PDFファイル
(240 K
B)

※ダウンロードデータはAcrobat Reader4.0でご覧いただけます。
PDF版を正式版とします。
HTML版では図表を除いたテキストを提供します。HTMLの制約により正確には表現されておりません。HTML版は参考までにご利用ください。


埼玉医科大学雑誌 第29巻第1号 (2002年1月) 56頁 (C) 2002 The Medical Society of Saitama Medical School

特別講演

主催 埼玉医科大学化学療法談話会 ・ 後援 埼玉医科大学卒後教育委員会
平成13年11月27日 於 埼玉医科大学第五講堂

癌の化学療法と展望

西條 長宏

(国立がんセンター中央病院)


 癌の化学療法はドセタキセル,パクリタキセル,ゲムシタビン,ビノレルビンや我が国で開発されたイリノテカンなどの新規抗癌薬の登場によりプラチナ製剤との種々の併用療法が行われている.肺小細胞癌のED症例に対するシスプラチン+イリノテカンが過去の標準療法に比して優れた成績を挙げ生存期間の延長をもたらすことができたが,総じて新規抗癌薬の有効性は互いにほぼ同等である.
 抗癌薬の投与量は通常一律に決められているが,遺伝的に薬物代謝動態等の異なる個人間で一律の投与量でいいはずはなく,ここにオーダーメイド,テーラーメイド,カスタマイズド,パーソナライズドと種々に呼ばれる個別化療法の意義がある.薬物代謝に関係する酵素には種々あるが,例をドセタキセルにとるとその代謝酵素であるCYP3A4の活性を外因性ヒドロコルチゾン代謝との関係で知ることができ,ドセタキセルのクリアランスと尿中ヒドロコルチゾン代謝産物の6β-OHSの24時間値との間によい相関がみられたことより,クリアランスの予測式を用いて個別化治療が可能となる.
 分子生物学的知見の集積は疫学,診断,細胞特性の評価に応用されるだけでなく,分子標的治療にも応用されている.ターゲットとして血管新生阻害,マトリックスメタロプロテアーゼ阻害や増殖因子受容体蛋白チロシンキナーゼ阻害などがある.この中でチロシンキナーゼ阻害は,慢性骨髄性白血病のbcr/abl特異的チロシンキナーゼ阻害薬のSIT-571やHER2に対する抗体(Herceptin®)が臨床応用されている.新規のものでは上皮増殖因子(EGF)受容体チロシンキナーゼ阻害薬のZD1839(Iressa®)が非小細胞性肺癌に応用されている.in vitroでシスプラチン耐性腫瘍株ではEGF受容体の自己リン酸化が亢進しているがZD1839によりリン酸化は阻害される.実験動物に移植したシスプラチン耐性腫瘍は,シスプラチン投与で促進し,ZD1839投与で抑制されているが,シスプラチンとZD1839同時投与で更に増殖が抑制される.興味深いことに肺癌の臨床試験の結果ヒトではZD1839は扁平上皮癌よりも腺癌,男性よりも女性により奏効率が高かった.しかしこの薬剤も長期投与で耐性化することがわかってきた.
 ポストゲノムの研究で体系的遺伝子多型解析や発現情報解析が行われている.その中でプロモーター領域のSNPの研究は重要である.DNAアレイを用いた研究も行われ,それにより病態分析,予後予測や治療選択,surrogate makerの選択などが可能になる.
(文責 坂本芳雄)

(C) 2002 The Medical Society of Saitama Medical School