埼玉医科大学雑誌 第40巻 第1号別頁 (2013年8月) T43-T51頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
創傷底微小循環可視化技術の開発と陰圧負荷の急性効果

大河内 裕美
大学病院 形成外科・美容外科

医学博士 乙第1231号 平成25年4月26日 (埼玉医科大学)


【背景と目的】
 局所陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy, 以下NPWT)は創傷を密閉して陰圧を負荷することにより治癒を促進する治療法で,適切な湿潤環境の維持,過剰な組織間液の排出,血行改善,細菌負荷軽減により創傷治癒を促進するとされている.NPWTの有効性に関しては臨床研究や基礎研究で多数検証されているが,創傷治癒を促進する詳細なメカニズムについてはまだ解明されていない.NPWTの創傷治癒促進機序として最も重要と考えられる局所循環動態の変化については過去の論文では創傷縁周囲の血流量を計測するのみであった.本実験では創傷治癒過程の母床である創傷底の微小循環を可視化する動物実験モデルを開発し,陰圧負荷による創傷底微小循環の応答を解析した.

【方法】
 創傷底微小循環可視化モデルの開発では手術用顕微鏡下にマウスの臀部に真皮下血管網を温存した創を作成し,得られた蛍光顕微鏡画像を生体顕微鏡−ビデオコンピューターシステムを利用して観察・記録した.陰圧下の創傷底微小循環への急性効果については独自の陰圧負荷システムを使用して−125 mmHg(n=12),−500 mmHg(n=12),0 mmHg(n=8)の3段階の圧を負荷し,血流量の変化を計測し,比較を行った.

【結果】
 本実験モデルでは陰圧を負荷された創傷底微小循環を安定的に観察できた.−125 mmHg群で有意な血流増加を認め,−500 mmHg群で負荷5分後に有意な減少を認めた.

【結論】
 陰圧負荷による創傷治癒メカニズムには創傷底の微小循環血流増大も関与することが示唆された.


(C) 2013 The Medical Society of Saitama Medical University