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埼玉医科大学雑誌 第28巻第1号 (2001年1月) 47-71頁 (C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School

第27回埼玉医科大学医学会総会
第3回公開シンポジウム

統合カリキュラム −現状と問題点−

平成12年11月25日(土)15:00−17:15
埼玉医科大学第三講堂

座長 大野良三(埼玉医科大学医学教育学室教授)
平山謙二(埼玉医科大学医動物学教授)

Overview
  大野良三(埼玉医科大学医学教育学室)

埼玉医科大学では
  1)統合カリキュラムの概要と1年生のコア科目
   赤塚俊隆(埼玉医科大学統合カリキュラム委員会委員長・微生物学)
  2)学生から見た新旧カリキュラム
   1年生,5年生各1名

筑波大学では
  大野忠雄(筑波大学基礎医学系)

東海大学では
  大塚洋久(東海大学保健管理センター)

近畿大学では
  松尾 理(近畿大学医学部生理学第2)

問題点の整理と質疑

 

本記録は,平成12年11月25日に行われた埼玉医科大学医学会総会第3回公開シンポジウム「統合カリキュラム −現状と問題点−」を採録したものである.



座長 (大野)
私,大野と,医動物学の平山の2人で座長をさせていただきます.

Overview :大野良三
 はじめに,統合カリキュラム,とくに日本の現状のことだけお話しさせていただきますけれども,ご覧いただきますように,統合カリキュラムを採用しているのは,国立で13校,私立で9校,計22校でありまして,一部,部分的だけれど採用しているというのが41校ほどございます.そういう意味では8割ぐらいがもうすでに採用している状況でございます.平成3年とかそこらの昔は,これが完全に逆転しておりまして,採用しているところが25とか30%位だったですね.この数年間で非常に変わってきております.なお,不採用という学校でございますが,これも現在立案中というところが多ございまして,予定なしというのは,国立,公立あわせて3校だけというようなことで,80大学の内のほとんどが,統合の方向に向かって進んでいるというような格好でございます.  さて,本日の予定でございますが,まずはじめに埼玉医科大学の話をさせていただきます.微生物学の赤塚教授から,今,我々が始めている統合カリキュラムの概要,特に今年から始まっております1年生の講義科目を中心にお話しをいただきます.それから学生から見たカリキュラムということで,5年生の代表が1つ,さらに1年生にも話をしてもらう予定です.

 つぎに,今日ご来校いただいている3人の先生方をご紹介します.まず,筑波大学の大野先生,東海大学の大塚先生,それから,近畿大学の松尾先生にお見えいただいております.始めに私どもの大学の事をお話しして,それからただいまの順番で,それぞれの大学の統合カリキュラムの話をしていただくというつもりでおります.本来なら,それぞれのご専門の領域でのご活躍など,いろんな事をご紹介すべきところでありますが,今日は大学を代表して教育のカリキュラムの話しをしていただくという事で,詳しいご紹介は省略して順次進めてまいります.よろしくどうぞお願いいたします.

 それでは,平山先生お願いいたします.

座長(平山):それでは,今大野先生に説明していただいたような式次第で進めさせていただきます.最初は埼玉医科大学では,ということで統合カリキュラム検討委員会の委員長をやられている,微生物学の赤塚俊隆先生に,埼玉医科大学の統合カリキュラムの概要と,1年生のコア科目ということでお願いいたします.どうぞ.



埼玉医科大学では

1)統合カリキュラムの概要と1年生のコア科目

赤塚 俊隆 (埼玉医科大学統合カリキュラム委員会委員長・微生物学)

2)学生から見た新旧カリキュラム

1年生,5年生各1名


1)統合カリキュラムの概要と1年生のコア科目

 どうも,こんにちは.今,私がこの大学の統合カリについて,代表として話してくれという事なんですが,非常に私としては,何でこういう事になっちゃったのか,非常に,今考えると不思議なんですが,私がこの大学に来たのは3年半前,それまでずっとウイルスのワクチンの研究をやってて,教育経験は全然なかったわけです.この大学にきてはじめて講義することになりまして,しかも,その講義内容が全然自分の専門とは関係ない,細菌学の各論をやるという,そういう羽目になりまして,非常にとまどったんです.それでも,実際に講義が始まる11月まで6カ月くらいありまして,その間になんとか準備をして間に合わせたということなんですが,その時の経験を基に話したいと思うんです.
 ここに出してあるのは,今年の6年生の卒業試験の問題です.この6年生は私にとって非常になじみの深い学生で,この6年生が3年生の時に,私が初めて教えたわけです.彼らが現在もう卒業しようとしてるんですが,免疫学の卒業試験問題を出してくれということで,私が1題出しました.細胞障害性T細胞を誘導するのはどれかということで,こういったものをあげて解答してもらったんですが,正解は出席している学生でも5年生くらいだったらわかるかな,これらなんかは全然関係なくて,生ワクチンである麻疹ワクチン,これが正解なんです.ところが正答率は10.4%ということで,かなりの人がツベルクリンと答えてるんですね.ツベルクリンは診断に用いるもので,ワクチンとは全然ちがう,しかも精製蛋白だから,CTL は誘導しないはずなんで,そういったことはもうとっくに知ってるだろうと思って,常識問題として出したんですが,こういう結果だったということで,ちょっとまあ,びっくりしちゃったわけです.

 彼らが3年の時どうだったか,というと,僕は4月から学生と一緒に座って授業をずっと聞いてたんです.どうやって講義が行われるのかと.そこで免疫学の講義も聞いてたんですね.で,うちの教室の先生が教えていることはこういったことだったんです.これは,私のノートです.IL2 と IL15 というのは,共通性があって,こんな分子構造をしている.IL3 と IL… 何だっけな,なんかこんなのがある.ま,こういうノートがあります.そのとき配られたプリントのこれ1部なんですね.いちいち IL2 だの何だのといちいち説明があったんです.そういった先生がこの間,期末試験を出した.セービンワクチンで誘導されるウイルス中和抗体の種類は,ということでこういう問題なんですね.これ免疫学が専門である医動物の先生方どうですか,曽根先生わかりますか.これ,正解は IgG1 らしいんですね.私,ワクチンの研究ずっとやってたんですが,これ,全然わかりませんでした.さすがにこれ,試験に出すのはやめてもらったんですけども,こういったものを出してもおかしくないと思ってる先生が結構いるんですね.そういった免疫学について,いったい学生は,特に3年生はどういったふうに勉強してきたんだろうというふうに振り返ると,彼らは2年生からそういったものを勉強していたんですね.

 第一解剖では,マクロのリンパ系の講義を行っている.第二解剖では,それの組織学ですね.リンパ系扁桃腺,胸線,こういった講義があって,実習も何時間かこういうふうにあるわけです.かと思うと,今度は第一生理学で,白血球の分化,免疫の機序とこういった授業がありまして,第一生化学になると,やはり免疫応答と免疫グロブリンの話がくる.そして彼らが3年に上がると,私がずっと出席した微生物の前期の講義が,免疫学がずっとあるわけです.ここでもまた,抗体の話が入っています.で,実習も行うと.そうすると,今度は,それが終わったかと思うと,今度は医動物学でまた免疫の話がある.で,免疫の基礎知識,そういった講義が 2〜3 回あるわけですね.こういう講義の中で彼らは,ある講義ではこういったプリントを渡され,ある講義ではこういったプリントを渡される.で,そこで勉強することがどういうふうにつながっているのかということが非常に混乱してしまうんですね.

 それは免疫学だけでなくて,微生物学,私が教えようとしていた微生物もそうで,これは,彼らが4年生に上がった時の講義です.わざわざ4年生にもくっついてって一緒に講義を受けたんですが,その時に配られたプリントの,これ,わずか28分の1です.これが2コマの講義で全部説明されて,私,赤でこうメモを取ったんですが,これ,1ページコピーして,これのスライド作ろうと思ったら,クリップボードに入りきれないメモリーだったんです.これだけでもメモリーが不足してしまうくらいですから,これだけの28倍の知識をわずか2コマの講義の間に埋め込むというのは,まあ,並大抵のことではないわけですね.

 そういったこがありまして,結局私が,今,細菌学の各論で教えているのは,なるべく簡単に教えようと,ということで,たとえばこれは,5年生は覚えていると思うんですが,テトラサイクリンについての知識ですね.これはベトナムのテト攻勢ということをかけてマンガにしてある.で,これは,ベトナム兵ですね.彼が戦っているのは,アメリカ兵だと,アメリカ兵はGIだからそれからテトラサイクリンの副作用はGIトラクトの障害であると,あるいは,この手りゅう弾の破片が,腎臓や肝臓に突き刺さっているから,こういった副作用がある.それからまたよく見ると口にこうやって歯が黒くなっていると.こういう歯が黒くなるというような副作用があるということです.あるいは,ここにこういったダニがありますね.ダニに関係するような,疾患に特に使われるということです.1枚の絵だけで,非常にたくさんの知識が頭の中に入ってしまうというわけです.こういった工夫をして何とか,彼らを6年に送り出そうと,さらに卒業させようというふうに,今努力をしているわけなんです.

 じゃあいったい,この大学では,本当にこういった問題に関して,取り組んでいるんだろうかということを見ましょう.僕が来たのはこの97年なんですが,実は,これに関しては87年からそういう取り組みが具体的に始まっていたわけですね.医学教育の在り方に関する審議会というものが設置されて,そこで報告がありました.そこで答申されたのは,3つありまして,1つは,少人数制教育の実施,2番目は統合カリキュラムの完全実施,それから3として,カリキュラムの実施機関の設置という答申がありまして.それに基づいていろいろこういうふうにきたわけです.たとえば,4年生で水平型統合の試みが循環器に関してちょっと行われたと.医学教育室,97年には,現在の医学教育学室が設置されたというわけです.私が来たこの97年にちょうど医学教育学室の大野先生が,具体的に,たとえばミニ統合講義といったことを進められたわけで,これには私も一緒に協力させていただきました.その2年のミニ統合講義が翌年には3年生と2年生と両方行われまして,この場合には,大野先生でなくて,我々他の教員が主体的に行なうことになり,この,統合講義に向けた動きが次第に一般教員にも身近なものとして感じられてくるようになったわけです.

 そういった動きのもとに,昨年の5月,それまで学務委員会で教育に関して検討がされてたんですが,その委員会だけではなかかな事が進まないということで,学務委員長がワーキンググループを作ろうということで,2つのグループができました.ひとつは,1年から3年に関するワーキンググループ,もうひとつは,4年から6年に関するグループ.それが発展しまして,8月には,この1年から3年が統合カリ検討委員会.4年から6年が臨床教育検討委員会.というふうな名前になったわけです.

 この5月から実際に具体的に統合カリに関して話を始めたんですが,それが,やりはじめたら,あっという間に事が進んじゃいまして,もう来年度からスタートということになっちゃったんですね.で,すごいみんな大変な思いをしたんですが,まあ,そのおかげがありまして,今年の4月から1年で新カリキュラムが実際に開始になったわけです.この2つあった委員会も1つになって統合カリキュラム委員会というふうな名前になりました.

 これは,今までのカリキュラムですね.1年では,一般教養科目.それから,基礎医学は2年,3年で行われて,次に臨床教育.感染症の講義なんか機関銃みたいな講義だったんですが,ああいったものがわずか1年で,全部ここで教えてしまわれ,それを基に5年生で,ベッドサイドの実習が行われて,6年は,総合臨床講義となってますが,国家試験対策の勉強を行うという事で,臨床に関する講義はほとんどこの4年生の1年間で行われている状態でした.

 それに対して,さっきの免疫学ではないですけれど,基礎医学の教育というのはこの2年の間に非常に詳細に渡って行われているわけですね.それが,臨床教育と本当に密接につながっているかどうか,そこは,非常に問題であったということがいえると思います.それから,あと,1年の教養科目も基礎医学と,この境がありまして,これはひとつは,キャンパスが違うということもありまして,この,相互のつながりもちょっと悪かったんじゃないかということがありました.そこでさきほどあげた2つの委員会で検討して,新しいカリキュラムはどういうふうにしようかということで考えてきました.

 これが現在の1年生でスタートしている新カリキュラムです.1年生では,この細胞生物学と,解剖学概論,これを2つの柱としまして,それから,あと,物理,化学,数学,英語,こういったものを医学の基礎として一つのコースにまとめました.それから,臨床入門としてすでにスタートしていたPBL,あるいは,早期体験実習,こういったものは,1年から上級生にまでずっと続けて行うと,それから,医学概論でも,医学の倫理に関すること,いろいろその他,一貫して,6年一貫で行うという形が考えられたわけです.

 これでようやく,現在の1年生がスタートしたわけなんですが,来年度は,今の1年生は,この図の2年生カリキュラムに移行するという予定だったわけです.今年の新カリがスタートしてから,来年度の2年,3年も検討しないといけないということで,実際に手をつけようとしたんですが,そうした所,このカリキュラムをちょっと手直しする必要があるんじゃないかということが言われました.それはこの2年と3年の境ですね,今まで,基礎医学は2年と3年で行われていましたが,その中でも2年生では基礎医学の正常編,すなわち人体の正常な構造と機能に関して.それから3年では薬理,病理,感染,微生物とか,そういった異常編の講義が行われた.そうすると,結局この境というのは,今までのカリキュラムと,ほとんど変わらないのではないか.3年と4年で学ぶ勉強の量と内容というのは,実際にはそれほど変わんないんじゃないか,ということになったわけです.先程言ったように,基礎医学の膨大な知識というものを,いかに簡素化して,効率よく教えるかということもひとつのテーマですので,これももうちょっと減らしていいんじゃないか,これを少し前倒ししようということで,もう一つ新しいカリキュラムが考えられました.

 これが現在計画されている,新しいカリキュラムです.3年生からもう人の病気,臨床に関する講義が入ってきて,その前に病理や薬理,感染,そういったものも2年の最後に済ましてしまう,という計画です.この新カリに向けて各学年が実際どういうふうに移行して行くかというのが,この表で,これが平成12年,今年度ですが,1年生は,新カリキュラムを受けています.その彼らは来年は当初考えられていた新カリキュラムではなくて,新々カリキュラムの方を受けることになります.結局彼らはずっと新しいカリキュラムを受けて行くわけですね.現在2年生以上はほとんど旧来通り.ただ4年生に関しては少し統合を手掛けております.そういった一部の手直しというのがこの期間続いて,来年度は3年生に関しては,今まで病理,薬理とかいった科目だけでしたが,臨床もここに下ろしてくるということで,移行期の新カリキュラムが3年,4年と,こういうふうに入ってくるわけです.

 これから1年生を主に中心に話しますが,1年生では今までどうだったかと言いますと,これは1年の前期の時間割です.先程2つコアカリキュラムとして解剖学概論と細胞生物学があげられましたが,それに関係する生物学がありますね.これは前期では,1コマと2コマ,それから実習がここにあります.後期では生物学も1コマしかない.こういう,この程度の授業時間だったわけですが,これが,今年からは,このようになりました.月曜日は1時間目から5時間目までずっと解剖学概論.それから木曜日は細胞生物学.とこういうふうに2つのいわゆるコア科目というのが入ってきて,その間に,化学,英語,こういった授業が入ってくるというわけです.これは,後期ですね.後期も基本的には変わりません.この時間割を基にどうやってカリキュラムを作っていこうか,講義をどういうふうにしていこうかという事を考えたんですが,私はその微生物が専門なんですが,細胞生物学のコースディレクターをやることになりまして,それでこれから,細胞生物学の事に関してちょっと話をします.

 そこで考えたのが,これは2年生で去年行われたアンケートなんですが,そこで,日頃どのくらい勉強時間しているのかと聞きますと,ほとんど勉強してないんですね.半分以上の人がほとんどしてないと答えています.その結果,授業についていけないという人も半分近く,それ以外の人もどうにかついていってるといった程度なんですね.興味を持ってやってるというのは非常に少ないんじゃないかなという結果だったです.3年生でも同じようなアンケートを取ってみると,やはりほとんど1週間で勉強するのはわずか1日.それもわずか3分の1の人数だけで,ほとんどの人は1週間のうちに勉強してないというわけですね.1日あたりの勉強時間にすると,1時間以上勉強しているというのが,わずかにこれだけということです.それが,定期試験が近付きますと勉強をはじめて,どれくらい前から準備をするかというと,2,3週間前,あと急に目の色を変えたらこの様にまあ勉強し出すわけですね.そうなるとどのくらい勉強するかというと,1日6時間以上という時間の勉強時間をかける.これでやる勉強の内容というのは,想像がつくと思うんですね.今まで講義ではノートを取る程度だったものを,いっぺんにそれをまとめて頭に詰める.そういう勉強,それから今までのあちこちの講座でバラバラに行われていた講義,そういったものが両方重なって6年生の卒業試験でもああいった結果しか取れないということになってるんだろうというふうに考えました.

 そこで,細胞生物学では,どういったことを特にポイントとして行うかと考えたんですが,まずは,ひとつ,教科書をしっかり勉強してもらおう.1冊の教科書を1年で勉強すれば,たとえ1年で完全にそれがかみこなせなくても,2年,3年,4年とそれに関係するテーマが出てきた時に,その教科書を見てもらって,どこでどうふうに習ったことか,それが今ここでまた勉強しているんだということがわかるようにしてもらいたい.ということで,この方式の中ではひとつの重要なことは,教科書を使ってそれを読んでもらう.それからそれを渡しただけではなかなか勉強しないので,毎回講義の後に試験を行う.小テストですね.それから,普通の期末試験を行なう.今までは講義をやって期末試験を行う,と,これだけでしたので,これではなかなか普段勉強をしないということで,小テストを必ず入れるようにしたわけです.

 それからもうひとつ,基本はこうなんですが,ここで,ちょっと変わってるのは,講義を行うのは学生にやってもらうという事です.これは,いろいろあったんですが,この新カリがスタートする前の,ミニ統合講義の試みで3年生で行ったやつでは,病理の茅野先生が中心となって学生主体にやる講義を行ったんですね.その経験がありまして,それでたとえば,先程のツベルクリンの話が出ました.ツベルクリンとかBCGに関して,学生が色々調べて話てくれたんですが,それが非常に印象に残る講義だったんです.おそらくあそこに出席した学生は,6年になってあの卒業試験の問題が出ても,おそらくああゆう間違いはしなかっただろうというふうに私は感じています.そういった学生主体に講義をやることを取り入れました.それを補足するために,予習としてクイズ問題を出したり,あと,ガイドブックを作る,そういったことをやったわけです.これがガイドブックで1年生はおなじみですけれども,最初に解説.実際はもっと長いんですけども,解説があって,それから,その章でどういうふうに勉強していくかということがまた解説があって,minimum requirementとしてどういった事がその中でも重要かということが書いてあります.それから予習のためのクイズが何問か,十数問くらいですけど,挙げてあって,それを講義の前に1回解いてもらうと,ま,教科書を見ながら,それを解く事によって,ある程度その教科書の予備知識を持って,講義に臨んでもらうということです.それから,課題問題も1つ付けてあります.これが,実際のスケジュールですけども,学生が講義するわけですから,準備時間が必要だということで,何回かおきに準備の日を設けています.この日は1時間目から5時間目まで細胞生物の時間ですから,1日かけて彼らは準備します.で,学生はこういうグループに分かれて,その3グループと6教室の1教室が1章ずつ担当します.結局6教室と各学生が年3回に渡って担当の順番が回ってくるというスケジュールです.そういうふうにして,小グループ学習も取り入れたわけです.こうやって実際にやってみると,非常に問題だったのが,この小テストの問題,これが非常に重要だということがわかってきました.それは勿論,学生というのはテストに受かるために勉強するわけですから,そのテストにどういった問題を出すかによって,学生の勉強のしかたも変わってくる.で,最初,この小テストを各担当の教室で作ってもらったんですが,その問題が非常に難しかったり,ポイントがずれてたりとか,あるいは,先生方もやっぱり教科書全体を把握しているわけじゃないから,実はこの章では,その後ろの章で出てくる為の,準備の為の知識程度に書いてあることだったのに,その後ろで習うような知識もすべて問題にしてしまうと,そういったような事も起こっちゃったわけですね.それで,毎回,テストを作るたびにEメールでやり取りしたんですが,その問題に対して,私はかなりこれ失礼なんですけど,ここは悪い,あそこは悪いと言って直してもらったわりするわけです.これもその一部ですね,しっかり知識が備わってないと自信を持って答えを選べませんとか,色々書いてあります.むちゃな話だとか.そういったふうに,小テストを毎回行って,各章2回行います.たとえば,第3章でこうやって行って,合格基準が80点という高い点数なので,どうしても落っこってしまう学生がでます.で,落っこった人は再試験を翌週受ける.そこでも80点未満だと,赤い印が付いてて,こうなると,期末試験から5点引かれると,こういうルールになったんですね.なったって,自分でやってて,そういう言い方はよくないんですけど.そうすると,この学生はたとえば,前期でこれだけ,2回落としてますね.するともう,10点引かれちゃう.期末試験70点取ったら,自動点に10点引かれて,60点という点数がつくと.そうすると,1年間で平均65点取らないといけないんで,後期はよっぽどがんばんないといけないといったことになるわけです.幸い,毎回毎回落っことすような学生はいなくて,最大3回,ここにいますね.ちょっと名前出しちゃってすいません.そういったふうになりました.ただ,幸いなことに後期になりまして,前期でこうやって点数の悪かった学生が意外と頑張って,後期はクリアしていました.ただ,最近になって,さすがに息切れしているのか,ちょっと落ちる人がまたぼつぼつ出て来ましたけど.

 前期の最後にアンケートを取ったんですね.まだ半年しかやってないんで色々わからない点があるんですが,どのくらい勉強しているのかということが,ひとつ問題になりましたので,どのくらい勉強しているかということを見ますと,解剖学概論だけでも,1週間に4ないし5時間.あ,2−3時間が一番多いですか.細胞生物でもこれだけの時間勉強していると.化学をちょっと比較のために出しました.学習内容の理解についてですが細胞生物はああいったやりかたですので,非常にむずかしいんじゃないか,学生が内容を理解してないんじゃないかと心配があったんですが,普通かそれ以上という結果でした.それから,興味も8割以上の学生が持ってくれたようです.学習方法に関しては,かなり不満たらたら出るんじゃないかと思ったんですが,やや不適切というのが20%いましたが,意外と悪くない,普通の講義を行っていた科目と比較しても,別に悪いという感じはなかったです.ただ,授業について行くのに努力を要したか,これはずいぶん皆さんがんばって,努力したようですね.こういう結果です.

 全体としては,有用であったとゆうことは認めてくれた,だけど,非常に努力を要して大変だったと,こういった結果です.こうやって,まだ今年のカリキュラムの全部が終わっていませんけれども,振り返ってみますと,課題として,こういったことが,これ以上にも色々あると思うんですが,あげられます.特に教員と学生は非常に負担だったと思います.教員の方も準備日だけでなくて,講義の前にもリハーサルをすると,年3回だけじゃなくて,6回,7回と,丸1日付き合ってくれたわけです.それから,学生もそれでずいぶん負担があって,結局さっき,化学ではあまり勉強してませんでしたが,他のコースへの影響が出てきちゃったように思います.そういったコース間のバランス,といった事も問題として上げられると思います.それから,あと6年全体のバランスとしては,現在6年をどうするかという事まで議論が進んでませんので,これは将来の課題ですが,6年生の1年間ずっと国家試験の準備勉強やってるというのはやはり,全体を考えると非常にもったいない話で,そこまで手を付けて,始めてバランスの取れたコースができるだろうというふうに考えています.ちょっと長くなりましたが,以上です.

(座長)
 赤塚先生,どうもありがとうございました.非常によくわかる話だったと思いますけれど.じゃあ,実際に受けている学生に,新カリと旧カリの感想を含めて話してもらいたいと思います.最初に,5年生の佐藤純一君.

2)学生から見た新旧カリキュラム
 5年生の佐藤純一です.よろしくお願いします.
 ではまず,5年生に対して今までの古いカリキュラムでのアンケートを実施しました.この後に,1年生の新しい方のカリキュラムを発表してもらうんですけれども,よろしくお願いします.

 カリキュラムの中に,2年時に看護体験実習,3年時に外来付き添い実習が1週間ずつありました.これについてどう思われますか,という質問に対してその結果,素晴らしい,実習回数を増やしたほうがいい,実習期間を延ばしたほうがいいと答えた方が47名,66%で,全体としては,6割以上の人がよい結果を与えています.その反面,無駄と答えた人が,24人の34%もいました.評価している人が多いのですが,3割以上と無視できない人数の人が無駄と答えています.その中には,5年生のBSLの時に一緒にやった方がいい,などの意見があり,どこが悪いのかを考え,改善していく余地があると思います.

 そして,毎週1回PBL,Problem Based Learning の授業がありましたが,この授業において,診断学の知識が身につきましたか,という質問に対して,身についたという人が1人,まあまあ身についたを合わせると38名の53%,過半数以上の人がよい結果を与えていますが,その反対に,まるで身につかなかったという人が26人,32%もいます.少なくとも診断学の知識を身につけるといった意味での効果はあまりなかったと言えるのではないでしょうか.埼玉医大ではPBLは1年から4年まで年間を通して行われており,それをするために,多くの資料を作成したり,プリント,写真,本,教室の確保,臨床・基礎の先生方の協力など,実際の授業よりも手間と時間をかけているのにもかかわらず,まるで身に付かなかったという人が32%もいるというのは,かなり効率が悪かったのではないでしょうか.

 PBLの目的自体は,症例の疾患名を当てることではなく,その症例に沿って勉強し,その成果をみんなで持ち寄り,話し合うという,その過程に意義を置いているので,この設問がやや不適切な感はありましたが,その目的の意図が学生に浸透しきっていなかったのではないかとも思われます.

 2,3年時には,主要科目は一般的に通年で行われていました.その一方で4年時では,内科の主要教科,たとえば,循環器内科や腎臓内科などを約2カ月半で終わらせるようなカリキュラムでした.

 主要科目を通年で行うのと,短期間で終わらせてしまうのは,どちらの方が有効であると思われましたか,という質問に対して,結果としては,短期間28名が40%,通年が28人,40%で,ちょうど半分半分に別れたという結果です.人それぞれに色々な勉強方法があり,科目によるという回答に対しては,どの科目が短期がいいのか,通年がいいのかという,アンケートを行っていないので,おそらくそのアンケートを付け加えると,短期間,通年と答えた人の中でも,科目によって異なる意見が出てくると思われます.次の機会には,このような項目を付け加えるといいと思われました.

 次は,ひとコマ90分の授業で,朝9時から始まり,夕方4時40分に終了するという授業時間だったんですが,その効果についての質問でした.よかったという人が5人,まあまあ26人というのを合わせると44%,と過半数を満たしておりません.授業内容によるという人が29名,41%で最も多い評価でした.ある程度の人が評価していると思われますが,授業によると考えている人も多いということが事実です.これは,全体としてはそれなりに効果はありますが,授業をする先生により,内容にばらつきがあり,いい授業,悪い授業というのが混在している状態だといえると思いました.この質問の場合,90分の授業4回という時間的な評価と,授業内容に対する評価が混在してしまっている可能性があり,どの項目にも90分では効果なしと,時間的な問題を指摘した人と,授業が全く内容的によくなかったと答えた人が両方いると考えられます.今の4年生には,すでに授業時間の設定が変わっており,60分授業6回という設定になっています.それに対して4年生がどのように評価するかということで,また更に違った答えが返ってくると思われます.

 2年生から4年生では,試験回数が前期,後期に1回ずつ,1年間で2回の試験でしたが,この方法で自分の知識が整理されたかという質問をしました.これに対して現状のままで整理しやすいと賛成した人が19名,27%しかいませんでした.51名,71%の人が何らかの不満を持っていて,その中では,範囲を絞って試験回数を増やしたほうがいい,全範囲で試験回数を増やしてほしい,全範囲に対して試験1回というさまざまな意見が出てきました.これに対しても,授業時間の設定と同様に,今の4年生ではすでに臓器別のようにさらに範囲を絞り,前期と後期をさらに2つに分けて,試験を行っています.これを4年生がどう評価しているかで,我々との違いがはっきりしてくると思われます.

 では,1年生お願いします.

(座長)
1年生は新井康介君.

1年生 新井康介
 1年生学年委員代表の新井といいます.

 それでは,1年学年委員主催による,今年度のカリキュラムについてのアンケートの結果を報告したいと思います.このアンケートは2週間前に行われたのですが,今年度および昨年度カリキュラムの資料をあらかじめ配布した上で,次のような質問に答えてもらいました.以下に出る円グラフのパーセンテージは,有効回答数が約100人だったので,数字と人数がほぼ一致していると思って下さい.

 まず始めに授業時間とコマ数の変更について質問しました.昨年度は,90分4コマ,4時40分終了,土曜日授業ありだったのですが,今年度からは60分5コマ,3時45分終了,土曜日の授業がなくなりました.それについてアンケートを取ったところ,賛成が92%と圧倒的多数でした.今年度派の主な意見としては,60分授業の方が集中して授業に臨める,自己学習の時間が多く取れる,早い時間に帰宅できる,生活全体にゆとりが持てる,などの意見がありました.昨年度派の意見には,1日当たりの科目数が少ない方が負担が少ない,60分間の授業では,内容が中途半端に終わってしまっている,という意見がありました.

 次に,一般教養科目を減らし,専門科目を早い時期に学ばせるという近年の医学教育の傾向に合わせたコア科目の創設について賛否を問うたところ,賛成派がこのように91%と圧倒的多数でした.賛成派の意見として,医学生としてのモチベーションが高く保てる,多すぎる教養科目は意味がない,コア科目に指定された教科は将来的に大切そうだ,医師として必要な知識を効率よく学ぶことができる,という意見がありました.反対として,低学年時は専門科目よりも,人として必要な教養を学ぶべき,という意見がありました.その他に,教養的なことを身につけなくても本当にいいのだろうか,基礎,教養なくして応用はないと思う,という意見もありました.これとは別に削除された科目の中で,残してほしかったという教科もアンケートで聞いたところ,約70%の人が体育を残してほしかったと答えていました.逆に新設された科目の中で,特にいらないと思える教科を聞いたところ,理系選択科目の物理学特論,環境科学,高分子科学などが一律不評で,おのおの約30%の票を集めていました.

 今年度のカリキュラムでは,自主的学習を促す試みを大幅に取り入れています.特に細胞生物学では,学生が学生に教えるという授業形式を取っていますが,それについて賛成,反対を聞いたところ,このようにほぼ半々に分かれました.これについて,賛成派は自主学習の習慣が身についた,画期的な授業だと思う,授業,発表をする技術が向上する,とありました.反対派として,教員の行う授業の方が質の高い授業を受けられる,学生が授業をしていたのでは内容が理解できない,学生の負担が大きい,という意見がありました.特に入試科目で,生物を取らずに,物理を選択していた人も,一律同じようにテュータとして他の生徒に教えなければいけないので,物理選択者の負担は大変大きかったと思われます.その他として,学習方法は新鮮でよいが,授業がわかりにくいので一長一短である,小テストの存在が学生主体の授業の価値を落としているのではないか,という意見もありました.

 次に前期試験,後期試験の合格ラインが前年度までの60点から65点に変更されたことについて質問しました.これについて,賛成21%,反対66%,反対が賛成を大きく上回りました.これについて賛成派は,本気で勉強するようになる,国試対策として必要,と言っていました.反対派は,変更したことの意義が不明瞭,学生にとってあまりにも厳しい,留年者を増やそうとしているとしか思えない,という意見もありました.その他として,6年後の国試の結果を見るまでは何とも言えない,それなりの効果はあると思うが,必要性はないと答えていました.最後に,総合的に評価して,昨年度カリキュラムと今年度カリキュラムでは,どちらの方がいいかという質問をしたところ,今年度派が81%,昨年度派が8%という結果が出ました.今年度派の意見として,教養科目が減り,専門科目が増えたから,生活全体に無理がない,将来的に役に立ちそうだ,医学生としての意識が高まるカリキュラムだと思う,という意見がありました.昨年度派として,何となくいや,医師である前に人間として必要な教養科目を減らしたカリキュラムには賛同できない,という意見がありました.その他に,昨年度のカリキュラムで授業を受けていないので判断できない,という意見がありました.

 結論としては,細胞生物学の授業スタイルや試験の合格基準が上がって厳しい,などの不満はあるものの,全体としては,今年度のカリキュラムを支持しているという結果が出ました.これ以前にやったアンケートでは,現カリキュラムについて,何となくいや,などという意見が多かったものの,昨年度の資料と比較することにより,より効率的で将来のためになるような新カリキュラムが組まれているということを確認できたのではないでしょうか.これで1年生の発表を終わります.

(座長)
 どうもありがとうございました.ちょっと熱が入り過ぎて,自分達の大学だけで時間が随分オーバーしてしまいましたので,早速ゲストのスピーカーの先生方にお話しをお願いしたいと思います.最初は,筑波大学の大野忠雄教授に,筑波大学では,という事でお願いしたいと思います.よろしくお願いいたします.


筑波大学では

大野忠雄(筑波大学基礎医学系)


 本来,医学専門学群・副学群長の林英生先生が話をされるところですが,どうしても都合がつかないということでしたので,私が代理で参りました.今日の講師の先生方は皆さん,医学教育のエキスパートでいらっしゃいますので,先生方のお話に比べて私の話は非常に幼稚なものになりますが,御勘弁願います.私は,筑波大学医学専門学群でのカリキュラム編成等に深くかかわってきたわけではありませんが,筑波大学開学後のかなり早い時期から筑波大学におりまして,筑波大学医学専門学群で起こったことをいろいろと見て来ましたので,ちょっと古い話になって恐縮ですが,私が見てきたカリキュラムの変遷についてお話したいと思います.私は基礎医学の者ですから,基礎医学の立場から見た話ということになります.
 筑波大学医学専門学群では,1973年の開学以来,いわゆる統合カリキュラムというものを採用してきました.その後,1991年,約10年前に大幅な見直しがありまして,新カリキュラムに移行して現在に至っています.  私の話は,筑波大学医学専門学群が統合カリキュラムを採用した経緯,初期のカリキュラムの実施例,約10年前の見直しの時に問題になったこと,見直し後の現行のカリキュラムの実施例,これからの展望という順番で進めさせていただきます.

統合カリキュラム採用の経緯

 まず,統合カリキュラム採用の経緯ですが,筑波大学開学時に医学専門学群の創設に関係された先生方は,医学専門学群で行う教育の目標を明確に設定されました.それは,「卒業時点で基本的な臨床能力を備えた一般医を育成する」というものでした.一般医の育成ということで,特定分野の医学研究者や,専門医を育てるということではなかったわけです.それで,この目的を達成するためにはどうしたらいいかを模索した時に,解剖学や内科学といった各学問分野の体系を教授する従来の教育法は是か非かというようなことが検討されたようです.さらに,従来の教育法の利点,欠点等がいろいろと検討された結果,従来の学問分野の系統講義を主体にした教育法では,この目標は達成できないという結論に達しました.

 それで最終的に採用されたのは,問題指向型統合カリキュラムというものでした.また,学年制を採用して,各学年ごとに到達目標を設定しました.それから,自己学習を基本とすることを謳いました.要するに,学生は,「学問体系を教わるのではなくて,問題の解決法を自ら学ぶんだ」ということを強調しました.

初期の統合カリキュラム

 統合カリキュラムを編成するに当たっての要点は,具体的な問題を取り上げ,その理解・解決に向けて,一定の筋書きに従い,関係するいろいろな学習項目を配置することです.「問題の理解・解決に向けて」ということが重要なようです.筋書きの核となるのは,器官系,機能系,症候等で,それぞれがどういう問題を含んでいるのか,それらの問題を解決するにはどうしたらいいのか,を学習できるようにカリキュラムを編成する努力がなされました.

 各コースにはいろいろな学習項目がありますが,各学習項目の授業は,教官の学問研究分野を問わず,その学習項目に最適任の先生方に担当してもらうことにしました.このように,いろいろな学習項目を選び,その担当をいろいろな分野の教官にお願いして統合カリキュラムを編成するには,責任者,まとめ役,あるいは我々がコーディネーターと呼んでいる人が必要になります.実際にはいろいろなコースができますが,各コースに大体2人のコーディネーターを置きます.また,各学年に総コーディネーターを2人ずつ置いて,その学年のカリキュラム全体の調整をしてもらいます.したがって,コーディネーターだけでもかなりの数になります.

 筑波大学医学専門学群には,開学当初からカリキュラム室というのが設置されています.ここには専属の技官が3人いて,カリキュラムに関するさまざまな事柄について,教官やコーディネーターをサポートするシステムができていて有効に機能しています.

 実際に統合カリキュラムを実施する際には,1つのコースでもさまざまな分野の教官が参画しているので,担当教官全員が,統合カリキュラムおよび担当のコースについてある程度共通理解に達している必要があります.そのために筑波大学の開学初期には,毎年新任教官のためにワークショップを開いて,統合カリキュラムの主旨を徹底させる必要がありました.

 次に統合カリキュラムの編成・実施にかかわる組織についてお話しします.医学教育組織の最高責任者が医学専門学群長ですが,その下に学群運営委員会というのがあって,これは医学専門学群の運営方針や教育方針を決定・実施する委員会です.その下にいくつか委員会がありますが,そのひとつにカリキュラム委員会があります.先程のカリキュラム室はこのカリキュラム委員会に付いている形になっています.統合カリキュラムを編成する際には,まずコース・学年のコーディネーターが,カリキュラム室のサポートのもとに,カリキュラム案を作ります.この案をカリキュラム委員会で審議して,承認されると,この案は学群運営委員会でもう1度審議されます.最終的にOKが出ると,このカリキュラムの実施されることになります.

 図1は,初期のカリキュラムの概要で,1年次から6年次までの6年間の流れを示します.下の方に,学習する内容の大枠を示すフェイズの名称が書いてあります.まず1年次には,医学セミナーがあって,学生は少人数のグループに分かれて,さまざまな医学的な問題について,グループ学習をします.そして,この学習の成果をまとめて発表し,討論を行いました.ここで問題指向型の自己学習が始まったわけです.2年次になると,専門科目としては,生物有機化学,生物物理化学,感染生物学という,ちょっと分野別的なコースがあって,その後に細胞生物学がきました.この細胞生物学は,生体機能の基礎をなす細胞について多角的に学習する統合コースです.筑波大学は3学期制をとっていますが,細胞生物学までが2学期末に終り,3学期から人間個体生物学が始まって,3年次の終りまで続きました.これは統合カリキュラムのコースですが,基礎医学が主体で,生体の正常な構造・機能を学習しました.4年次には,臨床医学が主体の臨床入門と社会医学が主体の人間集団生物学という統合カリキュラムが組まれました.臨床入門の各コースは,症候を中心にして編成されました.4年次の3学期には,5・6年次の病院での臨床実習の準備として基礎的臨床実習が行われました.5年次・6年次には主に病院でのベッドサイド・ラーニングが行われました.この図には書いてありませんが,5年次にはコロキュウムという授業もありました.これは,少人数グループの学生が実際の症例について,その病態,診断,治療等を学習して,それをまとめて発表し質疑応答をするという形式のものです.6年次の最後の方に,6年間の学習のまとめとして総括講義があって,総合試験が行われました.

 次に初期のカリキュラムにおける統合カリキュラムの実例を紹介しますが,見直しの時に大きな問題となったのが2年次の3学期から3年次にかけての基礎医学を主体とした人間個体生物学のところなので,その部分とその後に続く4年次のところを例にあげようと思います.

 図2が,初期のカリキュラムにおける2年次後半から4年次にかけての統合コースの構成です.左側が2年次後半から3年次の基礎医学が主体のところで,右側が4年次の臨床医学が主体のところです.2年次2学期に細胞生物学のコースが終ってから人間個体生物学に入り,最初に人体構造入門がきました.これは,統合コースとは言っても,解剖学であって,解剖学の総論およびマクロの解剖実習が行われました.2番目の生体反応入門では,感染,免疫,薬理,病理等総論的なことを学習しました.ここで2年次が終って,3年次には,3番目の「皮膚・結合組織系」から15番目の「発病および生体反応」まで,臓器系・機能系を核とした13のコースが編成されていました.4年次のカリキュラムは,臨床医学が主体の統合コースで,症候が核になっていて,「痛み・発熱」や「せき・たん・チアノーゼ」等の16コースからなっていました.「内科」,「呼吸器内科」,「消化器外科」,「産婦人科」というような分野の名前がむき出しで出て来ていません.症候に沿って筋書きが作られているということです.

見直しの時に問題になったこと

 このような統合カリキュラムで開学以来医学教育を行って来ましたが,約15年位経って,1980年代の終り頃から,統合カリキュラムの見直しを求める声があがってきました.ところで,一般的に,統合カリキュラムの利点として,授業の全容がつかみやすいこと,臓器・器官の構造・機能・病態を総合的に理解しやすいこと,等々があげられています.では,そういう利点がありながら,筑波大学で統合カリキュラムの見直しを行った時に何が問題になったのか,ということです.それは,主として基礎医学系の教官から指摘されたものです.学問体系という点に関しては,各学問分野の独特の考え方,方法論,または体系を学習させる必要があるのではないかという意見です.その方が実際に教育効果は上がるのではないか,少なくとも上がる分野があるのではないか,という考えです.学生も将来の進路を考える場合に,統合カリキュラムでは特に基礎医学の研究体制がよくわからないようです.基礎医学を指向する学生に道を開くためにも,各学問分野の特色がはっきりわかるようにすべきである,というようなことが言われました.それから,臨床の面では,外の病院の先生から言われたことですが,筑波大学の卒業生は確かに一般的な臨床能力はあるが疾患概念が弱い,という指摘がありました.私は臨床家ではないのでよくわかりませんが,結局は疾患体系の中で,その疾患の位置付けがきちんとできていないということで,言うなれば,対症療法的な医療をやっているという指摘だったと思います.その他に,労力や時間の問題があります.要するに,統合カリキュラムで行う教育の効果・成果に対して人的・時間的・経済的な負担が多すぎる,という指摘です.それから,実施上の問題があります.統合カリキュラムは一定の筋書きに沿って編成されていますから,授業項目の配列すなわち時間割の構成には流れがあります.それで,その流れに従って時間割では各学習項目の授業をする日時が固定されます.ですから,担当教官の都合で所定の日時の授業ができないとなると,統合カリキュラムの筋書きの流れがめちゃくちゃになって,学生はパニックに陥り,教育効果は激減してしまいます.また学生からは,担当する教官が多すぎて,授業が細切れで,まとまりがないという苦情もありました.これは,各学習項目は,最適任の教官が担当するという方針が裏目に出た結果です.このような問題点についてカリキュラム委員会,その他の委員会で何回も検討を重ねました.

見直し後の現行のカリキュラム

 1991年に従来のカリキュラムを改訂することになりました.改訂の要点は,2年次後半から3年次にかけての基礎医学が主体のところで統合コースと分野別コースを併用したことです.そこでまず,統合コースに組み込まずに,各分野の学問体系等を学習させた方が効果的と考えられる分野を選びました.生化学,薬理学,病理学,微生物学,免疫学,遺伝医学等です.一方,統合カリキュラムの方が適していると考えられる系を選びました.循環・呼吸系,神経・感覚系,消化系,泌尿・生殖系等です.実際には,器官系としては,ほとんどすべての系がこれに入ります.約10年前に改訂されて現在実施されているカリキュラムを新カリキュラムと呼んでいますが,新カリキュラムの統合コースでやってることは,主に,それぞれの系の構造と生理的機能の統合です.

 図3は新カリキュラムの構成の6年間の流れで,1年次に「早期体験学習」が加わりました.2年次にはまず,「ヒトの構造と機能の基礎」というフェイズがあって,前半が細胞生物学,後半が人体構造入門になっています.細胞生物学のコースは,その中身は組織学,生化学,生理学等に分かれていて,実質的には分野別のコースになっています.2年次の3学期から4年次の2学期にかけて,「ヒトの正常と病態」というフェイズがありますが,前半では基礎医学,後半では臨床医学を学びます.後半には社会医学が入ってきます.カリキュラム改訂の要点は,前半の基礎医学のところで分野別コースと統合コースが併用されたことですが,後半の主に4年次の臨床医学のところでは,旧カリキュラムでのコースの整理や新しいコースの追加等が多少あって,若干の変更はありましたが,本質的に大きな変化はありません.1つ変わった点は,旧カリキュラムでは,5年次で行われていたコロキュウムが4年次に移ってきたことです.4年次の3学期には,ベッドサイド・ラーニングの準備としてプレBSLのコースがあります.5年次には,1日中附属病院で臨床実習が行われます.1992年からクリニカル・クラークシップ方式が取り入れられました.6年次のカリキュラムには大きな変更はありません.

 図4は,旧カリキュラムと新カリキュラムで,2年次後半から3年次にかけての基礎医学のコースがどのように編成されているかを示したものです.左が旧カリキュラムでの編成で,前述のように,「人体構造入門」から「発病および生体反応」までの15の統合コースからなっています.右が新カリキュラムでの編成で,統合コースと分野別コースの2つに大別されます.統合コースは旧カリキュラムに比べて,半分近くに減っています.分野別コースとして「生化学」から「病理学」までの10分野が名乗りをあげました.旧カリキュラムの3番目から12番目までの10の統合コースの名称は新カリキュラムに引き継がれていますが,内容はかなり違ったものになっています.図5は,旧カリキュラムと新カリキュラムでの統合コースの内容の違いを消化系の例で示したものです.旧カリキュラムでは,学習項目として,腹腔臓器の発生,消化系の構造,消化管の運動,消化と吸収,薬理,腸内細菌,寄生虫,免疫,肝・胆・膵の構造・機能・病態等の23項目あり,基礎の解剖,生理,薬理,微生物,寄生虫,免疫,および臨床の消化器内科等の多くの分野の教官が担当していました.しかし,新カリキュラムでは,学習項目は半分以下の10項目に減って,大体が解剖と生理の教官が分担して,構造と機能について授業をし,それに薬理と消化器内科の教官がちょっと加わる,という形になりました.微生物,寄生虫,免疫の教官が分担していたところが,分野別コースに移っていき,新カリキュラムの統合コースから消えたわけです.非常に大きな変化です.このように,新カリキュラムの2〜3年次の基礎医学のコースは本来の統合カリキュラムとはかなり違うものになっています.

評価と今後の展望

 1991年の改訂以後大きな変更はなく医学専門学群の教官は新カリキュラムでやってきています.それでは,このカリキュラムの改訂は良かったのか悪かったのか,その評価が問題になります.このカリキュラムでの卒業生はすでに5回位出ていますが,これについては,医学専門学群としての評価はまだ出ていません.このように統合コースと分野別コースを分けたことで,全体として学習効果が上がっていれば,それなりに評価できるわけですが,まだ結論は出ていません.しかしながら,学生の意見や,基礎医学・臨床医学の教官の話を聞いたり,国家試験の結果を見ると,ある程度はうまく機能していると思われます.少なくとも,新カリキュラムに変えたから,悪くなったということはないと思われます.外の病院の先生に指摘された,筑波大学の卒業生は疾患概念が弱いという点については,臨床医学のカリキュラムは統合カリキュラムですので,あまり変化はないと思われます.学生の進路に関しては,この基礎医学系の教官からカリキュラム見直しの声が出た時には,基礎医学・社会医学に進む学生を確保しようという思惑も多分にありましたが,基礎医学・社会医学にくる学生は相変わらず少ないままです.

 副学群長の林先生が言われたことですが,現在の医学教育において統合カリキュラムは不可欠である,という認識をされています.我々としてはまず,現行の新カリキュラムの評価をきちんとして,そこで問題があれば,それをきちんと解決していくことが重要と考えます.今後は,いろいろな折に触れて,将来を見通して,このカリキュラムを改善していけば,さらに展望が開らけ,新しい時代の要請に答え得る医学教育を行うための統合カリキュラムを作っていくことができるのではないかと思われます.ただ,最後の方でお話したように,統合コースと分野別コースを分けたことが,特に悪い結果を生み出したことはないようですから,必ずしも,統合,統合と医学教育のすべてを統合カリキュラムにすることが,少なくとも基礎医学に関しては,あるいはその中のある分野に関しては,必要なのかどうか,考えてみる余地はあるように思われます.雑駁な話で失礼いたしました.これで私の話を終わりにしたいと思います.ご静聴ありがとうございました.

(座長)
 大野先生どうもありがとうございました.時間が少しせまっておりますので,質問は,最後の総合討論の所で,一括して行いたいと思います.大野先生のお名前を覚えおかれて,後で質問をお願いします.次に東海大学の大塚洋久教授に,東海大学の統合カリキュラムについてお話しをいただきたいと思います.よろしくお願いいたします.


東海大学では


大塚洋久(東海大学保健管理センター)


 みなさん,こんにちは.東海大学の大塚です.私は,この4月から保健管理センター担当となりましたが,平成に入りましてから今年の3月までは,大野先生がいまなさってらっしゃるのと同じような,教育計画部という所の仕事をやっておりました.
  その間に,最初1988年に東海に参りましたときに,第1次のカリキュラム改革に関与いたしまして,97年からクリカルクラークシップ導入に伴う再統合を致しまして,その過程にもこれまで携わってきたわけでございます.

 私はカリキュラムを実行する教員組織と統合カリキュラムの関係をお話し致したいと思います.今では色々変わってきていますけれども,かつての医学部,大学の教員組織というのは,臨床系では,教育・研究・診療の三位一体ということを申しまして,医局あるいは教室が全部まとめて一箇所でやっていたということですね.ところが,そういう所属を越える共同研究だとか,チーム医療が色々出てまいりました.こういうものは非公式の事もあるし,公式の診療組織として機能しているものもある.こういうような,従来の教室の枠を越える組織が増えている.それから,後でお話ししますが,教育専用の組織を作る事を東海大学ではやっておりますので,そういうものと,統合科目との結び付きという事をお話したいと思います.

 1987年まで東海大学では,全くのトラディショナルの授業形態で,それを医局・教室が請け負ったような形の授業をやっておりました.別にそれが悪いというわけではなくて,ある場合には,非常によい形態であることもある.何よりも,非常にまとまりがいいし,それから,そこの所属長が教育内容とか,教員の質に全部責任を負っているわけです.ですから,授業についても,あの人の授業はよくないぞという事になれば,所属長の先生がちゃんと指導して直して下さる.統合カリキュラムにしてしまいますと,あまり強力な指導力がないものですから,一部熱心ではない教員がいてもなかなか直せない.しかし,医局請負型の授業形態がうまくいかない点も出て来て,現在のように統合カリキュラムということが言われるようになってきました.

 1988年以後,統合科目をつくりまして,1年次から順次置き換えて参りました.

1993年にそれが完成して,94年から96年までだいたいその形でやっていたわけです.97年からクリニカルクラークシップを導入しようということで,4年を大幅にクリニカルクラークシップに変え,3年生までで大体教室での授業を終わらなくてはならなくなった.そこで大幅な科目の再統合を致しました.これは現在もなお修正をしている所です.

 代表的な統合科目について,これからその経過をちょっとお話ししたいと思います.

私達の88年の改革した時の,ひとつの目玉が,この1年生の「医学英語」でございまして,入門的な医学の教科書,英語教科書をスモールグループに分かれ,テュートリアルで輪読するという科目です.基本的な英語の医学用語の学習と,全般的に医学の事が書いてある教科書を使って基礎作りをしておくと,後の2年生以降の勉強もやりやすいだろうというアイデアでこれを始めたわけです.テューターは医学の専門家ではありますが全ての領域をカバーできるわけではありませんので,専門家の教員に教科書の内容を並行して講義をしてもらうという事をしておりました.最初は医学英語と医学入門という2科目でしたが,一連の科目ですから,これをまとめて,医学英語という一つの科目にしました.テュートリアルは12グループに分け各グループに基礎の教員が一人,臨床の教員が一人つきますので,かなりの数のテューターを毎年選ぶ必要があるわけです.毎年,毎年テューターを指名し直しております.この方式でかなりうまくいっておりまして,学生さんの間でもまあまあ評判のいい授業になっております.

 2年生の代表的な科目が解剖学,微細構造(組織学),生理学なんですが,これを最初は「人体の構造と機能」というひとつの非常に大きな科目にまとめておりました.ところがどうもこの中で肉眼解剖だけ実習形態からしましても,ひとつになりませんで無理やりにくっつけたという感じがありました.最近,肉眼解剖学だけを「人体解剖学」という科目名で分けました.微細構造と生理学の統合を強め「人体のシステム」という名称にして,講義,一般的な生理実習にPBLを取り入れた形にしました.人体解剖学は形態学部門が担当,人体のシステムは形態学部門と生理学部門を合わせた生態構造機能系というところが担当しています.実は最初に「人体の構造と機能」を作った後,基礎教室の再編をやりまして,再編のときに科目と基礎教室の組織とを一致させたわけです.教室の組織と科目とが一致しているので,かなりうまく動くようになっております.

「生命の分子的基礎」「分子と細胞の医学」という2科目は3科目だったのを内容の重複を整理するために2科目にまとめた科目です.これは分子生命科学系というひとつの基礎の教員組織が担当しております.この分子生命科学系には,主に教育に関与しておられるphDの教授が3人おられ,よく連絡がとれていまして,授業もうまく動いています.学生の評判も悪くない.トラディショナルな講義とスモールグループの討論を並行してやりまして,効果的にいっているようでございます.

 今度はあまりうまくいかなかった例ですが,始めは3年生に「病理と病態」という科目があり,4年生に「臨床医学入門」という科目がございました.「病理と病態」は病理学教室が基盤になって,そこに臨床系教室からのスタッフをはめ込む形でやってきまして.それなりによくまとまっていたわけです.「臨床医学入門」は分野ごとにまとまっていましたが,分野間の統合は不十分でした.4年次にクリニカルクラークシップ入れるとき,「臨床医学入門」の一部はクリニカルクラークシップで各教室を巡回して行く間に教え,相当部分は「病理と病態」に合併して3年生で一緒に教えようとしたわけです.ところが,臨床系の比重が非常に大きくなって病理の基盤に臨床をはめこむという格好ではなくなったので,統合の中心がはっきりしなくなって,手直しが必要な状況になっています.

 全体を一応お見せしておきますと,1年生は医学の概観,医学学習の基盤能力育成を目的として「医学英語」「コンピューターと医学統計」「医用物理学」「生命の分子的基礎」を行い,2年生は,「人体解剖学」「人体のシステム」「神経科学」「分子と細胞の医学」を行い,これらの科目は主体は基礎系ですが,臨床教員も参加しています.3年生は「臨床病態学」「感染と防御」「治療の薬理学」「社会医学」「法医学」で,「臨床病態学」は病理学と臨床系の合同科目です.4年生からクリニカルクラークシップが始まります.

 教員組織と統合科目の問題をまとめさせていただきます.医学英語は,科目責任者がおりまして,テューターを毎年任命して教育専用の組織を作っております.この場合には科目責任者の権限を大きくして強力にバックアップしています.テューターを選ぶ時にもたつく事があり,完全に円滑に運営されているとはいえませんが,なんとか科目責任者を中心に動くことになっております.「人体解剖学」「人体のシステム」「分子と細胞の医学」は,科目と基礎系の教員組織が一致していますので,そこへ臨床の教員が入り込んでうまく運営しています.3年生の「病理と病態」は,以前は病理学が基盤になって臨床教員が入り込んでまとまっていたのですが,臨床の比重を大きくしましたら,まとまりが悪くなってしまった.統合科目というのは,それぞれの科目の核心になる教員組織が必要ではないかというのが私の印象でございます.

 つまり統合科目を担当する教員組織というのは,(1)専用の教員組織を作る,(2)統合科目に適合するように教員組織を再編する,(3)従来からある,たとえば病理学教室のような大きな一つの教室が中心になって,他部門の教員が協力するという形式が考えられる.同じくらいの教室がいくつも集まって同じ権限をもって運営する方式は,しばしば勝手に動き出してまとまりのない科目になるという印象を私の経験では持っております.以上です.

(座長)
 東海大学の大塚先生,どうもありがとうございました.引き続き,近畿大学の松尾先生に近畿大学の統合カリキュラムについてお話しを頂きたいと思います.


近畿大学では

松尾 理(近畿大学医学部生理学第2)


 只今ご紹介を頂きました近畿大学の松尾です.総論的な話は今までの先生方と殆ど同じですから,話の本論としまして,いかに短期間に,全面的にカリキュラム改革を行ったかというプロセスをご覧頂いて,それに学生がどう反応したかということをご紹介させていただきます.
 1997年に私がカリキュラム委員長に指名されました.その時,同時に新しい学部長が選出されまして,カリキュラム改革を始めることになりました.当初,学部長は,テュートリアルということに対して反対でありまして,どうしても動かないもんですから,私と,もう一人のよく理解してくれる人と一緒に,学部長のわからない学年にこっそりと入れて,さっと通してしまおうというような作戦を練っておりました.それが1997年の8月の夏休みの間でした.大変暑いというのに,どうしてこんな苦労しなくちゃいけないのかなあなんて思いながらやってました.9月になって,岐阜大学で見学する機会があった時に,学部長も一緒に参りまして,「これがテュートリアルなんだ」という事を見てまいりました.そこで学部長が決心を変えてやろうということになりました.そこから,実際に導入する98年の4月まで半年しかありませんで,大変でしたけれど,2年生に全面的に実は導入しました.同時に,6年生の所に選択制ですけども,クリニカルクラークシップを導入しました.さらに4年生にオスキーを診断学実習の所に入れました.その時1年生にも沢山の科目を入れ替えて,新しい時代に対応できるようにした訳であります.

 問題になりましたのは,こういうテュートリアルシステムという新しいものを導入する時,当初は全ての学生が反対しましたし,教員も僅かしか理解する人がいませんでした.それを如何に乗り切ったかということが苦労の種明かしになりましょう.すなわち非常に沢山のワークショップをやりましたし,本日のようなこういう形式の討論会もやりましたし,それから,いろんな所に出掛けて行って,非常に沢山の説明会をやりました.とにかく,2年生でのテュートリアルが動きだし,1年経ちますと,全く反対の声は無くなりました.

 その時に,会議を通すために具体的にどうしたかといいますと,これは,非常に悪い導入方法なんですけども,教授会を一応通さなきゃいけないので,各講座平等のスケジュールをとるようにしました.ただし,先程も話ありましたように,解剖のマクロの人体実習に関しては,全く昔のままで,13週も取ってしまった訳です.あとのコースで2週というのが沢山ありますのは,基本的に各講座に週間割り当てました.私は生理に属しておりますけれども,生理の部分については,「機能と代謝」というコースの中で2週間が割り当てられました.たった2週間で一体何ができるかというのは,先生方には充分想像していただけるかと思います.とにかく,導入に際して,私が委員長で,自分が生理学は大事だからといって長期間のコースをとる訳にいきませんので,他の先生方から「これはまずい」という声が上がるのを待っていました.実は,その通りになりました.

 次の年にその2年が3年に上がりまして,同時に,2年のカリキュラムが非常にまずいという反省がありまして,臓器別の構造機能コースに変えました.それから5年生には,全面的にクリニカルクラークシップを導入しました.6年生も部分的なものではなくて,クリニカルクラークシップを全面的に導入しました.古いのは4年生だけになりました.2年生での臓器別の構造機能コースとして,11週間取りまして,逆にマクロの部分を少し削った訳です.この削ることに対しては,かなり抵抗がありましたが,渋々納得してもらいました.基本的には基礎的な部分が2年生で,臨床的なものが3年生,4年生というダブルヘリカルという「臓器別コース」から成るカリキュラムとしました.

 今年度(平成12年度)なんですけれども,4年生のカリキュラムも新しい格好になりまして,チュートリアル方式が全ての医学専門教育に導入され,臨床実習が全てクリニカルクラークという形になりました(図1).この際,テュートリアルシステムの所について部分的に改訂を加え,図2のような全体像が出来上がりました.テュートリアルのコースが10月始めに終わった後,試験休み期間を取って,臨床実習に入る前の学力試験を行ったわけです.今,この4年生は,病院実習をクリニカルクラークシップでやっております.この臓器別構造機能コースとしてどのようにデザインしてるかといいますと,全体の週数はかなり揃っているんですけれど,各臓器はたった1週しかありません.内容は基本的には,これがまた,先程の大塚先生と同じように,ミクロの解剖学と生理との合体なんです.中身をご紹介いたします.

 2年生では月・水・金とテュートリアルがありまして,その後に,自習時間をとり,さらには実習時間を確保しました.その結果,この週の例では講義が5コマしか取れません.そんな状態で心臓循環のかなりのこと(コア)をやれっていうのは,土台無理なんですけれども,こういう格好でやらざるを得ないことになりました.さらに良く見ていただきますと,実習がたった2日しか出来ない.しかも,形態系の実習と違って,生理系の先生方はご理解いただけると思いますけれども,昔からどういう訳か,生理・生化学の実習の設備は1学年で1セットしかありませんでした.それが集中的に実習するスタイルなもんですから,10セット以上必要となります.これが非常に問題で,実習の中身は非常に薄く,何も出来ません.もう,お茶を濁しているような形の実習になります.こういう形で果たしていいんであろうかと,心配なんですが,これでずっと走っております.

 このテュートリアル方式で教育を受けた同じ学生が,ずっと2年生から,3年生に,さらに4年生になって,3年間同じ学生がどのように反応していったかというのをご覧いただきます.前年度と比べて,自宅での勉強時間が非常に増えた,ある程度増えたというのがこんなに沢山あります.1日に1〜2時間が一番多く,ついで3〜4時間となっています.そうすると8割以上の学生が少なくとも1〜2時間勉強していることになります.大体,アンケートに対する応答がこんなパターンになり,しかも各学年共通であるということは,テュートリアルシステムが上手く導入できた良い例だと考えています.その時に,講義は僅かしかなかったけれども,テュートリアルとうまく関連付けられてたかという質問に対して,まあ良いという結果になっています.自ら問題を見い出す能力がついたかどうかという質問では,少しついたという方が多い感じです.

講義にどの位興味を持ったかという質問には,興味を持ってるということでした.これは,講義をしてみてわかったのですが,今までの古いカリキュラムですと,講義が終わった後に質問に来るのは,一番前に座っている学生で,非常に細かい質問をするだけでした.しかし今では講義が非常に少なくなった分を代償するかの様にあらゆる階層の学生が続々と質問に来ます.教壇におりますと,30分から1時間位,次から次へと質問にやってきます.ですから,彼らは講義を非常に興味を持って聞いていることがわかります.全部の医学教育をPBLテュートリアルスタイルを受けた後,総合的に評価するとどうであるかと聞きました.満足の方が多いので,私達もテュートリアルシステム導入に満足しているというのが今の現状であります.

 余り細かいことをお話しできませんでしたけれども,実は,2001年に対して,もう少し改革を行いつつあります.というのは,この間先生方にも話が行ったと思いますけれども,コアカリキュラムというのが提出されましたし,全国共通の進級テストの構想が出ましたので4年生のカリキュラムを変更せざるを得なくなったからです.以上で私の発表を終わらせて頂きます.どうもありがとうございました.

(参考文献)
1) Osamu Matsuo. Introduction of new curriculum in Kinki University School of Medicine. Journal of Medical Education 2000;4:92-6.
2) 松尾 理, 福田寛二. カリキュラム改革の進め方. 橋優三編. 新しい医学教育の流れ. 名古屋市: 三恵社; 2001. p. 99-110.


問題点の整理と質疑


座長 (大野):
 松尾先生,どうもありがとうございました.始めにちょっとお断りさせていただきますが,松尾先生は,今日はとってもお忙しくて,この後,すぐにお帰りになります.このように,ご無理を承知で,何故,お願いして来ていただいたかと申しますと,お話しにありましたように,超スピードでもって,いろんな問題点を抱えながら,この統合を進められたというところにございます.多分この中で,いろんな意味で,質問,確認したい事項をお持ちの方々がいらっしゃるだろうと思います.松尾先生に,今,確認しておきたいこと,あるいは,ここを教えて頂きたいということがありましたら,ご質問を受けたいと思います.

埼玉医大生物・山崎:
 生物学を教えております山崎です.先生の所のテュートリアルカリキュラムというのは何か特別な,例えば教員の選び方とか,特別な事があるのかという事と,なぜそんなに講義の後に質問がたくさんくるのかと,ちょっと先生の話しだけだとわからなかったもんで,何かあったら教えて下さい.

近畿大・松尾
 多分,ご覧頂いたように,講義の回数が非常に少ないということが一つの原因だと思います.テュートリアルの所で関係した部分は,直接にはもう講義は出てきませんが,何となく,どこか頭の中で結び付くような格好で,関連付けられる,すなわち自分達の頭の中で統合を起こさせるような形にしております.ですから,テュートリアルが3回ありますけれども,月曜日に事例シートの1枚目をもらいます.水曜日に2枚目,金曜日に3枚目ですけれども,その内容に関しては講義では直接触れませんので,彼らが色々ディスカッションして,そして色々調べた時に,これでいいのかな?と学生が思っている筈なんですね.それがああいう格好で,学生の反応として出てくるんじゃないかなと思います.ですから,講義とテュートリアルは完全に内容は離れている訳じゃないんですけれども,逆に100%ダブってないのです.つまり,部分的にダブっている形という所が,みそじゃないかと思います.

座長 (大野)
 テュートリアルとおっしゃるのは,うちでいっているPBLということでありますが,それは先生,週に1例で3コマですか.

近畿大・松尾:
 週に3コマは2年生で,3年生と4年生は週に2コマです.そして1つの週では同じ症例でずっと行きます.1回目がこうなって,2回目にはさらにこうなって,最後の3回目はこうだった,という格好で進行するスタイルです.
  テュータの養成という問いについてお答えします.臨床も基礎も問わず,全教員,さらに大学院生,研修生だとか,ありとあらゆる人にそのPBLのワークショップに参加して頂きました.臨床の人達は,クリニカルクラークシップのワークショップを同時にやってましたので,非常に大変だったと思いますけども,我慢していただきました.我慢できたのはやっぱり学部長が揺らがなかったことだと思います.もしそこで,学部長ちょっとユラユラしたら,多分新カリキュラム導入は出来なかったと思います.

座長 (大野):
 他にいかがでしょうか,はい.

参加者
 テュータの役割というのは,どういうことですか.

近畿大・松尾
 テュータは本質的には,普通のPBLのテュータと同じような格好で,学生のディスカッションを聞きながら,大幅に外れてしまった時にブレーキをかける,それから反対側に行きかけた時にもブレーキをかける役割が挙げられます.もう一つ,あまり発言しない学生には,丁度良いタイミングで声を掛け,発言を促す役割です.これらはまあ,普通どこでもやっておられるようなテュータの役割だと思います.ですから,それが逆に学生からの不満となって,ここには出しませんでしたけれども,アンケートに個別の意見を書かせておりますが,テュータによって評価が違うという意見があります.例えば,いいかげんなテュータは来て寝てる,あるいは,ひどいテュータですと遅れて来ることもあります.しかしテュータが遅れて来ても,実は学生は賢いもんですから,2年生の1学期にテュートリアルシステムがざっとこういうのだとわかると,2学期位になってきたら,テュータが少々いなくても,上手く進行しておりす.

座長 (大野):
 大体どこでも同じようなことが起こっているらしいです.いかがでございましょうか,他に.あとひとつか,ふたつ.

参加者:
 解剖学と生理学というのは,人体構造学と正常と機能のコースに並行して行くということは,そこの間のつながりがちょっとちがうことになるんでしょうか.

近畿大・松尾:
 ここでお見せしましたのは,ミクロの解剖学と,生理学,生化学とかの機能系との統合でありまして,マクロの解剖学は最初の第一コースで完全に終わっております.ですから,第二コースの責任者には,私達,生理系の人間がなっておりますので,ミクロの先生にここはこういうふうにして,こうして下さいという格好で,コースのデザインを作れるように依頼しています.テュートリアルでの組織図を出しませんでしたが,コース責任者が一番大きな権限を持っていまして,その下に各週の責任者がいます.各週の責任者にはその週の全体をうまくデザインするようにお願いしています.ですから,ミクロの解剖と生理との間ではあまり問題なく進行しています.

 この臓器別の部分に関しては,ご紹介した様な形です.ですから,講義も非常に少ないし,実習も,本当に形だけの実習になっているのが問題なんです.実は私が委員長という役をしていますので,自分の所を広げるということは出来ないものです.他の先生方が必要だから広げようと言ってくれると嬉しいのですが,そういう声が上がるのを待っていたんです.実際は最初の2週間から比べれば11週に増えましたので,それを思えば,よく見てくださる先生方はちゃんと見ていただいてるんだなあと感じています.

 講義の時間を90分から60分にするという試みも,検討された時期があったんですけれども,90分で行くことにしました.というのは,こういうテュートリアルとか,クリニカルクラークシップをうまく導入することを第一条件にしたものですから,これがもう少し落ち着いたら,そういうことも考えてみようかと思います.去年,私達の大学は二つの付属病院をオープンしました.それで,臨床系の講座は非常な教員不足で,余り大きくいじることができない状態なものですから,数年先に少し落ち着いたら,それに取り組もうかと思っております.しかし,その前に,この間のコアカリキュラムとか,全国共通進級テストとがありますので,そっちの方を先に取り組まねばならず,次から次に問題がくるので困っているのが現状です.

座長 (大野):
 大野先生に.消化器を最後に例に出されましたけれども,15,6コマあったのを,7,8コマに縮小されて,ちょっと拝見しましたのは,やっぱり統合なんだけれども,形態を教えて生理学を教えて,最後の2コマくらいを臨床にしたわけですね.これは先生,15,6時間あった時は十分だったかもわかんないですけれども,先生,厳しいようなニュアンスがありましたけれども,いかがでしょう.うまくいってるのかどうか.

筑波大・大野
 その点はきちんと評価しなければならないところです.先生が御指摘の消化系につきましては,新カリキュラムになって授業時間が減ったわけですから,授業内容も減っています.分野別コースの学習でどれだけ補充できているのか,今のところわかりません.それでも,最低限,4年次で臨床医学を学ぶ基礎ができていればいいかなと思います.新カリキュラムになって,消化器内科・外科の先生方から4年次の授業がやりにくくなったとか,病院実習でのトラブルが増えたとかいうような話ははっきりは聞こえてきません.ただし,大学設置基準の大綱化に伴い授業時間が全体的に減ったことが原因なのか,新カリキュラムが原因なのか,他に原因があるのかわかりませんが,臨床の先生方の中には,最近の学生は学力が低下していて,コロキウムや臨床実習がスムーズにできない,とおっしゃる方がいることも事実です.

座長 (平山):
 他にいかがでございましょうか.

埼玉医大生物・上原:
 生物学教室の上原といいますけれども,実は,1年で細胞生物学を今統合カリキュラムでやってますけれども,1年の場合には幸いテキストがあって,学生はそれに沿って勉強して行けるんですけども,たとえば,2年,3年の所では,人体と構造とか,あるいはそれ以外,臨床でも,統合コースというのを使った場合,僕が学生だとすると,いろんな先生方が来て,いろんな話をすると,で,勉強する場合いったい,どういうテキスト,つまり講義だけで理解できればいいんですけども,多分講義だけでは補足できないだろうと,そうするとやっぱりテキストで勉強せざるを得ないんですけども,何かそういうテキストをお渡しになるのか,あるいは学生側にテキストを指定して,勉強するのか,あるいは,統合コースのその為だけのテキストを別にお作りになるのか,実は,僕はテキストが非常に重要だろうと思うんですけれども,統合コースといったら,理念は非常によくわかるんですけれども,テキストを一体どうなさっているのかなというのが,前々からちょっと不思議に思ってもんですから,筑波大学では一体どういうふうな感じでしょうか.

 この問題,大塚先生も.

東海大・大塚
 東海大学では,最初1998年当時に統合カリキュラムを作ったという時に,これはやっぱりどうしてもテキストがいるだろうという事で,全科目につきまして,バインダー形式のテキストを作りました.かなり長い間に渡って毎年改訂しておりましたけれども,さすがに改訂してもあんまり改訂が出なくなってきたものですから,今は2,3年に1回でいいだろうという事でやっております.ひとつやってよかった点は,こういう統合でやる以上は,そういうものがあった方が,学生も自習しやすいし,勉強しやすいということで,それは良かった点です.悪かった点は,学生がそれに頼りすぎちゃって,他の本を読まなくなったという問題がございまして,それがちょっと反省点になって,どうやろうかと,やっぱりある程度,既存の教科書も併用するような格好に何とかしようという,色々それを工夫しております.それから,今,テキストの話がでましたので,もうひとつ考えているのは,ウェブ化ということでして,テキストをウェブにした方がいいのか,今のところちょっと,ウェブだとスピードが遅いからCDでとりあえずちょっとやっていこうということもあります.利点は動画と音が入ることで,ゆくゆくウェブ化したテキストに持って行こうというようなことを計画しております.

 評価というのは要するに,平たく言ってしまえば試験ということなるんだと思うんですが,これは確かに非常に大きな問題で,実はさっきこちらの話を伺ってですね,私の方からむしろ,お伺いしようかと思ってたとこなんですが,これ,試験を多くしますと,確かに学生は勉強する時間が増えるんですが,各科目でみんなその調子で試験をやると,今度は学生の方があまりにも負担になっちゃって,ダウンしちゃうんじゃないかという問題もあるわけで,大変難しいところだと思うんです.一応私共は平均しますと,一科目につき,普通のサイズの科目の場合はですね,東海大学の場合,非常に極端な教材科目と普通程度のサイズの60〜70時間位の科目が普通サイズという事で考えておりまして,一般に科目が大きいんですけれども,60〜70時間の科目だと,30時間に1回位試験をやっておこうかという事で,中間試験を1回やって,期末試験を1回やって,再試験を1回ということです.巨大科目の方はやむを得ませんので,年に何回も試験をやっております.部分,部分に分けてですね,何回か試験.たとえば,最初にお話した,医学英語は1年,通年の科目で1冊の本をやるんで結構大きいんですけど,これは前期に2回,後期に2回試験をやって,前期と後期それぞれ1回ずつ再試験をやるという形で,科目単位で試験をしております.

 重み付け平均で,大体時間数に応じて重み付け平均点を出して,最終的にその点数を出すと.ただし,たとえば,その組織と生理を合併している場合には,組織,生理共にあまり極端な劣悪点ではない,かつ,総合点が60点なら,60点以上ということでやっております。

座長 (平山):
 大野先生,そのへんの所いかがですか.

筑波大・大野
 やはり,評価は試験です.まったく試験の成績です.少なくとも3年,4年の統合コースの評価は試験です.これは,分担するいろんな教官が出題するわけですが,今,大塚先生がおっしゃられた様に,担当する時間によって,配点は多少違います.とにかく,100点満点として,最終的に何点取れるかということだけですね結局は.60点を合格点とすれば,当然のことながらそれをクリアしてることが重要です.または,そういう科目が沢山ありますと,神経系,感覚系とか,消化器系とかですね,そうすると,それぞれで点数が出るわけですけど,最終的にその学年の評価をする時には,全体で合格点にいっているかということが大事です.また,たとえ全体で合格点にいってたとしても,とんでもなく悪い科目が,2科目以上ないこととか,3科目以上ないこととか,ま,そういう条件もついています.とんでもなく悪いというのは統計学的に平均値マイナス何SDとか,そういうことになりまして,もしそれでひっかかりますと,これは進級できないで,もう一年間同じ学年にとどまるということになります.

 一応マイナス2SDが2つ以上とか,マイナス1.5SDが3つ以上とかですね.

座長 (平山):
 わたしからよろしいですかひとつ.大塚先生にお聞きたいんですけれども.クリニカルクラークシップが導入されてから,臨床病態学のところが,おかしくなったという,お話しだったんですけれども,クリニカルクラークシップによって,なぜそういうふうになったのかという事.

東海大・大塚
 これは要するに,詰め過ぎちゃったという事です.クリニカルクラークシップのために,時間を非常に臨床実習というかクラークシップの時間を増やしたものですから,それまでは座学で講義でやっていた事を大幅に削りまして,それを全部臨床病態学の中に詰めたんで,ちょっと詰め過ぎになっちゃったというのがやっぱり最大の原因でございます.これは,今現在,少し手直しを考えておりまして,クリニカルクラークシップの期間を4年生から始めるんですけれども,4年,5年の境目あたりの所へもういっぺんちょっと講義を挟み込もうと,そこへ少し移動させて,ちょっと負担を減らして行くということにして,それから,さらにちょっと巨大科目になりすぎちゃったんで,分割しようというようなことを現在計画中でございます.

 クラニカルクラークシップそのものは,別に特にまずかったということはないんです.臨床実習からどれくらい変わったかというのが,大変難しい,評価の分かれる所なんでしょうけれど,それなりに,臨床実習の頃よりも確かに,一生懸命指導もするようになったし,学生もそれなりに興味を持つようになったんで,それ自体はよかったんですが,それをやるために,座学の時間が少し詰まり過ぎた感があったということで,今手直しを考えている様です.現在は私自身が責任者というわけではないのですが.そういう様な方向に動いているみたいです.

座長 (大野):
クリニカルクラークシップのひとつの問題点は,スタッフの数とかですね,ティーチングスタッフの問題だと思うんですけれども,その点はどうやって克服されたんでしょうか.

東海大・大塚:
  若い人にももう教えさせるということで,一応かなりの数の臨床医がいるわけですから,それはなんとか足りたわけです.編成したら,何とか足りたということなんですけれども,ただ,科によってはやっぱりどうしても足りないので,クリニカルクラークシップに出来ないで,従来の臨床実習の形態を取っている所もあります.主として大きく変えたのは内科で,内科はそれなりに大勢の人数がおりましたので,一応,クリニカルクラークシップの形態を何とか取ることが出来たということです.ただ,おっしゃる通り,非常に人数的にはきついですね.

 ちょっとそこわかりませんが,診断学は4年時の中に,4年時の今でいう臨床,人の正常と病態の4年時の所の後ろの方にきているんですが,実際にコマ数がいくつかというのは,私ちょっとはっきりわかりません.申し訳ありません.

 これは,まあ又聞きなんですが,5年時にやっていた時,具体的にどうやっていたかというのは私ちょっとわかりませんが,現在はですね,もう4年時のカリキュラム何年何月何日の何曜日の何時間目はどういう症例というのが,もう4月の段階で時間割に書いてあります.ごく基本的な症例が出て来るんだと思うんで,そういう症例を,少なくとも近い症例はつねにいると,そういうものを使っているんだと思います.それから,5年生から4年生にカリキュラムを持って行ったというのは,これは,5年生でカリキュラムやった場合に,臨床実習の方がおろそかになって,カリキュラムの準備の方に時間をかけて,となっちゃって,臨床実習の時間も午前中しか取れないというようなことになるんで,ベッドサイドの実習をきちんとやろうとするために4年生の方に移していったということであります.

埼玉医大生理・渡辺:
 生理学の渡辺でございます.学生さんがいらっしゃるので,ちょっと学生さんに伺いたいと思うんですけれども,統合するというのは,例えば症候から色々な事を考えて行けるという意味で,学生さんの頭の中で,いろんな事が最終的に統合されてほしいというのが,カリキュラム編成の上でもいろんな大学で考えておられる意図だと思うんですね.今日の発表を聞いてると,すごいいい発表だと思うんですけれども,そういう統合というカリキュラムのもうひとつの古い旧態以前というか,それには各学問体系ということがあったわけですけれども,学生さんの,1年生と5年生と随分立場が違うと思いますけれども,それぞれの立場から,統合という事が前面に出て来た時に,それ以前の基礎とか教養とか,色々な名前で呼ばれるそういった科目の体系っていうものを,先に学ぶのがいいのか,あるいは,やっぱり最初から統合するという,これはすっぱり分けられないというのが最後の結論だと思うんですけれども,ご感想をちょっと聞きたいと思うんで,是非何人か言って頂きたいと思うんですが.

埼玉医大学生

  5年生の者なんですけれど,去年そういう会に参加していて,今は参加してない身分なんですけれども,統合カリキュラムじゃない方が,例えば教科別にした方が,何度も同じ事をすりこむので,効果は上がるかもしれない.効果っていう言い方はあれですけれども,最終的に到着する所は,何度も同じ事をやるので,いいとは思うのです.臓器別にすればするほど,学生の方は負担がすごく,一度で全部流れてしまうので,大変なのだと思うんですけど,その目的は,講座制を越えまして,先生方が今何をやっているのかということを理解できるということがひとつと,本来なら,自分達で何が大切かとわからなければいけないんだと思うんですけれど,学生の方はそれがよく分からないので,まず,僕達が臨床医になると考えた場合に,臨床としては何が大切かというのを,下の学年の時から分かりたいっていうのがあることを考えれば,臓器別と,統合カリキュラムというのはすごく効果があると思います.

埼玉医大学生
 1年の田中といいます.自分は統合カリキュラムのほうが良いと思います.というのは,教養科目である,数学,物理,化学などと医学をそれぞれまったく関係ないものとして学ぶより,それぞれがお互い関係あるものとしてとらえられるからです.たとえば,コア科目である細胞生物学の中で自由エネルギーというものが出てきたら,それについて物理の先生に聞いてみる,など学ぶ時に広がりがもてるからです.そういった点では統合カリキュラムのほうが有効だと思います.


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