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埼玉医科大学雑誌 第28巻第3号別頁 (2001年7月) T33-T41頁 (C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School


Thesis

糸球体疾患における尿中podocyteの臨床的意義

松田 昭彦

埼玉医科大学総合医療センター第四内科
(指導:磯田 和雄教授)
医学博士 乙第742号 平成13年2月23日(埼玉医科大学)


 硝子化糸球体や巣状分節状糸球体硬化は末期腎不全に認められる共通の,しかも非特異的な組織変化である.臓側の糸球体上皮細胞であるPodocyteは,高度に最終分化し,分裂能を持たない細胞と考えられており,podocyteの脱落は分節状糸球体硬化病変の最初の引き金となることが明らかにされてきている.また,小児においてIgA腎症や巣状糸球体硬化症などの糸球体疾患において,尿中にpodocyteが検出されることが報告されている.したがって,尿中のpodocyte数が糸球体疾患において重症度の指標になる可能性がある.本研究の目的は,半定量的評価による尿中podocyte数が糸球体障害の重症度を反映する非侵襲的な臨床指標となるかを明らかにすることである. 
 本研究では,63例のIgA腎症患者,および35例のネフローゼ症候群患者を対象とした.尿中podocyteは,podocyteの膜表面に硫酸基を有する糖蛋白として存在するpodocalyxinに対するモノクローナル抗体を用い,蛍光抗体法で検出した.
 IgA腎症患者では,尿中podocyte数は尿蛋白排泄量,血尿の程度と正相関を認めた.また,尿中podocyte数は腎生検組織における急性管外病変の程度とも相関を認めた.ネフローゼ症候群では,巣状分節状糸球体硬化症,膜性腎症および瀰漫性増殖性糸球体腎炎で尿中podocyteを高頻度に認めた.尿中podocyteが1個/ml未満の症例は1個/ml以上の症例に比較し,グルココルチコイド療法に良く反応した.さらに,治療開始4週後に尿中podocyteが消失した例では治療反応性が良く,尿中podocyteの排泄が持続する例ではグルココルチコイド療法に抵抗性を示した. 
 結論として,これらの結果は尿中podocyte数の評価が,IgA腎症においては急性管外病変の存在を示唆する臨床指標として,ネフローゼ症候群においてはグルココルチコイド療法に対する治療反応性を予測する上で有用であることを示している.
Keywords: podocyte, IgA nephropathy, extracapillary lesions, nephrotic syndrome, response to glucocorticoid therapy

 諸 言

 進行性腎障害では共通した組織病変として糸球体硬化が認められるが,その初期病変として巣状分節状硬化病変が重要であることが指摘されている1).糸球体係蹄を覆う臓側の糸球体上皮細胞(podocyte)は高度に分化した細胞で,分裂増殖能を持たない細胞と考えられており2),podocyteの障害により巣状分節状の糸球体硬化病変が形成されることが明かにされてきた3).Podocyteが基底膜から剥離すると糸球体係蹄とBowman嚢が癒着し,分節状の糸球体硬化病変が形成されると考えられている4,5).さらに,podocyteの足突起間の間隙にはslit diaphragmが存在するが,蛋白尿の成因に関してもpodocyteの役割が注目されている.1974年Karnovskyらは slit diaphragmが高分子物質の透過を防ぐバリヤーとなるという仮説を提示した6,7).最近,Finnish typeの先天性ネフローゼ症候群において原因遺伝子が同定され,その遺伝子産物であるnephrinがslit diaphragmの構成蛋白であり8),蛋白尿を誘導するモノクローナル抗体5-1-6のepitopeがnephrinの分子上にあることも証明された9).以上のように糸球体疾患の進展および尿蛋白の成因において,podocyteの障害が極めて重要な因子であることが明かにされてきた.
 podocyteの尿腔側細胞膜上には,シアル酸を多く含み陰性荷電を持つ糖蛋白podocalyxinが存在することが,ラットおよびヒトで証明されている10,11).このpodocalyxinに対するモノクローナル抗体であるPHM512)を用いて,Haraらは尿沈渣の蛍光抗体法を開発し,尿中にpodocalyxin陽性細胞,すなわちpodocyteが検出されることを明かにした13).小児糸球体疾患を対象に検討した成績では,IgA腎症(IgA nephropathy;以下IgANと略す)や巣状糸球体硬化症(focal segmental slomerulosclerosis;以下FSGSと略す)などの疾患で尿中にpodocyteが検出され,尿中podocyteが進行性糸球体障害の臨床的指標となり得る可能性を指摘している13,14).しかし,成人の糸球体疾患においては尿中podocyteの検出意義に関する検討はほとんど行われていない.
 本研究では,成人のIgANとネフローゼ症候群患者を対象に,尿中podocyte数を評価し,その臨床的意義について検討した.

 対象および方法

1.対象

 当科にて腎生検を施行し,組織診断の確定しているIgAN63例(男性28,女性35)とネフローゼ症候群(Nephrotic syndrome;以下NSと略す)35例(男性18,女性17)を対象とした.平均年齢は,IgAN症例が35.2±14.2(SD)歳(16〜72歳),NS症例が48.3±18.0歳(16〜73歳)であった.
 NS症例の腎生検組織診断は微少変化型ネフローゼ症候群(minimal change nephritic syndrome;以下MCNSと略す)4例,FSGS7例,膜性腎症(membranous nephropathy;以下MNと略す)5例,膜性増殖性糸球体腎炎(membranoproliferative glomerulonephritis;以下MPGNと略す)7例(内;原発性MPGN 4例,Lupus腎炎3例),メサンギウム増殖性糸球体腎炎(mesangial proliferative glomerulonephritis;以下Mes PGNと略す)10例(内;IgAN 8例,紫斑病性腎炎2例),管内増殖性糸球体腎炎(endocapillary proliferative glomerulonephritis;以下End PGNと略す)2例であった.

2.方 法

1) 尿中podocyte数の測定
 尿中podocyte数は早朝新鮮尿30 mlを尿細胞保存液20 mlが入っているウリキープ5D(武藤薬品)に保存し,以下の方法で測定した.ポリ-L-リジンをコーティングしたスライドグラス上にサイトスピンにてオートスメアを作成,その後アセトン固定し,サイトスピンされた領域を間接蛍光抗体法にて染色した.一次抗体はpodocalyxinに対するモノクローナル抗体,PHM5(Australian Monoclonal Development社)を200倍に希釈して用いた.2次抗体はFITC標識ヤギ・抗マウスIgG F(ab’)2抗体(Cappel社)を50倍に希釈して使用した.反応時間は1次抗体が60分間,2次抗体が30分間とし,いずれも室温で反応後,PBS(phosphate buffered saline)で3回洗浄した.染色後,蛍光顕微鏡にてpodocalyxin陽性細胞を数え,尿1ml中に認められるpodocyte数として表現した.
2) 臨床検査
 一般尿検査は,尿中podocyteの検索尿を用いて行った.血尿の程度は尿沈渣を400倍で鏡検し,Hara13)ら報告に準じ5視野の赤血球数の平均から,0〜4個/high power field(HPF):0点,5〜9個/HPF:1点,10〜29個/HPF:2点,30個以上/HPF:3点とスコア化した.同様に,顆粒円柱も5視野の平均数として算出した.
 血液生化学検査は,尿中podocyteの採尿と同時に早朝採血し,血清尿素窒素(BUN),血清クレアチニン(sCr)を測定した.尿生化学検査は,尿中podocyteの採尿前日の24時間蓄尿を用いて,一日尿蛋白排泄量,内因性クレアチニン・クリアランス(Ccr),尿中N-acetyl-β-D-glucosaminidase(U.NAG),尿中β2-microglobulin(U.β2MG)を測定した.尿蛋白定量は,pyrogallol redによる比色定量法を用い,U.NAG,sCr,BUNは酵素法を用い,U.β2MGはenzyme-linked immunoassay法を用いて測定した.
3)IgANにおける予後分類および腎組織障害度と尿中podocyteの関連
 厚生省進行性腎障害調査研究班・日本腎臓学会合同委員会によるIgAN診療指針に基く腎生検時の予後判定基準15)に従って,予後良好群( I 群),比較的予後良好群( II 群),比較的予後不良群( III 群)および予後不良群( IV 群)に大別し,尿中podocyte数との関連を検討した.さらに,腎生検施行時に尿中podocyte数の測定が行われ,かつ腎生検組織に糸球体が10個以上含まれていた18例において,重松の分類16) によるIgANの腎組織障害度を評価し尿中podocyte数との関連を検討した.すなわち,腎生検標本にて急性病変と進行度(硬化性病変)の両面からそれぞれ糸球体の管内性病変,管外性病変および尿細管間質病変の拡がりを評価し,0から3の4段階にスコア化した.なお,腎生検組織病変はhematoxylin-eosin(HE)染色,periodic acid-Schiff(PAS)染色,periodic acid-methenamine-silver(PAM)染色,Masson trichrome 染色標本を用い光学顕微鏡で検討した.
4)NSにおける治療反応性と尿中podocyte数の関連
 35例全例がグルココルチコイドを初期投与量0.8〜1.0 mg/kgで投与された.ステロイド療法に対する治療反応性を投与開始後8週目に評価し,治療開始前の尿中podocyte数との関連を検討した.完全寛解,および不完全寛解 I 型のものをステロイド反応例,不完全寛解 II 型,およびNSが持続するものをステロイド抵抗例とした.また,ステロイド療法開始後4週目に尿中podocyte数を再度測定し得た24症例では,尿中podocyte数の推移と治療反応性との関連性を検討した.
5)統計処理
 数値は,mean±SDで表記した.尿中podocyte数と各パラメーター間の相関関係はSpearmanの順位相関係数を用いて検定し,2群間の治療成績の検定にはFisherの直接確率計算法を用い,p<0.05を統計学的に有意とした.

 結 果

1.IgANにおける尿中podocyteの動態
1)尿中podocyte数の分布
 IgAN症例の平均sCr値は1.24±1.86 mg/dl,平均一日尿蛋白排泄量は1.05±1.12 g/日であった.症例ごとの尿中podocyte数をみると,podocyteが全く検出されない症例は28.6%で,わずかに検出される(0.1〜0.9個/ml)症例が25.4%,1〜1.9個/mlと2.0〜2.9個/mlの症例が各々15.9%,3個/ml以上認める症例が14.3%(3.0〜3.9個/ml;1.6%,4.0〜4.9個/ml;3.2%,5個以上/ml;9.5%)であった(図 1).

図1.IgA腎症における尿中podocyte数の分布.
円グラフは尿中podocyte数による症例(n=63)の分布を示す.斜線範囲は尿中podocyteが全く検出されない症例を示す.

2)IgANにおける尿中podocyte数と臨床検査所見との関係
 一日尿蛋白排泄量と尿中podocyte数の間に,正の相関(r=0.275,p<0.05)を認めた(図2).また,血尿の程度と尿中podocyte数の間にも正の相関(r=0.383,p<0.003)が認められた(図2).他の臨床的なパラメーターとの関係では,Tableに示すように顆粒円柱と尿中podocyte数の間にも正の相関が認められたが,BUN,sCr,Ccr,尿中NAG,尿中β2MGと尿中podocyte数との間には関連を認めなかった.

図2.尿中podocyte数と尿蛋白,血尿.
左のパネルは尿中podocyte数と一日尿蛋白排泄量の関係,右のパネルは尿中podocyte数と血尿の程度との関係を示す.尿中podocyte数は尿蛋白排量,血尿の程度と正の相関を認めた.

3)予後分類および腎組織障害度と尿中podocyte数との関係
 厚生省進行性腎障害調査研究班によるIgANの予後分類では, I 群3例, II 群6例, III 群39例, IV 群15例に分けられた.予後不良の III 群, IV 群で尿中podocyte数が高値の症例を認めたものの陰性例もあり,この予後分類と尿中podocyte数との間には明かな関連性を認めなかった(図3).

図3.尿中podocyte数と予後分類.
IgAN症例(n=63)を予後判定基準に従って4群に大別した.
I;予後良好群, II ;比較的予後良好群, III ;比較的予後不良群, IV ;予後不良群
III , IV 群で尿中podocyte数が高値の症例を認めたが,尿中podocyte数と予後分類との間に明らかな関連性を認めなかった.

 腎組織障害度では,糸球体の急性管外病変の程度と尿中podocyte数の間に正の相関を認めた.しかし,全体の組織重症度をはじめ,急性管内病変,糸球体組織進行度,尿細管間質病変と尿中podocyte数との間には,相関関係を認めなかった(図4).

図4.尿中podocyte数と腎組織障害度(n=18).
A:急性管内病変,B:硬化性管内病変,C:急性管外病変,D:硬化性管外病変,E:急性尿細管間質病変,F:線維性尿細管間質病変,G:急性糸球体病変,H:硬化性糸球体病変 尿中podocyte数と急性管外性病変の程度の間に正の相関を認めた(panel C).:統計学的有意

2.NSにおける尿中podocyteの動態
1)尿中podocyte数の分布
 NS症例の平均sCr値は1.29±1.46 mg/dl,平均尿蛋白排泄量は6.15±4.39 g/日であった.NS全症例では,尿中にpodocyteが全く検出されない症例が17.1%,わずかに検出される(0.1〜0.9個/ml)症例が20.0%,1〜1.9個/mlの症例が11.4%,2.0〜2.9個/mlの症例が22.9%,3.0〜3.9個/mlの症例が11.4%,4.0〜4.9個/mlの症例が2.9%,5個以%上/mlの症例が14.3%であった(図5).

図5.ネフローゼ症候群における尿中podocyte数の分布.
円グラフは尿中podocyte数による症例(n=35)の分布を示す.斜線範囲は尿中podocyteが全く検出されない症例を示す.

 腎組織型別に尿中podocyte数の分布を図6に示した.MCNSでは尿中podocyte数が1個未満/mlの僅かに認める症例が2例で,他の2例では検出されず,尿中podocyte数は最も少なかった.FSGSでは7例中6例において尿中podocyteが陽性で,そのうち3例は1個/ml以上であった.MNにおいても5例中4例で尿中podocyteが陽性であり,1例は5個/ml以上の排泄を認めた.MPGNの7例中6例,Mes PGNの10例中8例で陽性,End PGNでは2例とも陽性であり,増殖性糸球体腎炎では尿中podocyteが84.2%と高率に検出された.さらに,尿中podocyteが10個/ml以上と多数の排泄を認めた4症例では,全例に細胞性半月体が観察された.また,尿中にpodocyteが検出されたMNの症例は,腎生検組織において巣状分節状硬化病変を合併していた.NSでは蛋白尿排泄量と尿中podocyte数の間には相関を認めなかった.

図6.腎組織型別の尿中podocyte数(n=35).
FSGS,MN,増殖性糸球体腎炎症例ではMCNS症例と比較し,尿中podocyte数が高値であった.
MCNS;minimal change nephrotic syndrome, FSGS; focal segmental glomerulosclerosis, MN; membranous nephropathy, MPGN; membranoproliferative glomerulonephritis, Mes PGN;mesangial proliferative glomerulonephritis, End PGN;endocapillary proliferative glomerulonephritis.

2)尿中podocyte数とステロイド療法に対する治療反応性
 腎生検施行日の早朝尿中podocyte数が1個/ml以上の群と1個/ml未満の2群に分け,ステロイド薬開始後8週目の治療反応性との関連を検討した.図7に示すように,尿中podocyte数が1個/ml以上であった22例中14例(64%)がステロイド抵抗性を示した.しかし,尿中podocyte数が1個/ml未満であった13例では,12例がステロイド薬に良く反応し,ステロイド抵抗性を示したのはわずか1例(7.7%)に過ぎなかった(p<0.002).また,MCNS 4例を除いた31症例での検討でも,尿中podocyte数が1個/ml未満の症例ではステロイド抵抗性を示した例(1/9) が有意に少なく(p<0.01),同様の結果であった.
 さらに,6ヶ月間以上経過観察が可能であった30症例について,腎生検時の尿中podocyte数と治療反応性を検討したところ,腎生検時に尿中podocyte数が1個/ml以上であった19症例中10例(53%)が治療抵抗性を示したのに対し,尿中podocyte数が1個/ml未満の11例では1例(9.1%)が治療抵抗性を示したのみであり,治療開始後8週目の成績と同様であった(p<0.01).

図7.治療前の尿中podocyte数と治療開始後8週目のステロイド抵抗性.
腎生検時の尿中podocyte数が1個/ml以上の症例は1個/ml 未満の症例と比較し,ステロイド抵抗例率が高かった.

3)尿中podocyteの推移と治療反応性
 ステロイド反応例とステロイド抵抗例の2群に分け,腎生検時とステロイド薬開始後4週目の尿中podocyte数の推移を図8に示した.点線はMCNSの3例,実線はその他のNS症例21例である.ステロイド反応例では全例において4週後の尿中podocyte数が減少し,13例中11例では尿中podocyteが陰性となった.一方,ステロイド抵抗例でも4週後の尿中podocyte数は2例を除き減少したが, 陰性となったものは1例のみであった.4週後の尿中podocyte数が上昇した2例はMPGNとMNの症例で,6カ月後の判定でも治療抵抗性であった.
 さらに,治療開始4週後に尿中podocyteが消失した症例と持続陽性であった2群に大別してステロイド薬に対する反応性を検討した結果,尿中podocyteが持続陽性を示した12例中10例(83.3%)がステロイド抵抗性であったが,尿中podocyteが消失した12例では1例(8.3%)のみがステロイド抵抗性であった (図9,p<0.0007).さらに,尿中podocyteの消失は尿蛋白の消失に先行して認められた.

図8.腎生検時と治療開始4週後の尿中podocyte数の推移.
左のパネルに示すように,ステロイド反応例は全例において尿中podocyte数が減少し,さらに消失する例が多かった.一方,右のパネルに示すように,ステロイド抵抗例は尿中podocyteの排泄が持続する例が多かった.

図9.尿中podocyte数の推移と治療開始後8週目のステロイド抵抗性.
治療開始4週後に尿中podocyteの排泄が持続した症例は尿中podocyteの排泄が消失した症例と比較し,ステロイド抵抗例率が高かった.

 考 察

 解剖学的にpodocyteは糸球体基底膜のBowman腔側に面している細胞であり,Hara13)らは糸球体障害に伴い尿中に排泄される可能性が高いと考え,podocyteのBowman腔側細胞膜上に特異的に発現している膜蛋白のpodocalyxinに対するモノクローナル抗体であるPHM512)を用いた尿沈渣の蛍光染色抗体法により,尿中podocyteを同定する方法を開発した.そして,小児IgANやFSGSにおいて尿中podocyteが高頻度に検出され,しかもpodocyte障害の臨床的指標になる可能性を報告した13,14).今回の研究により,成人においてもIgANを初めとする増殖性糸球体腎炎や,巣状分節状の糸球体硬化病変を伴うFSGSやMNの症例において,高頻度で尿中にpodocyteが検出されることが明かとなった.
 IgANにおいては71.4%の症例で尿中にpodocyteが検出され,尿中podocyte数と尿蛋白排泄量,血尿の程度,および顆粒円柱数との間に緩やかな正の相関を認めた(表1).また,腎生検組織所見との関連では,細胞性半月体を中心とした急性管外病変の程度と尿中podocyte数との間に正の相関を認めたが,管内病変,尿細管間質病変および硬化性病変と全体の組織障害度の間には関連を認めなかった(図4).しかし,腎生検時のIgAN予後判定分類と尿中podocyte数には,相関を認めなかった.以上のことから,IgANでは急性管外病変により糸球体基底膜から剥離・脱落したpodocyteが尿中podocyteとして検出されている可能性が考えられるが,一時点での尿中podocyte数が長期予後や進行度を直接反映する指標とはならないと思われた.IgANではパラメサンギウムの炎症が糸球体基底膜とpodocyteの剥離を引き起こす要因であり,その結果生じる分節性管外病変の形成17),ならびにそのような分節病変の加重,蓄積がIgANを進行させるとする考えもある18).このようにIgANの進行過程では,メサンギウム病変ばかりではなくpodocyteの障害も重要な要因と考えられるが,本研究の結果では尿中podocyte数を検討することにより,活動性の高い分節性管外病変の存在を尿所見から推測できる可能性がある.尿中podocyte数の評価は非侵襲的に,かつ経時的に検討することができるなどの利点が多く,臨床的に有用な検査法となる可能性が考えられた.

表1.尿中podocyte数と臨床検査所見との関係(n=63)
尿中podocyte数は尿蛋白排泄量,血尿の程度,顆粒円柱数と正の相関が認められた.
BUN: blood urea nitrogen, sCr; serum creatinine, Ccr; creatinine clearance, U.NAG; urinary N-acetyl-b-D-glucosaminidase, U.b2MG;urinaryb2-microglobulin.

 NSを対象とした検討成績から,MCNS症例においては尿中podocyteは極少数か,あるいは検出されない.それに対し,FSGS症例では1例を除き尿中podocyteが陽性(85.7%)で,1個/ml以上の高値例も3症例あった.MCNSとFSGSを鑑別することはステロイド薬に対する治療反応性を予測する上で重要であり,今回の研究結果から尿中podocyte数の測定が両者を鑑別する補助診断になり得ると考えられるが,最近,Nakamuraら19)も同様の成績を報告している.今回の研究では,症例数も少なく,バイアスが大きいため単純な評価には問題があるが,MNにおいても80%の症例で尿中にpodocyteが検出された.しかし,尿中podocyte数が高値の症例では腎生検組織においてMNとともに巣状分節状硬化病変の合併が認められた.文献的20,21)にもMNに巣状分節状硬化病変を合併することが少なくなく,そのような症例では予後不良であることが報告されていることから,尿中にpodocyteが検出されるMN症例では,巣状分節状硬化病変を伴うpodocyte障害が存在する可能性が推測された.また,MPGN,Mes PGNおよびEnd PGNなどの増殖性糸球体腎炎では, IgANの場合と同様に尿中にpodocyteが高頻度で検出された(図6).さらに,尿中podocyteを10個/ml以上認める症例では,腎生検組織において細胞性半月体形成を伴っていたことより,NSにおいても尿中にpodocyteを多数認める場合には,細胞性半月体病変の合併を考慮すべきであると考えられた.
 IgANでは尿中podocyte数と尿蛋白排泄量との間に正の相関関係が認められたが,NSではこの様な相関関係は認められなかった.その理由として,大量の蛋白尿を呈するNSでは,MCNSのようにpodocyteの脱落を伴う様な障害とは異なる機序によって引き起こされる蛋白尿が病態の主体をなすと考えられる.MPGNやMes PGNの症例の中にも尿中にpodocyteがほとんど認められない症例が少数ながら存在し,これらの症例ではステロイド薬の反応性が良好であったことから,増殖性糸球体腎炎の中にもMCNSに近い病態によってNSを発症している症例もある可能性が推測された.
 NSにおいてステロイド薬に対する治療反応性と尿中podocyte数との関連性を検討した結果,治療開始時に尿中podocyte数が1個/ml以上であった症例では,22例中14例がステロイド抵抗性を示したのに対し,尿中podocyte数が1個/ml未満であった13例では1例がステロイド抵抗性を示したに過ぎなかった (図7,p<0.002).すなわち,治療開始時の尿中podocyte数が1個/ml以上という成績からステロイド抵抗性を判断した場合,感度は63.6%になるが,尿中podocyte数が1個/ml未満と言う成績からステロイド反応性を判断すると,その感度は92.3%で,特異度は74.3%であった.さらに,治療開始4週後に尿中podocyteが消失しなかった12例の内10例がステロイド抵抗性であったのに対し,尿中podocyteが消失した12例では1例のみがステロイド抵抗性を示したに過ぎなかった(図9,p<0.0007).この治療開始4週後の尿中podocyteが持続陽性であると言う成績によりステロイド抵抗性を判断すると,感度は83.3%,特異度は91.6%になり,臨床的な指標として十分に満足できると考えられた.以上の成績より,尿中podocyte数はNS症例のステロイド薬に対する反応性を予測する有用な臨床的指標となる可能性が示唆され,特に4週後に尿中podocyteの推移をみることで,より的確にステロイド反応性を評価できると考えられた.
 本研究では,健常者における尿中podocyteの有無を検討していないが,Nakamuraらの報告19)では健常者の尿中にpodocyteは検出されていない.今回の研究においても,NSの寛解症例では尿中podocyteがほとんど消失していることから,尿中podocyteを僅かでも認めることは異常所見と考えられるかもしれない.今回の研究では尿中にpodocyteを僅か(1個/ml未満)に認める場合の病的意義を明らかにすることはできなかった.しかし,尿蛋白が近位尿細管上皮細胞に直接作用して尿細管間質病変を進展させることが明かにされてきており22),尿蛋白がpodocyteに対しても直接障害性に作用している可能性も推測されることから,今後検討すべき課題と思われた.

  結 論

1.IgA腎症では71.4%の症例で尿中にpodocyteが検出され,尿中podocyte数は尿蛋白排泄量,血尿の程度,および顆粒円柱数と正の相関が認められた.
2.IgA腎症において尿中podocyteは急性管外病変を主体とする活動性の高い糸球体病変の存在を示唆しており,尿中podocyteを経時的に測定することによりIgA腎症の活動性を評価することができると考えられた.
3.ネフローゼ症候群では巣状分節状糸球体硬化症,膜性腎症および増殖性糸球体腎炎において尿中にpodocyteを高頻度に認めた.
4.ネフローゼ症候群では,治療前に尿中podocyteが1個/ml未満の症例では副腎皮質ステロイド薬に良く反応し,4週後に尿中podocyteの推移をみることで,より的確にステロイド反応性を評価できることから,尿中podocyteの測定は副腎皮質ステロイド薬に対する治療反応性の臨床的指標となる可能性が示唆された.

 謝 辞

 稿を終えるにあたり,終始懇切な御指導,御校閲賜りました埼玉医科大学総合医療センター第四内科磯田和雄教授に謝意を捧げます.また,本研究遂行にあたり,直接御指導と御鞭撻を賜りました埼玉医科大学総合医療センター第四内科御手洗哲也助教授,ならびに松村治講師に深謝いたします.
 本論文の要旨の一部は第40回日本腎臓学会学術総会,第42回日本腎臓学会学術総会,厚生省特定疾患進行性腎障害調査研究班平成11年度業績発表会において発表した.

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(C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School