埼玉医科大学雑誌 第37巻 第2号別頁 (2011年3月) T31-T40頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
健常人末梢血単核球におけるαEβ7(CD103)分子の発現に関する研究

飯 篤
臨床医学研究系 内科学 リウマチ・膠原病内科学

医学博士 甲第1145号 平成22年7月23日 (埼玉医科大学)


背景と目的:αEβ7(CD103)は,E-カドヘリンとの接着を介して上皮組織障害に深く関与する可能性が指摘されている.CD103は,末梢血単核球細胞(PBMCs)においては数%しか発現されないが,in vitro ではphytohaemagglutinin(PHA)とTransforming growth factor-β1 (TGF-β1)の共刺激下で高発現する.しかし,ヒトPBMCsのCD103発現におけるPHA並びにTGFβ1の役割に関しては不明な部分が多い.本研究では,健常人のPBMCsを用いて,CD103発現条件を検討し,PHA並びにTGF-β1の役割に関する解析を行った.

方法:健常人PBMCsと,磁気ビーズ添加抗体を用いて分離した各サブセットを各刺激条件で6日間培養し,CD103の発現をフローサイトメーターで解析した.CD103発現誘導に関するシグナル伝達経路の解析は,Smad2/3,Smad4,Smad7,TGF-β受容体T,TGF-β受容体U,P-Smad2の各抗体を用いて,免疫ブロットによる蛋白発現で検討した.CD103細胞の機能的分子の変化は,CD178,パーフォリン,グランザイムB ,FOXP3,CD95,CTLA-4の各抗体で多重染色し,フローサイトメーターで解析した.

結果:
CD103の発現誘導の刺激条件と細胞サブセット:CD103は PHAと TGF-β1の共刺激で45.92±3.83%に発現誘導され,そのサブセットはCD8T細胞で44.16±8.50%と高発現を認めた.またCD45RO細胞とCD45RA細胞の各サブセットでの検討では,CD45RA細胞で54.57±7.88%と高発現を認めた.CD14単球添加条件での検討では, CD45RACD8T細胞ではCD14単球の添加により43.61±2.94%と高発現を示した.また,トランスウェルプレートによるCD14単球との分離培養条件における検討では,CD45RACD4T細胞,CD45RACD8T細胞ともにCD103の発現は低下した.
CD103発現誘導に関与するシグナル伝達経路:PHA添加でTGF-β受容体およびSmad2/3の蛋白発現が増加し,さらにTGF-β1との共刺激では,Smad2のリン酸化が認められた.また,PHAとTGF-β1の共刺激条件に加えて,TGF-βRIキナーゼ阻害剤であるSD208を添加した結果,CD103発現は有意に抑制され(3.78±0.88%)(p<0.05),Smad2のリン酸化は阻害された.
CD103発現誘導に伴う各種機能的分子の変化:CD178,パーフォリン,グランザイムB,FOXP3の発現はほとんど認めなかった.一方,CD95,CTLA-4は発現を認めた.

結論:CD103はPHAとTGF-β1の共刺激により増強され,CD14単球の存在のもと主としてCD45RACD8T細胞との直接的細胞接触によってCD8T細胞に発現されていた.その作用はTGF-β1/Smad依存性シグナル伝達経路を介しており,PHAはTGF-β受容体の発現を介してCD103の発現を増強させることが示唆された.



(C) 2011 The Medical Society of Saitama Medical University