埼玉医科大学雑誌 第32巻 第4号別頁 (2005年10月) T77-T86頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
ヒトVα24インバリアントNKT細胞サブセットによる樹状細胞を介した免疫制御機構の解析

鈴木 元晴
埼玉医科大学産婦人科学教室
(指導 石原 理 教授)

医学博士 甲第976号 平成17年3月25日 (埼玉医科大学)


Analysis of Dendritic Cell-Mediated Immune Regulation by Human Vα24 Invariant NKT Cell Subsets
Motoharu Suzuki (Department of Obstetrics and Gynecology, Saitama Medical School, Moroyama, Iruma-gun, Saitama 350-0495, Japan)

 ヒトインバリアントNKT(iNKT)細胞は,非古典的MHC class I分子であるCD1d分子に拘束される従来のTリンパ球とは異なるTリンパ球サブセットである.iNKT細胞の活性化により,自然免疫応答を担当するNK細胞や樹状細胞(Dendritic cells;DCs),あるいは獲得免疫応答を担当するB細胞やT細胞など,多くの細胞の迅速な活性化,およびこれらの連鎖反応が誘導される.また,iNKT細胞はTh1,Th2タイプの免疫応答を制御するだけでなく,種々の免疫応答において重要なエフェクター機能を有している.これまでiNKT細胞は,Th2応答を促進し,多くの臓器特異的自己免疫疾患発症の防止に寄与しているとの報告がある.しかし一方でiNKT細胞はTh2免疫応答を抑制し,IL-12によって誘導されるTh1免疫応答を促進し,腫瘍拒絶や感染防御などに関与するとの報告もある.これらの矛盾した現象は,異なる機能を持つiNKT細胞サブセットの存在に起因することが示唆される.実際,iNKT細胞には,CD4,CD8,CD4 CD8 (double negative:DN)サブセットが存在し,それぞれが産生するサイトカインが異なることが知られている.
 我々は,DCを介したCD4 T細胞の分化におけるヒトiNKTサブセットの役割をin vitroで評価する実験系を構築した.このシステムは,異なるiNKT細胞サブセットと共培養されたmonocyte由来DC (Mo-DCs)とアロのnaive CD4 T細胞を共培養することでhelper分化を評価するものである.これによって,TCRリガンドによって活性化されたCD4,およびDN iNKT細胞サブセットは,DCに対してIL-12p70の産生を促し,完全な成熟を誘導することが明らかとなった.しかし,CD4 iNKTと共培養されて成熟したMo-DCは,naive CD4 T細胞をTh1に分化誘導した(IFN-γの高産生性とIL-4の低産生性).一方,DN iNKTと共培養されて成熟したMo-DCは,naive CD4 T細胞をTh2に分化誘導した(IL-4の高産生性とIFN-γの低産生性).さらに,CD4 iNKTによって成熟したDCとは対照的に,DN iNKTによって成熟したDCは,stimulator/responder比1:30でMLR抑制活性を示した.これらの効果は,iNKT細胞を蛋白合成阻害剤であるemetineで処理することにより消失した.
 以上より,ヒトiNKT細胞サブセットのバランスは,T細胞応答の方向性を決定するDCの分化に重要な要素であることが明らかとなった.このメカニズムは,ヒトにおける自己免疫疾患の発症に重要な役割を演じているかもしれない.また,自己免疫疾患治療におけるDN iNKT細胞の有用性を示唆するものである.



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