埼玉医科大学雑誌 第33巻 第3, 4号別頁 (2006年12月) T55-T61頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
低血清刺激された神経芽細胞腫のプロテオーム解析

池田 理恵
埼玉医科大学 小児外科

医学博士 乙第1033号 平成18年9月22日 (埼玉医科大学)


Proteomic Analysis of Proteins which Expressed in GOTO Cells Stressed by Low Serum Concentration
Rie Ikeda (Department of Pediatric Surgery, Saitama Medical University, Moroyama, Iruma-gun, Saitama 350-0495, Japan)

(目的)腫瘍細胞になんらかの刺激(低酸素,温度,抗癌剤など)を与えると,これに応答して細胞内に生存,増殖に関する蛋白質の発現調節が起こると推測される.われわれは神経芽腫細胞株GOTO細胞に低血清刺激を与えた時に有意に発現する細胞内蛋白質を,近年開発された蛍光標識2次元デイファレンスゲル電気泳動システム(2D-DIGE)によるプロテオーム解析によって捕らえ,蛋白質レベルでどのような調節が行われるかを検討した.
(方法)GOTO細胞を10% ウシ胎仔血清(FBS)入りRPMI-1640培地で70-80%の細胞密度まで培養後,1% FBS入り同培地に置換し24時間培養した.10%FBS同培地で24時間培養したサンプルをコントロールとした.各群の蛋白質を抽出,蛍光標識し2次元電気泳動を行った.電気泳動後,ゲルイメージの発現蛋白質量の差異を解析した.有意な発現変化のあるスポットを切り出し,ゲル内でトリプシン消化,消化物を質量分析し,各スポットの蛋白質同定を行った.
(結果)10%FBS群に比べ1%FBS群でアポトーシス,増殖,分化に関する6つの蛋白質(cytochrome C, endoplasmic reticulum calcium-binding protein 55, laminin-binding protein, stathmin, pre-mRNA splicing factor SF2, heat shock cognate protein 70) の発現増加や減少が認められた. 
(考察)同定した蛋白質は細胞増殖促進や抑制の相反する作用を持つ蛋白質だった.これらの蛋白質の発現増加および減少は低血清濃度という危機的環境において,生存や増殖の継続に向けた分子レベルでの調節機構が,GOTO細胞内で生じていることを示唆している.今回の様なストレス負荷時に発現する蛋白質の解析と同定は,神経芽腫の治療戦略上重要な情報を提供すると思われる.
Keywords: 神経芽細胞腫,プロテオーム解析,2D-DIGE


(C) 2006 The Medical Society of Saitama Medical School