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埼玉医科大学雑誌 第28巻第4号 (2001年10月) 185頁 (C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School

特別講演

主催 埼玉医科大学消化器外科・一般外科II  ・ 後援 埼玉医科大学卒後教育委員会

平成13年7月13日 於 埼玉医科大学第四講堂

Tumor-Tailored Chemotherapy by Identification and Analysis of Tumor Response Determinants

Peter V Danenberg, PhD

(Professor, University of Southern California School of Medicine, Department of Biochemistry and Molecular Biology)


 進行再発大腸癌の化学療法におけるKey drugは5-fluorouracil(5-FU)である.生体内に投与された5-FUは,分解系の律速段階の酵素であるdihydropyrimidine dehydrogenase.(DPD)により解毒され,標的酵素であるthymidylate synthase(TS)に結合してDNAの合成阻害により抗腫瘍効果を発揮する.したがって,これらの酵素の多寡により,抗腫瘍効果が決定される可能性が考えられ,さらには最近では5-FUのリン酸化に関与するthymidine phosphorylase(TP)の多寡も抗腫瘍効果に関与する可能性が示されている.
 従来,これらの酵素の発現の検討は,新鮮凍結材料を用いた酵素活性やmRNAレベルでの発現から行われていた.演者は,パラフィン包埋切片を用いて,Laser capture microdissectionの手法により癌細胞のみを選択してmRNAを抽出する技術を開発した.この方法により抽出されるmRNAは微量であるため,正確な発現の検討にはreal time PCRが不可欠であった(図1).従来の方法では,新鮮凍結標本が保存されている症例でのみ可能であったが,本法は手術材料や生検材料の最も普遍的な保存方法であるパラフィン包埋切片にも応用可能である.
 この方法による検討では,TS低発現かつDPD低発現かつTP低発現の大腸癌症例は5-FU+leucovorinによる化学療法で腫瘍縮小と生存期間の延長が得られ,さらに,TS高発現の腫瘍ではtopoisomerase-1阻害剤のirinotecanにより腫瘍縮小と生存期間の延長が得られることが示された.この結果から,DPD低発現・TS低発現には5-FU,DPD高発現・TS低発現にはDPD inhibitory drug,DPD高発現・TS高発現にはCPT-11,DPD低発現・TS高発現には5-FU+CPT-11が適切であり,さらにTPを加味することにより正確な効果予測が可能になると考えられた(図2).
 以上より,化学療法施行前の大腸癌の生検材料から様々な抗癌剤関連遺伝子をmRNAレベルで検討し,これらの発現に応じた化学療法,すなわち,テーラー・メイド化学療法の可能性が示唆された.

(文責 市川 度)


(C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School