埼玉医科大学雑誌 第33巻 第3, 4号別頁 (2006年12月) T63-T71頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
受容体ノックアウトマウスを活用したエストロゲンの初期卵巣作用に関する検討

大羽 沙弥佳
埼玉医科大学ゲノム医学研究センター遺伝子情報制御部門医学研究科 生物・医学研究系専攻 博士課程4年

医学博士 平成18年10月30日 (埼玉医科大学)


Analysis of Estrogen Signaling on Early Ovarian Function Utilizing ERα and ERβ KO Mice
Sayaka Ohba (Division of Gene Regulation and Signal Transduction, Research Center for Genomic Medicine, Saitama Medical University, 1397-1 Yamane, Hidaka, Saitama 350-1241, Japan)

 女性ホルモンであるエストロゲンは,幅広い生物種で生殖器の形成過程,二次性徴の成長に不可欠である.その生理機能は,2種類のエストロゲンレセプター (ERαとERβ) を介し下流応答遺伝子群の転写を制御することで引き起こされる.ERαおよびERβは,各臓器での発現パターンの違いやノックアウト (KO) マウスにおける卵巣の表現型からも異なる機能を有すると想定されているが,その機能は未だ不明な点が多い.
 本研究では,ほ乳類におけるエストロゲンの卵巣作用に関する機能解析を行うために,受容体ノックアウトマウスERαKOおよびERβKOマウスを活用し,特にエストロゲンシグナルと初期卵巣作用に重点を置き研究を行った.ERαKOマウス卵巣では,未成熟3週齢卵巣において,顆粒膜細胞のTUNEL陽性細胞の減少,Caspase-3の発現局在の変化およびcyclin D2の発現減少が観察されたが,生後6日齢(P6齢)マウス卵巣ではcyclin D2の発現や局在に変化がなかった.一方,ERβKOマウス卵巣では,生殖細胞増殖因子c-kit抗体による免疫染色を指標とした生殖細胞数の変化を検討した結果,P6齢卵巣においてc-kit陽性細胞が有意に増加していた.さらに,P6齢雌マウスにエストロゲン付加した際のc-kit mRNAの発現を検討した結果,エストロゲン投与6時間後に,c-kitのmRNA量が減少していることを確認した.以上の結果から,エストロゲンの初期卵巣作用に関し,ERαは,KOマウス3週齢卵巣におけるアポトーシスの抑制と細胞増殖の減少に,直接または間接的に関与していることが示唆された.ERβは,出生前後の時期に原始生殖細胞の増殖を抑制する方向で,生殖細胞数を制御している可能性が示唆された.
Keywords: エストロゲン,ERα,ERβ,卵巣機能,アポトーシス,細胞増殖


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