埼玉医科大学雑誌 第38巻 第2号別頁 (2012年3月) T37-T43頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
喫煙歴を有する慢性線維化性間質性肺炎の臨床的特徴

加賀 亜希子
大学病院 呼吸器内科

医学博士 甲第1178号 平成23年7月22日 (埼玉医科大学)


[背景]
 近年,重喫煙者に認められる肺気腫合併肺線維症(combined pulmonary fibrosis and emphysema: CPFE)が注目され,その臨床像が検討されている.CPFEの一般的頻度や,詳細な画像的特徴など,明確にされるべき課題は多い.我々は本研究で,特発性の慢性線維化性間質性肺炎症例における喫煙の影響を評価する目的で,連続症例を用い,肺機能とX線画像を主体とした検討を行った.

[方法]
 2007年9月から2008年12月まで,埼玉医 科大学呼吸器内科を受診した原因不明の慢性線維化性間質性肺炎連続108例を対象とし,臨床情報を後ろ向きに検討した.

[結果]
 108例中,87例に喫煙歴を認めた.喫煙群では%VC,FEV1%は基準範囲内であったが,肺拡散能,特に%DLco/VAは喫煙群において有意に低下していた.高分解能CT所見では,喫煙群では非喫煙群に比して,蜂巣肺,小葉中心性肺気腫,傍隔壁型肺気腫や壁の厚い大型嚢胞(thick-walled large cyst: TWLC;直径2 cm以上で壁厚が1から3 mmの肺嚢胞)が有意に広範囲であった.このうち,小葉中心性肺気腫とTWLCは喫煙群にのみ認められた.TWLCの増大には,内部隔壁の破壊像を伴っていることが多かった.全肺容積に占めるTWLCの比率は小葉中心性肺気腫,傍隔壁型肺気腫,蜂巣肺のそれと正相関し,%DLco,%DLco/VAとは逆相関した.
 喫煙群をTWLCの有無で2群に分けたサブグループ解析では,TWLC+群で喫煙指数が有意に高かった.%VC,FEV1%は両群ともに基準範囲内で有意差を認めなかったが,%DLcoと%DLco/VAはTWLC+群で有意に低値であった.TWLCを認めた30例中25例でTWLCの拡大進行を認めた.

[結論]
 特発性の慢性線維化性間質性肺炎において,喫煙は機能的にも画像上も特徴的な変化をもたらす.最も顕著であったのは,肺機能上はDLco/VAの低下であり,X線画像上はTWLCとその進展であった.


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