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埼玉医科大学雑誌 第28巻第2号 (2001年4月) 99頁 (C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School

特別講演

主催 埼玉医科大学総合医療センター外科 ・ 後援 埼玉医科大学卒後教育委員会
平成12年7月19日 於 埼玉医科大学総合医療センター小講堂

胎児内視鏡外科

千葉 敏雄

(Fetal Treatment Center, University of California San Francisco. 現国立小児病院小児医療研究センター)


 従来,出生後に治療を受けてきた外科的疾患の多くが,実際には既に出生前に完成しているということは,近年の出生前診断技術の飛躍的な発展により明らかとなってきた.しかも,疾患によっては,その病態が子宮内にて増悪し,出生時には体外生存が困難となっているものも存在し,治療開始の時期選択が大きな問題となっている.出生前,すなわち子宮内での外科的,ないしこれに準ずる治療を行うためには,いくつかの問題が存在する.倫理的,ないし経済的問題は一旦別として,医学的見地のみから考えてみた場合でも,まず,母体へのリスクを敢えておかしてまで,かかる医療行為が正当化されるのか,という点が問題となる.これまで胎児外科の対象となってきた疾患は,すべて,子宮内でのNatural history,すなわち何等治療行為がなされなかった場合に,いかなる臨床経過を辿るのかという点が明確になっているものであり,その中でも,もし治療がなされなければ,子宮内,あるいは周産期に致命的な経過をとることが,高い確率で予想される病態を有する場合のみが,適応とされてきた.ただし,母体へのリスクが十分に小さく,かつ患児には他の合併奇形をみないことが,その前提となっていることはいうまでもない.
 一方,手術手技という点からみても,胎児外科は過去20年の歴史の中で大きな発展を遂げてきた.当初は,実際に母体を開腹して子宮を開き,直視下に胎児にメスを加える(open fetal surgery)ための手技,およびそれに伴う合併症(術後子宮収縮とそれにより引き起こされる早期産,術後のFetal distressなど)への対策が,胎児外科研究の主な課題であった.その後研究の方向は,次第に,より侵襲の少ない手技(Minimally invasive procedure)へと向けられるようになり,子宮切開を行わない内視鏡手技(Fetal endoscopic Procedure; Fetoscopic procedure)の登場をみることとなった.しかし,この内視鏡的外科手術は,まず胎盤付着部位より十分離れた子宮壁にポートを置かねばならないこと,あるいは,羊水という液体中で浮遊する胎児を患者とすること,などの点で,大きな困難を伴うものであり,これらの諸問題を克服してきた経過こそが,胎児内視鏡外科の歴史であったともいえる.
 今回は,その意味で最も理解しやすい,胎児横隔膜ヘルニアに対する出生前外科治療,すなわち,胎児開胸開腹手術(Open surgery)から胎児気管閉塞術(Endoscopic surgery)への移り変わりを中心として,話を進めてみた.しかし,何等かの胎児期外科治療を要する疾患としては,胎児腫瘍性疾患(肺の先天性嚢胞性腺腫様奇形,仙尾部奇形腫など),閉塞性尿路疾患,双胎間輸血症候群,脊髄髄膜癌なども挙げられ,今後prospective randomized studyを通して,より合理的で安全性の高い術式が開発されてゆくものと期待される.そしてこれらの多くは,内視鏡的アプローチが中心となってゆくものと考えられる.
(C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School