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埼玉医科大学雑誌 第28巻第4号別頁 (2001年10月) T109-T116頁 (C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School


Thesis

日本住血吸虫性肝線維症の危険因子として見出されたHLA-class IIアレルとIL-13遺伝子プロモーター領域遺伝子型の相乗効果

菊池 三穂子

埼玉医科大学医動物学教室
(指導:平山 謙二教授)

医学博士 乙第757号 平成13年3月23日(埼玉医科大学)


目 的:中国における日本住血吸虫感染による住血吸虫性肝線維症における宿主遺伝要因の解析を目的として,免疫関連遺伝子である第6染色体短腕上のHLAクラスII遺伝子領域のDR,DQ遺伝子及び,HLAクラスIII遺伝子領域のTNF-α遺伝子プロモーター領域,第16染色体短腕上IL-4レセプター遺伝子,さらに第5染色体長腕上のIL-13遺伝子及びIL-13遺伝子プロモーター領域の患者集団での多型解析を行った.
対 象:中国江西省玉山に在住し10年以上の感染歴を持つ192名について肝線維化の程度を超音波診断法を用いて評価した.肝線維化の程度は,ほぼ正常であるGrade 0から,最も重症なGrade IIIまでの4グループに分けられ,それぞれGrade 0,36名,Grade I,66名,Grade II,83名,Grade III,6名となった.
結果及び考察:HLAクラスII遺伝子アレルでは,肝線維化を起こさない群でDRB11101を持つ者が顕著に増加しており,肝線維化の進んだGrade I以上の群ではDRB5*0101が有意に増加していた.TNF-α遺伝子プロモーター領域,IL-4レセプター遺伝子,IL-13遺伝子にはいずれも多型性が認められたが,肝線維化との関連は認められなかった.IL-13遺伝子プロモーター領域では,IL-13P-Aアレル(−1454C,−1055C)とIL-13P-Bアレル(−1454A,−1055T)の2型が認められ,IL-13P-Aのホモ接合体の頻度が重症度に応じて上昇していた(Grade 0で36.1%,Grade Iで56.1%,Grade II, IIIで68.9%).これに対し,IL-13P-A/Bヘテロ接合体では,逆に軽症ほど増加していた.IL-13P-Aのホモ接合体は肝線維化に対して感受性を示すが,IL-13P-A/B,B/Bになると感受性がなくなることから,IL-13P-Bが優性の抵抗性アレルであることが示された.また,ここで感受性との相関が見られたHLA−クラスII遺伝子とIL-13P遺伝子との相互作用について解析したところ,感受性を示したDRB50101アレルとIL-13P-A/Aの2つの遺伝子を同時に持つ群の肝線維化の危険度の増加(OR; ORDRB50101/IL−13P−A/A−1=23.5)はDRB50101あるいはIL-13P-A/Aの一方のみを持つ群における危険度の増加の和((ORDRB50101−1)+(ORIL−13P−A/A−1)=6.8)よりも高値を示しており,DRB50101とIL-13P-A/Aという遺伝子マーカーは肝線維化の感受性に対して相乗的に作用していることが明らかとなった.
Keywords:Schistosoma japonicum, Fibrosis, IL-4R, IL-13, IL-13 Promoter region, Polymorphisms, HLA-DRB1, HLA-DRB5


 緒 言

 近年の遺伝子関連技術の躍進はめざましく,ヒトゲノムの全領域配列が決定されたことは記憶に新しい1).この情報を元にして,疾病に関係する遺伝子が同定され治療に応用される日も近いものと思われる.単一ヌクレオチドの置換(SNP;Single nucleotide polymorphism)が疾患の原因となっていることも報告されており2),疾病遺伝子の解析により今後様々な難病の治療や予防が可能になるものと期待されている.
 住血吸虫症は寄生性蠕虫疾患で,ヒトに感染する住血吸虫は南米,アフリカ及び西インド諸島に分布するマンソン住血吸虫Schistosoma mansoni,アフリカ,中東及びインドに分布するビルハルツ住血吸虫Schistosoma hematobium,中国,フィリピン及び日本に分布する日本住血吸虫Schistosoma japonicumの3種が知られている.日本住血吸虫の浸淫地である中国揚子江流域では,年間で約100万人が感染しており,約5万人程度が住血吸虫性肝硬変患者であることが1995年に行われた全国調査で報告されている3).現在,特効薬であるプラジカンテルによる集団治療,衛生教育,媒介貝対策等,様々な防圧対策が試みられているものの,地理的,社会的事情により根絶は困難な状況にある.
 日本住血吸虫は糞便中の虫卵から遊出したミラシジウムが中間宿主の淡水産巻貝である宮入貝に浸入し増殖後,感染型のセルカリアとなって水中に再び遊出し,ヒトを初めとする哺乳類に経皮感染する.感染した幼虫は,肺を経由して最終寄生部位である門脈に到達し雌雄が抱合して産卵する.門脈内で産卵された虫卵の大部分は門脈末梢の腸粘膜下へ侵入し腸管腔内へと脱する.感染初期における急性期症状は発熱,粘血便,下痢,腹痛などであり致死的になることはないが,感染後数年から数十年を経て,主に肝組織に沈着した虫卵周囲に虫卵結節が形成され,これを中心に組織の線維化が進行する4).最初は可逆的な変化であるが,ある程度進行すると回復せず,数10%が肝硬変へと移行し致死的となる.しかしながら,感染した感染者のすべてが重症の肝線維症を発症するわけではなく,感染自体の重症度との相関は認められていないことから,宿主の遺伝要因が肝線維化の重症化を規定していることが示唆されている5)
住血吸虫性肝線維化における遺伝要因の解析については,太田らが甲府盆地の旧浸淫地においてHLAクラスIIの特定のアレルが感受性あるいは抵抗性と相関を示すことを報告している6).また,著者らが中国,揚子江流域の江西省玉山地区で行った調査においては,HLA分子の抗原結合部位であるP1ポケットを形成する86番目アミノ酸がグリシンになるかバリンになるかによって,肝腺維化に対する抵抗性あるいは感受性が規定されていることが示され7),さらに,その後の研究で抵抗性群には,HLA-DRB11101が顕著に増加しており,反対に感受性群ではHLA-DRB50101が増加していることが明らかとなった8)
 日本住血吸虫と近縁種であるマンソン住血吸虫感染による肝線維症においてはスーダンの65家系調査によって,ヒト染色体6q22-q23のIFN-γレセプター遺伝子の近傍及びMHC領域の2ヶ所に重症化を規定する遺伝子が存在することが示唆されている9).このようにヒトでの遺伝解析ではMHC,サイトカインというT細胞応答を規定する分子をコードする遺伝子多型がこの肝線維症の重症化と強い関係を持っていることが示唆されているのである.
 肝臓における虫卵周囲肉芽腫形成は虫卵を封じ込めるという宿主の防御反応の一種であるが,これが行過ぎると肝線維症を誘導する結果ともなる4).最近のマンソン住血吸虫のマウス感染実験によれば,虫卵周囲肉芽腫の形成は虫卵から放出される可溶性抗原に特異的なCD4陽性T細胞依存性に起こり,Th2タイプのサイトカイン産生が肉芽腫形成から,線維化へのプロセスを促進するとされている10,11).Th2タイプのサイトカインとしてはIL-4,IL-5,IL-9,IL-13などがあげられる.ヒトのIL-4とIL-13遺伝子はいずれも,第5染色体長腕に位置し近傍には,IL-5,IL-3,IL-12などの雑多なサイトカイン遺伝子が存在する12).IL-4とIL-13は同一の遺伝子から遺伝子重複によりできたと考えられているが,遺伝子レベルで約20%程度の相同性を示し,IL-4とIL-13のレセプター分子は各々特有のIL-4Rγc鎖とIL-13Rα1鎖と共通のIL-4Rα鎖により構成されている.また,いずれもIgE産生細胞へのクラススイッチを誘導することで知られている13).IL-13はIL-4と比較してB細胞の分化,増殖促進作用は弱いものの,T細胞活性化後IL-4より長時間産生される為アレルギー疾患に強く関与していることが示唆されており14),その機能にはIL-4と相違のあることが示唆されている15,16).Fallonらは17)IL-4やIL-13のノックアウトマウスを用いてマンソン住血吸虫感染後の肝線維化の重症度を解析し,肝線維化の重症化にはIL-4が寄与せずIL-13を介した線維化の誘導が重要な要因であることを示唆している.
 今回,我々はヒトの住血吸虫性肝線維化の重症化に関与すると考えられる宿主遺伝要因を詳細に解析するため,すでに我々が重症化との相関で報告しているHLAクラスII遺伝子多型に加えて,多型性を示すことが知られているTNF-α遺伝子プロモーター18),IL-4レセプター遺伝子19),IL-13遺伝子20,21),IL-13遺伝子プロモーター22,23)などのサイトカイン関連遺伝子多型について各重症度の患者について調べ,HLAクラスII多型及びIL-13遺伝子プロモーター多型が感受性あるいは抵抗性と強く関連していること,さらにこの2つのマーカーが相乗的に感受性に寄与していることを見出したので報告する.

 対象及び方法

1.対象
 中国江西省玉山に在住し10年以上の感染歴を持つ192名を対象に肝線維化の程度を超音波診断法を用いてWHOの基準に従い評価した23).肝線維化の程度は,ほぼ正常であるGrade 0から,住血吸虫性肝線維化に典型的な魚の鱗様のパターンを示すGrade IIIまでの4グループに分けられ,それぞれGrade 0,36名,Grade I,66名,Grade II,83名,Grade III,6名となった.患者の採血は,研究所の倫理委員会が認めたプロトコールに基づき,患者に同意を得た上で実施した.
2.HLAクラスII,TNF-α遺伝子プロモーター領域,IL-4レセプター遺伝子,IL-13遺伝子,IL-13遺伝子プロモーター領域の多型解析
 0.05M EDTA添加全血液1mlからDNA extractor kit(和光純薬,大阪)にて抽出した染色体DNAを以下の多型解析に供した.
 HLAクラスIIタイピングは,第11回国際HLAワークショップのSSO法24)に準じてHLA クラスII遺伝子領域のHLA-DRB1,DRB3,DRB5,DQA,DQB各遺伝子座のアレルを決定した.TNF-α遺伝子プロモーター領域の多型解析は,樋口ら18)に従い日本人での多型がすでに報告されているTNF-α遺伝子領域5’上流−66から−1107位までの1042bpをPCRで増幅し,−238A/G,−308A/G,−857C/T,−863A/C,−1031C/Tの5ケ所の単ヌクレオチド(Single nucleotide polymorphism: SNP)多型を認識するオリゴヌクレオチドプローブを用いて変異を検出し,各変異の組み合わせ(アレル)を推定した後,各アレル候補のPCR産物のDNA配列を実際に決定しアレルを確定した24).IL-4レセプター遺伝子多型は光安ら14)らの方法に従いIL-4Rα 鎖の細胞外ドメインの385 A→G多型部位を含む遺伝子領域145bpをPCRで増幅し,Msl1制限酵素を用いたRFLP法により変異を検出した.IL-13遺伝子はこれまでに報告されているSNP部位について21)(図1),intron 3からexon 4の397 bpを次の2つのプライマー,IL-13 F primer; 5’-GGCTGAATATCCATGGTGTGTGTCC-3’, IL-13 R primer;5’-ATGATCGTTTCGAAGTTTCAGTTGA-3’を用いて増幅し,変異部位の2ヶ所,intron 3の249TC(5’-TACTCATGTGCTGACCTC3’, 5’-TACTCACGTGCTGACCTC-3’)とexon 4の370AG(5’-GACAGTTCAACTGAAACT-3’, 5’-GACGGTTCAACTGAAACT-3’)を認識するオリゴプローブを作製し解析した.IL-13遺伝子プロモーター領域の多型についてはすでに報告されているSNP部位20,21)(図1)を含むIL-13遺伝子5’上流域のうち−119から−1620までの1502bpを次の 2つのプライマー,IL-13P F primer; 5’-GGCAGGG- CTTTTGGTGGCCATG-3’,IL-13P R primer 5’-TTGTGGAAAATCCAGTGTCGCA-3’を用いて増幅し,−1454AC(5’-CCGTAGAGGGGTCACACC-3’,5’-CCGTAGCGGGGTCACACC-3’),−1055CT (5’-TAGGAAAACGAGGGAAGA-3’,5’-TAGGAAAATGAGGGAAGA-3’),−1023TC (5’-ATGGCTGTAGGGCCAAGC-3’,5’-ATGGCTGCAGGGCCAAGC-3’),-413TA (5’-TAGCTGGTAGACTGTGGT-3’,5’-TAGCTGGAAGACTGTGGT-3’)の4ヶ所の変異を認識するオリゴプローブを作製し解析を行った.また,4ヶ所の変異の組み合わせから,推定された各アレルを有するもの5名ずつを選択し,それぞれの増幅した領域の核酸配列をABI310オートシーケンサ(アプライドバイオシステムズ,CA,USA)により決定し実際にアレルであることを確認すると共に,その他の部位に変異がないことも確認した.
3.統計解析
 各群におけるアレル頻度の差は2×2表によるχ2検定を用い検討した.また各抗原について得られたP値はさらに各遺伝子座のアレル数を乗ずるBonferroni補正を行った(Pc値).このPc値が0.05以下を有意と判定した.また,あるアレルを有する時の罹患危険率はオッズ比(Odd’s ratio;OR)で計算し,統計学的有意性は95%信頼区間(95% Cl)で表した.2つの遺伝子間の連鎖不平衡の有無については,Mittalの方法25)に従いt値が2.0以上で連鎖不平衡があるとした.遺伝子頻度については,Hardy-Weinberg法を用いて検定した.2個の遺伝子(A,B)間相互作用は2個共持っていない場合を対照とした時に両方を持った場合のORの増加分(delta Odd’s ratio;OR = ORA/B −1)と一方のみを持つ場合の危険度の増加の和((ORA−1)+(ORB−1))との差によって判定した26)

図1.第5染色体長腕23‐24に存在するIL-13とIL-13遺伝子プロモーター領域の遺伝子多型.


 結 果

1. 対象
 対象群とした患者の平均年令,既往歴,男女比と肝線維化の重症度を表1に示した.平均年令は全体で52.8才,Grade 0で47.2才,Grade IIIで60.5才を示し,やや重症度が上がるとやや平均年令が上昇する傾向があったが有意差は認められなかった.男女比はGrade 0で女性が61%と男性より多く,Grade II, IIIでは男性が66.7%と女性より多かった.男性の感受性傾向は観察されたが有意差は認められなかった.また,B型肝炎ウィルス抗体が陽性を示した患者は全体で10%認められたが,住血吸虫感染による肝線維化との関連は認められなかった(データは示さず).

表1.超音波診断によって肝線維化の進行度を評価した患者の年令,男女比,及び感染経過期間

2. HLAクラスII遺伝子領域の多型解析
 対象集団中には,DRB1遺伝子アレルが29,DRB3が3,DRB5が2,DQA1が13,DQB1が11検出された.Grade 0とGrade I, II, IIIで比較した場合DRB11101の頻度は,Grade 0で33.3%,Grade I, II, IIIで9.6%観察され,Grade I以上の群で有意に頻度が減少した(p<0.0002,Pc<0.02,OR = 0.21,95% CI = 0.09〜0.51).反対に,DRB50101は肝線維化のみられるGrade I以上で有意に増加しており感受性のアレルであることが示唆された(p<0.012,Pc<0.03,OR = 5.67,95% CI = 1.30〜24.7)8)
3. TNF-α 遺伝子プロモーター領域の多型解析
 対象集団のTNF-α 遺伝子プロモーター領域(TNFP)の各アレルの頻度を表2に示した.TNFP-Aが全体で84.4%と高頻度に観察され,日本人と同様19)最も一般的なアレルであると考えられた.また,肝線維化の重症度と相関を示すようなアレルは観察されなかった.

表2.住血吸虫性肝線維化症患者における肝線維化の重症度とTNF-αプロモーターアレルの出現頻度

4. IL-4レセプター遺伝子多型解析
 IL-4レセプターの細胞外ドメインにおける50位バリン→イソロイシンの置換を引き起こす385 A→G 部位の変異と肝線維化の重症度とを比較した(表3).バリンホモ接合体の頻度が肝線維化のないGrade 0 (14.7%)でGrade I以上(30.0%)の場合より減少傾向がみられたが,統計学的有意差は認められなかった.

表3.住血吸虫性肝線維化症患者における肝線維化の重症度とIL-4レセプター,IL-13とIL-13プロモーターアレルの出現頻度

5. IL-13遺伝子多型解析
 IL-13遺伝子領域のintron 3に存在する249T→Cとexon 4に存在する30位アルギニン→グルタミンの置換を引き起こす370A→Gの変異と肝線維化の重症度とを比較した(表3).intron 3とexon 4に存在するSNP変異では連鎖が認められ,対象集団中には249T,370A(以下TAアレルと称する)と249C,370G(CGアレル)の2種類のアレルが確認されたが肝線維化の重症度とは相関していなかった.
6. IL-13遺伝子プロモーター領域多型解析
 IL-13遺伝子プロモーター(IL-13P)領域における変異は−413T→A,−1023T→C,−1055C→T,−1454A→Cの4ヶ所が報告されている21,22).中国人の対象集団中では−1055,−1454の部位でこれまでの報告と同様の変異が認められたが,−413,−1023の部位に変異は認められず−413T,−1023Cであった.−1055T,−1454Cの変異には完全な連鎖不平衡が認められ,クローニング後塩基配列を決定し,−1055C,−1454CをIL-13P-Aアレル,−1055T,−1454AをIL-13P-Bアレルが確定した.表3に示すようにIL-13P-Aのホモ接合体は肝線維化の程度がGrade 0の時36.1%,Grade 1で56.1%,Grade II,IIIで68.9%と重症度に応じて頻度の増加が認められた(Grade 0 vs Grade I, II, III;OR=3.1,p<0.003,Grade 0, I vs Grade II, III; OR=2.3,p<0.01,Grade I vs Grade II, III; OR=1.74, p=NS).また,IL-13P-Bの頻度は逆の現象を示し重症度に応じて減少傾向を示した(Grade 0 vs Grade I, II, III OR=0.33, Grade 0, I vs Grade II, III;OR=0.43,Grade I vs Grade II,III;OR = 0.58 ).このことから,IL-13P-Aのホモ接合体は肝線維化に対して感受性に,IL-13P-Bは抵抗性になることが示唆された(表3).
7. IL-13アレルとIL-13Pアレルの連鎖不平衡
 IL-13 PアレルとIL-13アレルの間の連鎖不平衡について解析したところ,IL-13-TAとIL-13P-Aにt = 3.5で連鎖不平衡が認められた(データは示さず).IL-13-TA,IL-13P-Aハプロタイプは全体の89.0%が陽性で,どの肝線維化群においても高率(Grade 0は91.7%,Grade Iは89.4%,Grade II,IIIは87.8%)に観察された.集団中にIL-13アレルとIL-13Pアレルの組み合わせは4つ存在すると考えられたが,肝線維化の重症度と相関を示し統計学的に有意差を認める組み合せは観察されなかった(データは示さず).
8. 肝線維化抵抗性あるいは感受性と相関を示したDRB1アレルとIL-13-P遺伝子型の相互作用
 肝線維化に抵抗性を示したDRB11101とIL-13P-B,感受性を示したDRB50101とIL-13P-Aという別の染色体由来の2つの遺伝子マーカー同士の相互作用を解析するために,対象集団をGrade 0(非線維化群)とGrade I, II, III(線維化群)の2群に分け,それぞれ対象者をDRB50101,IL-13P-A/A共に陽性の群,DRB50101のみ陽性の群,IL-13P-A/Aのみ陽性の群,DRB50101,IL-13P-A/A共に陰性の群に,また,DRB11101,IL-13P-B共に陽性の群,DRB11101のみ陽性の群,IL-13P-Bのみ陽性の群,DRB11101,IL-13P-B共に陰性の群に分けて検討した(表4).まず,最初に感受性マーカー同士の解析では,DRB50101とIL-13P-A/Aの遺伝子を両方を有する群における肝線維化の危険度の増加(delta Odd’s ratio; OR; OR DRB50101/ IL-13P-A/A −1=23.5)はDRB50101あるいはIL-13P-A/Aの一方のみを有する群における危険度の増加の和((ORDRB50101−1)+(ORIL-13P-A/A−1)=6.8)よりもはるかに高値を示しており,DRB50101とIL-13P-A/Aは感受性に対して相乗的に作用していた(表4).一方,抵抗性マーカー同士の解析では,肝線維化に抵抗性を示したDRB11101とIL-13P-Bのアレルを両方有する場合にGrade 0になる危険率の増加は,(delta Odd’s ratio; OR; ORDRB11101/IL-13P-B−1= 7.99)となり,DRB11101あるいはIL-13P-Bの一方のみを有する群での危険度の増加の和(OR DRB11101−1)+(OR IL-13P-B−1)=6.9と近い値となり,この2つのアレル間には相加効果のみで相乗効果は認められなかった.

表4.肝線維化の重症化におけるDRBアレルとIL-13遺伝子プロモーター遺伝子型の相互作用

 考 察

 HLAクラスII遺伝子領域の解析の結果,HLA-DRB11101は肝線維化の進んだGrade I以上で有意に減少し抵抗性アレルであること,反対にDRB50101はGrade I以上で有意に増加し,感受性アレルであることが示唆された.抵抗性を示した,HLA-DRB1*1101アレルは対象集団ではDQA10501,B10301と強い連鎖不平衡が認められたため8),これらは抵抗性のハプロタイプを形成していると考えられたが,連鎖が強固な為今回の遺伝解析ではDR,DQのいずれが肝線維化の抵抗性に対して優位に寄与したのかは明らかにはならなかった.平山ら27)は甲府における日本住血吸虫症感染による肝線維症においてDRB11502-DQB10601ハプロタイプが抵抗性を示した事を報告しているが,中国にはこのハプロタイプはまったく観察されず,興味深いことに中国人では日本人と比較した場合DRB11501ハプロタイプとDRB11502ハプロタイプでDR,DQ間に組み換えが生じていることが明らかとなった(データは示さず).この,組み換えに注目してコホート研究を行えば抵抗性HLAのマッピングも可能となると考えられるが,日本ではすでに患者の発生はなく事実上はこのような研究は不可能である.Secor WEら28)はブラジルにおけるマンソン住血吸虫感染による肝線維症の調査を行い,肝線維化に対する抵抗性とHLA-DR11が相関していたことを報告している.日本住血吸虫とマンソン住血吸虫は近縁とはいえ異なる種であるが,肝線維化に対する抵抗性を示したアレルが同じDR11であったことは興味深い.もし,抵抗性を制御するT細胞が存在するとすれば,DRB11101分子によりそのT細胞に提示される,虫卵由来の抗原が両者で共通している可能性が考えられた.
 IL-4レセプター遺伝子の変異,IL-13遺伝子の変異は肝線維化の重症度とは相関していなかったことから,IL-4レセプター遺伝子,IL-13遺伝子の変異は肝線維化に関与しないと考えられた.Grevesら21)は,ドイツ人の喘息患児を対象にIL-13遺伝子,IL-13遺伝子プロモーター領域,IL-4遺伝子プロモーター領域,IL-5遺伝子プロモーター領域のSNP変異と血中総IgE抗体価との関連について報告している.それによれば,喘息患児における血中総IgE抗体価はIL-13-CGアレルのホモ接合の場合に有意に高値を示したが,IL-13以外の遺伝子座では有意な相関は認められなかった.今回の中国の対象では血中総IgEは測定していないが虫卵及び虫体抗原に対するIgE抗体価については検討しており,これらの多型との相関は認められなかった(データは示さず).肝線維化とIgE抗体価との明らかな相関もなかったことから,今のところIgEと線維化の間に直接的な関係はないものと考えられる.
 肝線維化群において感受性を示したDRB50101とIL-13P-A/Aの遺伝子座は各々6番と5番の別の染色体上に存在するが,この2つの遺伝子マーカーを同時に持つ場合,どちらか一方を持つ場合の罹患危険率(Odd’s ratio)と比較して,大幅に危険率が上昇することから,これらが相乗的に感受性を上昇させていることが示唆された.Chiaramonte M.G.ら29)によれば,マンソン住血吸虫を感染させたマウスにIL-13産生の阻害剤(sIL-13Rα2-Fc)を投与した群は投与しなかった群に比べ虫卵肉芽腫が退縮することを報告し,過剰なIL-13産生が肝線維化を進行させる事を示唆している.ヒトでもIL-13が直接,線維化を刺激すると仮定すれば,DRB50101によりコードされるHLA分子によって提示される虫卵抗原に拘束されたT細胞がより強くTh2にシフトすると共に,そのTh2からのIL-13産生量がIL-13P-A/Aの効果によりさらに,亢進することにより線維化が強く誘導されるという図式で2つの遺伝子の相乗効果を説明することが可能である.
 これに対して,抵抗性アレルであるDRB11101とIL-13P-Bはそれぞれ単独では抵抗性との強い相関を示すのに,両者が組み合わさっても抵抗性の発現に相乗効果を示さなかったことから,これら2つの遺伝子座で支配される肝線維化の抵抗性は,感受性で観られたと同様なT細胞を介した一元化した図式,例えば,IL-13産生性の抑制性T細胞の存在などでは説明できないと考えられた.
 これまでにIL-13プロモーター領域の変異と疾患の感受性についての報告はなく,今回の日本住血吸虫性肝線維化の重症度との相関が初めての報告である.
 今後,今回の相関が各遺伝子自体の効果であるという仮設を立て,それぞれの遺伝子アレルのコードする分子や相互作用するタンパク質,さらにはそれが発現する細胞の機能に焦点をあてて分子レベルで本疾患の発症機序を解析すると共に,肝線維化の予防及び治療への応用を視野に入れた研究を進める予定である.

 謝 辞

 稿を終えるにあたり御指導,御校閲を賜りました埼玉医科大学医動物学教室 平山謙二教授に深謝いたします.また,調査に御尽力をいただいた,江西省寄生虫病研究所 陳紅根所長と同寄生虫病研究所の方々のご協力に感謝いたします.

 文 献

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