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埼玉医科大学雑誌 第28巻第2号 (2001年4月) 89-94頁 (C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School

原 著

気管チューブ内腔への吸気ガス湿度の影響  ―人工呼吸中の分泌物固形化について―

官川 響, 宮尾 秀樹, 高田 稔和, 川添 太郎

埼玉医科大学総合医療センター麻酔科
〔平成13年1月16日〕


Effect of Air Humidity on Inspissation of Endotracheal Tube Secretions
Toru Hirokawa, Hideki Miyao, Toshikazu Takada, Taro Kawazoe (Department of Anesthesiology, Saitama Medical Center, Saitama Medical School, Kamoda, Kawagoe, Saitama 350-8550, Japan)

 Although humidifiers are used in ventilator circuits to supply water vapor to the patient’s airway, tracheal tube secretions are often inspissated. Theoretically, the humidifier actually deprives the upper airway of water unless the delivered gas contains more water vapor than 44 mg H2O/l, the point saturated water vapor at body temperature. The purpose of this study was to measure the amount of “deprived water” in the upper airway using a tracheal model. Two different types of humidifier (one with and one without a heating wire) were used, and the appropriate humidifier settings required to prevent dry secretions in the artificial airway were determined.
Methods: A tracheal model was made from a corrugated breathing tube, into which cylindrical filter paper containing water was inserted. Samples of air from two different humidifiers (one with and one without a heating wire incorporated into the inspiratory portion of the breathing circuit) were passed through the tracheal model for 10 minutes. The tracheal model was warmed to 37 degrees. The gas flowed at a rate of 30 liters per minute in a constant unidirectional flow. The amount of absorbed water was measured by weighing the tracheal model before and after each trial. Sixteen settings for the humidifier with the heating wire and 5 settings for the humidifier without the heating wire were tested. The relative humidity and temperature of each gas were measured using a hygrometer, and the absolute humidity was calculated.
Results: The amount of deprived water ranged from -0.03 g to 0.93 g when the humidifier containing the heating wire was used and from 0.05 g to 0.6 g when the humidifier without the heating wire was used. Relative humidity was the main factor in preventing the tracheal model from drying out, while absolute humidity was a secondary factor.
 Discussion and Conclusion: Even the newest humidifiers presently in use deprived the tracheal model of water during most operating conditions. The present findings suggest that humidifiers, that do or do not contain a heating wire should be set near the maximum level of humidity. The levels necessary to prevent upper airways from producing dry secretions were above 45 mg H2O/l of absolute humidity, which is significantly higher than the ISO standard (above 33 mg H2O/l), and 100 % relative humidity.
Keywords: Humidifier, Relative humidity, Absolute humidity
J Saitama Med School 2001;28: 89-94
(Received January 16, 2001)



 緒 言

 集中治療領域での人工呼吸管理において人工呼吸器に付属した加湿器は乾燥ガスに水分を与え,気管分泌物の固形化を防ぎ,気管粘膜や繊毛上皮の機能維持のために必要不可欠な機器である.加湿器は加温タイプの機種がほとんどであるが,1990年代に入って,吸気回路内の水分結露を防ぐために吸気回路内に熱線を入れ,結露を防ぐとともに吸気ガスの水分含量を高く維持する熱線入り加温加湿器が広く普及した.埼玉医科大学総合医療センターでは開設当初より,その熱線入りの加温加湿器を使用していたが,長期人工呼吸管理患者の気管内チューブ内の分泌物固形化が多発し,原因究明のために種々の実験と検討を行った.我々は上気道の気管内分泌物固形化に関する相対湿度の重要性を研究し1,2)国際的な医療機器の標準規格であるthe International Organization for Standardization(以下ISO)に採用された3,4)
 長期人工呼吸中の気道の加湿に関する論文は気管粘膜や繊毛上皮の働きの形態学的な観察報告はあるが5)気管内チューブ内の湿度低下による分泌物固形化に焦点を当てた実験的な報告は筆者らの報告1,2,4,6)以外見当たらない.長期人工呼吸中,気管内チューブ内の分泌物への水分供給源は人工呼吸器からの吸気ガスあるいは患者自身の呼気ガスしか無いために,不適切な加温加湿器の設定は分泌物の乾燥固形化から気道閉塞につながり,致死的な合併症を起こす危険性がある.
 本研究では相対湿度と絶対湿度の関係を気管モデルを用いた水分奪取実験で検討し,適正な加湿器の設定を検討することを目的とした.

 実験方法

 本実験で適切な加湿器設定の評価基準とした水分奪取量は,各種温度のガスを人工気管に流し,その中に入れた湿潤濾紙を実験前後に重量測定する事により算出した.
 実験システムの構成をFig. 1に示す.加温加湿器はFisher & Paykel 社製の二機種を使用し,熱線入り加温加湿器MR730(ヒータプレート定格容量150W,ヒータワイヤ定格容量60W)ソフトウェア・バージョン3.0,又は熱線なし加湿器 MR410(ヒータプレート定格容量 85W)と自動給水チャンバーMR290にNewport Medical Instruments社製熱線入りリユーザブル吸気回路PBC300Aを接続したものを使用した.加温加湿器と圧縮空気流量計との間にミナト医科社製熱線流量計RF-H1を組み込み,流量を測定した.吸気回路先端にVaisala社製温湿度計HMP133Y (温度測定精度 ±0.3 ℃,相対湿度測定精度 ±3%)を組み込んだ直径25 mm 長さ20 cmの塩化ビニール管をスペーサーとして挿入し,さらに内径8.5 mmの気管チューブを接続し,その先端に気管モデルとして長さ12 cmのインスピロン社製ディスポーザブル蛇管を接続した.気管モデル内壁には水分を含ませたアドバンテック東洋社製濾紙No2 90 mm(人工気管を垂直に固定して余分な水分が人工気管下部より滴下するまで,人工気管上部よりスポイトで水を十分に濾紙に滴下した)を固定し,恒温銅管(直径40 mm 長さ1.5 mの銅管周囲に巻いた直径8 mm細銅管に38 ℃の流温水で加温したもの,この設定で恒温管内は37 ℃になる.)の中に入れ,気管モデル周囲の温度を一定にした.実際の臨床使用に即して,気管チューブ先端より手前に25 cmの位置を恒温銅管の入口に合わせた.実験は室温25 ℃にコントロールされた手術室内で行い,人工呼吸器用の圧縮空気を流量計で毎分30リットル(体重50 kg,一回換気量10 ml/kg,吸気時間1秒をモデルとして想定し)に調整し,10分間一方向性に人工気管回路内に流した.実験前後の気管モデルの重量測定で奪取水分量を測定した.MR730温度制御機構をFig. 2に示す.
 Fisher & Paykel社製加湿器MR730の温度制御はデュアルサーボ方式で加湿チャンバー出口温(以下チャンバー温)と患者口元温(以下口元温)を制御している.口元温を第一制御対象とし,チャンバー温は口元温にたいする相対温度で制御している.患者口元温設定範囲は31 ℃から40 ℃まで,チャンバー温制御範囲は−5 ℃から+2 ℃まであり,たとえば37 ℃,−2の設定は口元温37 ℃,チャンバー温35 ℃となる.すなわちチャンバーで35 ℃まで加熱加湿し,吸気回路内で熱線により2 ℃熱する7).逆に37 ℃,+2の設定ではチャンバーで39 ℃まで加熱加湿し,吸気回路内で37 ℃に温度が下降するまで熱線に加熱されることなく,周囲から自然冷却される.
 回路内に熱線の入っていない加温加湿器MR410の温度制御は加温板の温度を加温調節目盛(1〜9)で制御しているのみで具体的な温度設定目盛りは無い.
計測したMR730の設定範囲は口元温33,35,37, 39 ℃,チャンバー温制御値−5,−2,0,+2 ℃で合計16通りとし,各設定での温度と湿度の測定と,水分奪取量測定実験を3回行った.
 MR410の設定範囲は温度設定目盛で1,3,5,7,9の5通りで同様の実験を各3回行った.
 データ収集はガス流量,湿度計の温度,相対湿度をBIOPAC Systems社製のA/DコンバーターMP100でAD変換し,計測ソフトAcqKnowledge v3.1.2でApple Computer社のMacintoshコンピュータに取り込み,計測された相対湿度と温度から絶対湿度を計算表示した8),人工気管の重量測定にはザルトリウス社製秤量システムMA-30(読み取り精度 0.01%,測定精度 ±0.05%,サンプリング重量5gの場合)を使用した.
 熱線なしの加温加湿器MR410と熱線入り加温加湿器MR730の水分奪取に関する相違を調べるために,全測定値で水分奪取量差(MR410-MR730)と絶対湿度差(MR410-MR730)及び,相対湿度差(MR410-MR730)と絶対湿度差,水分奪取量差(MR410-MR730)と相対湿度差(MR410-MR730)を計算し分析した.
 統計は水分喪失量と温度,湿度との相関係数の検定にFisherのZ変換を用い危険率5%以下を有意とした.

Fig. 1.Scheme of the experimental setup.

Fig. 2.Sheme of temperature control mechanism.

Fig. 3.Hygrometer temperature, relative humidity and absolute humidity in various set up of MR 730. Tn:Set of the circuit temperature dial Sn:Set of the chamber control dial.

 

 実験結果

 実験室温は25 ℃,使用した空気の温度は25.5 ℃,相対湿度は5.2%,絶対湿度は1.3 mgH20/l,人工気管は濾紙乾燥時9.5 g,濾紙を十分に湿潤した状態で11.5 gであった.計測中の全経過を通して人工気管の重量は9.5 g以上であり,人工気管内濾紙が完全に乾燥する計測例はなかった.
MR730各設定時の温湿度計の温度,相対湿度,絶対湿度をFig. 3に示す.チャンバー温を口元温に対して+2〜−5の範囲で変化させたが,口元温設定値と温湿度計測定値の間に差異は生じていない.加湿器の口元温設定値と比例して相対湿度や絶対湿度も上昇したが,チャンバー温制御値と相対湿度,絶対湿度はすべての設定で正の相関を示した.
 MR730各種設定時の水分奪取量をFig. 4に示す.10分間に人工気管から奪われる水分量はチャンバー温制御値−5の群が一番多く(0.93〜0.49 g),その次に−2の群(0.61〜0.22 g),次に0の群(0.42〜0.08 g),そして+2の群(0.33〜−0.03 g)の順となり,チャンバー温制御値−5から+2に向かって水分奪取量は減少した.同様に口元温を33 ℃から39 ℃に上げるに従って水分奪取量は減少した.
 システム中の加温加湿器を外して乾燥空気(絶対湿度1.3 mgH20/l)のみを10分間流して測定した水分喪失量は1.093±0.03 g(平均値±標準偏差)であった.
 MR410各設定時の加温加湿器患者接続部の温度℃,相対湿度%,絶対湿度mgH20/lをFig. 5に示す.加温加湿器の温度設定目盛と比例して相対湿度や絶対湿度も上昇した.
 MR410各設定時の水分奪取量をFig. 5下段に示す.10分間の奪取水分量は温度設定目盛1(0.6 g)から,9(0.05 g)に向かって直線的に減少し,最大水分奪取量は0.6 gでMR730の最大奪取水分量より少なかった.
 絶対湿度差と水分奪取量差との関係をFig. 6に示す.Y切片がMR410とMR730の絶対湿度が同一の点で,この部分(−0.129)では水分奪取量はMR730の方が多かった.絶対湿度差と相対湿度差との関係をFig. 7に示す.Y切片が同一絶対湿度を示し,この点ではMR410の方が相対湿度が高かった.相対湿度差と水分奪取量差との関係をFig. 8に示す.Y切片がMR410とMR730の相対湿度が同一の点で,この部分(+0.037)では Fig. 6の絶対湿度が同一の点(−0.129)に比べて水分奪取量はMR410とMR730の間で差は少なかった. Fig. 6,7,8共に回帰分析による回帰式の適合性は有意水準0.05で有意であった.

Fig. 4.Deprivation of water in various set up of MR 730. Tn:Set of the circuit temperature dial Sn:Set of the chamber control dial.

Fig. 5.Set of the temperature dial of MR 410. Hygrometer temperature, relative humidity, absolute humidity and deprivation of water in set up of MR 410.

Fig. 6.Difference of Absolute Humidity. Correlation between difference in deprivation of water and difference of absolute humidity.

Fig. 7.Difference of Absolute Humidity. Correlation between difference of absolute humidity and difference of relative humidity.

Fig. 8.Difference of Relative Humidity. Correlation between difference in deprivation of water and difference of relative humidity.


 考 察

【湿度の定義】
 最初に以下の考察に必要な温度,相対湿度,絶対湿度の関係について述べる.相対湿度は(絶対湿度/飽和水蒸気量)×100で計算され,%で表す.絶対湿度は単位体積当たりに含んでいる実際の水蒸気量でmgH2O/lで表し水分含量とも言う.飽和水蒸気量はある温度における単位体積当たりに含みうる最大水蒸気量でmgH2O/lで表し温度によって決まる定数と考えて良い.従って,あるガスの温度が上がると,飽和水蒸気量が上がり,絶対湿度は変化しないため,相対湿度は低下する.すなわち温度,相対湿度,絶対湿度の3者の内2つが決まると必然的にもうlつも決まる.

【正常鼻呼吸の気道内湿度】
 ヒトは正常の鼻呼吸の場合,外気温22 ℃,相対湿度50%の吸気は絶対湿度約10 mgH2O/lの水分含量を持つ.そして鼻腔に入ると暖められ,次いで咽頭では30 ℃になるとともに粘膜から水分を奪い,相対湿度95%,絶対湿度29 mgH2O/lとなる.気管に達すると33 ℃,相対湿度100%,絶対湿度36 mgH2O/lとなり気管支の第3分枝の分岐レベルで37 ℃,相対湿度100%,絶対湿度44 mgH2O/l(isothermic saturation boundary)以下ISB9)となり肺胞に到る.
 呼気時には冷却され(吸気時の気化熱奪取による気管粘膜壁の冷却),気道内で結露し咽頭で35 ℃,相対湿度95%,絶対湿度38 mgH2O/lとなり鼻腔から呼出されるときにはそれぞれ34 ℃,63%,24 mgH2O/lとなる10).この24 mgH2O/lと外気10 mgH2O/lの差の水分含量14 mgH2O/lが一呼吸サイクルでの呼吸器系からの不感蒸泄である.

【熱線無しと熱線入り加温加湿器の構造の違いとこれまでの研究成果】
 熱線無し加温加湿器はチャンバーで発生した水蒸気が吸気回路内を通過していく間に冷却され,結露し,患者に到達した時には水分含量が結露の量だけ少なくなっている筈であるが,結露するということは相対湿度は100%と考えて良い.一方熱線入り加温加湿器は吸気回路内に熱線を入れることにより結露を防止し,絶対湿度を高く保つ.しかし回路内の熱線を加熱しすぎると相対湿度の低下が起こり,上部気道の乾燥を起こす危険がある.我々は分泌物固形化が回路内熱線の過剰の過熱により,相対湿度が低下したためだと考え,絶対湿度を一定にし,相対湿度の異なる二種類のガスの人工気管からの水分奪取量を測定し,絶対湿度より相対湿度が水分奪取量に強く関与していることを証明した1,2).また水溶性ポピドンヨードを気管内分泌物モデルとして,種々のガスのポピドンヨードへの水分付加実験で水分付加が絶対湿度ではなく相対湿度に強く関連することを証明した4)

【世界的基準と適正な加温加湿器の設定】
 ISOでは挿管患者の加湿器の絶対湿度は33 mgH2O/l以上あれば良いことになっている3).相対湿度の規定は無い.一方American Association of Respiratory Care(AARC)学会は人工呼吸中の適正湿度に関して,温度の規制を入れ,33 ±2 ℃,30 mgH2O/lを推奨し,これは相対湿度76-94%にあたる.我々は以前に加温加湿器の適正設定の条件としてISOとAARCのガイドラインを参考にして「33 ±2 ℃かつ吸気回路内の結露」を提唱したが11),吸気回路内の結露は相対湿度100%を意味する.すなわち絶対湿度の範囲は32 mgH2O/lから40 mgH2O/lとなる.今回の結果Fig. 3と4からほとんど水分奪取がなかったのはMR730の患者口元温設定39 ℃,チャンバー温制御値+2の水分奪取量0.03 g,絶対湿度49 mgH2O/l,相対湿度100%であり,MR730の設定37+0,39+0などの絶対湿度は40 mgH2O/l以上になる設定でも相対湿度は100%に到っておらず水分奪取は生じており,相対湿度を無視して絶対湿度のみ40 mgH2O/l以上を満たした基準では不十分で,相対湿度100%の併記が必要であり,ISOの基準(33 mgH2O/l以上の絶対湿度)ではさらに低すぎると思われる.しかし本研究のMR410の全ての設定がISOの基準さえ満たしていない(Fig. 6)にもかかわらず臨床での使用感が悪くない.この事はMR410の最小水分奪取量がMR730と同程度である事と関連し,温湿度計のセンサーは管の中心部で測定しているため測定温度や湿度に表れない気流の分布(中心流と壁側流の違い)や乱流による影響が水分奪取量に関係しているとみられ,水分奪取量を指標にしたことの妥当性を窺わせる.Fisher & Paykel社の近々発表予定の新機種は患者口元温度設定39度,チャンバー温制御値−2度のみの設定となり,我々の主張が取り入れられている.
本研究の意義はISOやAARCなどの基準に準拠して設計される加温加湿器(熱線入り加温加湿器,熱線なし加温加湿器ともに)使用の際に現行の設定のほとんどが,気道から水分を奪取する事を証明した事であり,臨床では最高加湿設定付近での使用を推奨する.
 熱線無しの加温加湿器は当初相対湿度の低下はないと予想していたが,必ずしも高い相対湿度を保証するものではなかった(Fig. 5).
 熱線なしMR410と熱線入りMR730加温加湿器の比較においてはFig. 6のY切片が−0.13である事より,同一絶対湿度でも水分奪取量は熱線なしMR410の方が少ない事を表し,Fig. 7から,その原因が相対湿度の差である事が推論できる.即ちFig. 7のY切片が+15%である事は同一絶対湿度の場合は熱線なしMR410加温加湿器の相対湿度は熱線ありMR730のものより15%高いと言える.この差がFig. 6の水分奪取量の差の原因であると考えられ,従って同一絶対湿度の場合は熱線なしの方が水分喪失の点では安全であると言える.
 ただし加湿チャンバーヒーターの容量が大きい熱線入りMR730加温加湿器では最大加湿領域(口元温設定値39 ℃,チャンバー温制御値+2)に設定すれば,絶対湿度と相対湿度共に熱線なしMR410加温加湿器を大きく上回り,より水分喪失量の少ない加湿が出来る.
 実際の呼吸管理では呼気時に気管内チューブの分泌物は呼気中の湿度により加湿されるために,吸気の湿度低下の影響が出にくい.本実験は一方向流のモデル実験であり呼気による加湿を想定していない.一方向流で行った理由は1.分泌物の乾燥化はあくまで吸気時に起こるものであり,2.呼気に生体と同様の一定の湿度条件を付与することが,極めて困難である事が挙げられる.しかし,実際の臨床条件に近づけ,より正確なデータを取るためには双方向流のモデル実験を行う必要があると考える.

 結 語

1.気管モデルを用いた実験で加温加湿器の湿度調節目盛の大部分の設定で気管モデルから水分を奪取した.
2.熱線なし及び熱線入り加温加湿器の設定は加湿能上限付近での使用が望まれる.
3.熱線なしの加温加湿器は熱線ありに比べて相対湿度が高く,上気道からの水分奪取量は少ない傾向にあった.
4.上気道からの水分奪取を防ぐにはISOの加湿器の基準(絶対湿度33 mgH2O/l)を大幅に越える相対湿度100%,絶対湿度45 mgH2O/l以上が必要である.

 謝 辞

 稿を終えるにあたり,ご指導いただきました川添太郎教授に感謝いたします.また,直接ご指導いただきました宮尾秀樹助教授に感謝いたします.

 引用文献

1) Miyao H, Hirokawa T, Miyasaka K, Kawazoe T. Relative humidity, not absolute humidity, is of great importance when using a humidifier with a heating wire. Crit Care Med 1992;20(5):674-9.
2) Miyao H, Miyasaka K. Relative humidity with heating wire. Crit Care Med 1993;21(10):1613-5.
3) ISO 8185: 1997(E) Humidifiers for medical use - General requirements for humidification systems. International Organization for Standardization; 1997. p. 19-39.
4) Miyao H, Miyasaka K, Hirokawa T, Kawazoe T. Consideration of the International Standard for Airway Humidification Using Simulated Secretions in an Artificial Airway. Respir Care 1996;41(1):43-9.
5) Forbes AR. Humidification and mucus flow in the intubated trachea. Br J Anaesth 1973;45(8):874-8.
6) 官川響, 宮尾秀樹, 片山顕徳, 岡本由美, 川添太郎. 人工呼吸中の加温加湿について−相対湿度の重要性−. 臨床呼吸生理 1995;27(1):13-8.
7) MR700, MR720, MR730 Respiratory Humidifier operating manual. Revision D. Auckland, New Zealand: Fisher & Paykel Healthcare; 1995. p. 26-8.
8) 日本化学会編. 化学便覧 基礎編II. 改訂4版. 東京: 丸善株式会社; 1995. p. 117-23.
9) Dery R, Pelletier J, Jacques A, Clavet M, Houde JJ. Humidity in anaesthesiology III, heat and moisture patterns in the respiratory tractduring during anaesthesia with the semi closed system. Can Anaesth Soc J 1967;14(4):287-98.
10) Branson RD. Humidification of Inspired Gases during Mechanical Ventilation (editorial). Respir Care 1993;38(5):461-68.
11) 宮尾秀樹. 加湿器は乾燥器?. LiSA 1995;2(5):40-5.


(C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School