埼玉医科大学雑誌 第30巻 第3号 (2003年7月) T81-T92頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
新規ダントロレン誘導体を用いたCa2+放出機構に関する解析

木原 康隆
埼玉医科大学薬理学教室
(指導:丸山 敬教授)

医学博士 甲第850号 平成15年3月28日 (埼玉医科大学)


 リアノジン受容体(RyR)を介する筋小胞体(SR)からのCa2+放出は骨格筋の生理的収縮において興奮を収縮につなげる必須の過程である.RyRからCa2+放出を起こす機構にはCa2+-induced Ca2+ release(CICR)がよく知られているが,骨格筋の生理的収縮においてはCICR機構ではなく,RyRがCICRとは異なる開口様式(モード)で機能する生理的Ca2+放出(PCR)機構が働いていると考えられている.すなわち,細胞膜上の電位変化を横行小管(T管)膜に存在するジヒドロピリジン受容体(DHPR)が検知し,その信号をRyRに何らかの方法で伝えることでCa2+放出が起きる.しかしPCRの分子的な機序の詳細はまだ不明のままである.CICRを抑制することなくPCRを特異的に抑制する薬物があればPCRの分子的機構の解明に有用と思われる.悪性高熱の治療薬で知られるダントロレン(Dan)は室温でも高温でもPCRを抑制するが,CICRに対しては高温では抑制を示すけれども室温では抑制しないか,しても極めて弱いと言われる.すなわち,DanはPCRとCICRを少なくとも室温においてはある程度区別している可能性が高い.
 今回,Danよりもっと明白にPCRとCICRを区別する薬物を見つける目的で,数種の新しく合成されたDan誘導体の影響を検討した.これらの薬物について骨格筋無傷線維の単収縮(PCR)抑制作用とサポニン処理スキンド・ファイバーでのCICR抑制作用を調べた.またPCRに類似した特徴を有すると思われるclofibric acid(Clof)による Ca2+ 放出に対してのこれらの薬物の影響も検討した.その結果,Dan誘導体の中にはDanよりもPCRとCICRをより明瞭に区別するものがあることがわかった.
 なお,これらの実験の結果,Clofによって活性化されたRyR-Ca2+放出チャンネルの開口様式とPCRの開口様式が類似していることを裏付ける結果が得られた.


(C) 2003 The Medical Society of Saitama Medical School
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