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埼玉医科大学雑誌 第28巻第3号 (2001年7月) 150頁 (C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School

特別講演

主催 埼玉医科大学総合医療センター外科 ・ 後援 埼玉医科大学卒後教育委員会
平成13年3月26日 於 埼玉医科大学総合医療センター小講堂

呼吸器外科学研究35年を振り返って

山崎 史朗

(東邦大学胸部心臓血管外科学)


 私が呼吸器外科学の研究を始めてから約35年間に行なった臨床ならびに実験研究の中から,私自らの思い出に深い印象を残し,かつ多少の独創性を有すると思われる研究課題を四つ取り上げ,その各々を話題として提供した.
 まず最初は「肺移植の基礎的研究」という課題で,私が大学で研究を開始した頃の肺移植研究の日本における状況を述べ,当時考えられた肺移殖にまつわる幾つかの問題点を指摘してから,私が行なった肺保存法に関係した摘出肺潅流実験ならびに気管支内冷却保存法,肺保存法研究のために考えだされた独自の自家肺葉移殖術,さらには両肺一括自家,同種移植実験について,それらの実験内容とその結果を当時学会に発表したスライドを用いて講演した.次いで最近日本でもやっと行なわれだした死体肺移植術の手技を中心に述べて,その現在行なわれている肺移植の標準術式が,未だ実験段階であった35年前に考えられた肺移植にまつわる種々の問題点を如何に解決し得たか,そしてその後新しく発生した問題点は何か,について言及した.移殖免疫の面ではその後のサイクロスポリンの発明が移殖医療の発展に大きく関与し,かつ肺移植の外科的手技そのものの進歩が現在の世界中の肺移植の発展に関与したことを述べると共に,一方では以前には研究課題とされた肺移植による肺門神経,リンパ管切断による移殖肺機能の障害が今では余り問題とされず,また,肺保存の問題は移殖臓器の移動操作などの改善により余り長期の保存手段は必要とされないということ,そして以前は考えられなかった再潅流障害と慢性拒絶反応と考えられているBronchiolitis obliteranceが新しい問題点とされるに至っている現状を述べた.
 次に講演した研究課題は「再膨張性肺水腫とそれに関係した虚脱肺血流に関する臨床的ならびに実験的研究」で,長時間虚脱した肺を急激に再膨張させるとその肺に肺水腫が発生することがあることは当時から臨床面で指摘されていて,その原因はいくつか考えられていた.そこで私は実際に自然気胸患者で急激な再膨張をさせた直後の肺血流を肺シンチグラムで測定し,再膨張直後の血流は減少していることから肺水腫の原因としてその肺における血流の増加は否定できることを証明したことを述べた.また,それに関係して虚脱肺血流の状態とそれに関与する諸因子の分析を実験的に研究したのでそれについても簡単に言及した.
 次の「開胸術後の咳嗽力,喀痰喀出力の研究」と「肺癌に対する放射線治療の効果増強を目的とした一側肺高酸素化の研究」という二つの研究課題について,講演時間の関係でそれらの詳細には言及出来なかったが,私自身は独創性があるものと自負しているそれらの研究内容を簡単に述べて本講演を終了した,本日の私の講演が今後の若い学徒の研究の発展に何らかの寄与があらんことを期待して.

(C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School