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埼玉医科大学雑誌 第29巻第4号別頁 (2002年10月) T89-T93頁 (C) 2002 The Medical Society of Saitama Medical School

Thesis

ロイコトリエンD4が好酸球の血管内皮細胞間隙遊走と活性酸素産生に及ぼす作用

齋藤 圭子

埼玉医科大学第2内科学教室(呼吸器科)
(指導:西村 重敬教授)

医学博士 甲第822号 平成14年6月28日 (埼玉医科大学)


Effects of Leukotriene D4 on Transendothelial Migration and Respiratory Burst of Eosinophils
Keiko Saito (Pulmonary Division, Second Department of Internal Medicine, Saitama Medical School, Moroyama, Iruma-gun, Saitama 350-0495, Japan)

 Cysteinyl leukotrienes (CysLTs) may contribute to the development of eosinophil accumulation in the bronchial tissue of asthma. For example, inhalation of leukotriene (LT) D4 or LTE4 increases eosinophil accumulation in the asthmatic airway. The objective of this study was to evaluate whether LTD4 directly induces the transendothelial migration (TEM) and respiratory burst of eosinophils. Eosinophils were isolated from peripheral blood of healthy subjects. The effects of LTD4 on eosinophil TEM across human umbilical vein endothelial cells (HUVEC) and generation of superoxide anion were then evaluated. LTD4 significantly induced TEM of eosinophils across the resting HUVEC (%migration : 3.4±0.5 by medium control vs. 10.0±1.7 by 1μM ; P<0.005 ; n=6). The TEM induced by LTD4 was blocked by pranlukast, a CysLT1 receptor antagonist. An anti -β2 - integrin antibody, but not anti -α4 - integrin antibody, significantly inhibited the TEM of eosinophils induced by LTD4. LTD4 significantly induced the generation of superoxide anion from eosinophils, and this activation was blocked by pranlukast. These results suggest that LTD4 can directly induce TEM and respiratory burst of eosinophils via CysLT1 receptor. These proinflammatory effects of LTD4 may contribute to the development of airway inflammation of asthma.
Keywords: leukotriene D4 , eosinophils, transendothelial migration, respiratory burst


 緒 言
今日,気管支喘息の基礎病態は,気道へのTリンパ球,肥満細胞あるいは好酸球などの浸潤を主体とする慢性の気道炎症であるものと理解されている1,2).好酸球は喘息の気道炎症における重要な炎症細胞と考えられている.好酸球が喘息気道に集積し,その病態に寄与するためには,末梢循環血中の本細胞が血管内皮細胞上の接着分子群と接着したのちに血管内皮細胞間隙遊走を介して組織内に流入し,その後に種々のエフェクター機能が発現される必要性があると考えられる.これらの諸段階の調節因子として,種々のサイトカインあるいは脂質メディエーターの関与が想定されている.
 ロイコトリエン(leukotriene,以下LT)はアラキドン酸のリポキシゲナーゼ系の代謝産物であり,とりわけシスチニル・ロイコトリエン(cysteinyl leukotrienes,以下CysLT;LTC4,LTD4,LTE4)は強力な気道平滑筋収縮作用,また気道分泌促進作用や血管透過性亢進作用を有することから,気管支喘息の病態に寄与することが推測されてきた.
 アレルギー性炎症の形成におけるCysLTの作用に関して,特に喘息患者への経気道投与により好酸球集積が誘導されるか否か,またin vitroでの好酸球走化性についてそれぞれ相反する報告がなされ,未だ意見の一致をみない3-7).今回我々はCysLT,特にLTD4が好酸球の血管内皮細胞間隙遊走を誘導するか否か,また好酸球のエフェクター機能のひとつである活性酸素の産生を誘導するか否かについて検討した.

 材料と方法
1.材料
1) 細胞培養液及び緩衝液:HuMEDIA.EGは倉敷紡績株式会社(大阪,日本)から,ブレッドキットEGMはClonetics Corporation(Palo Alto,CA,USA)から,Hanks’ Balanced Salt Solution(以下HBSS)はGIBCO BRL(Grand island,NY,USA)から,非働化牛胎児血清(fetal bovine serum,以下FBS)はICN Biomedicals Inc.(Aurora,Ohio,USA)から入手した.
2) 血管内皮細胞:人臍帯静脈由来血管内皮細胞(human umbilical vein endothelial cells,以下HUVEC)は倉敷紡績株式会社から入手した.
3) 薬剤:CysLT1受容体拮抗薬であるpranlukast hydrate(ONO-1078)は小野薬品から,抗Platelet activating factor(以下PAF)薬WEB2086はBehringer Ingelheim(Rigefield,Conn.Germany)から各々供与を受けた.
4) 好酸球刺激物質:EotaxinはR & D Systems(Minneapolis,MN,USA)から,PAFはSigma(St.Louis,MO,USA)から,LTD4はCayman Chemical(Ann Arbor,MI,USA)から入手した.
5) 抗体:抗α4インテグリン抗体(クローンHP2/1)はコスモバイオ(株)(東京,日本)から,抗β2インテグリン抗体(クローンL130)はBecton Dickinson(Frankline Lakes,NJ,USA)から,マウスIgG1はICN Biomedicals,Inc.(Aurora,Ohio,USA)から,抗PSGL-1(CD162)抗体(クローンPL-1)はImmunotech A Coulter Company(Marseille,France)から, 抗P-selectin(anti-CD62p)抗体(クローンG1-4)はAncell Corporation(Bayport,MN,USA)から入手した.
6) その他:Dextran T500はPharmacia Biotech(Uppsala,Sweden)から,CD16 MicrobeadsはMiltenyi Biotec(Bergisch Gladbach,Germany)から,Recombinant human P-selectin(以下P-selectin)はR & D Systemsから,superoxide dismutase(以下SOD),Cytochrome C,0-phenylenediamine(以下OPD),GelatinはSigmaから入手した.
2.好酸球分離法 
 好酸球は既報の方法8,9)に従いimmunomagnetic beadsによるnegative selectionにて分離した.すなわち健常人末梢血をヘパリン処理したものと4.5%デキストランを50 mlのポリプロピレンチューブに4対1の比率で混ぜ,血漿成分と赤血球とに分離した.この血漿成分を比重1.085のPercoll液を用い比重遠心分離を行い,リンパ球ならびに低比重の顆粒球を除去後,蒸留水にて赤血球の溶血操作を行った.その後好中球除去を目的として抗CD16モノクロナール抗体ビーズを使用したnegative selection法で好酸球を選択的に分離した.これを,遊走反応については5%FBSを含有するHBSS(HBSS/FBS)に浮遊した後,2.5×105 cells/mlに調整して用いた.また,活性酸素産生反応については0.1% gelatinを含有するHBSS(HBSS/gel)に浮遊し1.25×106 cells/mlに調節して実験に供した.好酸球の分離純度は98%以上であり,また実験終了直後のcell viabilityはtrypan blue染色で95%以上であった.
3.好酸球の血管内皮細胞間隙遊走反応(transendothelial migration, 以下TEM)
 ヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞(HUVEC)は2.5×105 cells/mlに調節した.24穴プレートの上層のトランスウェルにHuMEDIAを100μlずつ分注した後に,HUVEC浮遊液を100μlずつ分注し,confluentとなるまで37℃にて24時間培養した.一部の実験ではHUVEC上の接着分子群の発現を増強する目的でIL-4,TNF-αを用いた10).IL-4は最終30 pM,TNF-αは最終100 pMになるよう調節し,トランスウェルに加えて24時間刺激した.
 好酸球TEMはBoyden chamber法の変法10)を用いて測定した.すなわち24穴培養プレート(Becton Dickinson Labware)を用い,3μmポアサイズのインサートフィルター(Becton Dickinson Labware)を装着し,ウェル上部をHBSSで一回洗浄後,好酸球浮遊液を200μlずつ分注した後,ウェル下部に遊走因子500μlを注入し37℃で3時間インキュベーションした.上部ウェルを除去した後,下部ウェル内に遊走した好酸球のペルオキシダーゼ活性をOPDを用いて発色し,IMMUNO-MINI(NJ-2300,日本インターメッド株式会社,東京,日本)を使用し,波長490 nmの吸光度を測定した10)
4.好酸球活性酸素産生反応
 好酸球のスーパーオキサイド(O2-)活性は我々が行ってきた96穴プレートを用いたチトクロームC還元法により測定した11-13).まずSODコントロールwellにSOD(0.2 mg/mL in HBSS/gel)を20μlずつ加え,各wellにLTD4,PAF等の刺激物質を入れたのち100μlとなるようHBSS/gelを加えた.好酸球浮遊液とチトクロームC(12 mg/ml)を体積比4対1で混合し,これを各wellに100μlずつ加える.ブランクにはHBSS/gel 180μlとチトクロームC 20μlを加えた.全て加え終わったら直ちに上記測定器を使用し,550 nmの吸光度を経時的に測定した.測定の間はプレートを5%CO2,37℃のインキュベーターで保温した.これらの反応はduplicateで行い,SODを含んだ反応と比較した.O2-産生量は分子吸光度計数21.1×103M/L-1cm-1から14,15),nmoles cytochrome C reduced/106 cellsSOD controlとして算出した.LTD4とのインキュベーション開始から240分後の好酸球生存率はtrypan blue染色にて95%以上であった.
5.統計処理法
統計学的解析はtwo-way analysis of variance(ANOVA)を用い,Fisher法(post hoc検定)にて解析した.危険率5%未満を有意とみなした.

 結 果
1. 好酸球のTEMに対するLTD4の作用
 はじめに,restingの状態におけるHUVECを用い,LTD4の好酸球TEMに及ぼす作用を検討した.無刺激での好酸球TEM(自然遊走,%migration)は3.4±0.5であったものが,LTD4 0.1μMでは7.2±1.0%(p<0.02 vs. control,N=6),1μMでは10.0±1.7%(p<0.0001 vs. control,N=6)であり,統計学的に有意なTEMの誘導が認められた(Fig.1).次にIL-4+TNF-α刺激により接着分子群の発現を増強したHUVECを用いた場合では,自然遊走(%migration)は4.2±0.5%であったが,LTD4 0.1μMでは8.6±1.0%(p<0.005 vs. control,N=6),1μMでは10.0±1.5%(p<0.0001 vs. control,N=6)と,有意なTEM誘導が観察された.しかしながら,これらの遊走反応とresting HUVECを用いた遊走反応との間に有意差は認められなかった(Fig.2).
2.LTD4による好酸球TEMの経時的変化
 1 μMのLTD4刺激下で,resting HUVECにおける好酸球のTEMを経時的に観察した.LTD4は15分の時点から自然遊走と比較して有意なTEMを誘導し,120分で反応はプラトーに達した(%migration:3.9±1.4 by control vs. 16.4±4.9 by 1μM;p<0.01;N=5,Fig.3).
3.LTD4に対するCysLT1拮抗薬の作用
 LTD4による好酸球のTEM増強がCysLT1受容体を介するか否かを確認する目的で,特異的CysLT1拮抗薬であるpranlukastの効果を検討した.LTD4による好酸球のTEMは1μMのpranlukastにより有意に抑制された(% migration:11.3±1.7 by control vs. 6.5±1.4 by pranlukast;P<0.005;N=5,Fig.4).一方自然遊走はpranlukastにより修飾されなかった(6.4±1.5 by control vs. 5.4±1.3 by pranlukast;P=N.S.;N=5,Fig.4).なお,PAF及びeotaxinで誘導した好酸球TEMはpranlukastにより抑制されなかった(データ未呈示).
4.LTD4による血管内皮細胞のPAF産生およびP-selectin発現の関与の検討
 LTD4は血管内皮細胞のPAF産生16)およびP-selectin発現17)を誘導することから,LTD4による好酸球TEMはこれらの血管内皮に対する作用を介したものである可能性が想定された.そこでこれらの関与を検討した.PAF拮抗薬WEB2086(20μM)は100 nM PAFによる好酸球遊走をブロックしたが(データ未呈示),同一の実験条件下でLTD4による好酸球TEMを修飾しなかった(Fig.5A,N=3).抗P-selectin抗体(クローン:G1-4)は10μg/ml rh-P-selectinへの好酸球接着反応をブロックしたが(未呈示),同実験条件でLTD4による好酸球の血管内皮細胞間隙遊走を修飾しなかった(Fig.5B,N=3).
5.LTD4による好酸球TEMにおける好酸球表面接着分子の関与の検討
 LTD4による好酸球TEMにおける好酸球表面の責任接着分子を検討した.LTD4による好酸球TEMは,抗β2インテグリン抗体により有意に抑制された(% migration:15.1±3.9 by control vs. 7.2±1.7 by anti-β2 integrin;P<0.05;N=5,Fig.6).一方,抗α4インテグリン抗体,抗PSGL-1抗体によっては抑制されなかった(Fig.6,N=5).なおIL-4+TNF-α刺激により接着分子発現を増強した系においても,LTD4による好酸球の血管内皮細胞間隙遊走は抗β2インテグリン抗体により有意に抑制されたが,抗α4インテグリン抗体,抗PSGL-1抗体によっては抑制されなかった (データ未呈示).
6.好酸球からのsuperoxide anion(O2-)産生に対するLTD4の作用の検討
 0.1μM LTD4は好酸球のO2-産生を直接的に誘導し,その反応は210分でほぼプラトーに達した(nmoles/106 cells;12.6±2.2 by LTD4 vs. 2.7±1.3 by control;p<0.001;N=6,Fig.7).この反応はCysLT1拮抗薬pranlukastにより有意に抑制された(nmol/106 cells;12.8±1.6 by control vs. 5.6±1.0 by pranlukast;P<0.005;N=7,Fig.8).

 考 案
 LTD4が直接的に好酸球のTEMを誘導すること,また活性酸素産生を誘導することが観察された.これらの反応は,CysLT1拮抗薬によって,いずれも有意に抑制された.これらの成績は,LTD4が好酸球表面上のCysLT1受容体を介して好酸球の組織集積及びエフェクター機能の発現に寄与することを示唆するものである.
 LTは,シクロオキシゲナーゼ系,5-リポキシゲナーゼ系の2つの代謝経路を持つアラキドン酸カスケードのうち,5-リポキシゲナーゼ系により産生される代謝産物である.システインを含むペプチドを側鎖に持つLTC4,LTD4,LTE4はCysLTと総称される.生体内で産生されるLTC4は速やかにbioconversionを受けLTD4,次いでLTE4に代謝される.CysLTの受容体には2種類あり,気道平滑筋や胆嚢などに分布するCysLT1受容体は主としてLTD4と結合し,ついでLTC4,LTE4の順に親和性を示し,一方,肺静脈や脾臓などに分布するCysLT2受容体はLTC4と優位に結合する18,19).近年,好酸球がCysLT1受容体を発現することが報告された20).このことはLTD4を含むCysLTが,CysLTの産生細胞のひとつである好酸球自身に直接作用することにより,その組織集積あるいは機能発現に関与しうることを示唆する.事実,近年,Leeら21)はLTC4及びLTD4が,好酸球の生存期間を延長することを報告した.また我々22)はLTD4がCysLT1受容体依存性に好酸球の接着能を増強することを報告した.
 喘息におけるCysLTの好酸球組織集積作用について,Laitinenら3)はLTC4の安定代謝産物であるLTE4を喘息患者に吸入投与することにより,気道への好酸球浸潤が認められたことを報告した.Diamantら5)も喘息患者にLTD4を吸入させると,気道の好酸球が増加することを認めた.一方,Mulderら4)は喘息患者にLTD4を吸入させると一秒率の低下を認めたが,喀痰中の好酸球は増加しなかったとしている.CysLT拮抗薬の投与が好酸球集積を修飾するか否かについて,Pizzichiniら23)はCysLT1受容体拮抗薬montelukast投与により喀痰中好酸球が減少することを報告した.また,Yoshidaら24)もpranlukast投与により,末梢血及び喀痰中の好酸球が減少したと報告した.これらは気管支喘息におけるCysLTの好酸球集積への寄与を支持する成績と考えられる.
 気管支喘息の治療におけるCysLT拮抗薬の有用性は,多くの二重盲検比較試験によって確認されている.例えば本研究で用いたpranlukastは,成人25)及び小児26)の慢性喘息で臨床症状を改善させること,成人では吸入ステロイド薬の減量効果を有すること27)が示されている.CysLT拮抗薬はまた,喘息の特殊な病態である消炎鎮痛薬誘発喘息28)や運動誘発喘息29)に対する抑制効果を有することが確認されている.
 In vitroの報告では,これまでにCysLT の好酸球TEMに対する作用についての報告はないが,単純化学遊走(chemotaxis)についての検討が散見される.Nagyら6)はLTC4,LTD4が好酸球の遊走を起こさなかったと報告したが,一方,Spadaら7)はLTD4が健常ヒト好酸球の遊走を起こすと報告し,この点に関しては相反する結果で一致をみていない.今回の検討成績は,LTD4が好酸球のTEMを誘導することを観察し得た初めてのものである.かかる反応は好酸球のCysLT1受容体に依存性であり,かつ好酸球表面接着分子であるβ2インテグリンを介するものと考えられた.同時に,この作用はLTD4の血管内皮細胞に対する作用,すなわちPAF産生あるいはP-selectinの発現を介したものであるという可能性は否定し得ると考えられた.以上の事は,CysLTがCysLT1受容体を介してβ2インテグリンの活性化を誘導し,その結果として喘息気道などの炎症部位における好酸球集積に関与し得ることを支持する成績である.
 加うるに,LTD4は好酸球のO2-産生をも誘導した.かかる活性化も少なくとも部分的にはCysLT1受容体を介したものと考えられた.この成績はCysLTが好酸球のエフェクター機能の一つである活性酸素種の産生を誘導し得ることを示した成績である.活性酸素種は従来から知られる組織傷害活性や血管透過性亢進作用に加え,近年は炎症反応の調節分子としての作用が指摘されている.好酸球について,我々は活性酸素種H2O2が好酸球の接着能を増強させ,ICAM-1への接着反応を増強することを見出している30).従って,LTD4による活性酸素産生はautocrineな機序により好酸球自身の接着能を増強し,炎症を更に増幅する可能性が考えられる.
 LTD4による好酸球のTEM,あるいは活性酸素産生に関与する細胞内シグナル伝達機構は未解明である.代表的な好酸球活性化サイトカインであるIL-5はTEM誘導能を有さないが活性酸素産生増強作用を有し,これにはチロシンキナーゼを介したphosphatidylinositol 3-kinaseの活性化が関与すると報告されている31).LTD4による好酸球活性化についても本kinaseが関与する可能性が想定されるが,この点については今後の検討課題である.
 喘息気道組織におけるCysLTの正確な濃度は不明確であるが,好酸球自身がCysLTの供給源たりえること,また喘息患者での誘発喀痰中には20〜50nM程度のCysLTが検出されることから32,33),本研究で得られたLTD4による好酸球のTEMならびにO2-産生の誘導は,実際の喘息気道においても生じ得ると想定される.加うるに,これらはCysLT1拮抗薬の抗喘息作用の少なくとも一部を説明し得るものと考えられる.今後は好酸球の他の機能である特異顆粒蛋白の放出,あるいはサイトカイン産生に対するCysLTの作用が解明される必要があるものと考える.

 結 論
 気管支喘息においては,気道平滑筋の攣縮や血管透過性亢進による粘膜浮腫,気道分泌亢進,粘性増加による気道の気流制限が特徴的にみられるが,これらの一部はCysLTの作用であると考えられてきた.今回,我々はLTD4が直接好酸球に作用しその血管内皮細胞間隙遊走あるいは活性酸素の産生を誘導することを確認した.またこれらの作用がCysLT1受容体拮抗薬ならびに抗β2インテグリン抗体により抑制されたことから,この反応はCysLT1受容体及びβ2インテグリンを介しての作用と考えられた.以上の検討から気管支喘息などのアレルギー性炎症疾患においては,好酸球や他の炎症細胞より産生されるCysLT,なかでもLTD4が,気道収縮や血管透過性亢進に作用することのみならず,好酸球に直接的に作用し,炎症調節因子として,その組織への流入やエフェクター機能の発現に寄与していることが示唆された.

 謝 辞
 稿を終わるにあたり,御指導,御校閲を賜りました西村重敬教授,坂本芳雄助教授に深甚なる謝意を捧げますと共に,直接御指導いただきました永田真助教授に深謝いたします.そして実験にご協力頂いた明治製菓株式会社薬品総合研究所の土屋浩司博士,ならびに当研究室横手明美実験助手に感謝いたします.

 文 献
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