埼玉医科大学雑誌 第34巻 第1号別頁 (2007年10月) T11-T18頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
1型リアノジン受容体を介したヒト樹状細胞応答の解析悪性高熱症素因者診断のための可能性

成田 弥生
埼玉医科大学 医学部 麻酔学
(指導:菊地 博達 教授)

共同研究者: 植村 靖史,劉 天懿,松下 祥(埼玉医科大学医学部免疫学),菊地 博達(埼玉医科大学麻酔学教室)
医学博士 甲第1049号 平成19年3月23日 (埼玉医科大学)


Analysis of Human Dendritic Cell Responses Mediated by Type 1 Ryanodine Receptor
-A Possible Diagnostic Tool for Malignant Hyperthermia-

NARITA YAYOI (Department of Anesthesiology, Saitama Medical University, Moroyama, Iruma-gun, Saitama 350-0495, Japan)

 悪性高熱症 (malignant hyperthermia; MH) は,Ca2+チャネルの一つである1型リアノジンレセプター (ryanodine receptor type 1; RyR1) の変異に起因して,全身麻酔時に筋小胞体のCa2+動態異常を示すことにより発症する遺伝性筋疾患である.発症時には筋強直,発熱の他にも多様な症状を呈するため,世界的に統一された臨床診断基準は今のところない.現在,生検により得られた筋細胞のCICR (Ca2+ induced Ca2+ release) を確定診断に用いているが,高度の侵襲性を有すること,検査時間が長いこと,施設の制限等により普及していない.したがって,侵襲性の少ない一般採血による検査が可能になれば,日常検査の一つとして広く応用することが出来る.
 樹状細胞 (dendritic cells; DCs) は末梢血中に存在する白血球の一つであり,種々の刺激に対して液性因子産生や細胞遊走,形態学的変化等,多様な細胞応答を示し,免疫制御において重要な役割を演じている.しかし,ヒトDCにおけるRyR発現を確認した報告は現在のところ無い.我々はこのDCに着目し,RyRサブタイプの発現およびRyRを介したCa2+応答性を解析した.その結果,DCはRyR1遺伝子を発現しており,そのRyRを特異的に刺激することで細胞内Ca2+ストアに由来するCa2+上昇を示した.また,このCa2+上昇はRyR阻害剤により抑制された.従って,DCにはCa2+チャネルとして機能するRyR1が存在し,これを介して特異的な細胞応答を示す可能性がある.DCはMH素因者を同定する新規診断法開発のために,RyR1応答を指標として患者と健常人の相違点を探索するのに有用である.
Keywords: 悪性高熱症,樹状細胞,リアノジン受容体


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