PDFファイル
(196 K
B)

※ダウンロードデータはAcrobat Reader4.0でご覧いただけます。
PDF版を正式版とします。
HTML版では図表を除いたテキストを提供します。HTMLの制約により正確には表現されておりません。HTML版は参考までにご利用ください。


埼玉医科大学雑誌 第29巻第1号 (2002年1月) 53頁 (C) 2002 The Medical Society of Saitama Medical School

特別講演

主催 埼玉医科大学総合医療センター産婦人科/同総合周産期母子医療センター
後援 埼玉医科大学卒後教育委員会
平成13年9月22日 於 埼玉医科大学総合医療センター小講堂

当科における不妊治療・ ・ ・基礎研究から臨床応用まで

野田 洋一

(滋賀医科大学)


 当科における不妊症に対する取り組みとして,県からの委託事業である不妊相談センターの開設をはじめ,不妊専門外来を設け,専門の担当医を置いている.治療としては,腹腔鏡検査などの手術療法やAIH,IVF-ETなどのARTを積極的に行っている.しかし難治性不妊症に対する体外受精胚移植法における妊娠率は20%程度にとどまっている.これに対し,当科では「2段階胚移植法two-step embryo transfer」を考案し,現在50%を越える妊娠率を得ている.これは,母体内での胚の存在が,子宮内膜への着床やその後の胚発育を促進するという考えである.これまで当科ではこれらに関する基礎研究を行ってきたので,これらを以下に順に示す.
1. 胚の存在そのものが,子宮内膜の胚受容能を促進する
マウスを用いて,卵管内に胚の存在する卵管結紮妊娠マウスと偽妊娠マウス,卵管結紮非妊娠マウス,卵管結紮偽妊娠マウスの4種に対して子宮腔内・子宮内膜内移植をしたところ,着床率が卵管結紮妊娠マウスで有意に高かった.また内膜組織染色により,卵管内の胚が子宮内膜に作用して胚受容能を促進することが明らかになった.
2. 子宮内膜における胚依存性遺伝子発現機構の存在
マウスの子宮内膜間質細胞(ESC)のin vitro脱落膜化実験系を確立し,これを用いてESCと胚細胞との共培養を行い,E/P添加群と同様に共培養群においてPRL遺伝子の発現を認めた.この実験により,胚から分泌される液性成分により遺伝子が発現することがわかった.
 以上の結果より,胚は着床周辺期において卵管で育まれながら子宮腔に運ばれるだけの存在ではなく,胚自身が子宮内膜に働きかけ,着床に向けて能動的に働くこと-胚による子宮内膜受容能誘導機構-embryo-priming-が存在することが確認された.
 さらに,ESCの脱落膜化が胚発育を促進するだけでなくトロホブラストの増殖を抑制することもわかった.
 これらの研究により,embryo-primingと子宮内膜脱落膜化による胚発育・トロホブラスト増強抑制機構が存在することが明らかになり,着床周辺期に胚と母体との間で積極的な対話があって初めて着床と以後のの胚発育が正常に経過することが示唆された.
 これらの研究を応用したIVF-ETの手法として,2段階胚移植法two-step embryo transferを考案した.これは採卵2日後にembryo-primingを目的とした胚を2個移植し,5日後に本命ともいうべき着床を期待する胚盤胞を1個移植するという方法で,1999年6月より実施している.これにより,通常の採卵2日目に移植する方法に比べて着床率は有意に改善された.問題点としては,多胎妊娠率が多い傾向にあることで,さらに多数症例を重ねて今後検討していく必要がある.

(C) 2002 The Medical Society of Saitama Medical School