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埼玉医科大学雑誌 第29巻第4号 (2002年10月) 213-220頁 (C) 2002 The Medical Society of Saitama Medical School

原 著

透析療法開始後5年間の臨床経過の追跡
−血液透析と腹膜透析の比較検討−

鈴木 俊彦

埼玉医科大学腎臓内科学教室
〔平成14年9月10日 受付〕


Peritoneal Dialysis Versus Hemodialysis: A Five-year Comparison of Clinical Parameters
Toshihiko Suzuki ( Department of Nephrology, Saitama Medical School, Moroyama, Iruma-gun, Saitama 350-0495, Japan )

BACKGROUND: The influence of the mode of dialysis on prognosis in patients with renal disease is controversial. This is at least in part because of heterogeneity of patient populations, who may be receiving either continuous ambulatory peritoneal dialysis (CAPD) or hemodialysis (HD). In the absence of randomized trials, epidemiological investigations present the best method for studying the problem. METHODS: In order to determine the influence of the mode of dialysis on prognosis and on the cardiovascular system, erythropoiesis, and calcium metabolism, 36 patients having CAPD and 36 patients undergoing HD were selected for study. Patients were matched based on age, sex, and etiology of renal disease. A 5-year follow-up study was conducted. RESULTS: Among CAPD patients there was 1 death due to severe infection, 1 from myocardial infarction, and 3 from congestive heart failure. In this group the average age were 58±3 years. Among HD patients there were 8 deaths due to congestive heart failure, 1 from cerebrovascular accidents, and 2 due to severe, infection. In this group the average age was 63±3 years. Six CAPD patients were transferred to HD, because of recurrent peritonitis or elevation of serum creatinine. Patients on CAPD had lower blood pressures, and patients on HD had lower total cholesterol levels. Other parameters were not significantly different between two groups, including the doses of erythropoietin and calcium supplements administered. CONCLUSIONS: This study provides evidence that clinical outcomes in renal failure may depend to some extent upon the mode of dialysis. The results suggest that levels of blood pressure and serum total cholesterol should be taken into account when treating patients with either CAPD or HD, since both blood pressure and total cholesterol levels are likely to be important in contributing to mortality and morbidity in these patients.
Keywords: Blood pressure, lipid metabolism, calcium metabolism, hematopoiesis
J Saitama Med School 2002;29:213-220
(Received September 10, 2002)


 緒 言
 本邦では2001年末現在で約22万人が人工透析療法を受けており,その内訳は血液透析を受けている人が約21万人で,腹膜透析(continuous ambulatory peritoneal dialysis : CAPD)を施行している人が1万人弱である1).世界的にみると血液透析を受けている人は全体の60%近くで,一方CAPDは40%前後である.血液透析がCAPDに比べて医学的に明らかに優れていると言った知見はないにも関わらず,本邦では諸外国に比べて血液透析の患者数が多くCAPDの患者数が極端に少ないかということについて,1)日本人には医療における自己管理,自己責任と言う習慣がない,2)医療は医療機関でおこなわれると言う固定観念,3)国土が小さいため血液透析施設への通院が容易であるなどいくつかの議論がなされてきた.またこれらに加えてKurokawaらは,CAPDは血液透析と比較して医師あるいは医療機関の収益が十分に得られないという経済的な側面が大きな要素ではないかと述べている2)
 諸外国では二つの透析療法の選択に当たり,患者のQuality of lifeや透析効率,さらには合併症とくに心血管系の合併症の有無などを比較した多くの論文が出されている.CAPDに関しては心血管系への負担が少ない,残存腎機能を保護できる,あるいは自宅で施行が可能であるなどの利点,逆に致死的な硬化性腹膜炎をおこすので勧められないとする意見まであり,透析療法の選択に結論は得られていない3-7).本邦では血液透析とCAPDを前向きに比較した成績はほとんどないが,それは二つの療法を行っている施設が少ないこと,また透析療法を必要とする末期腎不全患者は構成がきわめて多様で,原疾患,年齢,さらには性といったきわめて基本的な要素でさえもマッチングして比較することが難しいことが大きな原因であると考えられる.
 今回血液透析とCAPDのいずれかの透析療法を開始した患者を原疾患,年齢,性を出来る限り一致させて,5年間にわたる前向きの長期観察をおこない,予後と臨床経過の比較検討をおこなった.

対 象 と 方 法
 対象は埼玉医科大学腎臓病センターに慢性腎不全のために少なくとも3か月以上通院しており,その後人工透析療法が必要となった患者とした.急性腎不全に対する人工透析療法は多くの場合血液透析により導入され,そのほとんどの症例がそのまま血液透析を継続すること,また尿量が急激に減少するため残存腎機能が途絶しやすく,CAPDに変更してもその継続が困難であることから,急性腎不全の症例は除外した.患者の登録期間は平成6年9月1日から8年8月31日の2年間であり,13年8月31日をもって観察終了とした.血液透析,CAPDの選択は通常の診療と同様に,患者本人の希望を参考にした主治医の判断で行い,人工透析療法を導入した.その後に半年単位で患者群の検討をおこない,両治療群で原疾患,年齢,性がなるべく一致するよう患者を選択して,本研究に対する同意を得た上で登録を行なった.
 CAPD治療群はデキストロース1.5 g/dlもしくは2.5 g/dlを含む透析液を使って原則として1日4回1.5〜2リットルの液交換を行なった.水分摂取は前日の透析除水量と尿量に500 mlを加えた程度と指導した.血液透析治療群は合成膜(ポリスルファンもしくはポリアクリロニトリル)を使い週2ないし3回,一回あたり3ないし4時間の血液透析を行なうことを原則とし,重炭酸液を緩衝液として用いた.水分摂取は前日の尿量に500 mlを加えた程度と指導した.両治療群の食事は日本腎臓学会の定めたガイドラインに準じて指導した.両治療群で尿素窒素,血清クレアチニン,血清電解質(ナトリウム,カリウム,カルシウム,無機リン),ヘモグロビン,ヘマトクリット値などの検査は月2回行われていたが,これを6か月単位での平均値をで計算して測定値とした.血液透析治療群では血液透析前の測定値を用い,CAPD治療群では外来受診時の測定値を用いた.副甲状腺ホルモン(iPTH)および血清総コレステロールは6か月毎の測定値を用いた.
 腎性貧血に対してはヘモグロビン値に応じてエリスロポエチン製剤を血液透析患者では血液透析終了時に経静脈的に投与し,CAPD患者においては週1回から月1回の間隔で経皮的に投与を行った.目標のヘモグロビン値は性別,年齢を問わず9.0 g/dl以上10.0 g/dl以下とした.二次性副甲状腺機能亢進症に対してはiPTHを指標として,200 pg/ml以上の患者にはビタミンD3製剤と炭酸カルシウム製剤の補充療法を行なった.血清カルシウムリン積が70以下,iPTH100〜200 pg/mlを目標とした.iPTHが70 pg/ml未満の患者には炭酸カルシウム製剤を投与した.これらの薬物療法にもかかわらずiPTHが1000 pg/ml以上の症例では副甲状腺摘出術の適応を検討した.
 血圧は1年毎の記録としたが,血液透析患者では記録する月に測定した透析前後の血圧測定値のすべての記録を平均して記録値とした.CAPD患者では記録する月の家庭血圧測定値の平均を記録値とした.診療にあたっては非薬物療法に加え,収縮期血圧140 mmHg以上もしくは拡張期血圧90 mmHgで降圧薬による治療を,またすでに降圧治療をおこなわれている症例では降圧薬の増量あるいは変更を行なった.血液透析患者においても家庭血圧測定を奨励した.
 全ての患者に本研究に登録するにあたり十分な説明を行い,かつ口頭での同意を得た上で,5年間の経過観察をおこなった.なお,この研究を開始した当時はこの様な臨床研究に対する倫理面での明確な規定が設けられていなかったので,本大学の倫理委員会には審査申請を行っていない.しかし現在本大学の倫理委員会が提唱している項目をほぼ遵守した形になっていることより,倫理上大きな問題点はなかったものと考えている.
 統計は主としてStudentのtテストを用いて検定を行なった.偏りのある検査に関してはMann-Whitney試験を適用した.さらに連続的な変化を比較する目的で分散分析(ANOVA)をおこなった.Kaplan-Meier生存分析を患者の生存を分析するのに用い,log-rankテストによって評価した.結果はすべて平均値±SEMで表現しp<0.05を統計学的に有意差ありとした.

 結 果
1.患者の臨床像
 対象となった患者の平均年齢はCAPD群で56.5±1.7歳,血液透析群で56.9±1.8歳であり,性別は両群とも男性が23名,女性が13名であった.原疾患は慢性糸球体腎炎が19名,糖尿病性腎症が14名,腎硬化症が2名,Myeloperoxidase-Anti-neutrophil cytoplasmic antibody(MPO-ANCA)関連半月体形成性糸球体腎炎が1名であった.導入時の血清クレアチニン値は,血液透析群で9.1±0.9 mg/dl,CAPD群で8.9±0.7 mg/dlであり,有意差を認めなかった(Table. 1).
2.血圧の変化(Fig. 1)
 収縮期および拡張期血圧は透析療法開始から2年の時点で両群とも安定した.しかしCAPD群では家庭血圧の平均値を用いているために測定条件は異なるものの,両群間での差を見ると3年目よりCAPD群の方が血液透析群に比べて収縮期,拡張期血圧ともに有意に低下し(p<0.05),その傾向は5年目に至るまで続いた.投与された降圧薬の平均数は透析導入時には血液透析群で1.5±0.3,CAPD群で1.7±0.5であり,3年目で1.6±0.4,2.1±0.6,5年後でも同じであり,この降圧薬の投薬数においては両群間で有意差を認めていない.主たる降圧薬はカルシウム拮抗薬であり,全体の80%近くを占めていた.両群間で降圧薬の種類に差異を認めなかった.
3.血清クレアチニン値の変化(Fig. 2)
 血清クレアチニン値は全観察期間を通じて両群間に有意差を認めなかったが,3年目には両群とも基礎値に比して有意な上昇を示した.その後も両群で上昇傾向が認められた.
4.ヘモグロビン値の変化およびエリスロポエチン製剤の投与量(Table 2)
 ヘモグロビン値は両群間ともに透析導入時より有意に上昇し(p<0.01)その後平均して9.0 g/dl以上の値が保持された.エリスロポエチン製剤の投与量は両群間で差異を認めなかった.
5.カルシウム・リンおよびiPTHの変化(Table 2)
 血清カルシウム値は導入後両群とも基礎値に比べて有意に上昇した(p<0.01).血清リン値は両群間において有意な変化を示さなかった.iPTHは両群間で上昇傾向を示したが両群間での有意差は認めずまた基礎値と比較しても有意差を認めなかった.
6.血清総コレステロール値の変化(Fig. 3)
 血清総コレステロール値は導入1年後より,CAPD群で血液透析群よりも有意に高値となり,また基礎値と比較しても有意に高値であった(p<0.01).この傾向は5年間継続した.
7.死因の検討
 血液透析群においては36名中11名,CAPD群においては36名中5名の患者が死亡した.Kaplan-Meierの生存曲線をFig. 4に示した.両群間では統計学上有意差を認めなかった.血液透析群の死亡者の平均年齢は63±3歳であり,8名が糖尿病であった.死亡原因は8名が心不全,2名が感染症,1名が脳血管障害であった.CAPD群の死亡した患者の平均年齢は58±3歳で1名が糖尿病であった.死亡原因は3名が心不全,1名が心筋梗塞,1名が感染症であった.なお硬化性腹膜炎で死亡したCAPD患者はいなかった.
8.脱落例について
 CAPD群のうち6名の患者が腹膜炎の再発や血清クレアチニン値の上昇のために血液透析に移行したが血液透析群からCAPD群へ移行する患者はいなかった.またCAPD群で血液透析療法に移行した患者は観察終了時点で全例生存していた.

 考 案
 人工透析療法としてのCAPDと血液透析の比較は従来より議論されているが,その結論を導く根拠を死亡率もしくは生存率にもとめている報告が多い.これらには両治療法で生存率に差がないとするもの4, 5, 8, 9),CAPDの方が生存率が高いとするもの6, 10),逆に血液透析の方が生存率が高いとするもの11)があるが,いくつかの研究では両群の患者数や,原病や年齢などの構成が極端に異なっており,正確な検討はされていないと言わざるを得ない.すなわちこうした治療法の比較研究を行う際には,研究の開始時点で治療群を構成する際に患者をマッチングして選択する必要がある.そこで本研究では原疾患,年齢,性を出来るだけ同一にして二つの治療群を構成して,また治療法に偏りが出ないように一施設内で5年間の観察をおこなった.
 その結果5年間の生存率では,CAPDが血液透析よりもよい結果が得られたが,対象数が少ないために有意差は得られなかった.しかしこれ以上患者数を一施設内で増やすのは,本邦でCAPDの患者数が少ないことを考えると困難である.さらに他施設での研究を行うと施設間での治療法の格差を考慮する必要が出てくるため,解析が困難になるとおもわれる.両群の死亡原因をみると,心不全が血液透析で72%(8/11),CAPD群で60%(3/5),感染症がそれぞれ18%(2/11),20%(1/5),脳血管障害と心筋梗塞がそれぞれ1例づつであった.これをみると両群とも心不全がもっとも多く,死亡原因に大きな差はみられなかった.この結果は本邦での透析患者の死亡原因の傾向とほぼ一致している1).したがって対象数は少ないものの,本研究のように条件を一致させた場合,導入後5年間ではCAPDのほうが生命予後という点では優れている可能性も考えられ,これは最近のGokalの総説12, 13)に述べられていることと一致している.
 透析患者の心血管死にもっとも関与すると考えられているのが血圧コントロールであるが14, 15),今回の検討では測定条件は異なるものの,CAPDの方が血液透析に比べて良好なコントロールが得られた.この結果は48時間に4時間の治療という血液透析と違い,常に緩除な除水を行っているCAPDでは細胞外液量や血圧のコントロールを行いやすいという報告16)と一致するが,逆にCAPDの方が血液透析よりも血圧コントロールが不良であるという報告もある17).こうした相反する結果が出る理由としては対象患者のCAPD継続期間の問題が考えられる.FallerやCocchiはCAPD患者では血圧コントロールが不良であると報告しているが18, 19),彼らの対象患者は長期間のCAPD患者が多い.導入後5年以上経過すると,残存腎機能がほとんど途絶して水分のコントロールが困難になり,それにより血圧コントロールがより悪くなるということが反映されていると考えられる.透析患者の血圧コントロールにはエリスロポエチン影響を与えているが20),今回の成績では両群間にエリスロポエチンの投与量,ヘモグロビン値に差異を認めなかったことからエリスロポエチンもしくは貧血が両群間で生じた血圧のコントロールの差に直接影響を与えている可能性は少ないと考えられた.
 今回の血圧の差異に関して重大な問題となる点は,CAPD患者の血圧評価には家庭血圧を用い血液透析患者では透析前後の測定値の平均を用いたことである.血液透析患者においてどの様な測定値を降圧療法の指標とするかについては多くの議論があり,一定の見解は得られていない21, 22).一般の高血圧患者では外来血圧の降圧目標は140/90 mmHgとされ,家庭血圧を指標とした場合にはそれより低い130/85 mmHgもしくは130/80 mmHgが用いられているように,外来での血圧測定値は家庭血圧のそれよりも高い値をとることはよく知られている23).しかし血液透析患者の血圧変動を検討した成績では,透析施行前後での血圧の平均値が患者の血圧コントロールの指標として優れているとする報告があり21),また血液透析では非透析日と透析日で血圧が著しく異なる例が多く,それに伴い降圧薬が日毎に複雑な投与法で処方されている.本研究ではこれらを参考にして,血液透析群では透析前後の血圧の平均値により降圧薬の変更や増減量をおこなうのが適切と考えた.これに対しCAPD患者の血圧評価には家庭血圧を用いたが,これはわれわれのCAPD患者における24時間血圧測定の結果から,外来血圧よりも家庭血圧の方が変動も少なく,安定していること24),またこのデータを支持する報告もあることから25),家庭血圧の平均値を記録値とした.もちろん,外来血圧との相関関係などより一層の検討を加えることは必要であり,また単純な血液透析患者の外来血圧との比較検討に問題がないとはいえないが,上記で述べたように外来血圧といっても非透析患者の外来血圧とは大きく異なることから,実際に臨床で用いている指標による比較検討にも意義があると考えられた.
 腎障害や糖尿病あるいは心疾患といったような合併症を有する非透析患者における降圧目標は,140/90 mmHgではなく130/85 mmHg以下がより合併症の発症や進展を防ぐということが示されているが26),透析患者における至適降圧レベルに関しては残念ながら長期間の大規模研究は行なわれていないので明確な値は得られていない.しかし透析患者でも合併症の有無が予後を大きく左右するとされていることより27),非透析患者の高血圧と同様に140/90 mmHgというような目標値が提唱されている28, 29).今後の検討がさらに必要と思われる.
 今回検討した中で血液透析群とCAPD群で大きく異なったもう一つの点は血清総コレステロール値である.これは従来血液透析では血清総コレステロール値が低くCAPDでは比較的高くなるという結果30)とほぼ一致していた.透析患者では一般にリポプロテインリパーゼの活性低下,高炭水化物食,肝血流の減少,β遮断薬の使用などにより高脂血症を来す傾向にあるが,特にCAPD群ではブドウ糖液を使う分だけ,夜間にも体内により多くのカロリーが摂取されており,また蛋白漏出による低蛋白血症も来すことからリポ蛋白の合成が亢進し,それが高脂血症の原因と考えられている31).今回血液透析患者で総コレステロール値が低下した原因としては,食事指導を徹底したために低栄養の傾向にあった可能性が考えられた.一般に血清総コレステロール高値は心血管系イベントの独立した危険因子であるが,透析患者においては明確な結果は得られていない.血清総コレステロール値はアルブミン値とともに栄養状態の指標としても有用であり,これらが低値であることがむしろ死亡率と相関すると言う報告がある一方で32),高値であることは透析間の体重増加が大きいことを意味し,これも死亡率の上昇につながるという報告もある33).しかし多くの研究では血清総コレステロール値は死亡率と直接の相関はなく,アルブミン値やリポプロテイン(a)などの直接相関する因子と相関があったという間接的な関係にとどまっている34, 35).すなわち上で述べた透析療法,腎不全由来の高脂血症を来すメカニズムと食事療法による摂取不足が相殺して,一定の傾向が得られないものと考えられる.
 以上本研究の結果から,透析療法の選択にあたって考慮に入れることが可能と考えられる項目は血圧コントロールと血清総コレステロール値となった.導入直前から導入時にかけての血圧コントロールが困難である場合にはCAPDを,総コレステロール値が高値の場合には血液透析を勧めることにより,導入後のコントロールが行いやすい可能性が示唆された.またこの項目はいずれも生命予後に強く関連するものであり,導入後のコントロールを良好にすることにより,死亡率を下げられる可能性も考えられた.これまで治療法の選択においては生活環境や家族の協力体制などの社会的な条件,年齢や知的レベル,視力や四肢の障害など透析療法を継続するにあたって支障となりうる合併症などの患者本人の受容性の問題を現実的には重視する傾向にあったが,導入後の危険因子となりうる臨床パラメータも考慮に入れる価値があるものと考えられた.

 要 約
1.年齢,性,原疾患の一致している72名の末期腎不全患者を血液透析とCAPDとで5年間にわたり経過観察した.
2. 血液透析では11名,CAPDでは6名の患者が5年間で死亡した.死亡原因では心不全が血液透析で8名,CAPDで4名であり,血液透析では死亡者の多くが糖尿病であった.
3. 血圧コントロールはCAPD群で有意に良好であり,総コレステロール値は血液透析群で有意に低値であった.貧血やカルシウムーリン代謝では両群間に差異が認められなかった.
4. 透析療法の選択にあたって,血圧コントロールや総コレステロール値を判断の材料として考慮することにより,導入後のコントロールを良好に保つことができる可能性が示唆された.

 謝 辞
 稿を終えるにあたり,御指導御校閲を賜わりました埼玉医科大学腎臓内科鈴木洋通教授に深謝致します.また直接御指導を下さいました同教室,中元秀友助教授に深謝致します.この内容は第46回日本透析医学会学術総会(2001年 大阪),第99回日本内科学会総会講演会(2002年 名古屋),26th International Congress of Internal Medicine(2002 Kyoto)において発表しました.

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