埼玉医科大学雑誌 第39巻 第2号別頁 (2013年3月) T33-T46頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
自殺企図患者の動機別臨床的検討

松木 麻妃
総合医療センター 神経精神科(メンタルクリニック)

医学博士 乙第1203号 平成24年5月25日 (埼玉医科大学)


【目的】
 日本では1998年以降,毎年3万人以上が自殺によって死亡している.うつ病の早期発見および治療をはじめ自殺防止のためのさまざまな研究,実践活動が活発に行われているが,自殺者数の明確な減少は生じていない.このような現状を踏まえ,新たな自殺防止対策のため,自殺企図の動機とそれに関係する諸因子に注目し,自殺企図の動機別に自殺企図患者の特徴を検討した.

【方法】
 2004年10月から2007年3月までの2年6か月間に埼玉医科大学総合医療センター高度救命救急センターに入院して救命された自殺企図患者のうち,自殺企図の動機を患者自身が述べることのできた206人を対象とした.これらの患者を自殺企図の動機別に「健康問題」,「経済問題」,「家庭・男女問題」,「その他」に分類し,その他を除く各群について,社会人口動態学的因子,医学・医療的因子,自殺企図手段および回数を調査し,各群の特徴を検討した.

【結果】
 うつ病性障害の頻度は全群で高く,6割から7割に達した.群別にみると,健康問題群の特徴は,女性が多い,50歳以上の患者が多い,身体表現性障害の頻度が高い,パーソナリティ障害の頻度が低い,身体疾患をもつ患者が多い,精神科以外の診療科の受診率が高い,初回の自殺企図が多いなどであった.経済問題群の特徴は,男性が多い,30〜49歳および50歳以上の患者が多い,フルタイム勤務者が多い,衝動制御の障害とパーソナリティ障害の頻度が高いなどであった.家庭・男女問題群の特徴は,女性が多い,10〜29歳および30〜49歳の患者が多い,パーソナリティ障害の頻度が高い,自殺企図の既往歴をもつものが多いなどであった.

【結論】
 自殺企図の動機別に分けた各群はそれぞれ異なった特徴を有しており,精神科医の診療技術の向上をはじめ,地域医療との共同的ケア(Collaborative Care)の充実,経済問題の相談業務を行っている人たちとの連携システムの構築など,個々の特徴に即した自殺防止対策が必要であると考えられた.


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