講演後,多数の参加者から質問が寄せられ,特に現在世界中で注目される内分泌撹乱物質の研究分野で,リアルタイムに進む研究手法と成果を本学で直にふれる機会が多くの人に持てたことは,非常に有意義と思われます.また,この様な機会を与えてくださった,卒後教育委員会のご後援に心より感謝申し上げます.
(文責 津久井 通)


(C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School