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埼玉医科大学雑誌 第29巻第1号 (2002年1月) 51頁 (C) 2002 The Medical Society of Saitama Medical School

特別講演

主催 埼玉医科大学ゲノム医学研究センター ・ 後援 埼玉医科大学卒後教育委員会
平成13年10月3日 於 埼玉医科大学第四講堂

核内レセプターによる転写制御機構 ―CoactivatorCorepressorの分子機構と生理作用―

黒川 理樹

(カリフォルニア大学サンジェゴ校 医学部 細胞及び分子医学研究部門)


 核内レセプターはエストロゲン,プロゲステロン,アンドロゲン,グルココルチコイド,ミネラルコルチコイドなどのステロイドホルモンや甲状腺ホルモン,レチノイン酸等の脂溶性リガンドに対するレセプターの総称で,核内に存在し遺伝子ファミリーを形成する.核内レセプターはリガンド依存性の転写因子であり,特異的リガンドと結合し,標的遺伝子のプロモーター上の応答配列を認識して結合することにより転写促進作用を発揮する.最近の核内レセプター研究の進展により,転写をおのおの正負に制御するコアクチベーターとコリプレッサーがクローニングされ,それらの機能により核内レセプターの転写制御機構を理解する試みがなされてきた.
 代表的なコアクチベーターの一つにp160ファミリー(SRC-1, TIF-2, AIB1)がある.その基本構造はN末端にbHLH-PASドメインと称される領域を持ち,中央部に核内レセプターとCBP(CREB binding protein)結合ドメインを有する.これらのドメイン中にLXXLLのコンセンサスをもつ配列が同定され,核内レセプターとコアクチベーターとの相互作用に重要な作用を果たすことが示された.C末端付近にはヒストンアセチラーゼ(HAT)活性を持つ配列が存在する.DNAはヒストンと強固に結合してクロマチン構造をとっており,このような状態では転写因子はDNAに結合できない.HAT活性によりヒストンはアセチル化されてクロマチン構造はゆるみ,転写因子が結合できるようになり転写が活性化される.CBPはCREB(cAMP-responsive element binding protein)のコアクチベーターとしてクローニングされていたが,この分子が核内レセプター作用にも重要な役割を果たすことが明らかになってきた.CBPはpCAF(p300/CBP associated factor)と同様に強いヒストンアセチラーゼ活性をもち,pCAFや核内レセプターコアクチベーターと複合体を形成することが,その作用発現に重要であることが明らかになってきた.演者らはRubinstein-Taybi症候群ではCBPのHAT活性が欠損していることを明らかにした.
 コリプレッサーNcoRとSMRTはホモロジーの高い分子でファミリーを形成していると考えられている。これらの分子にはN末端から分子中央部にかけて転写抑制活性を持つ領域とC 末端側に核内レセプターとの結合ドメインが同定されている.NcoR/SMRTはSin3やヒストンデアセチラーゼ(HDAC)と複合体を形成する.HDACはクロマチン構造を安定化させるため転写は抑制されると考えられている.このように,核内レセプターの転写制御機能がヒストンのアセチル化を介して発揮されることが明らかになった.演者らはNcoRノックアウトマウスを作製したところ,赤血球分化や胸腺,間脳,小脳に異常を起こし,胎児期の15.5日齢までに死亡することを見いだした.また,ある特異的なプロモータではNcoR,HDAC3により転写は促進することを見いだしており,応答配列特異的な転写制御機構が存在することが示唆された.
 このように,核内受容体の転写制御機構を明らかにすることは,各種ホルモンの生理作用機序の解明ばかりでなく,内分泌不応症などの疾患の分子レベルでの病因解明にも寄与するものと考えられる.
 講演終了後,活発な多数の質疑応答がなされ,この分野の関心の高さを象徴するとともに,最新の研究成果にふれることができたことは大変有意義であった.このような機会を与えていただいた卒後教育委員会のご後援に心より感謝申し上げます.
(文責 池田和博)

(C) 2002 The Medical Society of Saitama Medical School