埼玉医科大学雑誌 第39巻 第1号別頁 (2012年8月) T9-T17頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
咀嚼筋腱腱膜過形成症の病態に関する組織学的検討ならびに元素組成分析

堀 直子
臨床医学研究系 口腔外科学

医学博士 甲第1194号 平成24年2月24日 (埼玉医科大学)


【目的】
 咀嚼筋腱腱膜過形成症は,咬筋および側頭筋における腱および腱膜の過形成による筋の伸展障害により生じる疾患であるが,腱および腱膜の病態については未だ不明である.本研究では,組織学的検討および元素分析により,この病態の解明を行うことを目的とした.

【対象と方法】
 対象は,疾患群として側頭筋腱腱膜部分切除術を行った咀嚼筋腱腱膜過形成症患者6名(女性6名),対照群として開口制限がない顎変形症患者6名(男性2名,女性4名)とした.対象の側頭筋腱組織を組織学的に観察し,腱分化に関与するとされるGDF5,Smad8,Tenomodulinの発現を免疫組織化学的に観察した.また,電子顕微鏡による筋組織および腱組織の構造観察を行い,エネルギー分散型X線分析装置を用いて腱組織の元素組成について分析を行った.

【結果】
 本疾患患者の側頭筋において,組織学的観察および卓上電子顕微鏡による観察では,腱組織に微小石灰化とみられる粒子様物質が散在していた.透過型電子顕微鏡における観察では,筋線維横断面の変性および血管内腔の狭小化がみられた.元素組成分析の結果では,腱組織に散在していた粒子様物質および粒子様物質周囲の腱組織からカルシウム,リンに加え,ケイ素が検出された.

【結語】
 ケイ素を含む粒子様物質の散在および,粒子様物質周囲の腱組織におけるケイ素の集積が,本疾患の病態形成に影響している可能性が否定できないものと考えた.


(C) 2012 The Medical Society of Saitama Medical University