埼玉医科大学雑誌 第39巻 第1号別頁 (2012年8月) T19-T31頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
全身性エリテマトーデス患者における血漿Pentraxin 3濃度の意義

島田 祐樹
臨床医学研究系 内科学 リウマチ・膠原病内科学

医学博士 甲第1196号 平成24年3月23日 (埼玉医科大学)


【背景と目的】
 Pentraxin 3(PTX3)は免疫や炎症,動脈硬化において重要な役割を担っている急性反応性蛋白である.IL-1やTNF-αなどの炎症刺激に反応して全身の細胞から産生されるため,局所的な炎症に敏感に反応する指標と考えられており,急性心筋梗塞,感染,自己免疫疾患の患者では血中のPTX3濃度が増加している.全身性エリテマトーデス(SLE)は慢性炎症性の自己免疫疾患であるが,若年齢より動脈硬化が進行しており動脈硬化性心血管病による死亡率,罹病率が高い.そこで本研究ではSLE患者の血漿PTX3濃度を測定し,PTX3がSLEの疾患活動性を反映するか,血漿PTX3濃度高値はSLE患者における臓器障害および重症度や生命予後と関連するか,SLE患者の血漿PTX3濃度が動脈硬化の程度を反映するかについて検討した.

【対象と方法】
 SLE患者70例および健常人53例より静脈血5 mlを採取し,血漿PTX3濃度をELISA法で測定した.SLE患者の臨床所見,臓器障害,動脈硬化危険因子,炎症マーカー(CRP,ESR),SLE関連マーカー(抗ds-DNA抗体,CH50)について確認した.またSLEの疾患活動性評価にはSLE disease activity index(SLEDAI),British isles lupus assessment group index(BILAG Index)を利用した.潜在性動脈硬化の有無は頸動脈エコーにて確認した.

【結果】
 SLE患者群の血漿PTX3濃度は健常対照群と比較して有意に高値を示した(6.8±9.4 ng/mL vs 2.2±1.1 ng/mL, p<0.001).SLE患者の血漿PTX3濃度はSLEDAI,BILAG Index,ステロイド投与量と正の相関があり,血清ヘモグロビンおよびアルブミン値とは負の相関があった.動脈硬化関連項目とは相関がなかった.SLEDAIは精神神経障害の配点が高いことから血漿PTX3濃度高値のSLE患者は精神神経障害を有する可能性が高いと考えられた.そこで精神神経障害の有無でSLE患者を比較した.精神神経障害のあるSLE患者の血漿PTX3濃度は精神神経障害がない患者と比較して有意に高値を示した(15.6±19.4 ng/mL vs 5.0±3.8 ng/mL, p=0.030).抗ds-DNA抗体価,CH50値,ステロイド投与量および抗リン脂質抗体の陽性頻度に差はなかった.横断性脊髄炎あるいは精神障害を呈したSLE患者では血漿PTX3濃度が著明に高かった.重症かつ生命予後不良と予測されるSLEDAI≧20のSLE患者はSLEDAI<20の患者と比較して血漿PTX3濃度が高かった(17.6±21.0 ng/mL vs 5.0±3.8 ng/mL, p=0.003).

【結論】
 SLE患者の血漿PTX3濃度は健常人と比較して有意に高かった.血漿PTX3濃度はSLEの疾患活動性と相関があり,特に精神神経障害があるSLE患者で増加していた.SLEの血漿PTX3濃度は疾患活動性と重症度を反映するマーカーとして有用な可能性が示された.


(C) 2012 The Medical Society of Saitama Medical University