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埼玉医科大学雑誌 第29巻第3号別頁 (2002年7月) T67-T76頁 (C) 2002 The Medical Society of Saitama Medical School

Thesis

悪性黒色腫における超音波パワードプラ法の血流信号と腫瘍血管の免疫組織学的所見の関連についての検討

江田 二葉

埼玉医科大学皮膚科学教室
(指導:土田 哲也教授)

医学博士 甲第811号 平成14年3月22日 (埼玉医科大学)


 超音波ドプラ法は血流信号の検出感度が高く悪性黒色腫の診断には特に有用である.一方,種々の悪性腫瘍において腫瘍血管の増殖やその血管平滑筋細胞の異常が報告されている.そこで悪性黒色腫の原発巣,リンパ節において超音波ドプラ法による所見と腫瘍血管の密度や抗αSMA抗体,抗calponin抗体を用いた血管平滑筋細胞の染色性の異常についての関連を検討した.悪性黒色腫原発巣では,腫瘍内部,腫瘍周辺部において超音波ドプラ法で高率かつ豊富な血流信号を認めた.同部では径25μm以下の血管径群の密度が高い一方で抗αSMA抗体,抗calponin抗体での血管平滑筋の染色性は著明に減弱し,超音波ドプラ法での所見は腫瘍内部,周辺部の微小な腫瘍血管密度と血管平滑筋細胞の変化を反映している可能性が示唆された.リンパ節転移巣においても同様な血流信号を認めたが,血管平滑筋の染色性や腫瘍血管密度については非転移巣との差は見られなかった.
Keywords: power Doppler sonography, color flow, malignant melanoma, angiogenesis, immnohistochemistry,α- smooth muscle actin, calponin



 緒 言
 種々の腫瘍の血行動態を観察する方法として非侵襲的で簡便なことから超音波ドプラ法の有用性が注目されている1).通常,超音波ドプラ法はcolor Doppler image(以下CDI)で行われるが,power Doppler image(以下PDI)は,より血流信号の検出感度が高く,病巣内の細い血管や遅い血流を検出できるとされている.現在,この方法を用いて,肝臓,腎臓,乳腺,リンパ節,軟部組織などの分野で腫瘍血管の検出,虚血性病変診断,炎症性疾患の評価の検討などが行われている2).皮膚腫瘍においてはその病巣の血流分布や流速分析により良性腫瘍と悪性腫瘍を鑑別する試みがなされており3),悪性腫瘍の中でも特に悪性黒色腫の原発巣と転移巣では血流信号が高率かつ豊富に認められ,有用性が高いとされている4)
 悪性腫瘍の増殖・進展には血管新生が不可欠な要素と考えられており5),新生血管は腫瘍の増殖に必要な栄養,酸素の供給,代謝産物の処理などを担うだけでなく,新生血管の壁そのものが未熟なため腫瘍細胞の血管内侵入を容易にさせ,転移経路としても重要な要素となると言われている6).これまで,各種固形腫瘍において血管内皮細胞の免疫組織学的検討により,微小血管の同定とその血管密度が算定され,その結果,血管密度の異常と患者予後との間に強い相関があることが明かにされてきた7-9)
 また,悪性腫瘍における新生血管では成熟した血管と比較し,血管内皮細胞を取り囲む平滑筋細胞に異常を認め,α-smooth muscle actinの特異モノクローナル抗体(以下抗αSMA抗体)を用いた免疫組織学的検討においては,悪性腫瘍内の新生血管では良性腫瘍の場合に比べその染色性が減弱していることが報告されている10-12).さらに,アクチン結合蛋白であるcalponin13-15)を用いた検討においても,その発現低下はさらに著明になると報告されている16-21)
 我々はこれらの点に着目し,悪性黒色腫の原発巣,所属リンパ節(転移巣,非転移巣),および母斑細胞母斑を超音波ドプラ法を用いて血流信号を観察した後,これらの切除標本の病理組織学的検討を行った.超音波ドプラ法での血流信号の有無,腫瘍内部および腫瘍近隣部血管密度や,同部における血管平滑筋の免疫組織学的染色性についてそれぞれの相関を検討した.

 材 料
 対象症例は全て埼玉医科大学皮膚科にて1997年3月から2000年8月までに経験したものである.悪性黒色腫,原発巣16例(男性11例,女性5例,年齢53〜80歳,平均年齢64.8歳,nodular melanoma(NM)5例,acral lentiginous melanoma(ALM)9例,ungual melanoma(UM)2例,stage I 2例,stage II 1例,stage III 12例,in situ 1症例,tumor thickness 0.7~6.0 mm 平均3.49 mm),対照として母斑細胞母斑10例(男性6例,女性4例,年齢4〜63歳,平均年齢40.5歳)を使用した.母斑細胞母斑は臨床的に3 mm以上隆起が見られた症例を使用した(表 1).
 リンパ節については,悪性黒色腫所属リンパ節18領域(男性 10例,女性8例,年齢26〜83歳,平均年齢61.1歳,転移巣10例(stage III 8例,stage IV 2例),非転移リンパ節巣8例(stage I 1例,stage II 2例,stage III 5例))を使用した.リンパ節標本は術中の2%パテントブルー皮内注による色素法22),もしくは術前の99m Tc-Sn -colloidによるRI法23)によりsentinel node24)と同定されたものを使用した(表2).

 方 法
超音波ドプラ法
使用した超音波診断装置は東芝社製SSA 340A(リニア型探触子8〜10 MHz),アロカ社製SSD2000(リニア型探触子7.5 MHz)を用いた.まずBモードにて病巣を確認し,さらにCDIおよびPDIで,対象部の血流信号を検出した.velocity rangeを最低3 cm/secに設定し,flow gainはノイズがでない程度に調節して血流信号の有無とその分布を観察し,血行動態の判定にはPDIの所見を利用した.
免疫組織学的染色法
 手術で得た標本をホルマリン固定,パラフィン包埋し,3〜4μmの薄切標本を作成して,avidin-biotin peroxidase complex(ABC)法による免疫染色をおこなった.
 使用した抗体は抗第ヲ因子関連抗体,抗calponin抗体,抗αSMA抗体(いずれもDACO社製)を使用した.脱パラフインした後,0.1%トリプシン溶液にてトリプシン処理した.0.3%過酸化水素にてペルオキシダーゼを不活性化し10%正常ブタ血清にてブロッキングをしたのち,一次抗体として抗第ヲ因子関連抗体(×200),抗calponin抗体(×75),抗αSMA抗体(×30)をそれぞれ使用した(4 ℃ overnight).二次抗体はABC KIT Elite(フナコシ)附属のビオチン標識抗マウス免疫グロブリン-ヤギ抗体及び,ビオチン標識抗ウサギ免疫グロブリン-ヤギ抗体を使用した(室温30分).二次染色はElite(フナコシ)キットを用い,DABで発色したのち,ギムザ染色を行った.

 解 析
血管密度
 検体を光学顕微鏡(OLYMPUS BX 50)にて観察し,悪性黒色腫原発巣標本では四万村ら25)の方法に準じ腫瘍部,近隣部,正常部の3ケ所に分類した.すなわち,標本内において近隣部は200倍視野にて腫瘍線より3視野以内までとし,それより外側部は正常部とした.リンパ節標本ではリンパ節内部のみを対象とした.
 微小血管密度の計測についてはWeidnerら26)の方法に準じた.すなわち抗ヲ因子関連抗体による免疫組織化学的検討にて,血管内皮細胞が染色されたものを微小血管と同定した.まず,光学顕微鏡を使用し100倍視野にて標本内の各標本各分類部における微小血管豊富部(vascular hot spot)を検索し,次に200倍視野での1視野中(0.72 mm2 )の血管数を算定した.これを各部3回行い,その平均数を血管密度とした.さらに血管数は血管径により25μm以下,25〜50μm,50μm以上の3群に分けそれぞれ計測した.
血管平滑筋染色所見
 抗αSMA抗体,抗calponin抗体による免疫組織化学染色にて,腫瘍内およびその近隣周辺部の血管壁の染色性を評価した.評価は径約25〜50μm前後の血管壁が確認できる血管を対象とし,評価部は前述の様に腫瘍部との位置関係にて分類した.悪性黒色腫原発巣,母斑細胞母斑では近隣部,腫瘍部を対象とし,リンパ節標本では近隣部,リンパ節内部を対象とした.染色所見を2名以上で評価し,以下の様に階級付けた.悪性黒色腫原発巣,母斑細胞母斑では各標本の正常部で最も濃染されている血管壁の染色性を3(strong)とし,これをcontrolとした.リンパ節では各標本のリンパ節外側部かつ遠位で最も濃染されている血管壁の染色性を3(strong)とし,これをcontrolとした.評価は3(strong),2.5,2(medium),1.5,1(weak),0.5,0(negative)と階級付けした.
統計処理
 計測値はmean±standard deviation(SD)で表した.血管密度の比較,血管平滑筋染色所見の比較はWilcoxon法を用いた.p<0.05を有意差ありと判定した.

 結 果
超音波ドプラ法(表 3)
 超音波ドプラ法にて悪性黒色腫の原発巣腫瘍内に16症例中13症例(81.3%)で血流信号が認められた(図 1,2).血流信号の分布パターンを観察したところ,病巣全体あるいは多中心的に血流信号が見られた他,腫瘍辺縁からも検出された.
 所属リンパ節の転移巣内においては10症例中9症例(90.0%)で血流信号が認められ(図3),非転移巣においては8症例中7症例(87.5%)で血流信号が検出されなかった(図4).母斑細胞母斑では全症例において明らかな血流信号は認めなかった(図5,6).
免疫組織学的所見
血管密度
 悪性黒色腫では最小46.5,最大132.6の間に分布しており,平均82.6±24.6であった.母斑細胞母斑では最小15.5,最大64.0の間に分布しており,平均39.7±13.6であった(表4).悪性黒色腫では,母斑細胞母斑と比して高い血管密度を示し(p<0.01),腫瘍との位置関係にて3分類したいずれの部においての比較でも,高い血管密度を示した.さらに悪性黒色腫において近隣部は,腫瘍部,正常部と比し最も高い血管密度を示した(p<0.05)(図7).母斑細胞母斑では正常部の血管密度が最も高く,次いで近隣部が高かった.この2者においては差は認められなかったが,腫瘍部では正常部と比し血管密度が有意に低かった(p<0.01).図8には悪性黒色腫,母斑細胞母斑における血管径別の血管密度の差を示す.前述した3分類のいずれの血管径群においても悪性黒色腫にて高い血管密度を示し,特に径25μm以下,径50μm以上の血管径群において,血管密度の差は顕著であった(p<0.01).図9には悪性黒色腫,母斑細胞母斑間での腫瘍からの位置別,血管径別の血管密度の差を示す. 正常部では25μm以下の血管密度に明らかな差を認めた(p<0.05).近隣部でも25μm以下,50μm以上の血管密度に明らかな差を認めた(p<0.01).腫瘍部ではいずれの血管径群においても明らかな差を認めたが(p<0.05),特に25μm以下,50μm以上の血管密度により顕著な差が見られた(p<0.01).
 同様の検討におけるリンパ節内の血管密度の結果を表5に示す.転移巣は最小9.7,最大176.4の間に分布し平均81.7±52.0であり,非転移巣は最小12.7,最大167.3の間に分布し平均108.7±47.9であった.転移巣,非転移巣間の全血管の血管密度,血管径群別血管密度に,明らかな差は認められなかった(図10).
血管平滑筋染色所見の評価
 悪性黒色腫原発巣標本において抗αSMA抗体による近隣部血管壁の染色性は,正常部control(図11a)と比較し16症例中8例(50%)の症例で減弱が認められた(図12a).腫瘍部血管壁では,全症例において近隣部よりもさらに染色性の減弱が認められた(図13a).抗calponin抗体による近隣部における染色性は正常部control(図11b)に比して全症例で減弱が認められ(図12b),腫瘍部において近隣部と比してさらに著明に減弱して認められた(図13b).図14に悪性黒色腫原発巣における近隣部,腫瘍部各部の染色所見の評価の平均値を示す.抗αSMA抗体,抗calponin抗体にていずれも正常部controlと比較し,近隣部,腫瘍部の双方特に腫瘍部で染色性の減弱を認めた(p<0.01)が,抗calponin抗体による染色性の減弱の方が,抗αSMA抗体の場合に比してより著明であった(p<0.01).
 母斑細胞母斑において抗αSMA抗体では正常部controlと近隣部血管壁の染色性は同等で(図15a),腫瘍部においては,10例中2例にわずかな染色性の減弱を認めるも,染色性の平均値にはcontrolと比較し明らかな差はなかった(図16a).抗calponin抗体では正常部controlと比較し近隣部血管壁の染色性は10例中6例(60%)の血管壁で減弱し,染色性の平均値においても正常部controlと比較し明らかに減弱していた(p<0.05)(図15b).腫瘍部では全症例にて血管壁の染色性に明らかな減弱が認められた(図16b)(p<0.01).図17に母斑細胞母斑における近隣部,腫瘍部各部の染色所見の評価の平均値を示す.近隣部,腫瘍部において抗calponin抗体の染色性は抗αSMA抗体に比し明らかに減弱していた(p<0.01).いずれの抗体においても近隣部及び腫瘍部にて悪性黒色腫では母斑細胞母斑と比較し,染色性の減弱は著明であった(p<0.01)(表6).
 同様に悪性黒色腫のリンパ節標本の染色所見を評価した.転移巣において抗αSMA抗体では,リンパ節外側部controlと比較し近隣部の10症例中5例(50%)の症例で軽度の染色性の減弱が見られた(図18a).リンパ節内部は90.0%の症例でさらに著明な染色性の減弱が認められた(図19a).抗calponin抗体では近隣部においてリンパ節外側部controlと比較し全症例で染色性が減弱していた(図18b).リンパ節内部も全症例において,さらに著明な染色性の減弱がみられた(図19b).非転移巣においては抗αSMA抗体の染色性に近隣部では8症例中3症例(37.5%)で減弱し,リンパ節内部では全症例で減弱していた.抗calponin抗体では近隣部,腫瘍部でも全症例ともに染色性の減弱が見られた.図20に転移巣での血管壁染色性の平均値を示す.転移巣においてリンパ節内部では抗αSMA抗体,抗calponin抗体による染色性の減弱が認められ,特に抗calponin 抗体で減弱度は著明であった(p<0.01).図21に非転移巣での血管壁染色性の平均値を示す.非転移巣では,近隣部における抗αSMA抗体での染色性はcontrolと明らかな差を認めなかったものの,抗calponin抗体では有意な減弱をみた.リンパ節内部では,controlと比較し各抗体で明らかな染色性の減弱がみられたが,抗calponin抗体での染色性の減弱の方がより著明であった(p<0.01).しかし,転移巣,非転移巣間の各抗体の染色性に明らかな差は認められなかった(表7).

 考 察
 本研究では悪性黒色腫の原発巣,リンパ節(転移巣,非転移巣)および母斑細胞母斑における超音波ドプラ法での血流信号の所見と,各標本での腫瘍内部,腫瘍近隣部における血管密度および血管平滑筋細胞の免疫組織化学的所見との関係を調べた.PDIの結果,原発巣,リンパ節転移巣ともに悪性所見を示す病巣において3 cm/sec以上の血流信号が高頻度に認められた.また,検出された信号は多くが病巣内部だけでなく病巣部周辺部にも連続して検出された.
 免疫組織化学染色を用いて各切除標本での血管密度を算出したところ,悪性黒色腫原発巣は母斑細胞母斑と比較し高い血管密度を認めた.さらに,腫瘍周囲も含めた微小な新生血管ならびに,局所的な新生血管を反映させ,PDIによる血流信号に関わる血管径群を検討する為に血管径の太さにより3群に分類し,また標本内において腫瘍部,近隣部,正常部と3分類した.悪性黒色腫は母斑細胞母斑に比し,いずれの部においても血管密度が高かったが,特に径25μm以下の微小な血管群の密度が腫瘍部だけでなく近隣部,正常部においても高かった.このことより悪性黒色腫の原発巣においてのPDIの所見は,腫瘍内部及び近隣部での特に径25μm以下の微小な血管密度と相関している可能性が推測された.GiovagnorioらはCDIにより皮膚腫瘍病巣を検討し,血流信号のパターンを以下の4型に分類している27);avascular(type 1),hypovascular with a single vascular pole(type 2),hypervascular with multiple peripheral pole(type 3),hypervascular with internal vessels(type 4).このうち悪性腫瘍に多く見られるパターンとしてtype 3,type 4を報告している.今回我々が血流信号陽性とした所見はtype 3,type 4に一致し,一方,陰性所見はtype 1,type 2に一致する.超音波ドプラ法で悪性黒色腫原発巣の多くに豊富な血流信号パターン(type 3,4)がみられ,一方,母斑細胞母斑に血流信号が乏しかった(type 1,2)ことの基盤には腫瘍内および腫瘍近傍血管の量的,質的差があると考えられる.その量的基盤の一つとして,悪性黒色腫における腫瘍内部および腫瘍近隣部の高い血管密度が関連している可能性を考えた.
 また,血管の質的差を探る目的で腫瘍及び腫瘍近傍の血管平滑筋細胞の免疫組織学的検討も行った.現在まで報告されている悪性腫瘍における腫瘍血管での血管平滑筋の免疫組織化学的検討では,血管平滑筋細胞の染色性の低下が認められており,それは腫瘍内部,腫瘍近隣部にて著明であったとされている10,11,20).また腫瘍血管における血管平滑筋細胞の染色性の低下のみられた他の悪性腫瘍においてWestern blot法でのmRNAの低発現が報告されている10,11,16,17).更に,谷口らは悪性黒色腫において腫瘍細胞が発するαSMAの発現を押さえる因子を報告しており28),血管平滑筋の異常をおこさせる要因として検討されている.
 今回の検討により母斑細胞母斑に比べ悪性黒色腫において腫瘍内部,腫瘍近隣部での血管平滑筋の異常が顕著なことを明らかにした.この事は血流信号に及ぼす血管の質的異常の一つの基盤となる可能性がある.
 以上から,悪性黒色腫の原発巣では異常血管の増殖が認められ,こういった腫瘍部血管の量的異常に基づく血流増加と質的異常による血流調節障害の双方がPDIにおいて検出された異常な血流信号と関連している可能性を考えた.ただし,リンパ節においてはPDI所見上,転移巣と非転移巣の間に血流信号の明らかな差が見られたものの,血管密度や,構成血管の血管径に明らかな差は見られず,さらなる検討を残すところとなった.また,悪性黒色腫原発巣,リンパ節転移巣において著明に認められた血管平滑筋の変化が,母斑細胞母斑,リンパ節非転移巣においても少なからず認められたことに関しても問題が残る.さらに,悪性黒色腫では血管内皮細胞なしに血行転移をおこさせる腫瘍細胞のvascular channel formationの報告があり29),このこととPDIでの血流信号の増加についても今後さらに検討する必要があると思われた.

 謝 辞
 本稿を終えるにあたり,御指導頂いた埼玉医科大学皮膚科学教室土田哲也教授に深甚なる感謝の意を表します.また,本研究に御助言を頂いた埼玉医科大学中央超音波室中島美智子講師,皮膚科学教室清原祥夫講師に心より深謝致します.

 文 献
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