埼玉医科大学雑誌 第34巻 第1号別頁 (2007年10月) T19-T25頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

PDF (528 KB)

Thesis
Left Atrial Ejection Force:小児正常値と心疾患における変化

熊倉 理恵
埼玉医科大学 小児心臓科

医学博士 甲第1043号 平成18年3月23日 (埼玉医科大学)


Rie Kumakura (Department of Pediatric Cardiology, Saitama Medical University, Moroyama, Iruma-gun, Saitama 350-0495, Japan)

背景: 左心房の収縮によって発生する力(Atrial Ejection Force; AEF)は,高血圧患者の心室形態や機能,成人における心血管事故と関連することが示されている.しかしながらこれまで小児でのAEFに関する知見はいまだない.今回我々は,小児における左房AEFの正常値と心疾患における変化につき検討した.
対象と方法:心雑音,胸痛,不整脈疑いを主訴に来院し正常と判定された小児計61例(生後10日から18歳)を正常小児群とした.心疾患患者は,左室容量負荷疾患(心室中隔欠損9例,動脈管開存7例),左室機能低下疾患(拡張型心筋症3例),左室圧負荷疾患(大動脈縮窄6例)を対象とした.AEFはNewton運動第2法則に基づき,0.5×ρ×僧帽弁口面積×(左室流入A波最大速度)2で求めた.心室中隔欠損術前では,連続の式において肺動脈流出波形を用いた.
結果:正常小児におけるAEFは,体表面積,心拍,一回拍出量係数により規定された(AEF= 4.134×BSA+0.045×HR+0.044×SVI−5.498,r=0.78,p<0.0001).心室中隔欠損,動脈管開存では,肺血流増加に伴い,正常より有意に高値を示し,心房過収縮の状態であることが示唆された.一方,拡張型心筋症においては,AEFは正常より低値をとり,心室のみならず心房収縮も障害されていることが示唆された.大動脈縮窄は,AEFは高値を示し,後負荷増強に対する心房収縮性の心室同様の適応変化と考えられた.
結論:AEFは種々の小児疾患における心房収縮の観点からその病態に関する情報を提供しうる指標になる可能性がある.今後,臨床経過,予後との関連につき検討し,小児心疾患患者管理における指標としての意味づけをさらに深めるに値するものと思われる.
Keywords: AEF,左心房収縮,経胸壁心臓超音波


(C) 2007 The Medical Society of Saitama Medical School