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原 著
虚血再灌流腎におけるHeme Oxygenase-1(HO-1)の役割
石田 祐二
埼玉医科大学腎臓内科学教室
〔平成13年12月17日受付〕
はじめに
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一酸化炭素(CO)は,hemoglobinから産生されるFe-protoporphyrin IX(hemin)を基質とし,heme oxygenase(HO)を律速段階酵素とした反応によってbiliverdinと共に産生される1,2).HOには現在3種類の異なるisoformが存在することが知られており,おもに虚血などの刺激によって誘導されるHO-1と,常に産生されているHO-2が全身に存在することが知られている1,2).種々のストレス時にHOが誘導され,COが産生されることが多くの実験から知られているが,とくに肝臓の門脈系では,COが重要な循環調節因子である事が報告されている3,4).また虚血では腎臓にO2の欠乏をおこし,それに伴いHO-1が増加する事や,虚血再灌流腎においてHO-1の産生の亢進が報告されている5,6).しかし,その産生されたHO-1が虚血再灌流腎においてどのような役割を果たしているのかについては,現在なお明らかではない.また腎臓の重要な機能の一つに,尿の生成とその濃縮があるが,尿の濃縮のためには浸透圧勾配に従った選択的な水の再吸収を行うための経路が尿細管に発現することが必要であり,これが水チャネル(aquaporin,AQP)と呼ばれる膜蛋白であることが1992年に同定された7).近年aquaporin-2(AQP-2)が腎臓の遠位尿細管ならびに集合管に発現し,尿の濃縮に関わっていることが明らかとなった8).
今回我々は急性虚血再灌流腎においてHO-1がどのような作用を有するのかを明らかにするために,ラットの急性虚血再灌流腎モデルを用いて,HO-1の基質であるhemin,あるいはHO-1の合成阻害薬であるtin-protoporphyrin(Sn-PP)9)の投与を行い,腎臓におけるHO-1の発現ならびに腎機能に及ぼす影響につき検討を行った.また,急性腎障害後に腎尿細管,集合管でAQP-2が減少し,尿の濃縮力が変化するという報告があることから10),虚血再潅流腎においてHO-1とAQP-2の役割について検討した.
対 象 と 方 法
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実験1 急性虚血再還流腎におけるHO-1の発現と腎機能の変化
対象として体重約250 g,12週齢雄のWistar Kyoto(WKY)ラット(SHR等疾患モデル共同研究会,千葉県船橋市)を用いた.なお,この実験を行うにあたりすべての実験は,National
Institute of Healthのガイドライン11)に準じて行い,さらに埼玉医科大学実験動物委員会の承諾(承認番号000013)のもとに行った.WKYラット(n=36)を以下の3群に分類した.I
群:control群(c群,n=12),II群:Fe-protoporphyrin IX(Sigma,Missouri,U.S.A.)投与群(hemin群,40μg
/kg,腹腔内投与,n=12),III群:tin-protoporphyrin(Sigma, Missouri,U.S.A.)投与群(Sn-PP群,40μg
/kg,腹腔内投与,n=12)とし,手術1時間前に各薬剤の腹腔内投与を行った.ペントバルビタール(50 mg/kg,腹腔内投与)(大日本製薬株式会社,東京)麻酔下で左大腿動脈にPE-10カテーテル(Clay
Adams Co., U.S.A.)を挿入,血圧,心拍数を連続モニターした.大腿静脈内にはPE-50カテーテル(Clay Adams Co., U.S.A.)を挿入し,持続注入ポンプ(model-975,Harvard
Apparatus,U.S.A.)を用いて一時間あたり生理食塩水を0.5 ml/時間,さらにペントバルビタール1 mg/kg/時間の速度で持続静脈内投与した.血管クランプを用いて両側の腎動脈を30分間完全閉塞させた後開放し,腎臓を再潅流した.再潅流前,後3,6,ないし24時間後に各群3匹を麻酔下で断頭屠殺し,採血を行い血清クレアチニン
(Cr),血清尿素窒素(BUN),血漿アルドステロン濃度(PAC),血漿レニン活性(PRA),血漿抗利尿ホルモン(AVP),アンジオテンシン I(AngI),アンジオテンシンII(AngII)濃度を測定した.膀胱内にPE-50カテーテル(Clay
Adams Co., U.S.A.)を留置し,0-3時間,3-6時間,6-12時間,12-24時間毎に採尿を行い,尿量, 尿中CrとNa排泄量を測定した.虚血再潅流前,後3,6,ないし24時間後の麻酔下断頭屠殺したラットより腎臓をとりだし,HO-1に対する抗体を用いて免疫染色を行い腎臓におけるHO-1の発現ならびに発現部位を検討した.またそれに伴う腎臓尿細管におけるAQP-2の発現を,免疫染色法を用いて比較検討した.さらに腎臓におけるHO-1,AQP-2とendothelial
constitutive nitric oxide synthase(ecNOS)mRNAの発現変化を,reverse-transcription polymerase
chain reaction (RT-PCR)法を用いて検討した.
実験2 HO-1の虚血再潅流腎の血行動態に及ぼす影響の検討
対象として体重約250 g,12週齢雄のWKYラット(n=18)を実験1と同様以下の3群に分類した.I 群:control群(c群,n=6),II群:Fe-protoporphyrin
IX投与群(hemin群,40μg /kg,腹腔内投与,n=6),III群:tin-protoporphyrin投与群(Sn-PP群,40μg /kg,腹腔内投与,n=6)とし,手術1時間前に各薬剤を腹腔内投与した.ペントバルビタール麻酔下に採血用に右内頚静脈にPE-10カテーテル(Clay
Adams Co., U.S.A.),輸液用に左鼠経静脈内にPE-50カテーテル(Clay Adams Co., U.S.A.)を挿入し,持続注入ポンプ(model-975,Harvard
Apparatus,U.S.A.)を用いて一時間あたり生理食塩水を0.5 ml/時間,さらにペントバルビタール1 mg/kg/時間の速度で持続静脈内投与した.血管クランプを用いて両側の腎動脈を30分間完全閉塞させた後開放し,2時間目および23時間目より以下の腎臓機能検査を行った.左の鼠経静脈のカテーテルから持続注入ポンプ(model-975,Harvard
Apparatus,U.S.A.)を用いて一時間あたり生理食塩水ならびに1% bovine serum albumin(BSA),1%濃度の5-sec-butyl-5-ethyl-2-thiobarbituric
acid(イヌリン)(INUTEST 25%-Ampullen, Fresenius Co., Austria),さらに1%濃度のpara-aminohippurate(PAH)(パラアミノ馬尿酸ソーダ注射液,第一製薬,東京)を100μl
/分の速度で4時間持続静脈内投与(平衡時間1時間+測定時間3時間)を行った.各群のラットにおいて1時間の平衡時間の後,膀胱内留置カテーテルより3-6時間および24-27時間,それぞれの3時間尿を採取した.さらに右内径静脈にPE-10カテーテル(Clay
Adams Co., U.S.A.)を挿入,3時間の採尿の後に右内径静脈カテーテルよりINUTESTおよびPAH測定用に1 mlの採血を行い,イヌリンクリアランスより糸球体濾過量(GFR)をPAHクリアランスより腎血漿流量(RPF)の測定を行った12).また畜尿よりcyclic
GMP(cGMP),尿浸透圧の測定を行った.
血液生化学データの測定
測定用の採血は,麻酔下断頭屠殺後ヘパリン加採血(4 ml)を行い,遠心分離後血清を凍結保存したのち,血清Na,血清K,Cr,BUN,血清総蛋白(TP)を測定した.血中Cr測定はアルカリピクリン酸法13)を,そして,血中BUN測定はウレアーゼ・UV法14)を用いた.
生理活性物質の測定
血漿Ang I,Ang II,PAC,PRA,AVPの測定を行った.麻酔下で断頭屠殺後ヘパリン加採血を行い,氷冷したEDTA-Na入り採血管(5 ml)に分注した.それぞれの検体は直ちに遠心分離し,−20℃で測定まで凍結保存した.Ang
I,Ang II,PACは第1抗体液として,抗Ang I,抗Ang II および抗aldosterone抗体ウサギ血清を,第2抗体液として,抗ウサギ抗体ヤギ血清を用い,そして,トレーサー溶液として125
I- angiotensin I,125 I -angiotensin II15,16)および125
I -aldosterone(アルドステロン・リアキットII,ダイナボット株式会社,東京) 17)を用いたRIA2抗体法を用いて測定した.PRAはガンマー・コートTMレニンキット(デイドベーリング株式会社,東京)18)を用いて測定した.AVPは,抗AVPウサギ血清を加えインキュベーションした後,125I-AVPを加えRIA2抗体法(AVP-RIAキット,三菱化学)19)を用いて測定した.
尿検体の測定
尿中Na,KおよびCl,cGMPの測定を行った.尿中Na,KおよびCl排泄量は,イオン選択電極法20)を用いて測定した.尿中Cr測定は酵素法13)を,尿中尿素窒素はウレアーゼUV法14)を用いて測定した.尿浸透圧は氷点降下法を用いた浸透圧計(Model
3MO, Advanced Instruments Inc., MA, USA)により測定した.また尿中cGMPはRIA DCC法21,22)を用いて測定した.
検体の摘出
すべての検体は麻酔下断頭屠殺後,直ちに採取した.摘出した検体は,RT-PCR用,免疫染色用にそれぞれ分割して保存した.免疫染色用の検体はリン酸緩衝食塩水(PBS)にて洗浄後tissue
tek compoundでコーティングし,一時液体窒素にて凍結した.その後,必要になるまで−80℃で凍結保存した.RT-PCR用検体は直ちに凍結し必要になるまで−80℃で凍結保存した.
腎臓における各種mRNAの発現
腎臓のTotal RNAを抽出しecNOS,HO-1,AQP-2の各 mRNAの発現を半定量的RT-PCR法で検討した.RT-PCRで増幅されたmRNAの発現量の測定値は,内部コントロールであるglyceraldehyde
3-phosphate dehydrogenase (GAPDH)の値で除して相対値として算出した.
HO-1の免疫染色法
凍結保存した組織をクリオスタットで4μm に薄切し,室温にて乾燥した後,アセトンで固定し再び乾燥した.内因性のAvidin,Biotinを阻害するため,Vector
LabのABC Kit(VEC:2001)でそれぞれ(200μl Avidin D solution/ml in PBS,200μl Biotin D
solution/ml in PBS)10分間インキュベーションし,さらに非特異的反応を阻害するために,二次抗体と同種の血清で(PBSで66倍希釈した馬血清)30分間ブロッキングした.一次抗体は1%BSA/PBSで終濃度1μg
/mlとし室温で2時間反応させた.HO-1の一次抗体は慶応義塾大学医学部生化学教室の末松 誠先生からいただいたモノクローナル抗体(抗HO-1)を使用した.HO-1に対する2次抗体は1%BSA/PBSで100倍希釈したマウス
IgGに33倍希釈した馬血清を使用し,30分間 インキュベーションした.PBSにて洗浄後,0.3%H2O2/cold
methanolで30分間インキュベーションした.再度PBSで洗浄し,それぞれPBSで50倍希釈したAvidin-Biotin-HRPで遮光し30分間インキュベーションした.3’3-diaminobenzidine
HCl solution(DAB溶液)で染色したのち,7.4%formaldehydeで20分間固定し,4%methyl greenで核染した23).
AQP-2の免疫染色法
凍結保存した組織をクリオスタットで4μm に薄切し,室温にて乾燥した.その後アセトンで固定し再び乾燥した.内因性のAvidin,Biotinを阻害するため,Vector
LabのABC Kit(VEC:2001)でそれぞれ(200μl Avidin D solution/ml in PBS,200μl Biotin D
solution/ml in PBS)10分間インキュベーションし,さらに非特異的反応を阻害するために,二次抗体と同種の血清で(PBSで66倍希釈したヤギ血清)30分間ブロッキングした.一次抗体は1%BSA/PBSで終濃度1μg
/ml(1000倍希釈)とし室温で2時間反応させた.AQP-2の一次抗体については東京医科歯科大学医学部体内環境調節学の佐々木成先生からいただいたポリクローナル抗体(抗AQP-2抗体)を使用した.AQP-2に対する2次抗体は1%BSA/PBSで100倍希釈したウサギIgGに33倍希釈したヤギ血清を使用し,30分間インキュベーションした.PBSにて洗浄したのち,0.3%H2O2/cold
methanolで30分間インキュベーションした.再度PBSで洗浄し,それぞれPBSで50倍希釈したAvidin-Biotin-HRPで遮光し30分間インキュベーションした.DAB溶液で染色したのち,7.4%formaldehydeで20分間固定し,4%methyl
greenで核染した24).
Total RNAの抽出
摘出した腎臓を液体窒素で凍結固定し,試料の10倍量のTriZOL(GIBCO BRL)を加え,ホモジナイザー,テフロンコッターを用いてホモジネートした.TriZOLの1/5量のクロロホルムを加えよく攪拌し,5分間室温に放置後,4分間,4℃,3500
rpmで遠心分離し,上清を採取した.次に,採取した量と等量のphenol/chloroform/isoamylalchohol(PCL)を加え3分間,4℃,15000
rpmで遠心分離し上清を採取した.そして,等量のイソプロパノールを加え,10分間,4℃,12000 rpmで遠心分離しペレットを採取し,よく乾燥させた.乾燥したペレットに400μl
のdiethylpyrocarbonate処理水(DEPC水)を加え,よくサスペンドし,それに1000 μl のエチルアルコールを加え,更に3MのNaOAcを40
μl 加えエタノール沈殿を行った.次に12000 rpmで遠心分離後,上清を捨て,ペレットをよく乾燥した.75%エタノールで洗浄し乾燥後,これをDEPC水にサスペンドし,total
RNAとして用いた.
Primerの作成
Primerの作成に関してHO-1,AQP-2,ecNOSの各々のモチーフを保存している既知の塩基配列より,各々の部位が増幅するよう5’側と3’側にdegenerate
primerを設計した.各種Primerの構造については,以下に示す.
ecNOS primer
Fw;5’-GCAGCATCACCTACGATACC-3’
Rv;5’-CTCAGTGATCTCCACGTTGG-3’ (586bp)
HO-1 primer
Fw;5’-TGGAAGAGGAGATAGAGCGA-3’
Rv;5’-TGTTGAGCAGGAAGGCGGTC-3’ (451bp)
AQP-2 primer
Fw;5’-ATGTGGGAACTCAGATCCAT-3’
Rv;5’-GGCCTTGCTGCCGCGAGGCA-3’ (829bp)
GAPDH primer
Fw;5’-ACCACAGTCCATGCCATCAC-3’
Rv5’-TCCACCACCCTGTTGCTGTA-3’ (452bp)
RT-PCR法による検出
逆転写酵素反応:reverse transcription (RT)を用いて,あらかじめRNAを鋳型としたcDNAの合成反応をあらかじめ行い,それを鋳型として,degenerate
primerを用いたポリメラーゼ反応 (PCR)を行った.DEPC処理水にサスペンドしたRNAのDNaseI処理を行う.DNase I 10×Buffer,DNase
I amplification Grade(GIBCO BRL),template / total 10μl を37℃15分インキュベーションし, DNase
I処理を行い,それに,EDTA1μl 加え70℃,15分間インキュベーションし,DNase I の反応を停止した.これにOligo (dT) primer(GIBCO
BRL)3μl,5× first Buffer 6μl,DTT 3μl,dNTP mixture(TAKARA) 6μl,Super script II(GIBCO
BRL) 0.7μlを加え,42℃,60分インキュベーションし,RT反応をさせる.DEPC水32.5μl,DMSO 5μl,10×PCR Buffer
5μl,dNTP mixture 4μl,Primer Fw 1μl,Rv 1μl,template (cDNA) 1μl,rTaq polymerase(TAKARA)
0.5μl / total 50μl を94℃5分,94℃で30秒,58℃で1分,72℃2分を25 cycleという条件でPCR反応させた.1%アガロースゲルを作成し,PCR
プロダクトを100Vで 30分間泳動し,ゲルをエチジウムブロマイドで染色した.
統 計
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測定値はすべて平均値±標準誤差で表し,統計解析は血圧,心拍数,尿量,尿中Na排泄量ならびに,腎機能の変化についてはTwo-way analysis
of variance(ANOVA)を用いて群間比較を行った後,Scheffe's F testを行った.また生理活性物質の変化,血液生化学データならびにmRNAの発現量の変化についてはOne-way
analysis of variance(ANOVA)を用いた後,Scheffe's Fを行った.これらの計算はStatview Ver. IVのソフトを用いて行った.なお,p<0.05を統計学的に有意差ありとした.
結 果
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実験1 急性虚血再還流腎におけるHO-1の発現と腎機能の変化
(1)虚血再潅流腎ラットにおける血圧,尿量,尿中Na排泄量の変化(Fig.1)
虚血前の血圧は3群間で有意差は見られなかった.c群の血圧は虚血前116±6 mmHgであり,虚血再潅流後の3時間では112±5 mmHg,6時間で110±5
mmHgといずれも有意な変化は認めなかった.hemin群では虚血再潅流前124±6 mmHgから6時間110±5 mmHgと有意な変化は認めなかった.
Sn-PP群では虚血前112±6 mmHgから再潅流後6時間で114±8 mmHgであり有意な変化は認めなかった.また全経過を通じて血圧に3群間での有意差は認めなかった.(Fig.
1a)尿量の変化では,虚血前の3時間平均尿量は3群間で有意差は見られなかった.c群では,0.28±0.03 ml/3 hrから虚血後0-3時間で0.14±0.04
ml/3 hrへと一時尿量の減少傾向を認めたが,3-6時間にかけて0.40±0.03 ml/3 hrへと有意な増加を認めた.hemin群では,0.27±0.04
ml/3 hrから虚血再潅流後3-6時間で0.88±0.09 ml/3 hrへと有意な増加を認めた.一方Sn-PP群では虚血前0.26±0.02 ml/3
hrから虚血再潅流後減少を認め,3-6時間では0.17±0.02 ml/3 hrへと有意に減少を認めた.3群間での比較では,3-6時間において,c群と比較してhemin群で有意に尿量は増加し,Sn-PP群で有意な減少を認めた.その後6-12,12-24時間でSn-PP群ではc群と比較して尿量は有意に増加した.(Fig.
1b)尿中Na排泄量については,3-6時間まではいずれも尿量と同様な変化を示した.c群と比較して3-6時間以降,hemin群で有意な増加を,一方Sn-PP群で低下を認めたが,3群間での有意な差は見られなかった.(Fig.
1c)
(2)血液生化学データの変化(Fig. 2)
虚血前のCrは3群間で有意差を認めなかった.虚血再潅流後6時間におけるCrでは,c群で0.38±0.06 mg/dlより0.60±0.06 mg/dl,hemin群では0.43±0.08
mg/dl より0.52±0.08 mg/dlと,一方Sn-PP群では0.44±0.06より0.64±0.10 mg/dlへといずれも有意に増加したが,3群間での有意差は認めなかった.さらに24時間でのCrはc群で0.75±0.14
mg/dl,hemin群は0.68±0.08 mg/dl,Sn-PP群で1.13±0.18 mg/dlであり,c群と比較してhemin群で有意に低値であり,hemin投与に伴い有意な腎機能増悪の進展抑制を認めた.一方Sn-PP群ではCrは有意に上昇し腎機能の増悪を認めた.(Fig.
2a)血清尿素窒素においてもCrと同様の傾向を認め,虚血前では3群間に有意差を認めなかったが,虚血再潅流後24時間におけるBUNは,c群と比較してhemin群では有意に低値であり腎機能増悪の進展抑制を示し,Sn-PP群では有意に増悪をした.(Fig.
2b)血清Naは,虚血再潅流に伴う有意な変化は6時間,24時間において認められず,3群間でも有意な変化は認められなかった.(Fig. 2c)また血清Kについても虚血再潅流に伴う有意な変化は6時間では認められなかったが,24時間においてSn-PP群でのみ,有意に増加した.(Fig.
2d)
(3)生理活性物質の変化(Fig. 3)
虚血再潅流後24時間におけるPRAでは,c群では1.22±0.44 ng/ml/hrから2.14±0.46 ng/ml/hr,hemin群では1.21±0.38
ng/ml/hrより2.24±0.33 ng/ml/hr,一方Sn-PP群では1.42±0.21 ng/ml/hrより2.76±0.48 ng/ml/hrと有意に増加したが,3群間に有意差は認められなかった.(Fig.
3a)PACは24時間値において,c群で14.0±3.1 ng/dlより14.8±2.8 ng/dl,hemin群で15.4±2.9 ng/dlから17.2±4.5
ng/dl,Sn-PP群で15. 8±3.4 ng/dlから24.0±4.4 ng/dlへと増加し,PRAと同様の変化を示したが,3群間で有意な変化を認めなかった.(Fig.
3b)AVPの変化ではc群での虚血再潅流前のAVP濃度は131±32 pg/mlから,虚血再潅流後6時間後で,162±22 pg/ml,24時間後で208±18
pg/mlと増加した. hemin群では虚血再潅流前で141±14 pg/mlから,虚血再潅流後6時間後で,148±22 pg/ml,24時間後で211±31
pg/mlと増加,Sn-PP群でも同様に虚血再潅流前で145±14 pg/mlから,虚血再潅流後6時間後で,186±22 pg/ml,24時間後で248±31
pg/mlと増加したが,いずれの時間においても3群間に有意差は認められなかった.(Fig. 3c)
(4)免疫染色法による腎臓におけるHO-1の発現(Fig. 4)
腎臓におけるHO-1の発現を免疫染色法を用いて検討した.虚血前の腎臓において,HO-1は糸球体,尿細管,および間質のいずれにも発現は見られなかった.一方虚血再潅流後では,3時間後より,尿細管を中心にHO-1の発現が認められた(Fig.
4a).また虚血再潅流後も糸球体ではHO-1の明らかな発現は見られなかった.この尿細管でのHO-1の発現は虚血再潅流後24時間においても認められた.一方hemin群では,尿細管におけるHO-1発現は明らかに増強を認めたが(Fig.
4b),Sn-PP群ではHO-1の発現は減弱していた.(Fig. 4c)
(5) 虚血再潅流腎におけるHO-1mRNAの発現変化(Fig. 5)
虚血再潅流前のc群の腎臓におけるHO-1は0.2±0.1,虚血再潅流後,3時間における腎臓においては,1.1±0.2と有意に発現の増強を認め,その発現は虚血再潅流後6時間で1.2±0.4であった.虚血再潅流後3時間のmRNA発現はhemin群では1.4±0.4と有意に増強したが,虚血再潅流後3時間でSn-PP群では0.6±0.4とc群と比較して有意に減弱した.
(6)虚血再潅流腎におけるecNOSmRNAの発現変化(Fig. 6)
虚血再潅流前のc群の腎臓におけるecNOSは1.0±0.3,虚血再潅流後,3時間において0.98±0.2,虚血再潅流後6時間で1.0±0.4であった.hemin群における虚血再潅流後3時間のmRNA発現は1.1±0.4,虚血再潅流後3時間でSn-PP群では1.08±0.3であり,いずれもc群と比較して有意な変化を認めなかった.
(7)免疫染色法による腎臓におけるAQP-2の発現(Fig. 7)
腎臓におけるAQP-2の発現を免疫染色法を用いて検討した.虚血前の腎臓において,AQP-2は尿細管を中心に発現が見られた(Fig. 7a).一方虚血再潅流後24時間後において,c群での尿細管におけるAQP-2の発現は減弱していた.この発現の減弱は虚血再潅流後24時間においても認められた(Fig.
7b).一方hemin群では,虚血再潅流後の遠位尿細管におけるAQP-2の発現の減弱はc群と比較して軽度であり,24時間では回復していた(Fig. 7c).一方Sn-PP群でのAQP-2の発現は逆に減弱し,24時間での発現はc群およびhemin群と比較して著明に低下していた(Fig.
7d).
(8)腎臓におけるAQP-2 mRNAの発現(Fig. 8)
虚血再潅流前のc群の腎臓におけるAQP-2は1.0±0.1,虚血再潅流後3時間における腎臓においては,c群で1.0±0.2,虚血再潅流後3時間のhemin群では1.1±0.3,虚血再潅流後3時間でSn-PP群では0.9±0.4であり,AQP2-mRNAの有意な発現変化は認めなかった.また虚血再潅流後c群の6時間でのAQP-2
mRNAは1.1±0.2であり,虚血前と比較して有意な変化は認められなかった.
実験2 HO-1の虚血再潅流腎のGFR,RPFに及ぼす影響の検討(Fig. 9)
(1) GFRおよびRPFの変化
3-6時間でのGFRでは,hemin群のGFRはc群にくらべ有意な増加を,Sn-PP群ではGFRの有意な低下を認めた.この傾向は24-27時間目においても認められ,c群の78±16
μl /min/100 gと比較してhemin群で135±15μl /min/100 gとGFRは有意に増加し,Sn-PP群では52±10μl /min/100
gと有意なGFRの低下を認めた.(Fig. 9a)一方RPFの変化もGFRと同様の変化を認めた.c群と比較して3-6時間でのhemin群のRPFは有意に増加を,Sn-PP群ではRPFの有意な低下を認めた.この変化は24-27時間においても認められ,c群と比較してhemin群のRPFは有意に増加し,Sn-PP群においてRPFは有意に低下した.(Fig.
9b)
(2)尿浸透圧の変化
3-6時間での尿浸透圧は,3群間で有意な変化は認められなかったが,24-27時間のhemin群ではc群の1050±53 mOsm/kg.H2Oと比較して1280±156
mOsm/kg.H2Oと有意に増加,Sn-PP群では460±96 mOsm/kg.H2Oと有意に低下していた.(Fig.
9c)
(3)尿中cGMPの変化
尿中cGMPの変化は,腎臓におけるHO-1の変化と同様な傾向を認めた.c群の虚血再潅流後3-6時間の尿では384±22 pmol/h,hemin群の3-6時間では430±23
pmol/hへとc群と比較して増加,一方Sn-PP群の3-6時間では341±28 pmol/hへと有意な減少を認めた.また,虚血再潅流後24-27時間の尿ではc群が448±36
pmol/hであったのに対し,hemin群で533±28 pmol/hと有意に増加し,Sn-PP群で408±26 pmol/hと有意に減少した.(Fig.
9d)
考 察
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Heme oxygenase(HO)はHPS32蛋白と同様に,酸化ストレスや,敗血症性ショック,さらに低酸素血症などによって誘導されるストレス蛋白であり,種々の臓器において酵素として作用する.腎臓ではnitric
oxide(NO)が多く発現しており,NOが重要な腎臓の循環動態の調節因子であることが知られており,正常な糸球体においてHO-1は発現していないことが報告されている.しかし特殊な病態では腎臓にHO-1が誘導される.これまでにも虚血再灌流時に尿細管にHO-1mRNAの発現する事5,6),また種々の腎疾患においてHOが発現すること25),さらに動物実験においては腎毒性物質による腎炎において糸球体内にHO-1が発現する事が報告されている26,27).我々もこれまでに蛋白尿を呈する患者の腎生検組織におけるHO-1の発現を検討し,糸球体硬化症の尿細管においてHO-1が発現していること,さらにIgA腎症の尿細管ならびに糸球体にHO-1が発現していることを報告している28).これまでの報告では,種々の腎臓疾患において発現しているHO-1は,いずれも腎臓を保護する方向で作用していることが報告されている.また,尿細管毒性を有するcisplatinやgentamicinによる腎臓障害モデルにおいても,HO-1が腎臓において誘導されており,HO-1をSn-PPにより阻害することで,腎臓障害の進展が見られるとされている29).免疫機構の関与する抗糸球体基底膜抗体(抗GBM)による糸球体腎炎モデルではinducible
nitric oxide(iNOS)の発現が上昇することが知られており,このiNOSが糸球体障害性に作用することが知られている.このようなモデルに対してheminを投与することで,HO-1mRNAの発現が増加し,それがiNOSの発現を抑制し,糸球体障害を抑制する方向に作用することが報告されている30).またnephrotoxic
nephritisにおいて,heminを投与しHO-1を誘導することで,抗酸化作用,抗補体作用,抗血小板作用,さらに血管拡張作用が認められ,その結果腎障害の進展が抑制されることが報告されている27).またAizawaらは,Ang
IIの持続投与によりGFRの低下と蛋白尿の出現が見られるが,このモデルでは尿細管においてHO-1が発現し,Sn-PPの投与はGFRを低下させ,蛋白尿を増加させる一方で,heminの投与はGFRを改善させ蛋白尿を減少させることを報告している31).このようなHO-1の腎臓保護作用は,間質病変による腎障害においても,免疫機序に伴う糸球体病変においても認められることが報告されている.
今回の我々の検討では,虚血再潅流腎においてHO-1が尿細管に発現し,その発現に一致して腎臓でのHO-1mRNAの増加が認められた.heminの投与は尿細管におけるHO-1の発現を増加させた.一方Sn-PPの投与は尿細管におけるHO-1の発現を減少させた.腎血行動態の検討では,heminの投与は再潅流直後のRPFを増加させGFRの改善をもたらしたが,Sn-PPの投与は再潅流直後よりRPFを減少させ,GFRの低下をもたらした.hemin群では再潅流後3時間目以後に尿量の増加を認め,12時間目以後尿量は徐々に減少し,Sn-PP群では尿量の回復はc群およびhemin群より遅れ,12時間目以後は尿量の増加を認めたものの低浸透圧尿であった.AQP-2の変化では,Sn-PP群では尿細管におけるAQP-2の発現は低下し,とくに24時間目の尿細管でのAQP-2発現が著明に低下したことにより尿の濃縮力低下をきたし,尿量が増加したものと考えられた.このAQP-2の発現はhemin群では逆に改善しており,HO-1の腎保護効果により尿細管障害の進展が抑制され24時間目での尿量が減少したものと思われた.以上の結果から,HO-1は虚血再潅流の腎臓の尿細管を中心に発現し尿細管におけるAQP-2の発現を増加させ,さらに腎血流を増加させGFRを保つことが示された.
これまでにも,腎障害モデルに対するHO-1の腎臓保護作用の機序としてRPFやGFRの維持が重要と報告されている31).我々の結果も,保護作用の機序の一つは腎血流維持によるものと思われた.このHO-1によるRPF維持の機序として,HO-1の発現増加に伴うCOの産生増加がcGMPの増加をもたらし,腎血管の拡張をもたらしている可能性が報告されている
32).一方cGMPを介する経路以外にも,NOの活性維持の報告も見られる.すなわち,虚血時に腎臓において産生されるhemeは,腎臓においてNOと結合することでNOの活性を低下させることが知られている33).HO-1の増加に伴い,hemeを分解することでNOの活性が上昇し腎血管抵抗をさげる可能性が報告されている34,35).この直接のHO-1の血管拡張作用の他に,AizawaらはAng
II投与に伴うGFRの低下と蛋白尿の増加を抑制することを報告しており,腎臓で発現するHO-1にはAng IIに拮抗する作用のあることが報告している31).今回の我々の虚血再潅流腎での検討では,血中のレニン-アンジオテンシン系は3群間で有意な差を示さなかったことから,腎血行動態に及ぼすレニン-アンジオテンシン系の関与はないものと考えられた.その他にもHO-1が直接メサンジウム細胞に作用した可能性も考えられたが,今回の我々の結果では糸球体,特にメサンジウム細胞におけるHO-1の発現は認めなかったことから,可能性は低いものと考えられた.
今回の我々の結果では,HO-1の作用として尿細管のとくに水代謝に関与する遠位から集合管にかけてAQP-2の発現に何らかの関与をしている可能性が示唆された.すなわち,24時間での尿細管でのAQP-2の発現は,Sn-PP群において抑制されており,一方heminの投与によりAQP-2の発現は増加していた.その結果,24時間でのSn-PP群での尿の濃縮機能は明らかに低下していた.急性の虚血後再潅流腎においてAQP-2の発現が減少し,それに伴い尿の濃縮が低下することはKimら10)によって報告されている.それによれば虚血後再潅流腎ではAVP投与に伴う尿の濃縮能は消失しており,V2受容体刺激に伴うAQP-2の尿細管管腔側への発現も認められないとされている.それに伴い,虚血後再潅流による急性腎不全においてはAQP-2の発現調節が変化している可能性を報告している.この変化はAQP-2のAVP刺激に伴う細胞質内のAQP-2の管腔側への移動が障害されている可能性を示唆するが,その機序としてAVPのセカンドメッセンジャーであるcAMPの虚血後再潅流腎での髄質外側における産生障害の可能性が報告されている36).このcAMP産生の低下は,adenylate
cyclaseの異常やG蛋白の異常により生じるとの報告もあるが37,38),その正確な機序については明らかではない.今回の我々の結果ではheminの投与が尿細管でのAQP-2の発現を増強し,一方Sn-PPの投与がAQP-2の発現を抑制した.したがって,heminが直接AQP-2
mRNAの発現亢進を促し,蛋白合成を促進した可能性も考えられたが,今回の我々がおこなったAQP-2 mRNAのRT-PCRによる測定では,AQP-2mRNA発現の有意な変化は少なくとも認めなかった.
腎におけるCOの役割については未だ明らかではないが,近年非常に興味のもたれる報告がなされた.Yachieらは先天的にHO-1を欠損している6歳の小児の症例を報告した39).その小児では非常に重篤な成長障害があり,持続的な溶血性貧血があるにもかかわらずハプトグロビンは高値で,逆にビリルビンは低値であった.また凝固線溶系にも異常が見られ,持続的な内皮障害の存在が認められた.さらに特徴的な事として,腎生検光顕所見では糸球体のメサンジウム細胞の増殖と基底膜の肥厚が見られ,さらに電顕で糸球体内皮ならびに内皮下への沈着物が認められており,COの欠損が何らかの腎障害を引き起こす事を示している.この報告によれば,COが腎臓をふくめた全身の代謝系において極めて重要な役割を担っている事は明らかと思われるが,未だその詳細については不明であり今後さらなる検討が必要と考えられた.また近年,HO-1欠損マウスならびにHO-1の過剰発現マウスの報告が見られた.その報告によれば,HO-1の欠損マウスではWild
typeと比較して,正常時の血圧に差は見られないものの1腎1クリップ腎血管性高血圧を作成したところ,有意な血圧の上昇と心臓肥大が認められた.この結果はHO-1の血圧の上昇抑制作用と,心臓肥大の抑制作用を示唆するものと思われた40).さらにこのマウスの腎臓は著明に虚血に弱く,虚血に伴い急激な腎不全の悪化と死亡率の上昇が見られたことを報告している.この結果は,今回の我々の結果と一致するものであり,HO-1は腎臓を虚血から保護し,腎機能の悪化を予防する重要な因子であることが示唆された.一方Imaiらが報告したHO-1の過剰発現マウスでは,興味あることに有意な血圧の上昇が見られた.このマウスではecNOSの発現抑制が認められたことから,HO-1の過剰発現がNOの発現を抑制し,血管平滑筋のNOに対する拡張反応の低下が見られ,これらにより血圧の上昇が認められたものと考えられた41).これらのマウスは正常な状態ではWild
typeと差が見られないが,侵襲に対する抵抗力の低下が推測されており,HO-1は外部からの侵襲に対しストレス蛋白として発現し,腎臓や心臓の臓器保護に作用しているものと考えられた.
今回の我々の結果から,腎臓におけるHO-1の発現は,虚血に伴なう腎血流の低下,さらに尿細管への侵襲に対してHO-1が保護的に発現し,腎障害の進展から腎臓を保護しているものと考えられた.
まとめ
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1. 免疫染色では正常の腎臓においてHO-1の発現は,糸球体,尿細管ともに認めなかった.虚血再潅流後の腎臓において尿細管にHO-1の発現を認めた.この発現はSn-PPにより減弱し,一方heminにより増強した.
2. 虚血再潅流後の腎臓においてHO-1mRNAの発現を認めた.この発現はheminの投与により有意に増加し,一方Sn-PPの投与に伴い有意に減弱した.一方ecNOSmRNAの発現は,いずれの群においても有意な変化を認めなかった.
3. 虚血再潅流後の腎臓では,0-3時間において一時尿量の減少を認めた後,3-6時間において有意な尿量の増加を認めた.hemin投与群では3-6時間に尿量は増加し,12-24時間以降徐々に減少した.Sn-PP群では尿量の回復は著明におくれ,12-24時間以降では低浸透圧尿の増加を認めた.
4. 虚血再潅流後において,6時間におけるPRA,PAC,Ang I,Ang II,ならびにAVPは有意な変化を認めなかった.また,3群間での有意な差を認めなかった.24時間目ではPRAは3群とも有意に増加した.PACおよびAVPはSn-PP群で前値に比較し有意に増加したが,3群間で有意な差は認められなかった.
5. 免疫染色では,虚血再潅流前の腎臓において,尿細管へのAQP-2の発現を認めた.AQP-2の発現は,虚血再潅流後に減少を認めた.一方この発現はhemin投与により増強し,Sn-PP投与により減弱した.24時間目のAQP-2の発現は,c群と比較してSn-PP群では著明に減弱を,hemin群では増強を認めた.
6. 虚血再潅流後の腎臓において,AQP-2 mRNAの有意な変化は認めなかった.また,3群間においてAQP-2 mRNAの有意な発現変化は認めなかった.
7. GFRおよびRPFでは,c群と比較して3-6時間でhemin群は有意な上昇を,Sn-PP群では有意な低下を認めた.この変化は24-27時間においても認められ,c群と比較してhemin群のGFRおよびRPFは有意に増加を,Sn-PP群では有意な低下を認めた.
8. 3-6時間での尿浸透圧は,3群間で有意な変化は認められなかったが,24-27時間のhemin群ではc群と比較して有意に増加,Sn-PP群では有意に低下していた.
9. 3-6時間および24-27時間における虚血再潅流後の腎臓で,hemin群で尿中cGMPの上昇を認め,Sn-PPの投与により有意に減少した.
結 論
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虚血再潅流腎において尿細管にHO-1の発現亢進を認めた.このラットへのheminの投与は,HO-1の発現を増加させた.一方Sn-PPの投与は,HO-1の発現を抑制した.腎血行動態の検討では,heminの投与は再潅流直後のRPFを増加させGFRを改善させたが,Sn-PPの投与は再潅流直後よりRPFを減少させGFRを低下させた.尿量の変化では,hemin群では再潅流後3時間目以後に増加を認め,12時間目以後徐々に減少し,Sn-PP群では尿量の回復はc群およびhemin群より遅れ,12時間目以後は増加を認めたものの低浸透圧尿であった.虚血再潅流後24時間における腎でのAQP-2の発現はhemin群で増強し,Sn-PP群で著明に低下していたことから,24時間におけるSn-PP群での低張尿の増加は尿細管におけるAQP-2の発現の著明な低下が関連しているものと思われた.hemin投与群では尿細管におけるAQP-2の発現は増加し,尿の濃縮が維持されているものと思われた.以上よりHO-1の腎臓での発現は尿細管におけるAQP-2の発現を維持し,さらに腎血流ならびに腎機能を維持しているものと思われた.
謝 辞
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稿を終えるにあたり,御指導御校閲を賜りました埼玉医科大学腎臓内科学講座鈴木洋通教授に深謝いたします.また直接御指導いただき,終始懇切な御指導を賜りました同教室中元秀友助教授に深謝いたします.またheme
oxygenase-1(HO-1)に対する抗体を提供していただいた慶應義塾大学医学部生化学教室教授末松誠先生,AQP-2に対する抗体を提供して頂いた東京医科歯科大学医学部体内環境調節学助教授佐々木成先生に深謝いたします.また,本研究に対し,多大な御協力,御助言を賜りました研究室各位に感謝申し上げます.
なお,この論文の内容は,第21回高血圧学会(1998年,広島),第2回日本心血管内分泌代謝学会(1998年,京都),第4回腎と高血圧研究会(1998年,東京),第4回Vascular
Medicine(1999年,大阪),第4回高血圧と動脈硬化研究会(1999年,東京),第3回日本適応医学会(1999年,旭川),第18回国際高血圧学会議(2000年,Chicago)にて発表した.
文 献
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