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埼玉医科大学雑誌 第28巻第1号 (2001年1月) 9-15頁 (C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School

原著

フィールドテストを用いた脊髄損傷者の有酸素能予測

草野 修輔

埼玉医科大学リハビリテーション医学教室
〔平成12年12月9日受付〕


A Field Test for the Prediction of Aerobic Capacity in Paraplegics and Quadriplegics
Shusuke Kusano
(Department of Rehabilitation Medicine, Saitama Medical School, Moroyama, Iruma-gun, Saitama 350-0495, Japan)

The aerobic capacity of paraplegics and quadriplegics was measured during continuous incremental exercises until exhaustion on an arm crank ergometer. Subjects were 19 male patients with cervical spinal cord injury (SCI-C group: mean time since injury, 21.6 months), and 30 male patients with thoracic or lumbar spinal cord injury (SCI-TL group: mean time since injury, 63.3 months). Spinal cord injured subjects also participated in a field test (20 m and 3-minute wheelchair propulsion run test). Twenty meter run time and 3-minute run distance were measured. The relationship between these field tests and the peak oxygen consumption (peak VO2) was evaluated. To find the most important predictor variables of peak VO2, the correlation coefficients of age, time since injury, grip strength, 20 m run time, and 3-minute run distance against peak VO2 were calculated. Step-wise multiple regression analysis showed that the regression of peak VO2 plotted against 3-minute run distance yielded the following equation; Peak VO2 (ml/kg/min) = 0.0266 × [3-minute run distance (m)] + 5.320 (R=0.7247; p<0.05) in SCI-C group; Peak VO2 (ml/kg/min) = 0.0595 × [3-minute run distance (m)] - 2.3321 (R=0.8385; p<0.05) in SCI-TL group. A comparison of actual peak VO2 and predicted peak VO2 described above was made in another 8 male quadriplegics and 8 male paraplegics. The correlation coefficients between actual peak VO2 and predicted peak VO2 in quadriplegics and paraplegics were significantly high {r=0.7128 (p=0.0472), r=0.9039 (p=0.0021) respectively}.
Keywords: spinal cord injury, aerobic capacity, arm crank ergometer, field test
J Saitama Med School 2001;28: 9-15
(Received December 9, 2000)


 緒 言

 急性期の外傷性脊髄損傷者では,受傷によって生ずる麻痺に加えて,骨傷部の固定性を得るための全身的な安静が原因となって,短期間でも全身持久力の低下が引き起こされやすい1).また慢性期においても車椅子生活のために活動範囲が限定され,運動不足に陥りやすく,その結果として,同年代の健常者と比較して冠動脈疾患,糖尿病,肥満などの運動習慣に関連した生活習慣病の発症リスクが高まる2,3).従って脊髄損傷者のリハビリテーションにおいて,運動療法としての有酸素運動は,急性期での全身持久力低下の予防に対して有効なだけでなく,慢性期においても生活習慣病の予防という面からも重要と考えられる.このような持久的な運動が安全で有効に行われるためには,まず運動負荷テストを施行し,その結果をもとに適切な運動処方を行う必要がある.脊髄損傷者の運動負荷テストの様式としては,これまでに上肢エルゴメータ負荷法1,4,5),車椅子トレッドミル負荷法6-10),車椅子固定型定量負荷法(いわゆる車椅子エルゴメータ負荷法)11,12)が報告されているが,高価なものも多く,操作も煩雑である.また,全身持久力の指標として最も信頼性のある最大酸素摂取量(peak VO2)の測定には呼気ガス分析装置も必要となる.また,これらを用いた運動負荷テストを行うためには多くの人員と煩雑な準備そして一定の検査時間を必要とすることから,日常臨床において,有酸素運動による効果判定や運動処方の変更を簡便にしかも頻回に行うには問題がある.
 ところで,運動負荷テストから求められた最大酸素摂取量と,フィールドテストとしての歩行・走行テスト結果との間には良好な関連があることから,全身持久力測定のための簡便法としてフィールドテストの有用性が健常者13,14)だけでなく,呼吸器疾患15)や心臓疾患16,17)などで報告されている.脊髄損傷者を対象にしたフィールドテストとしては12分間走テスト18,19)あるいは5分間走テスト10)が報告されているが,受傷早期の入院患者では5分間走テストですら負荷量が大きすぎて完走できない場合もあり,安全性・実用性の面から問題がある.
 本研究の目的は,フィールドテストとして採用した車椅子を用いた3分間走テストが,脊髄損傷患者におけるpeak VO2の予測に適応可能かどうかを検討し,全身持久力を評価するための簡便法としての有用性を検討することである.

 対象および方法

1.対 象
 対象は,男性の外傷性頸髄損傷者19名(SCI-C群)および胸腰髄損傷者30名(SCI-TL群)で,受傷からの経過期間は,SCI-C群では3〜87ヶ月(平均21.6±22.4ヶ月),SCI-TL群では2〜201ヶ月(平均63.3±65.9ヶ月)であった.損傷レベルは,正常機能を持つ最下位髄節でみるとSCI-C群では第6頸髄節が12名,第7頸髄節が4名,第8頸髄節が3名であった.SCI-TL群では第4〜12胸髄節が14名,第1〜3腰髄節が16名であった.被検者の障害程度は,いずれの群もASIA impairment scale20)でBまで(すなわち損傷レベル以下の運動機能は完全に喪失しているが感覚機能は残存)とした.
 被検者には事前に研究の目的,運動負荷の内容,安全性などを説明し同意を得た.
2.上肢エルゴメータ負荷
(1)負荷装置(Fig. 1)
 上肢エルゴメータ負荷に際しては,肩甲上腕関節とアームクランクの回転軸の高さが一致し,さらにアームクランクを回転させたときに肘関節がほぼ完全伸展になるように負荷装置の位置を調節した.既存の上肢エルゴメータ負荷装置ではこの点についての細かな調整が困難であるため,今回の研究では車椅子座位姿勢にあわせてアームクランク回転軸の高さを自由に調整できるように開発した装置にロード社製エルゴメータを取り付け,車椅子用上肢エルゴメータ負荷装置として用いた(負荷範囲---0〜300ワット;定負荷制御範囲---40〜80 rpm).

Fig.1. The modified arm ergometer for the wheelchair user. The ergometer can be easily adjusted at variable height in relation to the wheelchair seating position of the subject.

(2)負荷条件
 アームクランクの回転数は1分間に60回転とし,メトロノームの音にあわせこれを維持するように指示した.負荷モードは,負荷量が回転速度にかかわらず一定となるisopowerモードを採用し,5分以上の安静座位の後に最初の2分間は0ワットの負荷とし,SCI-C群では次の3分目から被検者の体力にあわせて1分間に1〜7ワットずつ,SCI-TL群では7〜25ワットずつ漸増するランプ負荷を用いた.運動中止基準は,1)アームクランク回転数が40回転/分以下となってしまうこと,2)呼吸困難または胸痛などの自覚的症候の出現,3)不整脈の出現または虚血性変化などの心電図異常の出現,とした.
(3)運動負荷中の測定項目
 心拍数(HR)は,日本光電社製医用テレメータLife Scope8を用いて連続的にモニターし,30秒毎に記録した.酸素摂取量(VO2)は,ミナト社製AE-280Sを用いてbreath-by-breathにて測定した.
3.フィールドテスト
 各被検者が日常生活で使用している車椅子を用いて体育館内で車椅子持久走として3分間走テストを行い,上肢エルゴメータ負荷から得られたpeak VO2との関係について検討を行った.また全身持久力の構成要素である瞬発的な筋パワーの指標として20 m走テストを行った.3分間走テストでは,スタート位置と25 m位置に目印となるピンを立てておき,1往復50 mの距離をピンの外側を回って3分間連続して走行するように指示した.3分目に「止まれ」と合図し,その時点までの走行距離(m)を測定した.20 m走テストでは,スタートラインから最高スピードが出ているようにするためにスタートラインの3 m手前から全力で走行するように指示し,20 mを走行するのに要する時間(秒)を測定した.
4.筋力測定
 胸腰髄損傷者においては,筋力の代表としてスメドレー式握力計で測定した握力を用いた.車椅子座位にて上肢下垂位とし,利き手の握力を2回測定し大きい方の値を筋力として採用した.
5.統計学的検討
 測定値はいずれも平均値±標準偏差で示した.両群の身体的特徴,運動負荷テスト終了時ならびにフィールドテスト終了時データの比較には対応のないStudent t検定を用いた.Peak VO2に寄与する因子の分析には,まずSpearmanの順位相関係数を用いてpeak VO2とpeak VO2に寄与すると考えられる各種の因子との間の単相関マトリックスを作成した.次に,単相関マトリックス分析で有意であった因子を説明変数として,両群においてステップワイズ法による重回帰分析を行い,peak VO2に寄与する因子を抽出した.統計処理はStatcelTMを用いて計算した.いずれの検定においても5%未満を統計学的有意水準とした.

 結 果

1.対象者の身体的特徴(Table 1)
 体重で,SCI-C群がSCI-TL群に比較し有意に低値を示したが,年齢と身長は両群間で有意差は認められなかった.

Table 1. Characteristics of subjects with cervical cord injury (SCI-C group) and subjects with thoracic or lumbar cord injury (SCI-TL group)

2.運動負荷テスト終了時データ
(1)Peak VO2
 SCI-C群では9.7±2.9 ml/kg/min,SCI-TL群では23.5±8.4 ml/kg/minであり,SCI-C群のpeak VO2はSCI-TL群に比較し約1/2であり有意に低値を示した.
(2)Peak HR
 SCI-C群では117.0±15.6 beats/min,SCI-TL群では170.0±15.4 beats/minであり,SCI-C群では有意に低値を示した.(220−年齢)で算出される年齢別予測最大心拍数を100%としてpeak HRがその何%にあたるかを算出したが,SCI-TL群では89.4%であり症候限界として十分な運動負荷がなされたものと考えられた.SCI-C群では61.4%であったが,男性頸髄損傷者を対象としたこれまでの研究でのpeak HRは約110〜120 beats/minと報告21,22)されており,本研究のSCI-C群ではこれらとほぼ同様の結果であったことから,SCI-C群においても症候限界に達していたものと考えられた.
3.フィールドテスト終了時データ
 3分間走では,SCI-C群で164.7±71.4 m,SCI-TL群で434.6±121.0 mであり,SCI-TL群は有意に長い走行距離を示した.20 m走では,SCI-C群で16.4±7.3秒,SCI-TL群で7.0±1.7秒であり,SCI-TL群は有意に早い走行時間を示した.
4.Peak VO2の予測に寄与すると考えられる因子の検討
(1)Peak VO2と各種因子との相関マトリックス
1)頸髄損傷者群
 Peak VO2と年齢,受傷からの経過期間,20 m走行時間,3分間走行距離との単相関マトリックスをTable 2に示す.有意の相関を示したのは,20 m走行時間と3分間走行距離であり,3分間走行距離との間で最も相関が高かった(r=0.7247).

Table 2. Spearman rank-order correlation matrix within personal and performance variables in SCI- C group

2)胸腰髄損傷者群
 Peak VO2と年齢,受傷からの経過期間,握力,20 m走行時間,3分間走行距離との単相関マトリックスをTable 3に示す.有意の相関を示したのは,受傷からの経過期間,握力,20 m走行時間および3分間走行距離であり,頸髄損傷者群と同様に3分間走行距離との間で最も高い相関が得られた(r=0.8385).

Table 3. Spearman rank - order correlation matrix within personal and performance variables in SCI-TL group

(2)重回帰分析を用いたPeak VO2に寄与する因子の抽出
1)頸髄損傷者群
 Peak VO2と各種因子との単相関分析で有意の相関を示した項目である,20 m走行時間および3分間走行距離を用いて,peak VO2に寄与する因子をステップワイズ重回帰分析を用いて検討した.その結果,peak VO2は3分間走行距離のみの一次回帰式,Peak VO2=0.0266×[3分間走行距離(m)]+5.320(R=0.7247: p<0.05)で表され(Fig. 2),その変動の52.5%が3分間走行距離により説明された.

Fig. 2. Relationship between peak oxygen consumption (peak VO2) and 3-minute run distance in SCI-C group.

2)胸腰髄損傷者群
 Peak VO2と各種因子との単相関分析で有意の相関を示した項目である,受傷からの経過期間,握力,20 m走行時間,3分間走行距離を用いて,peak VO2に寄与する因子をステップワイズ重回帰分析を用いて検討した.その結果,胸腰髄損傷者群でもpeak VO2は3分間走行距離のみの一次回帰式,Peak VO2=0.0595×[3分間走行距離(m)]−2.332(R=0.8385: p<0.05)で表され(Fig. 3),その変動の70.3%が3分間走行距離により説明された.

Fig. 3. Relationship between peak oxygen consumption (peak VO2) and 3-minute run distance in SCI-TL group.

5.Peak VO2予測式の他症例への適用についての検討
 Peak VO2に寄与する因子として,SCI-C群およびSCI-TL群のいずれにおいても3分間走行距離のみが抽出され,上記のpeak VO2予測式が得られた.この予測式が他の症例においても適用可能か否かを検討する目的で,新たに別の男性外傷性頸髄損傷者8名(平均年齢25.5±12.5歳)および胸腰髄損傷者8名(平均年齢24.0±5.4歳)を対象として,フィールドテストとして3分間走テストを施行し,得られた走行距離を前述のpeak VO2予測式に代入して各対象者ごとに予測peak VO2を算出した.さらに上肢エルゴメータ負荷にてpeak VO2を実測し,予測peak VO2と実測peak VO2との相関関係を検討したが,頸髄損傷者でr=0.7128(p=0.0472),胸腰髄損傷者でr=0.9039(p=0.0021)であり,いずれにおいても有意の相関を示した.

 考 察

1.上肢エルゴメータ負荷で得られたpeak VO2の妥当性
 本研究で対象とした被検者とほぼ同年齢の男性頸髄損傷者を対象としたVan Loanら21)やHopmanら23)の研究によれば,peak VO2は約8〜12 ml/kg/minと報告されており,本研究におけるSCI-C群(9.7±2.9 ml/kg/min)と同程度の値を示した.一方,男性胸腰髄損傷者を対象としたLinら5)の報告によればpeak VO2は約25 ml/kg/minであり,本研究におけるSCI-TL群(23.5±8.4 ml/kg/min)とほぼ同程度の値であった.
 このことから,本研究の対象例では頸髄損傷者群,胸腰髄損傷者群のいずれにおいても今回の上肢エルゴメータ負荷にて得られた終了時の酸素摂取量は,症候限界性の最大値と見なすことができ,以下の検討にpeak VO2として十分使用できるものと考えられた.

2.Peak VO2とフィールドテストとの関係
 Peak VO2を予測する際に単一の要因よりも複数の要因で分析した方が予測性は向上するとされている24).最大酸素摂取量に関与する一般的な因子としては,遺伝,加齢(年齢),性差,運動負荷試験の方法などがあげられている25).脊髄損傷者では,これらの因子に加えて,損傷レベル,障害程度(麻痺の重症度),受傷からの経過期間なども最大酸素摂取量に影響する因子と考えられている26).これらの影響因子の中で性差については,本研究ではすべて対象を男性に限定し,障害程度ではASIA impairment scale20)によるBまで(すなわち損傷レベル以下の運動機能は完全に喪失しているが感覚機能は残存)とし,運動機能としては完全麻痺を対象としている.損傷レベルについては,SCI-C群とSCI-TL群に分けて検討している.従って,性差,障害程度,損傷レベルについては今回の検討から除外出来る.
 全身持久力を簡便に評価可能であるフィールドテストとしての歩行・走行テストに関しては,Cooper13)による12分間走テストと最大酸素摂取量との関係についての研究以降,臨床的にも呼吸器疾患15)や心臓疾患16,17)などで歩行・走行テストと全身持久力との関連についての報告がなされている.脊髄損傷者に関しては,Rhodesら18),Franklinら19)による12分間車椅子走テストと最大酸素摂取量との関係,草野ら10)による5分間車椅子走テストと最大酸素摂取量との関係についての研究があり,いずれの報告でも車椅子持久走テストと最大酸素摂取量との間には有意の相関があり,全身持久力の簡便な評価法として車椅子持久走テストは脊髄損傷者においても有用であるとされている.しかし,12分間走テストや5分間走テストは受傷早期の患者にとっては負荷量が大きすぎて完走できない場合もある.受傷早期の患者でも安全に施行が可能であり,より短時間で目的を達することができるように今回は車椅子持久走テストとしての走行時間を3分間とした.また頸髄損傷者および胸腰髄損傷者を対象に,Jannsenら9)は車椅子エルゴメータを用いて30秒間全力で車椅子を駆動し続けるスプリントテストを行い,弱いながらpeak VO2との関連があることを報告している.草野ら10)も,胸腰髄損傷者を対象に60 m車椅子走テストを施行し,走行時間とpeak VO2との間に有意の相関関係を認めている.そこで今回,全身持久力の構成要素の一つである瞬発的な筋パワーの指標として,20 mを全力で走行させる20 m走テストを採用した.
 次に,一般的影響因子として年齢を,脊髄損傷者における影響因子として受傷からの経過期間を採用した.筋力について,原27)は脳卒中患者のpeak VO2に関与する因子について重回帰分析法を用いて検討し,握力が有意の説明因子として抽出されたと報告しており,SCI-TL群では握力も説明因子に加えた.
 Peak VO2に寄与すると考えられる説明因子として採用した年齢,受傷からの経過期間,握力を,さらにフィールドテストとしての20 m走行時間,3分間走行距離とpeak VO2との相関関係について検討したが,SCI-C群では有意であった説明因子として20 m走行時間と3分間走行距離が抽出された.SCI-TL群では,受傷からの経過期間,握力,20 m走行時間,3分間走行距離が抽出された.これらの説明因子を用い,さらにステップワイズ重回帰分析を用いて検討したが,peak VO2は両群とも3分間走行距離のみの一次回帰式で表され,3分間走が最もよいpeak VO2の予測因子であることが明らかとなった.
 この予測式の妥当性を検討する目的で,別の頸髄損傷者8名および胸腰髄損傷者8名を対象として予測peak VO2と実測peak VO2との相関関係を検討したが,頸髄損傷者群,胸腰髄損傷者群のいずれにおいても有意の相関を示し(r=0.7128, 0.9039),本研究から得られたpeak VO2予測式の臨床的有用性が示された.
3.Peak VO2予測式の臨床的活用
 本研究から得られたpeak VO2を予測する一次回帰式を用いて,3分間走テストの結果をもとに対象者のpeak VO2の推定が可能となると同時に,入院患者を社会生活での身体活動レベルに分類することも可能となる.
 これまで文献的に報告されている身体活動レベル別のpeak VO2の値を,今回得られたpeak VO2を予測する一次回帰式に代入し,3分間走行距離を求め,3分間走行距離と社会生活での身体活動レベルとの関係を検討した.頸髄損傷者においては,社会復帰している場合でも活動性が低い人ではpeak VO2が約7.5〜9 ml/kg/minと報告23)されており,この値を一次回帰式に代入すると,3分間走行距離は82〜138 mとなる.一方,社会復帰しスポーツ活動にも参加している活動性の高い人ではpeak VO2が約12〜15 ml/kg/minと報告18,23)されており,この値を一次回帰式に代入すると251〜364 mとなる.胸腰髄損傷者においては,社会復帰していても活動性の低い人ではpeak VO2が約15〜21 ml/kg/minと報告1,5)されており,この値を一次回帰式に代入すると3分間走行距離は291〜392 mとなる.一方,社会復帰しスポーツ活動にも参加している活動性の高い人ではpeak VO2が約25〜30 ml/kg/minと報告9,18,28)されており,この値を一次回帰式に代入すると459〜543 mとなる.
 この結果から,3分間走行距離として,頸髄損傷者では140 m以下,胸腰髄損傷者では390 m以下であれば社会生活での身体活動レベルが低い群に分類される.これに対して,3分間走行距離が頸髄損傷者で250 m以上,胸腰髄損傷者で460 m以上であれば,社会生活での身体活動レベルが高い群に分類することが出来る.
 このようにフィールドテストとしての3分間走テストは,全身持久力の簡便な指標となると同時に,社会生活での身体活動レベルの指標ともなり,入院患者が社会生活への復帰を目標とする際に必要とされる全身持久力を再獲得するためのより具体的な運動処方にも応用可能と考えられる.

  要 約

 受傷から平均21.6ヶ月経過した男性の外傷性頸髄損傷者19名(SCI-C群)と受傷から平均63.3ヶ月経過した男性の外傷性胸腰髄損傷者30名(SCI-TL群)を対象に,上肢エルゴメータ負荷装置を用い全身持久力の指標として採用した最大酸素摂取量(peak VO2)を測定した.さらにフィールドテストとして車椅子での走行テスト(20 m走および3分間走)を施行し,peak VO2との関係を検討し,フィールドテストの結果がpeak VO2の予測に適用可能かどうかを検討した.
 車椅子走行テストの他に,peak VO2の予測に関与すると考えられる因子である年齢,受傷からの経過期間,握力,20 m走行時間,3分間走行距離とpeak VO2との関係をステップワイズ重回帰分析により検討した.頸髄損傷者群,胸腰髄損傷者群のいずれにおいてもpeak VO2は3分間走行距離のみの一次回帰式:頸髄損傷者群では,Peak VO2=0.0266×[3分間走行距離(m)]+5.320(R=0.7247; p<0.05);胸腰髄損傷者群では,Peak VO2=0.0595×[3分間走行距離(m)]−2.3321(R=0.8385; p<0.05):で表されることが明らかとなった.
 次に別の男性外傷性頸髄損傷者8名および胸腰髄損傷者8名を対象として3分間走テストを施行し,走行距離から上記一次回帰式により各被検者の予測peak VO2を算出した.さらに上肢エルゴメータ負荷にて実測peak VO2を測定し,両者の適合度を検討したが,両群ともに有意の相関関係{r=0.7128(p=0.0472), r=0.9039(p=0.0021)}を示し,上記予測式の有用性が示された.

 謝 辞

 本稿を終えるにあたり,御指導・御校閲を賜った間嶋 満先生(埼玉医科大学,リハビリテーション科教授)に深甚なる謝意を表します.

  文 献

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(C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School