埼玉医科大学雑誌 第38巻 第1号別頁 (2011年8月) T27-T36頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

PDF (2.4 MB)

Thesis
神経症状を伴う骨粗鬆症性椎体偽関節に対する経皮的椎体形成術の治療効果

齊藤 文則
大学病院 整形外科・脊椎外科学

医学博士 乙第1169号 平成23年5月27日 (埼玉医科大学)


背景:経皮的椎体形成術は,主に有痛性骨粗鬆症性椎体骨折に対して行われる医療用骨セメントを用いた最小侵襲手技のひとつである.しかし,いまだ本邦では保険適応となっておらず,施行出来る施設は限られている.一方,骨粗鬆症性椎体偽関節は,脊椎圧迫骨折後に続発し,進行すると疼痛のみならず遅発性運動麻痺も合併する重篤な疾患である.これまで遅発性運動麻痺を合併した骨粗鬆症性椎体偽関節に対する経皮的椎体形成術の報告はない.

対象および方法:症例は,2001年から2008年までの当院で椎体偽関節と診断され遅発性運動麻痺を合併した12椎体12症例を検討した.平均年齢は72.1±5.0歳,罹患椎体高位は,全例が胸腰椎移行部にあり,運動麻痺発生から手術までの期間は平均9.4±5.4週であった.椎体形成術の手技は,骨髄生検針を用いてpolymethylmethacrylateをcleft内に経皮経椎弓根的に注入した.術前および術後の背部痛は,Denis pain scale(P 1-5)を用いて評価し,活動能力は,Eastern Cooperative Oncology Group scale(PS 0-4)を用いて評価した.筋力は,Modified Medical Research Council’s manual muscle testing grade(MMT 0-5)を用いて評価した.臨床経過と画像所見(椎体動揺角と局所後弯角)は,術前,術直後,術1ヵ月後,術3ヵ月後,術6ヵ月後,術1年後と最終診察時に,それぞれ記録した.

結果:術直後より,全ての患者の疼痛はほぼ消失し,活動能力も改善した.その後も症状の改善は維持されていた.筋力については,術前すべての患者のMMTは0から3であったが,ほとんどの患者の術後MMTは4から5へと徐々に改善した.画像所見としては,術直後より罹患椎体の動揺性は安定化した.術後局所後弯角は,一時全例改善したが,12例中7例に隣接椎骨折が生じ矯正損失を認めた.これにより術後後弯角は増悪したが,筋力改善は全例で維持されたままであった.術後6ヵ月以内で,全ての症例の椎体間に長期間の安定化を示唆する架橋形成が観察された.

結論:遅発性運動麻痺を伴う骨粗鬆症性椎体偽関節に対する椎体形成術は,後弯変形を残すものの,疼痛や活動能力の向上,運動麻痺に対して有効である.



(C) 2011 The Medical Society of Saitama Medical University