埼玉医科大学雑誌 第37巻 第2号別頁 (2011年3月) T21-T30頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
新規ペルオキシソームタンパク質の同定とその機能解析

水野 由美
生物・医学研究系 ゲノム医学

医学博士 甲第1130号 平成22年3月26日 (埼玉医科大学)


 ペルオキシソームは真核細胞に広くみられる細胞内小器官の一つで,超長鎖脂肪酸のβ-酸化やコレステロールの酸化,胆汁酸合成など重要な機能を担っている. しかし,ペルオキシソームに存在するタンパク質及びその機能については不明な点が多い.そこでペルオキシソームに存在する可能性の高いタンパク質をバイオインフォマティクスを 用いた手法により予測し,このうち8種類の候補タンパク質の細胞内局在を観察した.その結果,Tysnd1およびZadh2の2種類がペルオキシソームに局在していることを証明した. 同定した2種類の新規ペルオキシソームタンパク質のうちTysnd1は,さらに解析を進め,超長鎖脂肪酸のβ-酸化に関わる代謝酵素群を切断して活性化するペルオキシソームプロセッシングプロテアーゼであることを突き止めた. また,Tysnd1の機能が超長鎖脂肪酸のβ-酸化の反応速度あるいは個体の表現型にどのような影響を与えるかを解明するために,Tysnd1欠損マウスを作製し機能解析を行った.その結果,Tysnd1の欠損はペルオキシソームにおける 超長鎖脂肪酸のβ-酸化活性の低下をもたらすことから,Tysnd1の存在によりβ-酸化反応は促進すると考えられる.さらに,Tysnd1欠損マウスでは雄性不妊を発症する事が明らかになった. これは,Tysnd1の機能不全により超長鎖脂肪酸の代謝が低下し,その代謝経路の下流にあるプラスマローゲン合成経路が影響を受けたためと強く推測される.



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