埼玉医科大学雑誌 第31巻 第3号別頁 (2004年7月) T27-T33頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
大腸癌における可溶性Interleukin-2 receptor(IL-2R)値の変動

坂田 秀人
埼玉医科大学第二外科学教室
(指導:平山 康三教授)

医学博士 乙第782号 平成13年7月27日 (埼玉医科大学)


背 景:癌細胞等によって放出されるメディエーターに刺激されて,T細胞が活性化するとIL-2の分泌が始まり,またIL-2受容体α鎖がTリンパ球細胞膜上に出現する.このIL-2が,オートクラインあるいはパラクラインによってIL-2受容体と結合するとT細胞の増殖・分化が始まる.結合後,すぐにIL-2受容体のα鎖の一部が解離し,血中に放出される.これが可溶性interleukin-2 receptor(IL-2R)である.以上の機構より,血中の可溶性IL-2R値が宿主の腫瘍免疫能の多寡を反映して変動することが考えられ,腫瘍マーカーとして利用できるものと推測される.今回,大腸癌患者の血中の可溶性IL-2R値の測定と,癌局所および所属リンパ節におけるIL-2R陽性リンパ球(以下,活性型Tリンパ球とする)の出現状況を探り検討した.
方 法:大腸癌155症例から採取した血清を用いて,ELISA法による可溶性IL-2R 値の測定を行なった.同時に各種の腫瘍マーカーを測定して比較を行なった.さらに抗ヒトインターロイキン-2マウスモノクローナル抗体を用い,ABC法による癌局所ならびに所属リンパ節の活性型Tリンパ球の局在について免疫組織化学的検索を行なった.
結 果:大腸癌患者の血中可溶性IL-2R値は健常コントロール群に比べ有意に高値を示した.IL-2R値は漿膜浸潤症例,およびリンパ節転移をもつ症例では有意に高値を示したが,他の臨床病理学的因子による上昇は認めなかった.リンパ節転移陽性症例についての感度と特異度は,CEAは40.2%と66.0%,IL-2Rは43.2%と77.4%であった.CEAとIL-2Rのコンビネーションアッセイでは63.3%と95.8%に上昇しIL-2R値がリンパ節転移の予測に有用であることが示唆された.ほとんどの癌組織とすべての転移性リンパ節において活性型Tリンパ球の浸潤を認めた.他方,非癌部の大腸組織や転移陰性の所属リンパ節では活性型Tリンパ球の浸潤をみることはなかった.これらの結果から,大腸癌組織や転移リンパ節においてTリンパ球が活性化され,それらが増殖・分化する過程でIL-2Rのα鎖(可溶性IL-2R)が血中に放出されるため,血中の可溶性IL-2Rが上昇する機序が推定された.
結 論:大腸癌患者の血中の可溶性IL-2R値測定により,リンパ節転移症例が判別できる可能性が示唆された.
キーワード: 結腸癌,直腸癌,IL-2R , CD25蛋白


(C) 2004 The Medical Society of Saitama Medical School
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