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埼玉医科大学雑誌 第28巻第4号別頁 (2001年10月) T85-T95頁 (C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School


Thesis

RNAポリメラーゼIIと基本転写因子の相互作用

保母 順造

埼玉医科大学産科婦人科学教室
(指導:畑 俊夫教授)

医学博士 甲第752号 平成13年3月23日(埼玉医科大学)


 RNAポリメラーゼII (Pol II)は蛋白質をコードする遺伝子の転写を行い,メッセンジャーRNA ( mRNA)を産生する.遺伝子の転写はプロモーターより開始されるが,Pol II単独ではプロモーターを認識できず,プロモーターに結合している2種の基本転写因子(TFIIBとTFIID)と相互作用してプロモーターに特異的に結合できる.次にPol IIに3種類の転写因子(TFIIE,TFIIFおよびTFIIH)が結合してPol IIが活性型になり転写を開始する.そして転写開始後,伸長反応に移ると伸長因子(SII および ELL)がPol IIに作用する.Pol IIは12個のサブユニットから構成され,各々のサブユニットは遺伝子の転写においてそれぞれの役割を果たしていると考えられる.12個のサブユニットのうち,大サブユニットRPB1およびRPB2はそれぞれDNA結合能およびRNA合成能を有しているが,その他の10個の小サブユニット(RPB3,RPB4,RPB5,RPB6,RPB7,RPB8,RPB9,RPB10 α,RPB10 β およびRPB11)の機能の多くは未だ不明である.そこでPol II小サブユニットの転写開始,転写伸長における機能を明らかにする目的で,各小サブユニットと基本転写因子(TBP,TFIIB,TFIIEおよびTFIIF)および伸長因子(SIIおよびELL)の相互作用をGST-pulldown assayを用いて調べた.その結果,RPB10 α およびRPB10 β については基本転写因子(TBP,TFIIB,TFIIEおよびTFIIF)と相互作用している事が示唆された.次にRPB10 α およびRPB10 β の変異体を構築し,その相互作用の領域を決めた.その結果RPB10 α のC末端がTFIIEとの相互作用に必要であることが示唆された.これらの事は,RPB10 α とRPB10 β サブユニットが転写開始に重要な機能を果たしている事を意味し,特にRPB10 α のC末端が転写開始に重要な機能をはたしている事を意味する.

Abbreviations
CTD: C-terminal domein
RPB: RNA polymerase B=RNA polymerase II
TBP: TATA-binding protein
TFIID: Transcription factor II D
TFIIH: Transcription factor II H
GST: Glutathione S-transferase
SDS: Sodium dodecyl sulfate
TFIIB: Transcription factor II B
TFIIE: Transcription factor II E


 諸 言

 遺伝子発現の調節には転写段階での調節が重要であり,転写はRNAポリメラーゼによって行われている.真核生物には3種類のRNAポリメラーゼ,RNAポリメラーゼI(Pol I),RNAポリメラーゼII(Pol II)およびRNAポリメラーゼIII(Pol III)が存在する1).Pol IはリボソームRNA(rRNA)をコードする遺伝子の転写を行い,Pol IIはメッセンジャーRNA(mRNA)をコードする遺伝子の転写を行う.そしてPol IIIはリボソームの構成要素である5SrRNA,またトランスファーRNA(tRNA)をコードする遺伝子の転写を行う.
 Pol IIは12個のサブユニット(RPB1,RPB2,RPB3,RPB4,RPB5,RPB6,RPB7,RPB8,RPB9,RPB10 α,RPB10 β およびRPB11)から構成されている.それらサブユニットのアミノ酸配列は真核生物の間で保存されており,またRPB1,RPB2,RPB3およびRPB11はそれぞれ大腸菌のRNAポリメラーゼの β', βおよびα サブユニットと相同性がある.大腸菌のRNAポリメラーゼの βサブユニットはRNA合成能を有し, β' サブユニットはDNA結合能を有する.そして αサブユニットは βサブユニットおよび β' サブユニットの会合のコアになる2).これらの相同性および遺伝学,生物学的なデータに基づき,RPB1とRPB2はそれぞれDNA結合とRNA合成に関与し,RPB3とRPB11は αサブユニットと同様にRPB1とRPB2の会合のコアであると信じられている3-8).一方,真核生物のPol IIには大腸菌には存在しない8つのサブユニットが存在し,これらのサブユニットで真核生物の複雑な転写制御に対応していると考られる.これら8つのサブユニットの内,RPB4はRPB7と複合体を形成し,転写開始複合体形成後のステップに重要とされている9).またRPB5,RPB6,RPB8,RPB10 α およびRPB10 β はPol I,Pol IIおよびPol IIIの間で共通のサブユニットであり,共通の機能を有すると考えられている.そしてRPB9は転写開始部位の決定に重要な役割を果たしている事が知られている10).
 Pol IIが遺伝子上の正確な位置から転写を開始するためには,基本転写因子と呼ばれる蛋白質{TFIIB,TFIID(TBPと多数のTBP-associated factorsより構成される),TFIIE (TFIIE α およびTFIIE β より構成される),TFIIF (RAP30およびRAP74より構成される)およびTFIIH(XPB,XPD,p62,p52,p44,p34,MAT 34,MAT1およびcyclinH)}が必要である11-16).転写開始の際にはプロモーターにまずTFIIDが結合し,次にTFIIBついでPol IIとTFIIF,そしてTFIIEとTFIIHが結合し転写開始複合体を形成する.TFIIBは,TATA elementと転写開始位置を結ぶ橋の様な働きをしており,TFIIDはTBPと多数のTBP-associated factorsより構成され,TATA elementに結合し主に転写開始部位を決定する働きをしている.また,TFIIEはTFIIHとPol IIの会合のコアとなり,TFIIHのCTDキナーゼの活性化に関与している17-18).そしてTFIIHは9個のサブユニットから成り,ヘリカーゼ活性,CTDキナーゼ活性を有し,転写以外にDNA修復に関与していることが知られている19-21).これらの基本転写因子とPol IIの複合体である転写開始複合体は,転写制御因子の標的となっており,転写の制御において重要な役割を担っている.
 Pol II複合体中のサブユニット間の相互作用を知るために,Ackerら22)はPol IIサブユニット間の相互作用をGST-pulldown assayで調べており,RPB3およびRPB5がPol IIを形成するにあたり中心的役割を果たしていることを示している.また,Bushnellら15)はPol IIと基本転写因子(TFIIB,TFIIE,TFIIFおよびTFIIH)の相互作用をBIACOREで調べ,Pol IIがTFIIB,TFIIEおよびTFIIFと結合することを示している.そして最近,Cramerら23)は酵母のPol IIをX線回析で調べ,Pol IIの立体構造を明らかにした.しかし,Pol IIの各々のサブユニットと基本転写因子との相互作用を詳細に調べた報告はない.
 そこで,本論文ではPol II小サブユニット(RPB3〜RPB11)の機能を解析するための第一歩として,転写開始に必要な基本転写因子(TBP,TFIIB,TFIIEおよびTFIIF)および転写伸長に関与している伸長因子24-26)(SIIおよびELL)とPol II小サブユニットの相互作用をGST-pulldown assayを用いて調べた.

 方 法

Pol IIサブユニットRPB3からRPB11のcDNAの単離
 RT-PCRのキット(BOEHRINGER MANNHEIM)を使用し,HeLa細胞より抽出したmRNAを鋳型として逆転写反応を行った後,それぞれのサブユニットのopen reading frame(ORF)を増幅するように5'末端と3'末端にdegenerate primerを設計し,逆転写反応産物であるcDNAを鋳型として0.5 μM primer,25 mM dATP,25 mM dGTP,25 mM dCTP,25 mM dTTP,cloned pfu bufferおよびpfu DNA ポリメラーゼ (STRATAGENE)を1Uを含め,総量50 μlでPCR(94 ℃ 1分,55 ℃ 1分,72 ℃ 5分 u 25 cycle) を行った.増幅されたDNA断片は0.7%アガロースゲルで電気泳動により単離しQIAX(QIAGEN)でゲルより回収した.RPB3,RPB4,RPB5,RPB10 α およびRPB10 β のORFの塩基配列の中にサブクローニングの際に不都合なDNA制限酵素部位が存在したために,それらの部位をKunkel法27)を用いて以下の如く,アミノ酸を変えない変異を導入し,制限酵素部位を破壊した.RPB3は125番目のアミノ酸プロリンのCCCをCCTに変えSma I部位を壊した.RPB4は37番目のアミノ酸ヒスチジンのCATをCACに変えNde I部位を壊した.RPB5は172番目のアミノ酸イソロイシンのATCをATTに変えBamH I部位を壊した.RPB10 α は32番目のアミノ酸アスパラギン酸のGATをGACに変えBamH I部位を壊した.RPB10 β は31番目のアスパラギン酸のGATをGACに変えNde I部位を壊した.

Kunkel法
 pBluescriptKS(-)にサブクローン化されたそれぞれのPol IIサブユニットを有するプラスミドを大腸菌BW313 [HfrKL 16 PO/45 {lys(61-62)/ dut1, ung 1, thi-1, relA1}]に導入し,2 mlのLB-ampicillin培地でOD600 0.5〜1.0になるまで37 ℃で前培養した.200 mlのLB培地にウリジンを0.4 mg/mlになるように加え,その中に前培養した菌を加え,37 ℃で1時間培養した.その後ファージM13KO7(1.0×1010/ml)を5 ml加え6時間から終夜培養した.その培養液を8,000 rpmで20分遠心し菌を除去し,上清を回収した.その上清に上清の1/5量容量の20% PEG-2.5 M KClを加え,室温で15分放置し,8,000 rpmで20分遠心しファージを回収した.上清をよく除いた後,ペレットを7 mlのTris-EDTA (TE)緩衝液(pH8.0)に懸濁した.フェノール抽出2回,クロロフォルム抽出1回を行い,エタノール沈殿を行った.DNAを100 μlのTE 緩衝液(pH8.0)に懸濁し,その一部をエチジウムブロマイド(EtBr)を含むアガロースゲルで電気泳動し,一本鎖DNA(ssDNA)が調整できた事を確認した.塩基配列の一部に目的の変異が入っているオリゴヌクレオチドをssDNAとアニーリングさせ,その後T7 DNAポリメラーゼで伸長反応を行い,T4 DNA リガーゼで接着した後,アガロースゲルで電気泳動を行った.

融合タンパク発現ベクターへのサブクローニング
 増幅,単離されたPol IIサブユニットのDNA断片はPCRにてN末端をATGを含むNde I部位に,C末端をBamH Iに変え,GST融合タンパク発現ベクターpGEX2TL(+)(Modified pGEX2T, Pharmacia Biotech)のNde I部位からBamH I部位にN末端にGSTタンパクが融合するようにフレームをあわせてサブクローニングした.基本転写因子TBP,TFIIB,TFIIEとTFIIFおよび伸長因子SIIとELLはプラスミドpET-FLAG3a (Novagen)のNde IからBamH I部位に発現タンパクのN末端にFLAGタンパクが融合するようにフレームをあわせてサブクローニングした.

RPB10 α およびRPB10 β の変異体の作製
 RPB10 α はCX2CX13CX2Cという典型的な亜鉛結合配列を有し,一方RPB10 β はCX2CGXnCCRという非典型的な亜鉛結合配列を有する28-30).これらの亜鉛結合配列はヒトRPB10 α,酵母RPB10 α,ヒトRPB10 β,酵母RPB10 β に保存されている(Fig. 1A).いずれもKunkel法によりシステインをセリンに変えることによって亜鉛結合配列を壊した(Fig. 1A).またRPB10 α とRPB10 β のN末端もしくはC末端のいずれかを欠失した変異体はpfu DNAポリメラーゼを用いて,PCR (94℃ 1分,55℃ 1分,72℃ 5分 × 25 cycle)により作製した(Fig. 1B).

Fig. 1. Amino acid sequence of RPB10 α and RPB10 β, and mutagenesis of RPB10 α and RPB10 β. A, (upper part) amino acid sequence alignment of RPB10 α of Homo sapiens, Saccahromyces cerevisiae and Schizosaccharomyces pompe. Zinc-binding motifs are boxed. (lower part) mutagenesis of zinc-binding motifs. Two cystein residues of each region are substituted to serine residues by Kunkel's method. B, (upper part) construction of the N-terminal or C-terminal truncated derivatives of RPB10 α. The deleted portions are underlined in the full-length sequence. The zinc-binding motifs are boxed. (lower part) construction of the N-terminus or the C-terminus truncated derivatives of RPB10 β. The deleted regions are underlined in the full-length sequence. The zinc-binding motifs are boxed.

タンパク発現
 それぞれの融合蛋白を持つタンパク発現ベクターで大腸菌BL21 (DE3)pLysS {hsdS gal(λcIts857 ind Sam 7 nin5 lacUV5-T7 gene1)}を形質転換した後,LB-ampicillin培養で30 ℃でOD600が0.6まで増殖させ,イソプロピルチオガラクトシド(IPTG)を1 mMになるように培地に加え,タンパク発現を誘導し,さらに3時間培養を行った.またRPB10 α とRPB10 β の変異体のタンパクの可溶性は低かったためタンパク発現誘導を23 ℃で行った.GST融合タンパクをSDS-ポリアクリルアミドゲル(10%)上で電気泳動し,クマシーブリリアントブルー(CBB)染色でその発現を確認した(Fig. 2).

Fig. 2. Fusion proteins of GST with various small subunits of Pol II. The fusion proteins were extracted from induced culture by addition of IPTG (+) or non-induced culture as control (−), separated on SDS-polyacrylamide gel and visualized by CBB staining. The molecular masses of the protein standards are shown in kilodaltons on the left.

GST-pulldown assay
 各GST-Pol II小サブユニット融合蛋白を50 μl (1:1)のグルタチオンセファロース4B (Amersham Pharmacia Biotech)を4 ℃で緩衝液{20 mM Hepes-KOH (pH7.9),1 mM EDTA,10% Glycerol,1 mM DTT,0.5 mM PMSF,0.01% Triton-X,100 mM KCl}中で1時間培養した.そしてGST融合タンパクの結合したレジンを緩衝液で4℃で4回洗浄した.このとき各々のGST融合タンパク量をレジンに同量結合するように調節した.洗浄後レジンにN末端にFLAGエピトープタグを付加した基本転写因子(TBP,TFIIB,TFIIEおよびTFIIF)または伸長因子(SIIおよびELL)を各々混合し,4℃でロータリーシェイカーで1時間混合した.混合後,レジンを上記の緩衝液を用い4℃で4回洗浄し,レジンをサンプルバッファーと混合して煮沸後,SDS-ポリアクリルアミドゲル(10%)上で電気泳動した.なおinputにはレジンに含まれる1/10量のFLAGエピトープタグを付加した基本転写因子(TBP,TFIIB,TFIIEおよびTFIIF)または伸長因子(SIIおよびELL)を電気泳動した.

ウェスタンブロット
 SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離したタンパクをImmobilon (Millipore)にセミドライ転写装置を用いブロットし(200 mA定電流で1時間通電),ECL Western blot detecting system (Amersham Pharmacia Biotech)にて検出した.なお1次抗体は (ANTI-FLAG M2 antibody,SIGMA),2次抗体はAffinity purified peroxidase labeled Goat anti-mouse IgG (KPL)を使用した.

 結 果

Pol IIサブユニットと基本転写因子および伸長因子の相互作用
 GSTをN末端に融合させたPol II小サブユニット(RPB3からRPB11)を大腸菌で発現させSDS-ポリアクリルアミドゲル(10%)で電気泳動を行い,各融合タンパクの発現を確認した(Fig. 2).一方,基本転写因子(TBP,TFIIB,TFIIE,およびTFIIF)と伸長因子(SIIおよびELL)はN末端にFLAGエピトープタグを融合させて大腸菌で発現させた.
 GST-Pol II小サブユニット融合タンパクをグルタチオンセファロース4Bに結合させ,FLAGエピトープタグを付加した各基本転写因子タンパクと混合し,GST-pulldown assayを行った.その結果,TBPはRPB3,RPB5,RPB6,RPB7,RPB10 α およびRPB10 β と相互作用し,弱いながらRPB4およびRPB8にも相互作用した(Fig. 3,lanes 3,4,5,6,7,8,10および11).TFIIBはRPB7,RPB10 α およびRPB10 β と相互作用した(Fig. 3,lanes 7,10および11).TFIIEはTFIIE α およびTFIIE β の2種類のサブユニットから成り,TFIIE α はRPB3,RPB10 α およびRPB10 β と相互作用し,また弱いながらRPB4,RPB7およびRPB8にも相互作用した(Fig. 4,lanes 4,5,8,9,11および12).TFIIE β はRPB10 α およびPB10 β と相互作用した(Fig. 4,lanes 11および12).TFIIFのサブユニットであるRAP74およびRAP30はRPB10 α およびRPB10 β と相互作用し,特にRAP30とRPB10 α は強く結合した(Fig. 5,lanes 11および12).一方,伸長因子であるSIIおよびELLはPol IIの小サブユニットと,この条件では相互作用は認められなかった(Fig. 6).以上の結果をまとめたものをTable 1に示す.
RPB 10 α およびRPB 10 β と基本転写因子の相互作用
 RPB10 α およびRPB10 β とTBP,TFIIB,TFIIE,およびTFIIFとの相互作用が認められたので,RPB10 α とRPB10 β のどの領域がこれら基本転写因子との相互作用に関与しているのかを同様の手法で調べた.RPB10 α とRPB10 β はそれぞれ典型的CX2CX13CX2C,非典型的CX2CGXnCCRな亜鉛結合配列モチーフを有する.通常,亜鉛結合配列はDNAへの結合に関与しているが,タンパク質-タンパク質相互作用にも関与している事が知られているので31),最初に亜鉛結合配列が基本転写因子との相互作用に関与している可能性を調べた.そこで,亜鉛結合配列のシステインをセリンに変異させた種々の変異体RPB10 α(mut1,mut2およびmut3)およびRPB10 β(mut4,mut5およびmut6)を作製し(Fig. 1A),GST-pulldown assayを行った.その結果,亜鉛結合配列のN末側,C末側およびその両方を変異せしめたRPB10 α およびRPB10 β はRPB10 α 全長とおよびRPB10 β全長と同様にTFIIEおよびTFIIFと相互作用する事が示された(Fig. 7,lanes 3,4,5,6,7,8,9と10およびFig. 8,lanes 3,4,5,6,7,8,9と10).従ってRPB10 α とRPB10 βの亜鉛結合配列は基本転写因子(TFIIEおよびTFIIF)との相互作用には関与してない事が示された.そこでRPB10 α とRPB10 βのどの領域が基本転写因子TFIIEおよびTFIIFとのタンパク質-タンパク質相互作用に関与しているか調べるため,RPB10 α のN末端を17個のアミノ酸を欠失させたRPB10 αT1,C末端を16アミノ酸を欠失させたRPB10 αT2変異体を構築した.またRPB10 βのN末端を12アミノ酸および28アミノ酸を欠失させたRPB10 βT3およびRPB10 βT4,C末端を18アミノ酸および32アミノ酸を欠失させた変異体RPB10 βT5およびRPB10 βT6を構築し(Fig. 1B),これらRPB10 α およびRPB10 βの欠失変異体とTFIIE α およびTFIIE βとの相互作用を同様にGST-pulldown assayで調べた.その結果,RPB10 α のC末端を欠失させた変異体RPB10 α T2はTFIIE α およびTFIIE β と相互作用しなかった(Fig. 9,lane 5).従ってRPB10 α のC末端を16アミノ酸はTFIIEとの相互作用において重要な働きをしていると考られる.以上の相互作用の結果をまとめたものをTable 2に示す.

Fig. 3. Binding of Pol II subunits to TBP and TFIIB. The GST-subunit fusion proteins were immobilized on Gluthatione-Sepharose 4B and incubated with TBP tagged by FLAG epitope (upper panel) or TFIIB tagged by FLAG epitope (lower panel). After extensive washing, bound proteins were separated on SDS-polyacrylamide gel followed by immunoblotting with an anti-FLAG antibody. Input shows 10% of the amounts used for each GST-pulldown. GST-RPB7 appears as a doublet probably due to a degradation of fusion protein (lower panel, lane 7).

Fig. 4. Binding of Pol II subunits to TFIIE α and TFIIE β. The GST-subunit fusion proteins were immobilized on Gluthatione-Sepharose 4B and incubated with TFIIE α tagged by FLAG epitope (upper panel) or TFIIE βtagged by FLAG epitope (lower panel). The immunoblot was performed as described in the legend of Fig. 3. Input shows 10% of the amounts used for GST-pulldown.

Fig. 5. Binding of Pol II subunits to TFIIF (RAP74 and RAP30). The GST-subunit fusion proteins were immobilized on Gluthatione-Sepharose 4B and incubated with both RAP74 tagged by FLAG epitope (upper panel) and RAP30 tagged by FLAG epitope (lower panel). The immunoblot was performed as described in legend of Fig. 3. Input shows 10% of the amounts used for GST-pulldown.

Fig. 6. Binding of Pol II subunits to elongation factors (SII and ELL). The GST-subunit fusion proteins were immobilized on Gluthatione-Sepharose 4B and incubated with SII tagged by FLAG epitope (upper panel) or ELL tagged by FLAG epitope (lower panel). The immunoblot was performed as described in legend of Fig. 3. Input shows 10% of the amounts used for GST-pulldown.

Table 1. Interaction between Pol II subunits and general transcription factors

Fig. 7. Binding of mutated RPB10 α and RPB10 β to TFIIE α and TFIIE β. The GST-subunit fusion proteins were immobilized on Gluthatione-Sepharose 4B and incubated with TFIIE α tagged by FLAG epitope (upper panel) or TFIIE β tagged by FLAG epitope (lower panel). The immunoblot was performed as described in legend of Fig. 3. Input shows 10% of the amounts used for GST-pulldown.

Fig. 8. Binding of mutated RPB10 α and RPB10 β to TFIIF (RAP74 and RAP30). The GST-subunit fusion proteins were immobilized on Gluthatione-Sepharose 4B and incubated with both RAP74 tagged by FLAG epitope (upper panel) and RAP30 tagged by FLAG epitope (lower panel). The immunoblot was performed as described in legend of Fig. 3. Input shows 10% of the amounts used for GST-pulldown. It is noted that a control band was not seen in lane 7 due to probably a technical error (upper panel). A band in lane 2 of the upper panel was also due to a similar technical error since in other experiments no GST bound to RAP74.

Fig. 9. Binding of deletion mutant of RPB10 α and RPB10 β to TFIIE α and TFIIE β. The GST-subunit fusion proteins were immobilized on Gluthatione-Sepharose 4B and incubated with both RAP74 tagged by FLAG epitope (upper panel) and RAP30 tagged by FLAG epitope (lower panel). The immunoblot was performed as described in legend of Fig. 3. Input shows 10% of the amounts used for GST-pulldown. The GST-pulldown assay of mutant T3, T4, T5, and T6 with TFIIEb has not been done yet.

Table 2. Interaction between mutant subunits (RPB10 α and RPB10 β) and general transcription factors (TFIIE and TFIIF)

 考 察

Pol IIサブユニットと基本転写因子および伸長因子の相互作用
 Pol II小サブユニット(RPB3〜RPB11)の機能を調べるために,GST-pulldown assayを用いPol II小サブユニットと基本転写因子(TBP,TFIIB,TFIIEおよびTFIIF)および伸長因子(SIIおよびELL)の相互作用を調べた(Table 1).
 RPB10 α とRPB10 β は基本転写因子TBP,TFIIB,TFIIEおよびTFIIFと相互作用する事が示された.この事から,転写開始複合体を形成するにあたり,RPB10 α とRPB10 β は基本転写因子とPol IIが複合体を形成するときに土台の役割を担っている可能性が示唆された.
 RPB10 α とRPB10 β はPol I〜III共通サブユニットである事,一方TFIIB,TFIIEおよびTFIIFはPol II系に特異的な基本転写因子である事を考慮すると,今回の結果より共通サブユニットRPB10 α とRPB10 β はRNAポリメラーゼの種類によって,異なる基本転写因子と相互作用する可能性が考えられる.
 またTFIIBやTBPが転写開始に関与している事より,RPB10 α とRPB10 β も転写開始に関与している事が考えられた.さらには,TFIIEはTFIIHのCTDキナーゼ活性を高める事により転写の制御を行う事18),TFIIFはPol IIの伸長反応に関与している事16)が知られているので,RPB10 α およびRPB10 β はTFIIEおよびTFIIFを介して転写制御および転写伸長に関与している可能性も考えられる.
酵母においてSIIとRPB6の相互作用が報告されており32),またヒトPol IIサブユニットRPB5とTFIIBは相互作用することが報告されている33).しかし,本研究ではSIIとRPB6およびRPB5とTFIIBの相互作用は共に検出されなかった.前者はPol II複合体とSIIとの相互作用を調べているため,また後者は相互作用実験の反応条件が異なるため同様な結果が本研究では得られなかったと考える.故に今後,GST pull-down assayのみで相互作用を検討するのでなく,免疫沈降法等の異なった手段による相互作用実験が必要と考えられる.現在のところ,Pol IIと伸長因子との相互作用の機構としては,小サブユニットが複合体として伸長因子に相互作用するか,もしくは大サブユニット(RPB1およびRPB2)が伸長因子に相互作用することが考えられる.
RPB10 α およびRPB10 β の変異体とTFIIEおよびTFIIFの相互作用
 RPB10 α およびRPB10 β とTFIIEおよびTFIIFの相互作用について,特にRPB10 α とRPB10 β のどの領域が相互作用に必要であるかを調べた.RPB10 α とRPB10 β はそれぞれ典型的,非典型的な亜鉛結合配列を有する(Fig. 1A).RPB10 α の亜鉛結合配列はPol Iの二番目に大きいサブユニットと相互作用を示し,N末端側のシステインは酵母の増殖には必須である事が報告されている30).またRPB10 β の亜鉛結合配列のシステインも酵母の増殖には必須である事が報告されている34).機能的にも重要なそれらの亜鉛結合配列がタンパク相互作用に使われている可能性を考慮して,RPB10 α およびRPB10 β の亜鉛結合配列の欠失変異体を構築し,TFIIEおよびTFIIFとの相互作用を調べたところ,亜鉛結合配列を変異せしめたRPB10 α とRPB10 β はTFIIEおよびTFIIFと相互作用した(Fig. 7およびFig. 8,lanes 3,4,5,6,7,8,9と10).以上の結果から,RPB10 α とRPB10 β の亜鉛結合配列はTFIIEおよびTFIIFとの相互作用に直接関与していないと考えられる.従ってRPB10 α とRPB10 β の亜鉛結合配列は,他のPol IIサブユニットか他の基本転写因子(例えばTBP,TFIIB)の相互作用に関与しているか,もしくはDNA結合に働いている可能性がある.
RPB10 α およびRPB10 β のどの領域が基本転写因子(TFIIEおよびTFIIF)との相互作用に必要か知るために,RPB10 α およびRPB10 β のN末端もしくはC末端を欠失させた変異体を作製し基本転写因子(TFIIEおよびTFIIF)との相互作用を調べた.C末端より16個のアミノ酸を欠失させたRPB10 α の変異体(T2)はTFIIEaおよびTFIIEbと相互作用しなかった(Fig. 9,lane 5).なお,RPB10 α のC末端は転写因子との相互作用のみならず,Pol IIサブユニットRPB3との会合にも関係している(未発表).また,Cramerらは酵母Pol IIのX線結晶解析において,RPB10 α のC末端はRPB3との相互作用に関与している事を明らかにし,さらにはRPB10 α はサブコンプレックスRPB3-RPB11-RPB10 β とRPB1-RPB2との会合のコアになっていることを提唱している23).なおRPB10 β のN末端側またはC末端側領域がTFIIE β との結合に必要か否かは今後の課題である.本研究によりRPB10 α のC末端は複合体形成において重要な領域であることが明らかになった.

 結 論

(1)Pol II小サブニットと基本転写因子および伸長因子の相互作用を調べ,RPB10 α およびRPB10 β は基本転写因子と相互作用することが判明した.その結果より転写開始複合体形成において,RPB10 α およびRPB10 β はPol II複合体と基本転写因子をつなぎ止めている働きをしていることが考えられる.
(2)RPB10 α およびRPB10 β の変異体を用いた解析の結果,RPB10 α のC末端はPol II複合体と基本転写因子をつなぎ止める働き以外に,Pol II複合体形成にも働いている可能性があることが示唆された.

 謝 辞

 稿を終えるにあたり,ご指導およびご協力いただいた埼玉医科大学産婦人科学教室畑 俊夫教授をはじめ教室員の皆様,同大学将来計画研究部門村松正實教授,同大学第二生化学教室禾 泰壽教授に深く感謝いたします.また直接御指導いただいた埼玉医科大学第二生化学教室久武幸司助教授に深謝いたします.

 文 献

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(C) 2001 The Medical Society of Saitama Medical School