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埼玉医科大学雑誌 第28巻第3号 (2001年7月) 131-137頁 (C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School

原 著

国の伝統的漢方薬「益気養血扶正剤」の抗腫瘍活性と免疫細胞機能に及ぼす影響

飯田 英晴


埼玉医科大学医学基礎部門心理学教室
〔平成13年5月1日受付〕


Sleep Structure and Sleep-wake Rhythm in Elderly Patients with Dementia
Hideharu Iida
(Department of Psychology, Saitama Medical School, kawakado, Moroyama, Iruma-gun, Saitama 350-0436, Japan)

  Sleep structure in dementia is influenced by various factors, including the underlying cause and severity of dementia, the presence of somatic complications, the level of activities of daily living (ADL) and the patientユs age. The characteristics of sleep structure and the sleep-wake rhythm in elderly dementia patients, eleven bedridden patients and nine semi-dependents assessed by clinical dementia rating (CDR) were studied by comparing their night sleep polygraphs and records of day and night activity levels with those of normal elderly group. To examine the effect of social interactions on nocturnal sleep, activity levels were recorded for the twelve bedridden patients over a period of four consecutive days.
  In dementia groups (N=20), the percentages of stage I sleep was significantly higher (P<0.01) and the percentages of stage II sleep, slow wave sleep and sleep efficiency index were significantly lower (P<0.01) than that in normal healthy elderly groups (N=10). In the bedridden groups (N=11), the percentages of stage II sleep and REM sleep were significantly lower (P<0.01) and the percentages of stage Isleep was significantly higher (P<0.01) than that in semi-dependent groups (N=9). Furthermore, DA (the daytime activity) and %DA (ratio of daytime activity to nighttime activity) decreased significantly in the dementia groups than normal healthy elderly groups and only a few cases in dementia groups showed a clear circadian rhythm of activity/rest.
  Also, the sleep rate during nighttime for the bedridden patients (N=12) increased following social interactions. In particular, the sleep rate of patients who had a sleep rate of less than 40% for a standard night increased significantly after social and interactive exercises (P<0.01).
  The observed changes in sleep structure and loss of circadian rhythm of activity/rest recognized in elderly dementia suggest the possibility of the dysfunction of a biological rhythm caused by functional and physiological changes in the brain. Moreover, manipulation of social and interactive exercises is a useful therapeutic method for the improvement of sleep disorder in bedridden patients deficient in social synchronizers who sleep poorly at night.
Keywords: Dementia, Sleep Structure, Circadian Rthythm,
J Saitama Med School 2001;28:131-137
(Received May 1, 2001)

 はじめに

 加齢に伴って睡眠構造が変化することはよく知られている.最近の報告では,その変化はすでに30歳代から始まるが,50歳くらいになると有意に徐波睡眠が減少し,睡眠段階 I 度と途中覚醒回数が増え,途中覚醒時間が延長し睡眠効率が低下する.一方,REM睡眠については大きな変化は見られないと言われている1).また,睡眠障害についての自覚的な訴えも加齢に伴って増加し,早朝覚醒や熟眠感の欠如,中途覚醒後の入眠困難についての訴えが増加する2).これら睡眠障害の原因はさまざまで,加齢に伴う生理的変化の他に,睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグ症候群,身体合併症などの特殊病態のほか,日中の活動量の減少や睡眠・覚醒リズム障害なども関係していると考えられている2-4)
 痴呆疾患の睡眠構造については,加齢に伴う睡眠構造の変化に比べると,必ずしも一定の所見が示されているわけではない5).その理由として,痴呆をもたらす基礎疾患,痴呆の重症度,身体合併症の有無,障害された脳部位とその範囲,日常生活動作能力(Activities of Daily Living 以下ADLと略記)などの多くの要因が,個々の例で異なるためと考えられる6,7)
 痴呆疾患の睡眠構造を明らかにするには,終夜睡眠ポリグラフ検査を行うことが最も適切である.しかし,痴呆患者では精神症状やADLの低下のため,終夜睡眠ポリグラフを記録すること自体困難なこともあり,寝たきり状態の高度痴呆患者の睡眠構造についての報告は少ない8)
 近年,睡眠段階は判定できないが,長時間の活動量を記録し,睡眠か覚醒かの判別が可能なアクチグラフを用いて,痴呆患者の睡眠障害について,睡眠・覚醒リズムの視点からの研究が報告されている9,10).アクチグラフを用いた研究では,痴呆患者には睡眠・覚醒リズム障害が見られ,更に,体温やメラトニン分泌などの生体リズムにも障害が見られることが報告されている11)
 今回,寝たきり状態の高齢痴呆患者の睡眠構造と睡眠・覚醒リズムについて,終夜睡眠ポリグラフと24時間の活動量の特徴を健常高齢者と比較して明らかにし,高齢痴呆患者に対する社会的・対人的な働きかけが,睡眠障害にどの様な影響を与えるかについて検討を加えた.

 方 法

1 対 象
 臨床症状ならびに臨床経過をもとに医師によって,脳出血後遺症ないしは多発性脳梗塞痴呆と診断された高齢痴呆患者45名(78.6±6.5歳)を対象にした(Table 1).全員痴呆専門病棟を持つ介護重点病院に指定されている埼玉県下のH病院に入院中の患者である.患者の臨床評価には,Clinical Dementia Rating (CDR)を用い12),痴呆の介護状況,記憶,見当識,判断と問題行動,家事能力,娯楽と趣味の項目について評価した.高齢痴呆患者45名について,CDRの介護状況の項目で評価し,高度痴呆(CDR=3)と評価された寝たきり状態の群30名(以下,寝たきり群)と,同項目で軽度痴呆(CDR=1)ないしは中等度痴呆(CDR=2)と評価された日常生活に半介助を要する群15名(以下,半介助群)の2群に分けた.寝たきり群はCDRの記憶,見当識,判断と問題行動,家事能力,娯楽と趣味の項目においても中等度痴呆(CDR=2)から重度痴呆(CDR=3)に評価され,一方,半介助群は上記項目は軽度痴呆(CDR=0.5)から中等度痴呆(CDR=2)に評価され,総じて寝たきり群の方が痴呆の程度は重度であった.H病院の入院歴は2年から7年にわたり,寝たきり群と半介助群とでは入院期間には差は認められなかった.また,身体合併症については,高血圧がほとんどの患者に認められた.

Table 1. Subjects

 終夜睡眠ポリグラフ記録時,24時間の活動量の記録時及び4日間連続の活動量記録時には,痴呆症状以外に著明な精神症状や問題行動は認められなかった.
 患者群には,口頭で充分に安全性と研究の主旨を説明し同意を得,協力を求めた.また,理解が不十分と思われる患者については,家族に説明し,家族からも同意を得た.
 寝たきり群30名のうち,15名については終夜睡眠ポリグラフと24時間のアクチグラフ記録を行い,15名については,アクチグラフのみを4日間連続記録した.半介助群15名については終夜睡眠ポリグラフと24時間のアクチグラフ記録を行った.記録不備で除外した例が13例あり,研究の対象とした症例数はTable 1に示すように,高齢痴呆患者群は32名となった.
 健常対照群として男女各5名づつ10名を対象とした.平均年齢は72.1歳で,全員に知的機能,記憶機能,日常生活動作能力についての検査を行い,知的機能やADLには障害がないことを確認した.健常群には,研究の主旨と安全性についての説明を行い同意を得,協力を求めた.

2 終夜睡眠ポリグラフ記録
 終夜睡眠ポリグラフ記録には,在宅や病院のベットサイドで記録を行うことができる携帯型脳波記録装置(日本電気三栄社製北大式携帯型脳波記録装置)を改良したものを用い,睡眠環境の変化による影響を極力減らすように配慮した.脳波2チャンネル(Cz,Pz)は右耳基準の単極導出とし,時定数0.3秒で記録した.水平・垂直眼球運動,筋電図,心電図は双極導出とし,眼球運動は時定数1.5秒で,心電図と筋電図は時定数0.03秒で記録した.その他に鼻腔の吸気・呼気で呼吸をモニターした.脳波,眼球運動,心電図,筋電図,呼吸は連続12時間記録可能なように改良した小型データレコーダーに収録した後,オフラインで脳波計で描出した.毎秒1.5 cmで描記されたポリグラフは20秒区間ごとに視察的に判読し,睡眠段階を判定した.睡眠深度の判定は,Rechtschaffen & Kalesの基準13)に基づいて行われ,マイクロソフト社製集計ソフトを用いて睡眠ヒストグラムを得た.睡眠パラメーターとして各睡眠段階%,途中覚醒時間,睡眠効率を求めた.入眠潜時は入眠時刻を各被験者で一定にできなかったため算出しなかった.また,REM潜時についても第1REMが明瞭に観察されない被験者がいたため計測に用いなかった.入眠の判定は睡眠段階II度が少なくとも10分以上持続した時点を睡眠と判定し,それにさかのぼる睡眠段階I度の開始時点とし,翌朝覚醒が15分以上持続した時点までを総就床時間として,睡眠パラメータの算出に用いた.睡眠ポリグラフ記録は,午後6時から翌朝午前6時までの12時間とした.午後6時から翌朝午前6時までに上記基準を満たす睡眠が得られなかった被験者及び記録途中で電極をはずすなどの不備があった被験者は分析から除外した.

3 昼夜の活動・休止リズムの記録
 昼夜の活動・休止リズムの記録には米国AMI社製腕時計型ミニモーション・ロガ(アクチグラフ)を用いた.微細な動きや,緩徐な動きを除くように設定し,午後6時から翌日午後6時までの24時間連続の記録を行った.健常対照群については,個々の生活リズムを考慮し,午前8時から翌朝午前8時までの24時間の記録を行った.寝たきり状態の15名の高齢痴呆患者には4日間連続記録を行った.
 アクチグラフは装着した腕の全方向への0.01 Gの重力加速頻度を1分間間隔で取り込み,インターフェイスを介してパソコンに転送し,その後数量解析を行った.活動量だけから,睡眠と覚醒を判別するColeら14)の判別式を用い,午後9時から翌朝午前6時までの時間帯に,睡眠と判別された割合を睡眠率として算出した.Coleらの判別式は,加重移動平均で1分ごとの活動量を平滑化し,これに一定の係数を掛け睡眠か覚醒かを判別するもので,健常者のポリグラフで得られた睡眠・覚醒と88%の精度で一致する所見が得られている14)
 午後9時から翌朝午前6時の夜間活動量(Nighttime Activity; NA),午前6時から午後9時の日中活動量(Daytime Activity; DA)を求め,NAに対するDAの割合(% Daytime Activity; %DA)を概日リズムの指標とした.記録途中にアクチグラフをはずして記録が得られなかった被験者はその後の分析から除外した.

4 日中の働きかけについて
 4日連続して昼夜の活動・休止リズムを記録した高齢痴呆患者15名に対して,2日間の基準夜の後,3日目の午前中に社会的・対人的関わりを持つような働きかけを行った.ベッドに寝たままの状態で,患者を陽の当たるデイルームに連れ出し,担当の介護者が90〜120分間付き添い,覚醒を維持するように努めた.記録途中にアクチグラフをはずして4日間の連続記録が得られなかった被験者は分析から除外した.

5 統計検定
 平均値の差の検定にはStudentのt検定を用い,個人内変動の検定には,対応のあるt検定を用いた.有意差の危険率は全てP<0.01とした.

 結 果

1 高齢痴呆患者の睡眠構造の特徴
 Fig. 1とFig. 2に代表的な症例の24時間の活動量と,終夜睡眠ヒストグラムを示した.Fig. 1は寝たきり状態で,ADLは著しく低下し,言語的なコミュニケーションにも大きな障害のある高齢痴呆患者の1例である.アクチグラフでは,昼間の時間帯の活動(日中活動量;DA)と夜間の時間帯の活動(夜間活動量;NA)には大きな差異はなく,明瞭な活動・休止の概日リズムは見られない(%DA=1.074).睡眠構造は,睡眠段階 I 度と覚醒の繰り返しが多く,睡眠段階 II 度は15%位しかなく,REM睡眠は確認されなかった.
 Fig. 2は半介助の状態の高齢痴呆患者の1例で,痴呆の程度は軽度のレベルにある.アクチグラフでは夜間活動量(NA)に比べて,日中活動量(DA)は高く,活動・休止の概日リズムが認められる(%DA=2.21).睡眠構造は,睡眠段階I度が約40%と多いが,睡眠段階 II 度やわずかながら徐波睡眠も見られ,REM睡眠も10%くらい認められる.
 高齢健常者1例のアクチグラフと睡眠構造をFig. 3に示した.日中活動量(DA)と夜間活動量(NA)は大きく変動し,明瞭な活動・休止の概日リズムが見られる(%DA=4.44).睡眠構造は,途中覚醒は20%未満で,睡眠段階 II 度が50%以上を占め,徐波睡眠やREM睡眠も認められる.
 寝たきり群と半介助群を含めた高齢痴呆患者群(20例)と健常高齢者群(10例)の睡眠構造をまとめてFig. 4に示した.高齢痴呆患者群は健常高齢者群に比べて,途中覚醒%と睡眠段階I度%が有意に多く,睡眠段階II度%と睡眠段階 III +IV%は有意に減少していた.REM睡眠%については高齢痴呆患者群で少ない傾向にあったが,有意差は認められなかった.睡眠効率は健常高齢者群が85.4±10.2%であるのに比べて,高齢痴呆患者群では57.1±20.2%と有意に低下していた(P<0.01).
 高齢痴呆群をCDRの介護状況の評価によって2群に分け,寝たきり群(11名)と半介助群(9名)の睡眠構造をまとめてFig. 5に示した.ADLが著しく低下した寝たきり群は半介助群に比べて,睡眠段階 II 度%,REM%が有意に低下し,睡眠段階 I 度%が有意に増加していた(P<0.01).

Fig. 1. Sleep structure and 24-hour activity level (bedridden group).
Sleep polygraph and change in activity level over 24 hours are shown. This patient was bedridden and showed substantial damage to ADL and linguistic communication. There is no clear circadian rhythm (%DAt1.074), and the sleep structure consists of repeated shifting between stage I and arousal.

Fig. 2. Sleep structure and 24-hour activity level (semi-dependent group). Sleep polygraph and change in activity level over 24 hours are shown. This patient was semi-dependent on care for daily activities and his severity of dementia was at an intermediate level. The daytime activity (DA) is comparatively high and a circadian rhythm is detectable (%DAt2.21). The sleep structure shows a 40% stage I sleep, which is high but stage II sleep and REM sleep are also detectable.

Fig. 3. Sleep structure and 24-hour activity level (normal healthy elderly group). Sleep polygraph and change in activity level over 24 hours are shown. The elderly in the group are completely independent in daily activities. DA is high and a clear circadian rhythm is detectable (%DAt4.44). The sleep structure shows about 50% stage II sleep. Slow wave sleep and REM sleep are also detectable.

Fig. 4. Sleep structure comparison between dementia groups and normal healthy elderly group. When the dementia groups were compared with the normal healthy elderly group, the percentages of sleep interruption by arousal and stage I sleep were significantly higher (P<0.01), while the percentages of sleep stage II and slow wave sleep were significantly lower (P<0.01).

Fig. 5. Sleep structure comparison between bedridden group and semi-dependent group. When the bedridden group were compared with the semi-dependent group, the percentages of stage II sleep and REM sleep were significantly lower (P<0.01) and the percentage of sleep stage I significantly rose (P<0.01).


2 高齢痴呆患者の概日リズム障害
 日中活動量(DA)と夜間活動量(NA)及び%DAをFig. 6に示した.健常高齢者群は日中活動量(DA)は高齢痴呆群に比べて有意に高く(P<0.01),また,%DAも有意に高かったが(P<0.01),NAは両群では有意差は認められなかった.健常高齢者群の%DAは2.6〜5.2に分布し,平均3.9であるのに比べて,高齢痴呆群は1.04〜3.0に分布し,平均は1.7で,両群に有意な差が認められた(P<0.01).健常高齢者群には活動・休止の概日リズム障害を示す被験者はいなかった.健常高齢者の%DAの2標準以下の%DAを活動・休止の概日リズムの消失とすると,高齢痴呆患者群20名のうち,18名には明瞭な活動・休止の概日リズムは認められなかった.

Fig. 6. Comparison of daytime activity level (DA), nighttime activity levels (NA) and %DA between the dementia groups and the normal healthy elderly group. The DA and %DA is significantly lower for the dementia groups (P<0.01).


3 働きかけによるDA,NAと睡眠率の変化
 4日間連続して活動量を計測した寝たきり状態の12名について,夜間活動量(NA)と日中活動量(DA)の3日間の睡眠率の変動をFig. 7に示した.働きかけを行った3日目の夜間の睡眠率は1夜,2夜目の基準夜に比べて,12名の全体では上昇していたが有意ではなかった.

Fig. 7. Activity level and sleep rate in dementia patients for a four-day period. Although the percentage of nocturnal sleep on the night of day 3 increased when social and interactive exercises were performed on the day 3, significance was not established.


 1夜と2夜の基準夜で,睡眠率が40%以下の群(N=5)と1夜と2夜ともに睡眠率が40%以上の群(N=7)の睡眠率をFig. 8に示した.睡眠率が1,2夜ともに40%以上と高い群では,働きかけを行った3夜も,1,2夜と変わらない睡眠率を示したのに比べて,睡眠率が40%以下と低い群では,働きかけを行った3夜目の睡眠率が有意に上昇した(P<0.01).

 考 察

 痴呆疾患の睡眠構造と睡眠・覚醒リズムの特徴を明らかにし,痴呆患者の睡眠障害に対する治療方法を模索するにはさまざまな制約がある.痴呆患者では,終夜睡眠を記録すること自体の困難さもあり,痴呆患者の睡眠研究は画像診断を用いた研究に比べて,報告は少ないのが現状である8).本研究では,脳血管障害に起因する高齢痴呆患者を対象とし,ADLの視点から,寝たきり群と半介助群に分けて検討を行った.

Fig. 8. Changes in sleep rate of the good sleep rate group and the bad sleep rate group. Sleep rates were compared between the group with more than 40% sleep rate and the group with less than 40% sleep rate on the standard nights of nights 1 and 2. On day 3, after social and interactive exercises were performed, the group with a sleep rate lower than 40% on the standard night showed a significant increases (P<0.01) in sleep rate when compared to the standard nights.

1 高齢痴呆患者の睡眠構造と覚醒・睡眠リズムについて
 Alzheimer型痴呆では,活動・休止リズムが不規則になった段階でも体温リズムはなお保たれているのに対して,多発性脳梗塞痴呆では,重症化するにつれて活動・休止リズムも体温リズムも障害されることから,体温リズムと活動・休止リズムには異なった脳の構造が関与している可能性を示唆する報告がある15).大川は,痴呆老人には睡眠・覚醒リズム障害が高頻度で見られ,これには生体時計の機能的あるいは器質的障害が関与するとしておりまた,夜間の睡眠が極端に少ない例では,昼夜逆転した睡眠・覚醒リズムになり,夜間の睡眠が多い例では睡眠・覚醒リズム障害は軽度であったと報告している10,11).さらに,生体リズムの指標の一つである体温リズムについても日常生活動作能力が極めて低い患者では,体温変化は少なく平坦化すること,痴呆患者の約60%で体温の概日リズムが不明瞭であったと報告している10,11)
 今回対象とした患者は,痴呆の重症度も重く,ADLの低下も著しい高齢痴呆患者で,睡眠構造は健常高齢者群に比べて,中途覚醒時間と睡眠段階 I 度%が増加し,睡眠段階 II 度%,徐波睡眠%及び睡眠効率も有意に低下し,明瞭な活動・休止の概日リズムも見られなくなる.これをさらに,寝たきり群と半介助群に分けて検討すると,寝たきりの群では,半介助の群に比べると,睡眠段階 II 度%,REM睡眠%はさらに減少し,睡眠段階 I 度%が増加するという結果であった.今回の結果は,Alzheimer型痴呆で睡眠段階 I 度の増加が痴呆の重症度と相関するという報告及び多発性脳梗塞痴呆では重症化するにつれて活動・休止のリズムが消失するという報告と類似していた.この結果から,寝たきり状態の高齢痴呆患者では,脳の機能的,器質的病変により,生体リズムの低下が引き起こされ,一定時間の睡眠や覚醒を維持することができなくなり,睡眠構造と活動・休止リズムの概日リズムにも障害が生じた可能性が示唆された.

2 働きかけによる睡眠率の変化
 痴呆老人にみられる睡眠・覚醒リズム障害を是正する方法として,高照度光を一定時間与えて,生体リズムの同調因子を強化する治療方法や,メラトニンを投与してメラトニンリズムを調整することにより,睡眠・覚醒リズムを改善しようとする治療方法が報告されている15).また,ヒトにとって最も強力な同調因子は社会的接触であり,社会的同調因子が乏しい入院生活を送っている高齢痴呆患者に対しては,この社会的同調因子を強化することが,痴呆性老人の睡眠・覚醒リズム障害に有効であるとする報告がある9,10,15-17)
 今回,寝たきりで社会的接触の乏しい患者に対して,昼間約90〜120分介護者が付き添い,患者を陽の当たるデイルームに連れ出し,社会的・対人的な接触を増やし,社会的同調因子の強化が,睡眠・覚醒リズムに影響を与えるかどうか検討した.活動量を計測するアクチグラフのデーターで夜間の睡眠率をみると,働きかけを行った夜の睡眠率は基準夜の睡眠率が40%以下の群で,明らかに上昇した.
 寝たきりの状態にある患者では,リズム同調因子である光や,対人的な社会的同調因子も減少し,睡眠・覚醒リズム障害をさらに強めていた可能性もあり,高度の痴呆で寝たきりの状態にある患者に対しても,社会的同調因子を強化するこの治療方法は,睡眠・覚醒リズム障害の是正には有効な手段であると考えられた.今回用いた社会的・対人的働きかけは,ある程度睡眠障害を改善することができ,人的資源の問題はあるが,安全でかつ患者の生活の質を高めるためにも有効であると思われた.

 結 論

 寝たきり状態を含む高齢痴呆患者を対象に,終夜睡眠ポリグラフ記録と24時間の活動量記録を行い,社会的同調因子の一つとして介護者の働きかけが睡眠に与える影響について検討した.高齢痴呆患者で日常生活動作能力が低下すると,睡眠構造も活動・休止の概日リズムもともに障害されていた.高齢痴呆患者の睡眠構造の特徴は,睡眠段階 I 度%の増加と,睡眠段階 II 度%,REM睡眠%の減少と睡眠効率の低下であるが,睡眠構造の変化が,痴呆の重症度と関わるのか,日常生活動作能力と関わるのかは本研究からは明らかにできない.しかし,睡眠構造の変化と活動・休止のリズム障害には脳の機能的ないしは器質的要因が関わり,生体リズム障害が背景にある可能性がある.社会的同調因子を強化する働きかけは,睡眠率が低く睡眠・覚醒リズムの障害が強い患者で特に有効であった.

 謝 辞

 本論文の御高閲を賜わりました埼玉医科大学精神医学教室山内俊雄教授に深謝いたします.本研究を続けるにあたって,終始惜しみない励ましをいただいた埼玉医科大学神経精神科センターの脳波研究グループの先生方及び脳波技師の諸姉に深く感謝いたします.また,この研究のために大変なご協力をいただきました,飯能靖和病院吉田栄院長とスタッフの方々に厚くお礼申し上げます.
 本研究は厚生省長寿科学研究費及び,厚生科学研究費の助成を受けた(長寿科学総合科学研究,脳の老化の生理学的指標に関する研究,研究班長山口成良金沢大学名誉教授,山内俊雄埼玉医科大学精神医学教室教授班員).また,本研究の一部の資料は文献16,17)の報告書に発表し,第26回日本脳波・筋電図学会学術集会(1996年,京都),第12回日本老年精神医学会(1998年,札幌)で口演発表した.

 引用文献

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(C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School