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埼玉医科大学雑誌 第28巻第1号 (2001年1月) 26-27頁 (C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School

特別講演

主催 埼玉医科大学第二内科呼吸器科・後援 埼玉医科大学卒後教育委員会
平成12年9月29日 於 埼玉医科大学第五講堂

肺結核症とMCA症の治療の実際

山岸 文雄

国立療養所千葉東病院副院長


肺結核  
  肺結核の罹患率は現在,先進国のノルウェーで約4人(対 10 万人),アメリカ合衆国で 6.4 人であるのに対し,日本は 33.6 人と多い.ちなみにロシアでは 100 人を越えている.先進国のこれらの数字は 2005 年には少し増えるだろうと予測されている.年齢別でみると中高年が多く 60 歳以上が 58%,70歳以上でも全体の 39% を占めている.0〜14 歳の小児の罹患は極めて少ないが,これを BCG の予防効果と思われる.男女比は 20 歳以下では差がないが,それ以降の年代では男が多くなり,全体では男女比は 2.5 である.これは男のほうが家の外に出て働くので感染機会が多いためと考えられる.ちなみに社会への女性の進出が多い欧米では男女差はない.
  我が国では戦後新規登録患者数が減少していたが,1997 年に初めて前年より増加している.この時点では前年に比べて微増しただけではあったが,1999 年には前年と比べて 4,000 人も増加してしまった.この 1997 年からの増加の前兆は既に 1980 年にみられる.すなわち,この年を境に感染しやすい排菌者の指標である喀痰菌塗抹陽性患者数が年々増加し,それまで年間 12,000 人であったが 1997 年には 16,000 人と大きく増えた.
  結核感染は従来飛沫感染といわれていた.勿論飛沫感染もあるが,飛沫核(空気)感染のほうが重要である.菌を包む水滴が径 5 mm 以上であるとその落下速度は 30〜80 cm/秒 と速く,すぐ地面に落下するのに対し,水分の蒸発した飛沫核は0.06〜1.5 cm/秒と極めて遅く,空気中に漂うからである.これが空調設備を通して感染機会を増やす.
  感染してから発病するまでの期間は 5 か月から1年以内である.BCG接種していれば発病率は10 〜 20% であるのに対し,未接種者では20 〜 30% でより高い.BCG は乳幼小児の髄膜炎の発症予防効果がある.BCGの初回の接種機会は生後3か月から4歳であるが,髄膜炎は特に0歳時に多いので,出来るだけ早い機会に接種したほうがよい.
  感染を受けても発病者は約 20% であるが,この発病もヒドラジットの 6 か月内服で約半分に減じることが出来る.行政上,予防法で抗結核薬を投与できるのは 29 歳以下となっている.この根拠のひとつに 30 歳以上ではヒドラジットの副作用が出やすいことがある.
  診断には胸部画像,喀痰検査,ツベルクリン反応を必ず行う.痰については塗抹標本は Ziehl-Neelsen 染色法,蛍光法,培養には小川培地,液体培地がある.塗抹検査では痰 1 ml 中に 7,000 個以上の菌量がないと陽性にならないが,より少ない菌でも MTD (RNA),PCR (DNA)の核酸増幅法を用いれば検出できる.この際必ず塗抹・培養検査と同時に行わないと解釈に困ることがある.
  治療薬は必ず2種類以上組み合わせて行う.これは耐性菌の出現を防ぐためである.一般に,自然耐性菌の確率はリファンピシン(RFP)で 10-8,ヒドラジット,ストレプトマイシン,エサンブトール(EB)で 10-6,エチオナミド,サイクロセリンなどで 10-3 とされている.単剤で使うとこれらの耐性菌の増加を招く恐れがある.現在は INH,RFP,EB (SM)にピラジナミド(PZA)を加えた4剤による初期強化治療が推奨されている.これを 6 か月行えば従来の INH,RFP,EB(SM)の 3 剤療法を 9 か月間行ったのと同等の有効率が保たれ,再排菌率は 1.6 〜 2% である.作用としては EB は静菌的,INH,RFP,SM,PZA は殺菌的に働く.また RFP と PZA は半休止菌にも滅菌的に働く.耐性菌の割合は,初回治療では INH 4.4%,RFP 1.4%,SM 7.5%,EB 0.4% であるのに対し,再治療時ではそれぞれ 33%,21.6%,24.2%,15.2% と高率になる.初回治療時でも耐性菌がかなりみられるので,軽症例でも INH + RFP の 2 剤よりは,EB を加えた 3 剤で治療したほうがよい.INH と RFP は重要な薬である.もし副作用が出た場合は,減感作療法を行うことで再使用することが可能である.

非結核性抗酸菌症
  日本では M. avium と M. intracellulare が最も多く約 70% を占める.次いで M. Kansasii が多い.M. avium は中部以北に多いのに対し,M. intracellulare は西日本に多い.似た菌種で2つをひとまとめに M. avium complex (MAC)と呼ぶが,治療効果は intracellulare のほうがよい.MAC 症は肺結核同様やはり増加している.基礎疾患のない一次型では中葉舌区型をとり,女性に多い.80% は陳旧性結核などの肺基礎疾患を有する二次型で男性に多い.治療は初回治療時と悪化時に強力に行う.また少量/間欠排菌者でも行うほうがよい.薬としては RFP,EB,クラリスロマイシン(CAM)の 3 剤に SM,カナマイシン,エンビオマイシンのうちから 1 剤,計 4 剤で行うことが勧奨されている.PZA は感受性がない.投与期間は菌陰性化後1年間まで行う.無効例には外科的切除術も考慮される.薬物療法と並んで,栄養などの宿主の抵抗力を高めることも必要である.
  M. Kansasii は男に圧倒的に多くかつ,鉄粉などの粉塵吸入歴,喫煙者に多い.薄壁空洞を作ることが特徴である.治療は結核と同様 INH,RPP,EB の 3 剤で良好なる反応が得られる.投与期間は 12 〜 18 か月である.CAM や PZA は無効である.
(文責 坂本芳雄)


(C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School