埼玉医科大学雑誌 第40巻 第1号別頁 (2013年8月) T21-T28頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
18F-fluoromisonidazole(FMISO)PET/CTによる 低酸素イメージングの定量法の検討

島野 靖正
臨床医学研究系 放射線医学

医学博士 甲第1229号 平成25年3月22日 (埼玉医科大学)


【目的】
 低酸素イメージング製剤である18F-fluoromisonidazole(FM ISO)は,腫瘍低酸素状態評価に有用である.従来,FM ISOによる低酸素状態の定量は腫瘍対血液比による方法で行われており,静脈採血カウントが必要なため煩雑であった.最近の高性能PET/CTにより高精度の計測が可能となっている.今回,我々は,18F-FM ISO PET/CTにて腫瘍対血液比に代わるパラメーターとして,腫瘍組織と健常組織の比を適用できるか,最適な参照部位はどこかを検討した.

【方法】
 脳腫瘍および頭頸部癌患者の計20人を対象に,FM ISOを投与して2時間後にPET/CT撮像を実施した.低酸素状態の定量指標として,撮像前後に静脈採血を,組織対血液比を計算するために実施した.全ての患者において,脳,上行大動脈,大動脈弓,下行大動脈,左室,右室,筋肉,肝臓の8箇所に関心領域(region of interest: ROI)を設定することにより,組織対血液比を計測した.SUV(standardized uptake value)は,投与量と体重から算出した.また,全ての患者において,原発病巣及び転移巣にROIを設定した.腫瘍対血液比,腫瘍対参照部位比(tumor-to-reference organ ratio)及びSUV最大画素値(SUVmax)は,これらのROIsから算出した.

【結果】
 8箇所の参照部位の中で,左室対血液比は最も低い変動係数(8.9%)を示した.また,全参照部位における腫瘍対参照部位比と腫瘍対血液比との間での相関係数を比較すると,腫瘍対左室比が最も高い相関係数(ρ=0.967,p<0.001)を示した.また,腫瘍対血液比とSUVmaxの間でも高い相関係数(ρ=0.909,p<0.001)を認めたが,腫瘍対左室比に比べると,相関係数は低かった.また,腫瘍低酸素状態の閾値とされる腫瘍対血液比が1.2に相当する値をそれぞれの回帰直線式から求めると,腫瘍対左室比では,1.0,SUVmaxでは1.6となった.

【結論】
 静脈血を用いないFM ISO PET/CTにおける腫瘍低酸素状態の定量評価において,腫瘍対左室内腔比法は,最も妥当な定量法と考えられる.


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