埼玉医科大学雑誌 第38巻 第1号別頁 (2011年8月) T9-T16頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
血液濾紙検査を用いた心肥大のない非弁膜症性心房細動例におけるファブリー病の診断

杉 佳紀
臨床医学研究系 内科学 循環器内科学

医学博士 甲第1164号 平成23年3月25日 (埼玉医科大学)


緒言:ファブリー病は,X染色体劣性遺伝の疾患でライソゾーム加水分解酵素であるα-galactosidase Aの活性低下に基づく先天性糖脂質代謝異常症である.ファブリー病の心血管徴候は,心肥大,不整脈,弁膜症,虚血性心疾患など多彩であり,原疾患として診断されることが遅れがちとなる.本邦においても,原因不明の左室肥大もしくは肥大型心筋と診断されている症例におけるファブリー病の有病率,予後等に関して多くの研究が積み重ねられてきたが,不整脈の観点からの報告は少ない.今回は今まで数多く報告されている心肥大患者と心肥大のない非弁膜症性心房細動例におけるファブリー病の診断について比較した.

方法:心電図もしくは24時間心電図において心房細動と診断された71例,心臓超音波で心肥大と診断した患者44例に対して,血液濾紙検査によりα-galactosidase A酵素活性を測定した.心房細動は,非弁膜症性のものならば,発作性,持続性,慢性の全てを対象とした.α-galactosidase A酵素活性を2回測定し,平均が低値(男性17 Agal/U以下,女性 20 Agal/U以下)の例に対して遺伝子検査を施行した.

結果:心房細動16例(22.5%),心肥大8例(18.1%)でα-galactosidase A酵素活性低値と診断した.そのうち,心房細動の2例(2.8%),心肥大の1例(2.3%)においてE66Qの遺伝子変異を認めた.

考察:血液濾紙検査により,心肥大のない非弁膜症性心房細動例中にファブリー病と診断できる症例が存在した.心肥大のない非弁膜症性心房細動は,心ファブリー病の早期の心血管徴候の一つである可能性が示唆される.



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