埼玉医科大学雑誌 第40巻 第1号別頁 (2013年8月) T29-T41頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
関節リウマチにおけるBAFFと臨床的指標ならびに疾患活動性との関連

中嶋 京一
大学病院 リウマチ膠原病科
現所属:国立病院機構東埼玉病院 リウマチ科

医学博士 乙第1222号 平成25年2月22日 (埼玉医科大学)


【目的
 関節リウマチ(RA)などの自己免疫疾患において,B細胞刺激因子(B-cell-activating factor belonging to the TNF family: BAFF)が上昇することが知られている.本研究では,まずRA滑膜組織におけるBAFFとBAFF-Rの分布と機能ならびに血清と関節液中の可溶性BAFF濃度について検討した.次に,RAにおける臨床的指標と血清中の可溶性BAFF濃度との相関の有無をACPA陽性群に注目して臨床的な検討を加えた.疾患活動性指標は,SDAIおよびCDAIを使用した.

【結果】
 RAの滑膜組織から分離したB細胞・T細胞・CD14陽性単球でBAFFが発現し,BAFF-RはB細胞とT細胞で発現していた.mRNAレベルでは,滑膜単核細胞においてBAFFとBAFF-Rのいずれも発現を認めた.免疫組織化学染色では,滑膜組織中に単核細胞の局所的もしくはびまん性の浸潤と一部胚中心様構造を認め,いずれにおいてもBAFFとBAFF-RがT細胞とB細胞で発現していた.またCD3陰性CD20陰性BAFF陽性細胞が滑膜表層ではなく深層に存在し,BAFF-Rは表層および深層のいずれにも発現していなかった.RA患者滑膜検体を処理し4から6継代して得た線維芽細胞様滑膜細胞(RA-FLS)は無刺激の状態で細胞質にBAFF蛋白およびmRNAを発現していたが細胞表面にBAFF蛋白は存在せず,BAFF-Rは蛋白質ならびにmRNAいずれのレベルでも発現していなかった.関節液中の可溶性BAFF濃度を同じ日に採取した血清中の可溶性BAFF濃度と比較すると,関節液中の可溶性BAFF濃度が常に高値だった.臨床的評価では,全症例において可溶性BAFF濃度とプレドニゾロン投与量に関連を認め,罹病期間とも弱い関連を認めた.ACPA陽性群においては,可溶性BAFF濃度と罹病期間が関連し,プレドニゾロン投与量と軽度関連していた.ACPA陽性群において,SDAIと各臨床的指標との単回帰分析で関連した項目(可溶性BAFF濃度,IgM-RF,赤沈,MMP-3,HAQ,プレドニゾロン投与量)を説明変数,SDAIを目的変数として重回帰分析を施行したところ,可溶性BAFF濃度・IgM-RF・HAQ・プレドニゾロン投与量が有意な説明変数だった(自由度調整R2=0.64).一方,ACPA陽性群においてCDAIと単回帰分析で関連を認めたのはIgM-RF・赤沈・MMP-3・HAQ・プレドニゾロン投与量で,これらを説明変数としSDAIを目的変数とした重回帰分析を施行したところ,IgM-RF・HAQが有意な説明変数(自由度調整R2=0.58)だった.CDAIと可溶性BAFF濃度は軽度の関連を認めたが,有意ではなかった.また,CRPと血清中の可溶性BAFF濃度は相関しなかったが,関節液中の可溶性BAFF濃度とは有意な相関を認めた.

【結論】
 RAの滑膜組織にBAFF陽性細胞を認め,血清および関節液中の可溶性BAFF濃度が上昇していることから,RAとBAFFとの関連が示唆された.またACPA陽性RAにおいて血清中の可溶性BAFF濃度とSDAIに関連を認めており,臨床的に有用な予後予測因子になる可能性がある.


(C) 2013 The Medical Society of Saitama Medical University