埼玉医科大学雑誌 第33巻 第3, 4号別頁 (2006年12月) T35-T43頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
Pax6によるNFATc1を介した破骨細胞分化を制御する新たな転写調節機構

甲川 昌和
埼玉医科大学内科学 内分泌・糖尿病内科部門
(指導 片山 茂裕 教授)

医学博士 乙第1031号 平成18年9月22日 (埼玉医科大学)


 骨の機能は破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成により厳密に制御され恒常性が維持されている.しかし骨吸収の亢進が起こるとそのバランスが崩壊して骨量が減少し,骨粗鬆症や関節リウマチのような病態をきたす.そのため骨吸収の中心的な役割を果たす破骨細胞の機能を解明することがこれらの問題を解決する重要な役割と考えられる.
 これまでNFATc1を中心とした転写因子群の協調的な働きは,破骨細胞マーカー遺伝子の効率的な発現誘導をもたらし破骨細胞のダイナミックな骨吸収に寄与することが明らかになっている.一方転写因子であるPaxファミリーはさまざまな細胞分化に重要な働きをすることで知られていたが,今回初めて破骨細胞内で発現することが明らかとなった. RANKLによる破骨細胞誘導においてmRNAの発現解析の結果,Pax6が骨髄マクロファージ細胞に発現していてRANKL刺激後その発現が変動することが分かった.また破骨細胞のマーカー遺伝子であるTRAP遺伝子のプロモータ上の1853塩基の配列を調べPax6のDNA結合配列に類似した領域が存在することを見出した. そのDNAプローブを作製し破骨細胞抽出液を使ったゲルシフトアッセイによりDNA結合活性を調べたところPax6が特異的に結合していることがわかり,TRAP遺伝子がPax6の標的となることが示された. さらに破骨細胞の分化過程でPax6のDNA結合活性が変化することも明らかになった. 次にTRAP遺伝子のプロモーター領域を使ったレポータージーンアッセイにより,NFATc1により増強されるTRAP遺伝子のプロモーター活性をPax6は量依存的に抑制することが示された.またPaxファミリーと結合し転写抑制に関わる共役因子として知られるコリプレッサーTleファミリーのなかで,Tle6が破骨細胞内で強く発現することを見出し, Pax6と協調しTRAP遺伝子のプロモーター活性を抑制することおよびNFATc1と直接結合することを明らかにした. さらにレトロウイルスを用いてPax6を破骨細胞内へ強制発現した結果,TRAP陽性の多核の融合巨細胞数がコントロールに比べ有意に減少した.このことはPax6が破骨細胞の分化抑制に寄与することを強く示している.
 以上,本研究で我々はPax6が破骨細胞で発現することを初めて見出し,NFATc1による転写活性を抑制して破骨細胞の分化を調節する新たな制御因子であることを示した.
Keywords: Pax6,NFATc1,Tle6,TRAP遺伝子,骨粗鬆症,骨吸収


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