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埼玉医科大学雑誌 第29巻第2号 (2002年4月) 167頁 (C) 2002 The Medical Society of Saitama Medical School

特別講演

主催 埼玉医科大学病理学教室 ・ 後援 埼玉医科大学卒後教育委員会
平成13年11月20日 於 埼玉医科大学第一講堂

肝細胞の小結節性病変の病理:International Working Party (IWP)分類に基づいて

中野 雅行


(国立千葉病院研究検査科)


 1970年代,肝細胞癌(hepatocellular carcinoma, 以下HCC)は剖検例が対象で,肝硬変を背景に大きな結節型腫瘍で被膜を有し,組織学的に細胞異型の明らかな癌細胞の増殖するものが主体であった.その後,画像診断や手術の進歩に伴い,小型のHCCが見つかり出したが,組織像は大きな癌と同様であった.そのうちに慢性肝炎の経過観察中に小結節が見つかるようになった.それらの組織像はこれまでのHCCとは異なり,細胞異型が乏しいため癌とは診断されず,腺腫様過形成(adenomatous hyperplasia:AH)とか異型腺腫様過形成(atypical adenomatous hyperplasia:AAH)と呼称された.しかし,1990年頃にはこのような病変についての統一された診断名がなく,同じような結節性病変が診断者によって異なった診断名で報告されるようになり,世界的に混乱状態に陥った.
 1994年のWorld Congress of Gastroenterologyで肝細胞性結節病変の用語統一を目的としてInternational Working Party (IWP)が作られ,新たなIWP分類が発表されるに至った.この分類は結節を再生性結節(regenerative lesions)と腫瘍性結節(dysplastic or neoplastic lesions)に2大別する明快な分類で,前癌病変とみなされるAHやAAHはdysplastic lesionsとしている.
 一方,初期の高分化型HCCでは細胞異型に乏しい超高分化型といわれる細胞群が境界不明瞭な小結節を形成する.この場合に門脈域あるいは線維隔壁にみられる間質浸潤の像を知らないと初期の高分化型HCCを見落とすことになる.弾性線維は比較的遅くまで残存するので弾性線維染色を行なうと間質浸潤が見やすくなる.ヴィクトリアブルーとヘマトキシリン・エオジンの重染色(VBHE)が有用で,弾性線維と弾性線維の間に肝細胞が入っていれば癌細胞の浸潤で,新しい線維化では弾性線維がまだ存在せず,線維化に巻き込まれた肝細胞との鑑別に役立つ.いずれにしろ間質浸潤があればHCCと診断される.その他,通常では肝細胞の核は正円であるが,初期の高分化型HCCでは核の円形度の低下が認められるようになる.
(文責 清水道生)

(C) 2002 The Medical Society of Saitama Medical School