PDFファイル
(167KB)
※ダウンロードデータはAcrobat Reader4.0でご覧いただけます。
PDF版を正式版とします。
HTML版では図表を除いたテキストを提供します。HTMLの制約により正確には表現されておりません。HTML版は参考までにご利用ください。


埼玉医科大学雑誌 第28巻第1号 (2001年1月) 31頁 (C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School 

特別講演

主催 埼玉医科大学病理学教室・後援 埼玉医科大学卒後教育委員会
平成12年11月13日 於 埼玉医科大学第一講堂

脳腫瘍“WHO 分類”の改訂の要点

中里洋一

群馬大学医学部第一病理学教室


 1967 年以来,世界保健機関(WHO)は専門病理医からなる委員会を組織し,各臓器における腫瘍組織分類を作成し,出版している.脳腫瘍も例外ではなく,1979 年に第1版が発行され,1993 年と本年 2000 年に改訂が行われた.2000 年版の改訂作業は国際癌研究機関の Kleihues 所長のもとで,世界各国の神経病理医がリヨン(仏)で concensus meeting を開いて行われた.その結果が 2000 年 1 月に「脳腫瘍の病理と遺伝,第2版」(WHO 脳腫瘍分類第 3 版)として出版された.
  最新の WHO 分類では脳腫瘍を 7 つの群に大別し,計 126 の腫瘍型が含まれている.今回それぞれの腫瘍型に ICD-O code が付与され,疫学調査への利便性がはかられた.また各腫瘍型には WHO grade (1-3)も付けられており,患者群の平均的予後を推測することができる.WHO grade は組織型を問わず,臨床医との情報交換に有用なものである.
  第3版での主な改訂点は,(1)頭蓋内腫瘍分類から神経系腫瘍分類への転換,(2)anaplastic(malignant)から anaplastic への単純化,(3)astrocytoma,grade 2 から diffuse astrocytoma,grade 2 への変更(4)髄膜腫悪性度の明確化,(5)7 つの新しい腫瘍概念の採用,である.
  以前は嚢胞や下垂体腺腫も脳腫瘍分類に含まれていたが,今回は神経系腫瘍分類の色彩が強く出され,これらが削除された.また悪性を示唆する用語として用いられていた anaplastic (malignant)は病理組織所見と臨床的用語の混用であり,anaplastic と改めることで単純化と意味の明確化がはかられた.Astrocytic tumor,grade 2 を意味する腫瘍名であった「astrocytoma」の使用をやめ,代わりに「diffuse astrocytoma」を用いることとなった.今後「astrocytoma」はastrocytic tumor の総称名として用いる.また髄膜腫の悪性度に関し,grade 2 に clear cell,chordoid type が,grade 3 に rhabdoid type が加えられた.
  今回,新たに採用された腫瘍概念は,脊髄に好発する tanycytic ependymoma,成人女性の第3脳室内に発生する chordoid glioma,成人小脳に発生し予後良好な cerebellar liponeurocytoma,小児の小脳に多い atypical teratoid/rhabdoid tumor,末梢神経性腫瘍であるperineurioma,悪性度の高い髄膜腫である rhabdoid meningioma,髄膜から発生する solitary fibrous tumor の 7 型である.
  近年,脳腫瘍に関する分子生物学的研究は飛躍的に進んでおり,腫瘍分類にもこれらの研究から得られた知見が積極的に採用されており,今後診断への応用が期待されている.
  これらの研究の進歩に伴い,数年内にまた新しい改訂がなされるものと予想される.
(文責 広瀬隆則)


(C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School