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原 著
切除胃全割切片によるHelicobacter pyloriと化生性病変の分布についての免疫組織化学的研究
金 仁順, 伴 慎一, 高濱素秀
埼玉医科大学第二病理学教室
〔平成12年12月27日受付〕
Immunohistochemical Study on the Relationship between the Distributions
of Helicobacter pylori and Metaplastic Lesions using Whole-mucosal Step
Sectioning of Resected Stomachs
Ren Shun Jin, Shin-ichi Ban, Motohide Takahama (Second Department of Pathology,
Saitama Medical School, Moroyama, Iruma-gun, Saitama 350-0495, Japan)
緒 言
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Helicobacter pylori(H pylori)感染によって惹起された慢性活動性胃炎1)が,表層性胃炎から萎縮性胃炎へと進行する過程で,その多くが腸上皮化生を伴い萎縮性化生性胃炎を呈してくる2,3).近年,この萎縮性化生性胃炎と胃癌の発生との関連が論じられていることを考慮すると4),H
pylori感染と腸上皮化生との関係を検討することは重要である.
しかしその一方で,腸上皮化生を呈する上皮にはH pylori感染がみられないという矛盾が知られている2,3,5).この理由につき,堤ら6-8)は,腸上皮化生粘膜において分泌型IgAが優位であり,上皮からのsecretory
component(SC)産生が活発で,炎症所見が軽減していることから,腸上皮化生粘膜ではH pyloriに対する局所免疫が成立してH
pyloriを排除しており,腸上皮化生はH pyloriの持続感染に対する免疫学的適応現象であるとする仮説を提唱している.しかし,堤ら6)の検討は切除胃から切り出された少数の組織片を研究対象としている.慢性胃炎は,胃全体あるいは少なくともある領域をもった病態であること,胃の中で腸上皮化生の占める領域が経時的に一定の方向性をもって変化するという報告9,10)を考慮すると,胃全体を全割した標本を検索してH
pylori感染と腸上皮化生との関係を検討する必要があると思われる.
腸上皮化生はPaneth細胞の有無により完全型と不完全型とに分類されているが11,12),堤ら6-8)は免疫組織化学的検討の結果から分泌型IgAなどが関連する局所免疫反応に関して両者の間に差が認められなかったとしている.しかし,近年,H
pylori感染がみられる不完全型腸上皮化生粘膜の存在が報告されており13-15),腸上皮化生粘膜とH pylori感染との関係は再検討する必要がある.
慢性胃炎に伴っている化生性病変には,腸上皮化生の他,胃底腺領域に発生する偽幽門腺化生(pseudopyloric gland metaplasia)が知られている16-18)
.しかし,H pylori感染に関連した慢性胃炎において後者は前者ほど注目されていない.滝澤ら17)は,15例の全摘胃を全割し,組織学的に検討して慢性胃炎の分類を行い,腸上皮化生を主体とするものの他,偽幽門腺化生が主体のものを挙げているが,当時はまだH
pyloriについての知見は一般的ではなく,それについては触れていない.
われわれは,今回,H pylori感染と胃粘膜上皮の化生性病変との関係を明らかにする目的で,切除胃全体におけるH pyloriの分布と腸上皮化生および偽幽門腺化生の分布を比較検討した.上皮に関しては,特に粘液形質からみた腸型化に注目した.
対象と方法 |
1998年2月から2000年3月までに埼玉医科大学附属病院およびその関連病院で胃・十二指腸潰瘍,胃癌のため切除された431例の切除胃のうち,組織学的にH
pylori感染が確認され,腸上皮化生を伴った慢性活動性胃炎を呈した亜全摘切除例10例を対象とした(Table 1).H pylori感染の確認に際しては,検討した切除胃が通常の病理診断のために固定されたものであって粘液層の保存状態が必ずしもよくなかったため,上皮細胞表面あるいは上皮間にH
pyloriが確認できたものに限定した.病変別では,胃・十二指腸潰瘍例が5例,早期胃癌例が3例(うち1例は胃潰瘍を合併),進行胃癌例が2例であった.患者は男性6名,女性4名,年齢は43〜79歳で,平均年齢は59.4歳であった.いずれの患者も過去に除菌治療は受けていない.
10%ホルマリンで48〜72時間固定された各切除胃の粘膜面をコピー機で撮影した後,幅3〜5mm,長さ25〜35mmの大きさで全割し,コピー上に切り出し図を書き入れ,組織パラフィンブロックを作製した.すべてのパラフィンブロックより5μm連続切片を作製し,(1)HE染色,(2)抗H
pyloriモノクローナル抗体(clone 371/254.55; Novocastra Laboratories,Newcastle,UK;
希釈倍率1:50)を用いた免疫組織化学染色(HP),(3)抗human gastric mucinモノクローナル抗体(clone45M1; Novocastra
Laboratories, Newcastle, UK;希釈倍率1:50)を用いた免疫組織化学染色(M1)とalcian blue pH2.5 (AB)の二重染色を行なった.免疫組織化学染色の前処理として,H
pyloriではトリプシン処理法(37 ℃,10分),human gastric mucinではクエン酸緩衝液中でマイクロウェーブ照射(500W,10分)による抗原性賦活化をそれぞれ行なった.免疫組織化学染色は間接法で行ないDABで発色した.
すべての標本を顕微鏡で観察し,各染色の判定結果を切り出し図上に記録した.また,幽門前庭部と体部の小弯および大弯につき,粘膜の炎症の程度,固有腺の萎縮の程度をUpdated
Sydney System19)に従って判定した.
Table 1. Clinicopathological features of 10 cases |
結 果 |
1. 粘液およびH pyloriの染色態度と観察要素の抽出
a. 粘液の染色態度
胃の粘膜上皮には,M1のみ陽性(M1+),ABのみ陽性(AB+),および両者が陽性(AB+M1+)の部位が認められた.腸上皮化生のみられない腺窩上皮の多くはM1+であったが,AB+M1+を呈する部位も認められた(Fig.
1a,b).腸上皮化生上皮は,AB+の部位とAB+M1+の部位とが認められた.AB+の腸上皮化生は完全型に相当する組織像であり(Fig.
1c, d),AB+M1+の腸上皮化生は不完全型に相当する組織像であった(Fig. 1e, f).胃底腺領域では,AB+を呈する副細胞の増殖あるいは偽幽門腺化生が認められた(Fig.
1g, h).また,前庭部ではAB+の幽門腺が少数ながら認められた.
b. H pyloriの染色態度
H pyloriの陽性像は,上皮表面の粘液層内,腺窩上皮の細胞表面および細胞間に認められ(Fig. 1i),一部では腺窩の深部でも認められた.また,粘膜固有層でマクロファージに貧食された像も観察され,そのような部位では周囲に好中球浸潤が高度に認められた.腺窩内に好中球が見られた部位では,H
pyloriの陽性像が高頻度に認められた.潰瘍や癌などの病変部では,病変表面の粘液内や周囲の粘膜にはH pyloriが陽性となったが,潰瘍底の肉芽組織や癌細胞表面には認められなかった.
c. 観察要素
以上の所見をふまえ,上皮の粘液形質の腸型化と組織像の観点から,切り出し図上にマッピングする5つの観察要素を定めた(Fig. 2).それらは,(1)H
pyloriの分布(HP+),(2)AB+の腸上皮化生の分布(IM・AB+),(3)AB+M1+の腸上皮化生の分布(IM・AB+M1+),(4)AB+M1+の腺窩上皮の分布(Fov・AB+M1+),(5)AB+の副細胞・偽幽門腺化生および幽門腺の分布(PM・AB+),とした.
2. 各観察要素の分布のパターン
各観察要素の分布からみて,検討した10症例を以下の3つのtypeに分類した(Fig. 3).
Type I: Fov・AB+M1+およびPM・AB+が幽門部から体部全体にかけて広範囲に分布し,IM・AB+およびIM・AB+M1+は,ともに幽門部から体下部に限局して比較的軽度に認められたもの.このtypeではHP+をほぼ胃全体に認め,化生性変化の分布と重なりが見られた.
Type II: Fov・AB+M1+およびPM・AB+が胃全体にまばらに分布し,IM・AB+およびIM・AB+M1+が,ともに幽門部および小弯を中心にした体部に比較的密に分布していたもの.このtypeではHP+は胃体部に見られ,腸上皮化生の分布と逆相関していた.
Type III: Fov・AB+M1+の分布は胃体部にわずかにみられ,PM・AB+は体部に比較的密に分布していた.HP+は胃体部に見られ,PM・AB+の分布と類似しており,type
IIと同様に腸上皮化生の分布とは逆相関する傾向にあった.
以上の結果を,H pyloriが分布する領域(HP+)における腸上皮化生(IM)と偽幽門腺化生(PM)の有無という視点からみると,type
IはHP+IM+PM+型,type IIはHP+IM-PM-型,type
IIIはHP+IM-PM+型と表現できる.
3. 各typeと胃病変との関係
type Iは,5例のうち4例が胃あるいは十二指腸の潰瘍例,1例が胃潰瘍を合併した早期胃癌例であった.type IIは2例みられ,進行胃癌例1例,早期胃癌例1例であった.また,type
IIIは3例で,胃潰瘍例1例,早期胃癌例1例,進行胃癌例1例であった(Table 1).
4. 各typeと炎症の程度,粘膜萎縮の程度との関係(Table 2〜4)
全症例とも慢性活動性胃炎を呈していた.type Iとtype IIでは,慢性炎症細胞浸潤,好中球浸潤ともに軽度から中等度が主体であった.type
Iでは体部よりも幽門部に強い炎症が見られ,type IIでは幽門部よりも体部に強く見られる傾向にあった.type IIIでは,慢性炎症細胞浸潤は中等度から高度,好中球浸潤は軽度から中等度が主体で,粘膜の部位による差はtype
I,type IIほど明瞭ではなかった.好中球浸潤の程度と固有腺の萎縮の程度はtype IIとIIIがtype Iより強い傾向にあった.
5. 腸型形質を有する上皮におけるH pyloriの存在
検討した切除胃10例のうち4例で,一部のIM・AB+M1+の上皮表面にH pyloriが陽性であった(Fig.
1f,i).4例ともtype Iで,潰瘍例が3例,胃潰瘍を合併した早期胃癌例が1例であった.AB+M1+の腺窩上皮(Fov・AB+M1+)にもH
pyloriの陽性像が認められた.
Fig. 1. Microphotographs showing the histological appearances and the histochemical and immunohistochemical staining of the gastric mucosa (a, c, e, g: HE; b, d, f, h: double-staining using M1 immunostaining and AB; i: immunostaining for H pylori). a) Foveolar epithelium without obvious intestinal matplasia. b) A serial section adjacent to Fig. a showing positive results for both AB and M1 (AB+M1+). c) Complete intestinal metaplasia. d) A serial section adjacent to Fig. c showing positive AB results (AB+). e) Incomplete intestinal metaplasia. f) A serial section adjacent to Fig. e showing positive results for both AB and M1 (AB+M1+). g) Fundic gland mucosa with an increase in mucous neck cells and pseudopyloric gland metaplasia. Inset shows a higher magnification of the mucous neck cells (arrowheads) and pseudopyloric gland metaplasia (arrow). h) A serial section adjacent to Fig. g showing positive AB results (AB+). i) A serial section adjacent to Fig. e and f showing positive H pylori results (HP+). Inset shows a higher magnification of the area indicated by the arrows. |
Fig. 2. Staining properties of the gastric mucosa and abbreviations. |
Fig. 3. Distribution of the 5 staining properties plotted on the entire gastric mucosa in a representative case of each type: Fov・AB+M1+, foveolar epithelia positive for both AB and M1; PM・AB+, mucous neck cells, pseudopyloric gland metaplasia, and pyloric glands positive for AB; IM・AB+, intestinal metaplasia positive only for AB; IM・AB+M1+, intestinal metaplasia positive for both AB and M1; HP+, H pylori. According to the distribution of the five segregated properties, the stomachs specimens were classified into three categories: type I, type II and type III. |
Table 2. Degrees of chronic inflammation of each case |
Table 3. Degrees of polymorphonuclear neutrophil activity of each case |
Table 4. Degrees of glandular atrophy of cach case |
考 察 |
胃の腸上皮化生上皮では,形態的に刷子縁や杯細胞の出現が見られるとともに,その粘液形質も腸型化する20).われわれは,組織形態所見に加え,Otaら14)の方法に準じて胃型粘液形質のマーカー(M1)と腸型粘液形質のマーカー(AB)の二重染色による粘液形質の変化もあわせて検討した.腸上皮化生は完全型と不完全型とに分類されている11,12).不完全型腸上皮化生は粘液形質の面からは胃型の形質を残していると考えられているが14,21),われわれの検討でも同様の結果であった.
一方,胃底腺領域に発生する偽幽門腺化生は,腸上皮化生とならんで慢性胃炎による固有腺萎縮の結果として生じる変化とされている16-18).われわれは偽幽門腺化生の構成細胞の中で,AB+の腸型形質の粘液を有する化生細胞に特に注目し,腸上皮化生と比較検討した.AB+の反応は副細胞にも認められたところから,副細胞と偽幽門腺化生細胞とは粘液形質の腸型化という視点からは同質のものと考えられる.実験的にラットの胃底腺粘膜にびらんや潰瘍を生じさせると,AB+の副細胞増加や偽幽門腺化生がおこり22,23),これは傷害部の粘膜の保護と修復に関する変化であると理解されている.われわれの症例に認められたAB+の副細胞の増加および偽幽門腺化生も,H
pyloriの感染およびそれに関連した炎症による粘膜上皮の傷害に伴っておこった粘膜の保護と修復に関する変化と考えたい.また,前庭部の幽門腺細胞の一部にAB+の所見を認めたが,これも同様の変化と考えた.
本研究では,(1)HP+の分布,(2)IM・AB+の分布,(3)IM・AB+M1+の分布,(4)Fov・AB+M1+の分布,(5)PM・AB+の分布,という5つの観察要素を胃粘膜全体において検討した結果,H
pyloriの存在と粘膜上皮の化生性変化との関係をtype I (HP+IM+PM+型),type
II(HP+IM-PM-型),type III(HP+IM-PM+型)の3つに分類した.
type Iでは腸上皮化生は前庭部のみに弱くみられるものの,H pyloriは前庭部を含んだ胃全体に認められ,H pyloriの分布と腸上皮化生の分布に重なりがみられた.従って,胃全体の視点からは,堤ら6-8)の仮説のようにIM領域で常にH
pyloriが排除されているとはいいにくい.
一方,type IIでは,H pyloriの分布と腸上皮化生の分布とが逆相関していた.H pylori感染初期には胃全体に感染がおこるものの24),腸上皮化生領域が年齢と共に幽門部から体部小弯に拡大するのに従ってH
pyloriが排除され,腸上皮化生のおよんでいない体部前後壁でH pylori感染と強い炎症所見が残存しているとみなすことができる.このtype
IIのように,H pyloriの分布と腸上皮化生の分布とが逆相関していたとする報告は他にもみられ25,26),腸上皮化生がH
pyloriの持続感染に対する免疫学的適応現象であるとする堤ら6-8)の仮説に胃全体からみてもあてはまる例といえる.
このtype Iとtype IIとの関係に関しては,type Iでは前庭部の炎症所見が強いことから,炎症の結果として腸上皮化生と萎縮がさらに進行すれば,前庭部で腸上皮化生と萎縮が強く,体部で炎症所見の強いtype
IIの形へ移行していく可能性も考えられる.胃底腺領域においては,腸上皮化生は偽幽門腺化した粘膜に生じるとされている7).また,今回の検討で腺窩上皮の一部に腸上皮化生と同様のAB+M1+の反応をみたことから,腸上皮化生はAB+M1+の腺窩上皮からも生じ得ると推定した.従って,type
Iにみられた偽幽門腺化生やAB+M1+の腺窩上皮に腸上皮化生が生じて,type IIへ移行する可能性も考えねばならないが,これらの偽幽門腺化生やAB+M1+の腺窩上皮が好発していたtype
Iの体部の前後壁には腸上皮化生が少なかったことからは,それらが明らかな腸上皮化生に移行しやすいとはいえない.また,type IIの体部にはFov・AB+M1+やPM・AB+はわずかしかみられなかった.以上のことを考えると,type
Iがtype IIの前段階の状態とはいえず,独立した病態とみなしたい.
type IIIは,H pyloriの分布と腸上皮化生の分布に逆相関がみられ,type IIに類似する一方で,H pyloriの分布域に一致するPM・AB+も認め,type
Iにも類似したことから,type Iとtype IIの中間に位置付けられるが,高度の腸上皮化生に伴うH pyloriの排除という点ではtype
IIに近いと考えられた.
type Iとtype II,IIIでは,合併した胃病変が異なる傾向も認めた.即ち,type II,IIIの症例は5例中4例に癌を伴っていたが,type
Iの症例では5例中癌を伴っていたのは1例のみで,しかも潰瘍を伴っており,残り4例は潰瘍のみの症例であった.
以上のことから,type Iとtype IIおよびIIIは,H pylori感染に関連した慢性萎縮性胃炎のそれぞれ異なる形態を示していると考えられる.いずれのtypeも上皮の形質の腸型化がみられることは共通している.しかし,type
IIおよびIIIではそれが腸上皮化生の形でおこり,それによるH pyloriの排除はおこるが,強い炎症が持続し,癌発生の危険性の亢進を生じやすいとみなされるのに対して,type
Iでは,上皮の腸型化は,腸上皮化生に比べると弱いFov・AB+M1+,PM・AB+という形でおこり,癌発生の危険性は低いもののH
pyloriの排除が不十分であるために潰瘍病変を生じるとみなすことができるかもしれない.
今回検討した10例中4例でAB+M1+の腸上皮化生にH pylori感染を認めた.Gentaら13)の生検例についての報告では,H
pylori感染を伴った不完全型腸上皮化生を全症例の8.5%に認めているが,その約80%は癌を伴わない潰瘍例であった.今回われわれの検討でもH
pyloriが付着した不完全型腸上皮化生上皮を認めた4例はすべてtype Iで潰瘍を伴っていた.このことは,type Iでおこる上皮の腸型化が十分にH
pyloriを排除できないことと関係し,type Iでは不完全型腸上皮化生上皮へのH pylori感染が潰瘍の危険因子のひとつになる可能性があることを示唆しているものと思われる.
われわれの3つのtypeのような,異なる胃炎形態を呈する原因に関しては,今回の検討では明らかではないが,宿主の免疫反応の多様性の他,菌種の違いがあるかどうか,今後さらに検討していく必要があると思われる.
結 論
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1. H pyloriの胃粘膜上皮細胞付着を確認した10例の切除胃の全割組織標本を作製して,H pyloriの分布と粘液形質からみた腸上皮化生および偽幽門腺化生の分布との関係を検討した.
2. 切除胃粘膜全面におけるH pylori(HP)の分布と腸上皮化生(IM)および偽幽門腺化生(PM)の分布を症例ごとに点描し,その分布パターンから全症例をtype
I(HP+IM+PM+型),type II (HP+IM-PM-型),type
III(HP+IM-PM+型)の3つのtypeに分類した.type Iは5例,type
IIは2例,type IIIは3例であった.
3. type IではH pyloriの分布と腸上皮化生の分布が幽門部で重なり,type IIとIIIではH pyloriの分布と腸上皮化生の分布とが逆相関を呈した.偽幽門腺化生は,type
Iとtype IIIで顕著に観察され,H pyloriの分布と重なりが見られた.type Iでは体部よりも幽門部に強い炎症が見られ,type
IIでは幽門部よりも体部に強く見られた.炎症の程度,固有腺の萎縮の程度はtype IIとIIIがtype Iより強い傾向にあった.type Iでは5例とも潰瘍を伴い,type
IIとIIIでは4例が癌を伴っていた.
4. 以上より,type Iでは偽幽門腺化生や軽度の腸上皮化生によるH pyloriの排除が不充分であり,これが潰瘍発生の誘因となりうることが示唆され,また,type
II,IIIでは腸上皮化生部でH pyloriの排除が起こるものの強い炎症が持続し,癌発生のリスクが高まることが示唆された.
5. 従来,腸上皮化生ではH pyloriは陰性とされてきたが,本研究ではtype Iに示されたようにH pyloriの排除が不充分な腸上皮化生が存在し,これが潰瘍発生の誘因となりうることが示唆された.
謝 辞
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稿を終えるにあたり御協力を頂いた本学第二病理学教室満木凡子,後藤義也実験助手をはじめ全教室員に深謝致します.
なお,本論文の要旨の一部は,第89回日本病理学会総会(2000年4月,大阪)において発表した.
文 献 |