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埼玉医科大学雑誌 第29巻第4号 (2002年10月) 221-228頁 (C) 2002 The Medical Society of Saitama Medical School

原 著

MPO-ANCA陽性壊死性半月体形成性糸球体腎炎患者における副腎皮質ステロイドホルモン単独療法とシクロホスファミド併用療法の5年間にわたる比較検討

高平 修二

埼玉医科大学腎臓内科学教室
〔平成14年9月10日受付〕


Comparison of Treatment with Corticosteroid Alone vs Corticosteroid and Cyclophosphamide in Combination in Patients with MPO-ANCA Positive Necrotizing Crescentic Glomerulonephritis During 5 Years Follow-up
Syuji Takahira (Department of Nephrology, Saitama Medical School, Moroyama, Iruma-gun, Saitama 350-0495, Japan)

 To evaluate the long-term outcome of patients with anti-myeloperioxidase (MPO) anti-neutrophil cytoplasmic antibody (ANCA)-associated vasculitis, the impact of addition of an intravenous pulse cyclophosphamide therapy to a daily oral corticoid therapy was assessed in 20 patients for 5 years. No patient diagnosed with Wegener's granulomatosis was included in this study. Ten patients received corticosteroid treatment alone (OCS group) and 10 patients were treated with corticosteroid and cyclophosphamide in combination (CYC group). Four patients in CYC group, survived their renal function without dialysis. Three of 6 patients that required dialysis therapy, died of gastric ulcer, thrombocytopenia probably due to cyclophosphamide, and cardiac failure. Two of 10 patients in OCS group did not need dialysis therapy. Five (50%) of these patients died and 3 (30%) received dialysis therapy. Three patients died of pulmonary hemorrhage, one died of colon cancer, and one died of cardiac failure. At the diagnosis, no significant differences in the levels of serum creatinine and MPO-ANCA titer, sex ratio and ages were observed between two groups. However, the retrospective analysis revealed that 1) the patients who survived for 5 years without dialysis therapy irrespectively of two types of therapy were all women, 2) the levels of MPO-ANCA at 3 months after the initiation of treatment were significantly higher (p<0.05) in patients treated with corticosteroids alone than those with combination therapy, and that 3) the scores of renal histopathology (glomerular sclerosis and interstitial fibrosis) were significantly higher in patients who failed to survive than those who succeeded to survive without dialysis therapy. From these results, it is suggested that the combination therapy with corticosteroids and cyclophosphamide might be effective for improvement of life and renal survival of patients with MPO- ANCA-associated vasculitis. Moreover, the values of MPO-ANCA should be evaluated after the start of the therapy.
Keywords: Wegener's granulomatosis, cyclophosphamide, corticosteroid, crescentic formation
J Saitama Med School 2002;29:221-228
(Received September 10, 2002)


 緒 言
 ANCA関連血管炎は1994年のChapel Hill合意といわれている定義によりWegener肉芽腫症,顕微鏡的多発血管炎およびChurgStrauss症候群の3疾患を含むものとされており,これらの疾患は症状や予後,疫学的な特徴は異なるが臨床的には急速進行性糸球体腎炎症候群を呈し,腎生検組織では壊死性半月体形成性糸球体腎炎を呈するという共通項を持つ.従来の欧米を中心としたANCA関連血管炎に関する報告ではWegener肉芽腫症が最も多く全体の60%以上を占めている1).一方本邦では山縣と小山がまとめた全国統計でWegener肉芽腫症の症例数は少なく,大部分がMPO-ANCA陽性顕微鏡的多発血管炎であり比較的高齢者によくみられる傾向にあった2)
 治療法に関してはANCA関連血管炎に含まれる3つの疾患では,いずれにおいても寛解導入に免疫抑制薬と副腎皮質ホルモンの使用が推奨されている3).またMPO-ANCA陽性顕微鏡的多発血管炎とWegener肉芽腫症は異なる疾患概念として取り扱われているにもかかわらずしばしば両者を含めた患者群に対する治療成績が報告されているため4),免疫抑制薬であるシクロホスファミドの有効性はこうした形でしか確立されていないのが現状である5).前述の山縣と小山2)の報告によると本邦でもMPO-ANCA陽性顕微鏡的多発血管炎に関するシクロホスファミドの有効性は必ずしも確立されていない.また長期間の生命予後や治療法についてはほとんど言及されていない.今回急速進行性糸球体腎炎症候群の治療として用いられているmethyl prednisoloneパルス療法後に副腎皮質ステロイドホルモンのみ投与する方法(OCS)とこの療法にシクロホスファミド間歇静脈投与を加えた治療法(CYC)のどちらが死亡率,腎生存率および再燃の阻止に有効であるかを一施設で5年間にわたり検討した.

 対象と方法
(1)治療法による予後の検討
 この研究で対象となった総ての患者は埼玉医科大学腎臓病センターにて血清学上MPO-ANCA陽性で,臨床的には急速進行性糸球体腎炎症候群,病理組織診断で壊死性半月体形成性糸球体腎炎を示した.MPO-ANCAの測定はenzyme-linked immunosorbent assay (ELISA) 法を用いた6).すべての腎生検の標本は免疫蛍光顕微鏡下で,2+以下の免疫沈着でpauci-immune 型の壊死性半月体形成性糸球体腎炎を呈した.患者は死亡例を除いて5年間追跡調査された.
 この研究は本学における倫理規定を厳守したものであり,同時に患者への十分な説明後に同意を取り付けている.20人の患者はこの研究に参加する事を決定した後,無作為に2つの治療群に割り付けられた.腎生検および経気管支鏡的肺生検における壊死性肉芽腫性炎症変化を伴うPR3-ANCA陽性例は,大部分がWegener肉芽腫症と分類されていることにより7),この研究対象より除外した.診断時に悪性腫瘍,C型肝炎ウイルス陽性,血清クレアチニン5.0 mg/dl以上,この研究開始以前にすでに2週間以上血液透析を施行していた患者は除外した.
治療実施要綱
 すべての患者はまず3日間のmethyl prednisolone 7 mg/kgのパルス療法をおこなった4)
 副腎皮質ステロイドホルモン投与群(OCS群):OCS群はパルス療法後,1か月間プレドニゾロン(PSL)を0.7 mg/kg経口で連日投与し以後1週間毎にPSLの投与量を1.8 mg/kg/週の割合で減量し,6か月目で7.5 mg/日とし,以後この研究の終了まで投与量を維持した.
 シクロホスファミド投与群(CYC群):CYC群はシクロホスファミド750 mg /回 の投与を4週毎に施行した.クレアチニンクリアランスが30 ml/min以下の症例では初期投与量を500 mg/回に減量した.この投与量で4週毎に1年間,次の2年間は投与を6か月毎に行った.PSLの投与量はOCS群と同様とした.
経過観察要綱
 治療開始後最初の3か月間は2週間隔にて外来通院とし,その後は研究終了までは原則として4週間隔で外来通院とした.患者は外来受診時に糸球体腎炎および腎外血管炎病変の活動性の兆候および症状の評価を受け,その他の全身状態の診察を行い,血液を検査の目的で採取した. 24時間蓄尿での尿蛋白定量は3か月毎に測定された.MPO-ANCAは3か月,1年,3年目,5年目あるいは再燃の疑われた時に測定された.
再燃の定義
 再燃は以下の症状および徴候を認めた場合とした.
1. 血清クレアチニンの急速な上昇に赤血球円柱や顆粒円柱などの活動性を示唆する尿所見が得られた時,
2. 全身性血管炎の症状と考えられる血痰,肺出血,消化管出血,皮膚炎が認められた時,
3. 腎臓を含む臓器で血管炎と診断しえる組織所見が得られた時のいずれかとした4)
脱落,終了要綱
 この研究は以下の状態で,終了と定義した.
1)免疫抑制療法による重大な副作用の出現(重篤な日和見感染症,難治性血小板減少症,白血球減少症)
2)死亡.
(2)後ろ向き解析
 つぎに今回の検討で対象とした症例数が少ないことより,5年目の時点で受けた治療法に関係なく,透析治療を受けていないもの(生存群),透析療法を受けているもの(透析群),死亡したもの(死亡群)の3群に分け,後ろ向きの視点で臨床的特徴と病理組織面から比較検討をおこなった.診断時の腎生検の標本は,糸球体半月体形成(0 to 4),糸球体硬化(0 to 4),間質の線維化(0 to 4),尿細管の萎縮,傷害(0 to 4),そして動脈硬化(0 to 4)の程度によりそれぞれの項目につき点数化された4,8).また観察者による偏りを防ぐために2人の埼玉医科大学腎臓内科所属の腎臓専門医(岡田浩一,鈴木洋通)により点数化されたスコアの平均を採用した.
統計学的分析
 データは平均値±標準誤差で表した.臨床データに関する治療グループ間の相違は対応のないt検定で評価された.Mann-Whitney U testを有意検定に適用した.3群の比較にはKruskal Wallis検定を用いた.生存の累積はKaplan-Meier生存分析法にて計算され,グループ間の相違はlog-rank testにて評価された.p<0.05をもって統計学的に有意差ありとした.

 結 果
(1)治療法による予後の検討
1)患者の特徴
 今回の研究に参加した2群の診断時臨床データをTable 1に示す.OCS群は男性5名,女性5名でCYC群は男性4名,女性6名であった.OCS群の平均年齢は71.4±7.4歳でCYC群の平均年齢は66.3±1.3歳であった.血清クレアチニン値はOCS群で 3.3±0.5 mg/dl,CYC群で3.7±1.1 mg/dlであった.MPO-ANCAの値はOCS群で234±71 IU/ml,CYC群で255±42 IU/mlであった.年齢,血清クレアチニン値,MPO-ANCA値は,2群間にて有意差を認めなかった.治療開始時に肺病変を認めた症例はなかった.
2)治療群間の腎生存,死亡原因および生存率の比較
 両方のグループで6人の患者が慢性腎不全増悪にて治療開始1年の間に透析療法導入を必要とした.研究終了までの期間にOCS群では肺出血で3名,心不全,大腸癌でそれぞれ1名ずつが死亡した.CYC群では血小板減少症,消化管潰瘍,心不全でそれぞれ1名ずつが死亡した.すべての患者は死亡するまでに透析療法を施行していた.2群間での生存率の統計学的有意差は認めなかった.(Fig. 1)
3)血清クレアチニン値の推移および透析療法への移行
 OCS群での血清クレアチニン値の個人の推移をFig. 2Aで示す.治療開始で最初の1年間の間に6名の患者が透析療法を施行された(血液透析5名,持続的腹膜透析1名).血液透析療法を受けている患者では透析前値を採用した.1名の患者が治療開始2年後に透析導入となった.Fig. 2BにCYC群の血清クレアチニン値の推移を示す.最初の1年間の間に6名の患者が透析療法を施行された(血液透析5名,持続的腹膜透析1名).4人の患者の血清クレアチニン値は,この研究の終了まで安定していた.透析療法から離脱した患者はいなかった.
4)MPO-ANCA値の推移
 Fig. 3Aに,この研究期間のOCS群でのMPO-ANCA値の推移を示す.5人の患者では1年以内にMPO-ANCA値が10 IU/ml未満まで低下した.1人の患者は治療開始より1年間,MPO-ANCA値は下降せず,心不全にて死亡した.CYC群では死亡した1例を除いて全例でMPO-ANCA値が10 IU/ml未満に低下した(Fig. 3B).Fig. 3に示した個々の症例のMPO-ANCA値の変化をFig. 4にOCS群とCYS群にまとめて示した.両群の診断時の値はTable 1に示したようにOCS群で234+71 IU/ml,CYC群で255+42 IU/mlと高値を示したが,両群間で有意差を認めなかった.CYC群では治療開始後3か月目には有意に低下し,6か月目には10 IU/ml以下となり以後5年目の研究終了まで維持された.一方OCS群でも3か月目で15.2±5.1 IU/mlと治療前と比較し有意に低下したが,CYC群と比較し有意に高値であった(p<0.05).その後6か月,12か月目は12.3±2.3 IU/mlとなり3年目および5年目ではCYC群と同様に10 IU/ml以下となった.
5)副作用
 CYC群の4人の患者で糖尿病を発症したが,この研究より脱落することはなかった.重篤でない白血球減少症(500/mm3)が1人の患者で認められた.CYC群でみられた血小板減少症はシクロフォスミドによる副作用の可能性が大であると考えられた.OCS群の2人の患者が呼吸器感染症に罹患した.大腸癌が副腎皮質ステロイドホルモンの副作用によるものかどうかは不明であった.
6)腎外症状
 5年間の経過中に腎外症状を認めたものは肺出血で死亡した3名を除いてはみられず,消化性潰瘍で死亡した患者も血管炎による潰瘍ではなく,副腎皮質ステロイドホルモンの副作用によるものの可能性が高いことが胃生検により明らかにされた.死亡した2名の心不全の原因が血管炎による冠動脈変化によるものかどうかは不明であった.したがってこの肺出血をおこした3名を再燃と診断した.
(2)後ろ向き解析
 Table 2に示すように3群間で年齢には差が認められなかったが,生存群の6名はすべて女性であり,透析群は男女3名ずつ,死亡群は2名が女性,6名が男性であった.腎組織より得られた各スコアを比較した成績をFig. 5に示す.糸球体硬化および間質の線維化において,生存群で有意に低値であった.また治療開始前およびその後のMPO-ANCA値をみると,3か月の時点で,死亡群では有意に他の群に比較して高値であった(Fig. 6).

 考 察
 本研究ではMPO-ANCA陽性壊死性半月体形成性糸球体腎炎の患者に対する副腎皮質ステロイドホルモン療法とこれにシクロホスファミドを加えた療法を5年間にわたり行い,それぞれの死亡,腎生存および再燃を,さらに予後による再分類を行い,後ろ向きに腎病理所見とMPO-ANCA値で比較検討した.
 Nachmanら4)の報告では,ANCA関連壊死性半月体形成性糸球体腎炎またはANCA関連顕微鏡的多発血管炎を伴う急速進行性糸球体腎炎症候群の97人の患者で,シクロホスファミド療法は副腎皮質ステロイドホルモン療法に比べて有意に良好な生存率が得られた(89%vs 56%).さらにシクロホスファミド療法を受けた患者では副腎皮質ステロイドホルモン療法を受けた患者より再発率が少なかった.最近のメタ解析をおこなった文献によると,シクロホスファミド療法はANCA関連血管炎に対して3〜6か月間の治療成績でみた場合,完全寛解,部分寛解を含め約70%の寛解率であったと報告された3).この報告では “重篤な感染症の合併”,“出血性膀胱炎”,“治療の副作用による死亡”などの重大な副作用はシクロホスファミド経口投与より,静注療法で少なかった5).こうした以前の報告と我々のデータを比較すると生存率,腎生存率は不満足な結果に見える.しかし以前の文献ではWegener肉芽腫症とMPO-ANCA陽性顕微鏡的多発血管炎を分類して議論しておらず,単純に比較する事は不可能である.
 Franssenら9)の報告では,シクロホスファミドの経口連日投与療法および副腎皮質ステロイドホルモン経口連日投与療法の臨床評価を,腎機能の推移から3つのグループに分類し検討している.そこではMPO-ANCA陽性顕微鏡的多発血管炎による慢性腎不全の進行に対する寛解導入の後,MPO-ANCA値が上昇しつづけるものがあり,予後を判定する上で経過観察および診断に重要なものはむしろ蛋白尿の程度であると結論づけた.本研究でも蛋白尿の変化を継続的に検討したがほとんどの症例で1日の蛋白尿が1 g以下であり,成績もここには示さなかった.したがって今回検討した症例では蛋白尿がMPO-ANCA陽性壊死性半月体形成性糸球体腎炎の予後に大きな影響は与えるとは考えにくかった.Franssenら9)は,MPO-ANCA陽性顕微鏡的多発血管炎の腎生存に対する予後決定因子として従来より提唱されている,診断時の血清クレアチニン濃度10-12),糸球体硬化の割合13),尿細管萎縮の程度14),そしてMPO-ANCA値9)にシクロホスファミド療法治療群と副腎皮質ステロイドホルモン療法治療群間で有意差がないことを報告している.今回の成績でも診断時の血清クレアチニン値にはCYC群,OCS群で差がなく,また生存群と死亡群あるいは透析群においても有意差を認めなかった.この理由として,腎生存には明らかに予後不良とされている血清クレアチニン値が5 mg/dl以上の症例を除外したことも関連していると考えられた12)
 一方後ろ向きの検討で糸球体硬化と間質線維化のスコアがともに予後をみる上で有用である可能性のあることが示された.すなわち,腎臓の予後をみるには診断時の組織所見が重要であることを示している.
 一方Araら15)の報告によると,血清クレアチニン値や腎病理組織所見の予後予測因子としての有用性に加えて,顕微鏡的多発血管炎およびその他の血管炎による腎炎の患者の病勢の指標としてMPO-ANCAを測定するべきであるとし,これを支持する研究者も多い16-18). 本研究の成績でみると治療前MPO-ANCA値は腎生存の予後を反映しなかったが,死亡群とOCS群ともに3か月目でのMPO-ANCA値が高かったこと,OCS群で死亡した半数が肺出血であることから,MPO-ANCA値は腎外病変を反映する可能性があるものと考えられた.これはANCA関連血管炎では腎臓病変を除くと肺病変が重要な予後決定因子であることとも一致している12).さらに3か月の時点でのMPO-ANCA値はOCS群に比べてCYC群で有意に低下していることから,MPO-ANCA陽性壊死性半月体形成性糸球体腎炎では死亡率を減少させるにはシクロホスファミドを用いた治療が必要である可能性を示唆している.これは重篤な肺病変を伴う症例では血漿交換療法が有効であるとする成績19)とあわせて考えると,今後の治療法の選択に重要な示唆を与えていると思われる.
 従来の報告では再燃は2年以内に10〜30%近く起こるとされているが12),今回の成績ではOCS群で3例(30%)の再燃を認めた.MPO-ANCA陽性顕微鏡的多発血管炎の治療の終了時期は,一般に「症状が安定すなわち血清クレアチニンでみる腎機能が一定になる時点」と比較的あいまいに定義していることが多く,再燃の問題とあわせて検討されるべきことである.欧米でMPO-ANCA陽性顕微鏡的多発血管炎の長期予後をみた成績としてGayaudら20)の報告がある.それによると20年近くにわたる観察のうち,5年目で死亡率はほぼ一定となっている.また治療法なども様々に変化していることより直接の比較は出来ないが,その死亡率は約40%,また再燃率は20%前後とされている.治療法に対する彼らの結論は基本的にはシクロホスファミドを加える方が,死亡率および再燃率を有意に抑制するとしている.これは本研究の成績とほぼ一致している.本邦での成績は長期間の経過をみたものは少なく,堺ら21)がまとめた多施設の成績でも2年間である.その中に厚生労働省の研究(特定疾患対策研究事業進行性腎障害に関する調査研究)の報告で副腎皮質ステロイドホルモン治療群20例,副腎皮質ステロイドホルモン+シクロホスファミド治療群20例で生存率および腎生存率に差がないとしている.今回の成績と比較してみると対象年齢が65歳でほぼ同じで男女比もほぼ同様である.血清クレアチニン値は6.5 mg/dl前後でありやや高く,本研究では5 mg/dl以上の症例は対象とはしなかった点が異っている.それらの成績をみると,腎生存率が2年の時点で50〜30%であり本研究と同様である.
 さて今回治療法に関係なく,5年目の時点の予後により,透析を必要とせず生存した群,死亡した群および透析をおこなっているが生存している3群にわけて後ろ向きに検討した.まず3つの群で年齢には差は認めなかったが,生存例は6名すべて女性であり,逆に死亡例8名のうち女性は2名であった.この様な報告はCohenとClark22)が94例の血管炎の予後を分析し男性を予後不良因子の1つとしてあげていることと一致している.生命予後の点では性差が得られたが,透析療法を受けた人数はかわらなかった.一方治療の副作用として胃潰瘍,血小板減少があり,さらにCYC群では生存者4例全例に糖尿病の発症をみている.
 今回の成績は両群間で生存率に有意差が認められなかったが,これはおそらく対象患者数が少ないことに起因していると考えられる.またこのMPO-ANCA陽性壊死性半月体形成性糸球体腎炎は本邦でも比較的まれな疾患であることより,1施設での研究には限界があるものと考えられた.本研究における対象患者群の診断名としてMPO-ANCA陽性壊死性半月体形成性糸球体腎炎を用いたが,ANCA陽性で臨床的に急速進行性糸球体腎炎症候群を呈する症例の診断名に関しては欧米ではChapel Hill 合意が基準とされており,その中で本研究の対象患者群に最も近いと思われるmicroscopic polyangiitisは,全身の血管炎症状を伴うものとされているが,明確な診断基準はない.本研究では腎生検施行時には腎外症状を認めなかったものの,経過観察中に肺出血で死亡した症例もあり,こうした症例は最終的にはmicroscopic polyangiitisと診断可能であるものの,腎生検施行時には臨床診断はrapidly progressive glomerulonephritis,病理診断はnecrotizing crescentic glomerulonephritisとしか診断できない.一方本邦では合同委員会の診療指針21)を用いることになっているが,この指針においても臨床診断,病理診断およびその英語名と邦語名があるために分類は明確ではない.本研究で対象としたような患者に対して当研究室では,腎生検時に腎外症状を認めなくても組織の糸球体外に血管炎の所見を認めればmicroscopic polyangiitisとして解釈している.しかし腎外症状のない患者に対してmicroscopic polyangiitisの診断名を用いることで対象患者群の臨床像に対する誤解を生じかねないこと,さらに本研究の対象患者のもう一つの特徴としてMPO-ANCAが陽性であったためMPO-ANCA陽性壊死性半月体形成性糸球体腎炎と言う診断名を用いた.このため本研究の結果を適応できる患者群の臨床像が明確ではないが,いくつかの点では今後のMPO-ANCA陽性壊死性半月体形成性糸球体腎炎の治療に役立つ情報が得られたものと考えられた.

 まとめ
1. シクロホスファミド間歇静脈投与療法(CYC)と副腎皮質ステロイドホルモン経口投与療法(OCS)のMPO-ANCA陽性壊死性半月体形成性糸球体腎炎に対する長期間での治療の有効性を明らかにする目的で,患者20人を対象に生存率と腎生存率および副作用の面から5年間にわたり比較検討研究をおこなった.
2. 方法として無作為に10人の患者にはCYC療法を他の10人の患者にOCS療法の割付を行った.
3. 5年間でCYC療法群では3人(30%)の患者は死亡し,生存した7人の患者のうち4人は透析を必要とせず,3人は透析を必要としたが血管炎の症状は消失した.OCS療法を行った10人の患者のうち5人(50%)は死亡した.生存した5人のうち,3人は透析を必要とした.
4. 今回検討した患者ではOCS群で3例の再燃が認められた.
5. 治療開始前のMPO-ANCA値に有意差を認めなかったが,3か月の時点でOCS群と比較してCYC群で有意に抑制されていた.以後5年間での値には有意差が認められなかった.
6. これらの患者を5年後の時点での転帰により3群に分けて後ろ向きに検討を行った.その結果生存群の6名はすべて女性であった.透析群は男女3名ずつ,死亡例は男性6名,女性2名であった.生存群,死亡群,透析群の3群でみると,治療開始前のMPO-ANCA値は有意差がないが,3か月目に測定したMPO-ANCA値は生存群が有意に低かった.また血清クレアチニン値は3群間で有意差を認めなかったが,治療前におこなった腎病理組織でみると糸球体硬化および間質線維化スコアが,生存群では有意に低かった.MPO-ANCA陽性壊死性半月体形成性糸球体腎炎の予後判定では性別,診断時の腎組織検討と,治療開始3か月目のMPO-ANCA値が重要である.
7. 治療3か月時のMPO-ANCA値はCYC治療群で有意に低いことをあわせて考えるとMPO-ANCA陽性壊死性半月体形成性糸球体腎炎にはCYC療法を初期からおこなうことにより,腎予後,生命予後の改善に有用である可能性が示唆されたが,本研究では統計学的な有意差は得られず,今後症例を追加してさらに検討を加える必要があると思われる.

 謝 辞
 稿を終えるにあたり,御指導御校閲を賜わりました埼玉医科大学腎臓内科鈴木洋通教授に深謝致します.また直接御指導を下さいました同教室,岡田浩一講師に深謝致します.この内容は第42回日本腎臓学会学術総会(1999年東京),第43回日本腎臓学会学術総会シンポジウム(2000年名古屋),第8回性差医学研究会(2000年東京),第45回日本腎臓学会学術総会(2002年大阪)において発表した.

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(C) 2002 The Medical Society of Saitama Medical School