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埼玉医科大学雑誌 第28巻第3号 (2001年7月) 151頁 (C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School

特別講演

主催 埼玉医科大学ゲノム医学研究センター ・ 後援 埼玉医科大学卒後教育委員会
平成13年6月6日 於 埼玉医科大学第四講堂

Cyclin G recruits PP2A to dephosphorylate Mdm2. 
サイクリンGはPP2A(タンパク質ホスファターゼ2A)を運んで来てMdm2を脱リン酸化する

岡本 康司

(国立がんセンター 放射線研究部 生物学室長)


 私は,本年4月国立がんセンターの田矢洋一先生の元に室長として赴任しましたが,今回は留学先のDr. Carol Prives研究室で行った研究を話しました.私はもともと転写因子であり,かつ,癌抑制遺伝子であるp53に興味を持っており,それ故,私はそのタンパク質によって制御される遺伝子をクローン化しようと考えました.私のとったストラテジーは,p53のts株を材料として32 ℃という低温状態に特異的に発現する遺伝子をディファレンシャルディスプレーという手法を用いて同定するというものでした.事実この方法を用いてcyclin Gというタンパク質を同定しました.さらに私は,そのcyclin Gと相互作用するタンパク質としてフォスファターゼの一つであるPP2Aタンパク質を同定しました.PP2Aは,活性をもつCサブユニットに加え,活性調節の役割を持つA及びBサブユニットが結合する3量体タンパク質であり,Bサブユニットには,その亜型であるB’及びB”サブユニットが存在します.それ故,合計3種類の複合体が存在しますが,その中でcyclin Gタンパク質はB’サブユニットのみと相互作用することがわかりました.しかも,そのcyclin G-B’サブユニットの結合はB’サブユニットが遊離の状態では見られず,PP2A複合体の中に取り込まれた状態でのみ,結合することが明らかになりました.さらに私は,次の段階としてcyclin G/PP2A複合体の生理的な基質は何であるかを明らかにすることを目標に研究を始めました.但しこの疑問に答えを出すことは決して簡単ではなく,事実,約2年間,暗中模索の状態が続きました.しかしながら,私は,自分が,cyclin Gをp53の下流遺伝子の一つとしてクローン化したこと,かつ,細胞内局在においてcyclin Gが核小体に豊富に存在するという事実からp53のフィードバック調節因子の一つであるMdm2が基質にあるのではないかという仮説を持ちました.そして,その仮説が正しいことを免疫沈降等の手法を用いて証明しました.また,これらタンパク質間の相互作用の生物学的な重要性はcyclin GノックアウトマウスにおいてMdm2のリン酸化が高レベルに保たれているという事実により確信しました.
 以上,まとめると,私は,p53タンパク質の下流遺伝子の1つとしてcyclin Gタンパク質を同定し,かつ,このタンパク質の生物学的役割の一つとして,PP2Aと共同してMdm2タンパク質を脱リン酸化するという機能を見つけました.今後,このMdm2タンパク質の脱リン酸化部位を同定することとその脱リン酸化によりMdm2タンパク質の生化学的性質がどのように影響を受けるかを明らかにしていきたいと考えています.
(文責 奥田晶彦)
(C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School