埼玉医科大学雑誌 第31巻 第2号 (2004年4月) T9-T18頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.
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Thesis
眼窩領域MALTリンパ腫の臨床病理学的検討とBCL 10蛋白およびAPI2-MALT1キメラ遺伝子発現について

安達 章子
埼玉医科大学総合医療センター病理部
(指導:糸山 進次教授)

医学博士 乙第899号 平成15年10月24日 (埼玉医科大学)




 眼窩領域悪性リンパ腫のうち,50-70%はMALTリンパ腫(extranodal marginal zone B-cell lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue)であり,低悪性度B細胞リンパ腫として特異的な臨床病理像を有する.近年MALTリンパ腫の染色体転座t(1;14)(p22;q32)から単離されたBCL10,およびt(11;18)(q21;q21)から単離されたAPI2-MALT1キメラ遺伝子発現が,その腫瘍発生に関与していることが示唆されている.本研究では眼窩領域リンパ増殖性疾患62症例を集積,臨床病理学的解析を行い,眼窩MALTリンパ腫におけるBCL10蛋白およびAPI2-MALT1キメラ遺伝子の発現について検討した.62症例中58症例は悪性リンパ腫,うち50症例はMALTリンパ腫であった.MALTリンパ腫は他のリンパ腫に比べて局在性の傾向があり,再発は16症例に認められたが,予後は概ね良好であった.免疫組織化学染色により,MALTリンパ腫のうち29症例(58%)にBCL10蛋白の核及び胞体への発現が認められ,BCL10核発現が眼窩領域MALTリンパ腫の腫瘍発育に関与していることが示唆された.BCL10核発現と臨床因子(年齢・性・発生部位・臨床病期・再発・再発までの期間)との間に関連性は認められなかった.また初発および再発MALTリンパ腫67検体のパラフィン切片からRNAを抽出し,multiplex RT-PCR法によるAPI2-MALT1キメラ遺伝子の検出を試みたが,発現は認められなかった.すなわち眼窩領域MALTリンパ腫においてはBCL10核発現とAPI2-MALT1キメラ遺伝子発現の関連性は見られず,両者の関連性が報告されている胃や肺MALTリンパ腫とは異なった結果であった.眼窩領域MALTリンパ腫における高頻度のBCL10核発現はAPI2-MALT1キメラ遺伝子以外の,未知の遺伝子変異の関与が示唆された.


(C) 2004 The Medical Society of Saitama Medical School
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