埼玉医科大学雑誌 第37巻 第1号別頁 (2010年8月) T1-T11頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
ラットの胃酸分泌に及ぼすアシルグレリンとデスアシルグレリンの作用の比較

櫻田 智也
埼玉医科大学 臨床医学研究系 内科学

医学博士 甲第1129号 平成22年3月26日 (埼玉医科大学)


背景: 成長ホルモン放出ペプチドであるグレリンには,活性型グレリン(アシルグレリン)と不活性型グレリン(デスアシルグレリン)の,2つの主要な分子形態が存在する.最近の研究では,これらの2形態が異なる役割を果たしていることが示唆されている.本研究では,デスアシルグレリンとアシルグレリンのラットの胃における酸分泌とヒスタミン産生への作用について比較した.
方法:我々は,胃内腔灌流ラットを用いてin-vivo実験を行った.2つの形態のグレリンが,ガストリン(ガストリン-17)刺激による酸分泌に及ぼす作用についても検討した.さらに,グレリンがヒスタミン産生に及ぼす作用を検討するため,逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)により,胃体部粘膜におけるヒスチジンデカルボキシラーゼ・メッセンジャーリボ核酸(HDC mRNA)を測定した.
結果:アシルグレリンを20 μg/kgの用量で静脈内投与すると,胃酸分泌が4.8倍に増大した.しかしながら,デスアシルグレリンの場合には,200 μg/kgの用量で静脈内投与しても酸分泌に対する作用が認められなかった.アシルグレリンはガストリン刺激による酸分泌を増強したが,デスアシルグレリンは増強しなかった.迷走神経を切断すると,ガストリン刺激下酸分泌に対するアシルグレリンの増強する作用が著しく抑制された.アシルグレリンを投与すると,1時間後には,HDC mRNA濃度が2.3倍に上昇し,投与2時間後には2.7倍に上昇した.デスアシルグレリンには,同様の作用は認められなかった.HDC mRNAの濃度に関しては,アシルグレリンとガストリンの間に相乗作用が認められた.
結論:本研究の結果は,アシルグレリンがヒスタミン分泌・合成の促進によって胃酸分泌を刺激し,デスアシルグレリンには胃酸分泌に対する作用がないことを明らかにし,さらに,ヒスタミン分泌・合成の促進による胃酸分泌に対して,ガストリンとアシルグレリンは相乗的に作用することを示唆している.



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