埼玉医科大学雑誌 第36巻 第1号別頁 (2009年9月) T11-T23頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

PDF (10.1 MB)

Thesis
BMPによる筋芽細胞から骨芽細胞への分化誘導におけるSmadシグナル経路の役割

野島 淳也
埼玉医科大学 臨床医学研究系 口腔外科学

医学博士 甲第1103号 平成21年3月27日 (埼玉医科大学)


 Bone morphogenetic protein(BMP)は,筋組織内で異所性骨化を誘導するサイトカインとして発見された.以前,我々は,BMPが培養系においても筋芽細胞の分化成熟を抑制し,さらに骨芽細胞への分化を誘導することを見いだした.本研究では,BMPによる筋芽細胞から骨芽細胞への分化誘導におけるSmadシグナル経路の役割を報告する.BMP受容体は,転写調節因子Smad1/5/8のC末端に位置する2つのセリン残基をリン酸化することで細胞内シグナルを活性化すると考えられていることから,リン酸化部位をアスパラギン酸残基に置換した変異体Smad1(DVD)を作製した.Smad1(DVD)は,構成的活性型Smad1としてSmad4と協調的に筋芽細胞C2C12の骨芽細胞分化を誘導した.一方,筋分化の抑制作用は,Smad1(DVD)単独よりもSmad4存在下で強く認められた.Smad4に核移行シグナル (NLS)を付加したNLS-Smad4は,C2C12細胞の筋分化を強力に抑制した.NLS-Smad4は,MH2ドメインを欠失すると筋分化抑制活性を失い,MH1ドメインを欠失すると逆に筋分化を促進したことから,核移行したSmad4がMH2ドメインを介して他の分子と相互作用して筋分化を抑制すると考えられた.Smad4と相互作用する候補分子として,Zn2+フィンガーとE3ユビキチンリガーゼ構造を持つE4F1を同定した.E4F1は,Smad4のMH2領域と結合し,過剰発現で筋分化を抑制した.また,C2C12細胞の内在性E4F1をノックダウンすると,BMP存在下でも筋分化が認められた.以上の結果から,BMPによる骨芽細胞の分化誘導と筋芽細胞分化の抑制作用は,どちらもSmadシグナル経路に依存し,骨芽細胞の分化誘導は特にリン酸化Smad1とSmad4の協調作用,筋分化の抑制は核移行したSmad4とE4F1との協調作用によって制御されることが明らかとなった.


(C) 2009 The Medical Society of Saitama Medical University