埼玉医科大学雑誌 第40巻 第2号別頁 (2014年3月) T61-T71頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
T細胞特異的 c-Maf トランスジェニックマウスにおけるB細胞増多メカニズムの解析

高松 真裕子
臨床医学研究系 内科学

医学博士 甲第1250号 平成26年3月28日 (埼玉医科大学)


【目的】
 これまでの解析から,T細胞特異的 c-Maf トランスジェニック(Tg)マウスの脾臓では野生型(WT)マウスに比べB細胞の比率が著増していることが判明している.今回このメカニズムを解析した.

【方法】
 c-Maf TgマウスでB細胞が増多するメカニズムとして以下の仮説が考えられる.仮説@ 使用したマウスはT細胞特異的(CD2プロモーターの支配下)に c-Maf が強制発現するマウスであるが,B細胞にも c-Maf がある程度発現しており,B細胞が c-Maf の影響を受けて増加する(能動的増加).仮説A c-Maf Tg マウスのT細胞が,例えば濾胞性ヘルパーT(Tfh)のような細胞として機能し,B細胞分化を誘導し,その結果としてB細胞が増加する(T細胞による指令).仮説B c-Maf TgマウスでT細胞が減っていることにより,そのスペースを埋めるためにB細胞が増加する(受動的増加).これら3つの機序は互いに対立するものではなく,複数の機序が共存している可能性もある.これらの内でどの機序が関与しているかを明らかにするため,骨髄キメラマウスを利用した競合実験(competition assay)を行った.また c-Maf は Tfh 細胞の分化に重要であることが報告されているため,ヒツジ赤血球を腹腔内投与したマウスを用いてフローサイトメトリー(FCM)および免疫組織染色を行い Tfh 細胞や活性化B細胞を解析した.

【結果および考察】
 competition assayにより能動的増加の可能性は否定的であった.興味深いことに,c-Maf Tg 由来のT細胞はWTのT細胞存在下では末梢に存在できず,胸腺の分化段階で消失していることが示された.FCMでは Tfh マーカーを持っている細胞の比率が c-Maf Tgマウスで有意に増加していたが,活性化B細胞の比率は増加していなかった.このことから,T細胞による指令は否定的であった.competition assayでみられた c-Maf TgマウスでのT細胞分化障害について胸腺細胞の解析を行い,DN4分画において TCRβ鎖発現の低下を認めた.このことから c-Maf TgのT細胞分化障害はβセレクションの障害である可能性が考えられた.

【結論】
 T細胞特異的 c-Maf TgマウスのB細胞増多のメカニズムは胸腺におけるT細胞の分化が障害され,末梢のT細胞が減少していることに基づく受動的増加と考えられた.


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